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1 一人で立ち向かうべき仕事はまあまあ充実してます。愚痴レベル0の頃。
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私が自慢できることは何だろう?
人が私のことについて語る時に、必ず見た目より・・・とついてる気がする。
見た目より『普通』、『きつくない』、『とっつきにくくない』などなど。
ギャップを褒められた!なんて喜ぶより、はっきり見た目で損をするタイプと落ち込みたい。
声をかけるのに少しひるみそうになる、らしい。
そんなオーラ出してないのに。
だれか、もっとよく見てよ。
ちゃんとよく見てよ。
中身は本当に普通の小者ですよ。
「氷室さん、これお願い。」
そう言って渡された書類。
また・・・・・?
それを私に回してきた課長を見下ろす。
奥歯をかみしめて見下ろす。
それは一人の男性の職歴フォーム。写真が軽く微笑んでいる。
名前も知ってる、経歴も知ってる、そのほかいろいろと知ってる。
先月も見たし、手にしたし。
同じものに見えても少しだけ違うはずだ。
先月から職歴が一社増えてるんだろう。
内容としては数行かもしれない。
そして、その人の書類を手にするのは、これで三度目だった。
つまり、また新しい会社の紹介を待ってるらしい人。
果たして本当に有能なのかどうなのか、それだけ聞くと判断を保留したくなってしまう。
「まあ、長く働きたいと思ってるから慎重になるらしいし、また担当してくれる?前回の反省も踏まえて、ね。」
その反省は私がするところですか?
内心でそう思い、思わず目つきが鋭くなる。
私は十分に説明して送り出した、最終的に条件もいろいろも会社と本人、お互いが折り合って就職を決めたはずなのに。すぐに辞めたんだろう、前回もそうだった、ああ、前々回か。
もう驚く気にもならない。
残念だった・・・なんて落ち込むこともしない。
「分かりました。」
「ありがとう。本人が担当を希望してくれてるなんて、失敗したのにそう言ってくれるなんて滅多にないんだよ。なんだか気にいられたみたいだし頑張って。」
なにぃ・・・・・・・。
だいたい『失敗』というのは私がした事でしょうか?
いい加減同じことを繰り返したら、お互い学習してもいいと思う。
私は特に思い当たらない、こんなタイプはもっと慎重に対応しようとしか思わない。
あとは本人だよ、もっと本人が学習してもいいと思う。
違う担当者を希望して当然だと思うのに。
新たな嫌がらせかと思ってしまう。
一層重たく感じるファイルを手にして席に戻る。
席に戻ってファイルを机の上に放り投げた・・・・ついつい。
バサッと音がしたと思う。
それよりも隣の席の同期がビクッと体を縮めた反応にびっくりする。
隣を見た目がちょっとだけきつかったかもしれない。
「お疲れ様。」
やや怯えるように言われた。
事情を察してねぎらわれたのか、それとも刺々しいオーラを少しくらい抑えて欲しいという心底の願いがこめられてるかも。
「丸山君はどう?」
「えっとなかなか決まらなくて。難しいね、人のご縁って。」
ご縁ね・・・・・。
隣の机に置かれた書類をちらりと見た。
女性の写真が貼られていた。
確か数カ月単位で以前から見てる気がする。
いつの人?いつまでかかってるの?
私の相手と同じようなリピーター???
思わず聞きたくなる。
私がいるのは人材派遣会社。
一人ひとり詳しく希望を聞いて顧客企業に紹介する。
それなりにいい人材を集めたいと思ってるのは当然だ。
まずこの会社に登録できる条件は厳しいかもしれない。
若い人はそれなりの武器を必要としたし、年齢だけいっててもだめだ。
ある程度業績として掲げられるものを持って、もちろん資格や語学のレベルも一定以上の人を。
だからある程度以上のいい条件の人が集まる。
それこそ私や隣の丸山君みたいな新米じゃあもともと話にならないくらい。
確かに条件は求めるのも、求められるのも高くなる。
そして私たちの誰が担当するのかは完全に上司の采配による。
それこそ、そこもご縁だ。
だからと言ってこの人にご縁があるとは思えないのに。
自分の放ったファイルの写真に視線を落とす。
仕事でも人間関係でもそつなくこなしそうな見た目。
それは本人も言っていた。
それなのに何がどうなって落ち着かないのか。
ファイルを開いて新しく追記されたところを読む。
一ヶ月は働いたらしい。
試用期間の中の一ヶ月。
ただ、それで見切ったらしい。
『モチベーションが上がらない。』
一言書かれていた、それは前回もその前も同じだった。
それを頑張ってあげるのも社会人に求められるところだ!!
は~。
お世話になった企業の担当者へ電話してみる。
まずは挨拶とお詫びから入る。
理由はどちら側にあるのか、きちんと把握したい。
『そうなんです。なんだかしっくりこないと初日に言われて、しばらく様子を見ると言われたんですが。無理だったようです。』
「しっくりこない、ですか・・・・・・。」
『はい。配属先でももう少し様子を見たらどうかと言われたらしいですが、その辺もさっぱりとされてたみたいで。』
「そうですか。せっかくご希望に沿えるかと思ったのですが残念でした。また引き続きよろしくお願いします。お時間ありがとうございました。」
そう言って電話を終わりにした。
面接を数段階潜り抜けるにはそれなりの時間がかかる。
電話で話をしてくれた担当の人も時間を割いてくれただろう。
それなのに、ダメだったらしい。
むしろ悪しざまに言われていいくらいなのに、優しい対応をしてもらえただけでほっとした。それは誰のお陰なのか。引き際去り際は綺麗だったんだろう。
雇う側としても試用期間が終わってすぐに辞められたりするパターンも困る。
まだ、良かったのだろうか?
は~、今一つ掴み切れない。
このまま今度の紹介先を探しても上手くいくとも思えないし。
とりあえず私が連絡するしかない。
たとえ厄介な相手だと思っても、ありがたい顧客だと思うしかない。
完全出来高制の給料体系だ、上手く人と企業を結び付けられたら自分に戻ってくるものが大きいのだ。
やるしかない。
何度でも、繰り返し、少なからずのご縁で担当した人が落ち着くまで。
隣を見る、相変わらずあの女性のファイルがあった。
大丈夫なんだろうか?
余計なお世話だと思うが担当がこの人で大丈夫なんだろうか?
思わずエントリーした女性の方に聞いてみたくなる。
だいたい何でこんなタイプがここ営業にいるんだろう?
明らかにバックアップ要員の部署にいそうなタイプだ。
表に出るタイプじゃないと思うのに。
最初からそれは思っていた、注目しなくても一人目立つほどの個性だった。
いい意味じゃなく逆の意味で。
弱弱しい声で、人馴れしないタイプで、むしろ何で面接を潜り抜けれたのか。
面接官の弱みでも掴んでいたか、偉い人のコネか。
そうも思ったりしていた。
実際要領が悪く見えてしまう。
本当はそうでもないと思うけど、馬鹿丁寧な感じが回りくどくて、すんなりとリズムが取れないタイプだったから。
それなのに、まさか私が希望したこの部署に一緒にいるなんて思いもしなかった。
ホントに?
希望したの?
私だけじゃなくて先輩も思ったらしい。
新人歓迎会の席でもいじられていた。
隣にいた私はガンガンお酒を注がれて、それを飲み干し、つぎ返し、頼もしいとまで言われたのに。隣で真っ赤になって、ゆらゆらとして呂律も怪しくなっていた。
途中気分が悪くなったのか、いなくなった時間が長かった。
飲ませた先輩はどこかに行っていたので気がついた人もいなかった。
しょうがないのでトイレに歩いて行った。
心配だからといっても男子トイレには入れない。
男性の店員さんを捕まえて声をかけてもらったら、いなかった。
お店の外に出てみたら、外の階段に座り込んでいるのを見つけた。
「大丈夫?」
俯いてたけど足音は聞こえてただろうに、ビクッとして顔をあげた。
顔色は明らかに悪かった。
「飲めないの?」
「自分のペースなら大丈夫だけど、先輩達が凄くて。でも氷室さんはもっと凄いんだね。」
弱弱しく笑った。
とても褒められたとは思えなくても、もしかして羨ましがられたんだろうか?
「小さいころから鍛えてるから。」
「お酒を?」
今、体の話はしてない、流れからして当然その事ですが。
やはり未成年の飲酒はびっくりらしい。
顔がそう言ってた。
「うちの辺りはお酒の名産地で、普通だったの。」
「デザートも結構な確率でお酒が強い物が有名だし。」
なんとか言い訳をした。親のモラルを問われてしまう。
「そうなんだ。すごいね。羨ましい。」
やはりそう言われた。
「お水もらって来ようか?大丈夫?」
「うん、大丈夫。冷たい空気で少し気分も良くなったし。」
「今日のところはやめてたらいいよ。代わりに私が先輩には付き合うから。」
「ありがとう。」
情けないなあとか小さく呟かれたかもしれない。
席に二人で戻った。
人はさらに入り乱れて、新人は放っとかれた。
私はマイペースにお酒を飲み、隣で大人しくウーロン茶を飲んでる丸山君を相手に盛り上がりもない会話を続けていた。
まだまだ先輩にくっついて修行中だった頃のこと。
「どう、仕事?」
とても向いてるとは思えてなくて、ストレスがないか気になったくらいだった。
他の人に話せなくても、もしかしたら何か辛い事があったら話してくれるかもしれない・・・・と思ったかもしれない。
別に世話を焼く必要もないのに、なんとなく放っとけない気もした。
それは『同僚のよしみ』というやつで。
「うん、いろんな人がいるんだなあって思った。前向きな転職の人ばかりだからそのあたりはいいよね。」
そんな感想は求めてなかった。
独り立ちの不安とか聞くことになると思ったのに。
その辺は大丈夫?意外に器用なの?
嬉しそうに笑った顔に不器用さは見えてなかった。
勝手に不器用だと思ったのを申し訳ないとさえ思った。
意外だったなあ・・・そう思った。
でも、やっぱりそうではなかったらしい。
よく言えばマイペース。
悪く言えば向いてないのでは。
何ヶ月も一人の人の行先を決められずにいるんじゃない?
紹介したら終わりって訳じゃない。
結構な面接をクリアしないと雇用契約は成立せず、試用期間を過ぎないと成功報酬もない。
だいたい半年、短くて三ヶ月の試用期間があるのだし。
一体何人受け持ってるんだろう?
長引けば長引くほど、他の登録会社にとられるリスクもあるし、関係なく決めてくる可能性もあるし、何より本人のやる気が落ちそう。
ちょっとでも気に入ったら話は勧めてみて、やる気を出してもらうように誘導していた。
それに実際面接でダメになることもあるけど、同じくらい上手くいくことも増える。
今手にしてる人みたいなパターンは稀だ。
もう・・・・・・。
しょうがないので見覚えのあるアドレスを呼び出してメールを作成した。
すぐに見てもらえたようで打合せという名の事情聴取の時間をとってもらう。
明日、お昼の時間。
毎回食事をしながらだけど、奢ってくれる人。
年齢もかなり上だし、お世話になるからと明るく言われて、奢ってもらうことがある。
食事がないときは自分が奢る。
コーヒーくらいだし、経費に乗せるほどでもないようなその辺のお手軽価格のコーヒーが多い。
翌日昼前には待ち合わせの・・・・ランチ場所に向かう。
だいたいの人はコーヒー屋でいろいろと話を聞くのに、最初っから食事しながらを望まれた。
最初からそうだったから、今更だ。
そういうスタンスで打ち合わせしたい人なんだろうと思ってる。
一応最初の頃に先輩には相談してみた。
それで話が進むならいいんじゃないかと言われた。
奢られたと言った時も、ちょっとの間止まったけど、まあ、その辺も自分で判断してもいいと言われた。
半年くらいの休職など全然問題ないくらい経済的余裕があるのだろう。
それはまずマンションを持ち独身であることからも言えた。
『倉田 優一 38歳 元某有名商社課長』
だいたい辞めた理由もぼんやりしていた。
『だってなんだかただただ動く歩道に乗って仕事してる気分なんだよ。適当に外側を歩いてる人に手を振るくらいの変化。サラッとかかわるくらい。つまんないよね管理職。昔はもっと楽しんでた気がするんだ。』
乗せてもらえるなら乗りたい、きっと随分と景色のいい場所を動いてる歩道だろう。
環境の変化もやる気に変えられるならすぐに見つかると思ったのに。
人が私のことについて語る時に、必ず見た目より・・・とついてる気がする。
見た目より『普通』、『きつくない』、『とっつきにくくない』などなど。
ギャップを褒められた!なんて喜ぶより、はっきり見た目で損をするタイプと落ち込みたい。
声をかけるのに少しひるみそうになる、らしい。
そんなオーラ出してないのに。
だれか、もっとよく見てよ。
ちゃんとよく見てよ。
中身は本当に普通の小者ですよ。
「氷室さん、これお願い。」
そう言って渡された書類。
また・・・・・?
それを私に回してきた課長を見下ろす。
奥歯をかみしめて見下ろす。
それは一人の男性の職歴フォーム。写真が軽く微笑んでいる。
名前も知ってる、経歴も知ってる、そのほかいろいろと知ってる。
先月も見たし、手にしたし。
同じものに見えても少しだけ違うはずだ。
先月から職歴が一社増えてるんだろう。
内容としては数行かもしれない。
そして、その人の書類を手にするのは、これで三度目だった。
つまり、また新しい会社の紹介を待ってるらしい人。
果たして本当に有能なのかどうなのか、それだけ聞くと判断を保留したくなってしまう。
「まあ、長く働きたいと思ってるから慎重になるらしいし、また担当してくれる?前回の反省も踏まえて、ね。」
その反省は私がするところですか?
内心でそう思い、思わず目つきが鋭くなる。
私は十分に説明して送り出した、最終的に条件もいろいろも会社と本人、お互いが折り合って就職を決めたはずなのに。すぐに辞めたんだろう、前回もそうだった、ああ、前々回か。
もう驚く気にもならない。
残念だった・・・なんて落ち込むこともしない。
「分かりました。」
「ありがとう。本人が担当を希望してくれてるなんて、失敗したのにそう言ってくれるなんて滅多にないんだよ。なんだか気にいられたみたいだし頑張って。」
なにぃ・・・・・・・。
だいたい『失敗』というのは私がした事でしょうか?
いい加減同じことを繰り返したら、お互い学習してもいいと思う。
私は特に思い当たらない、こんなタイプはもっと慎重に対応しようとしか思わない。
あとは本人だよ、もっと本人が学習してもいいと思う。
違う担当者を希望して当然だと思うのに。
新たな嫌がらせかと思ってしまう。
一層重たく感じるファイルを手にして席に戻る。
席に戻ってファイルを机の上に放り投げた・・・・ついつい。
バサッと音がしたと思う。
それよりも隣の席の同期がビクッと体を縮めた反応にびっくりする。
隣を見た目がちょっとだけきつかったかもしれない。
「お疲れ様。」
やや怯えるように言われた。
事情を察してねぎらわれたのか、それとも刺々しいオーラを少しくらい抑えて欲しいという心底の願いがこめられてるかも。
「丸山君はどう?」
「えっとなかなか決まらなくて。難しいね、人のご縁って。」
ご縁ね・・・・・。
隣の机に置かれた書類をちらりと見た。
女性の写真が貼られていた。
確か数カ月単位で以前から見てる気がする。
いつの人?いつまでかかってるの?
私の相手と同じようなリピーター???
思わず聞きたくなる。
私がいるのは人材派遣会社。
一人ひとり詳しく希望を聞いて顧客企業に紹介する。
それなりにいい人材を集めたいと思ってるのは当然だ。
まずこの会社に登録できる条件は厳しいかもしれない。
若い人はそれなりの武器を必要としたし、年齢だけいっててもだめだ。
ある程度業績として掲げられるものを持って、もちろん資格や語学のレベルも一定以上の人を。
だからある程度以上のいい条件の人が集まる。
それこそ私や隣の丸山君みたいな新米じゃあもともと話にならないくらい。
確かに条件は求めるのも、求められるのも高くなる。
そして私たちの誰が担当するのかは完全に上司の采配による。
それこそ、そこもご縁だ。
だからと言ってこの人にご縁があるとは思えないのに。
自分の放ったファイルの写真に視線を落とす。
仕事でも人間関係でもそつなくこなしそうな見た目。
それは本人も言っていた。
それなのに何がどうなって落ち着かないのか。
ファイルを開いて新しく追記されたところを読む。
一ヶ月は働いたらしい。
試用期間の中の一ヶ月。
ただ、それで見切ったらしい。
『モチベーションが上がらない。』
一言書かれていた、それは前回もその前も同じだった。
それを頑張ってあげるのも社会人に求められるところだ!!
は~。
お世話になった企業の担当者へ電話してみる。
まずは挨拶とお詫びから入る。
理由はどちら側にあるのか、きちんと把握したい。
『そうなんです。なんだかしっくりこないと初日に言われて、しばらく様子を見ると言われたんですが。無理だったようです。』
「しっくりこない、ですか・・・・・・。」
『はい。配属先でももう少し様子を見たらどうかと言われたらしいですが、その辺もさっぱりとされてたみたいで。』
「そうですか。せっかくご希望に沿えるかと思ったのですが残念でした。また引き続きよろしくお願いします。お時間ありがとうございました。」
そう言って電話を終わりにした。
面接を数段階潜り抜けるにはそれなりの時間がかかる。
電話で話をしてくれた担当の人も時間を割いてくれただろう。
それなのに、ダメだったらしい。
むしろ悪しざまに言われていいくらいなのに、優しい対応をしてもらえただけでほっとした。それは誰のお陰なのか。引き際去り際は綺麗だったんだろう。
雇う側としても試用期間が終わってすぐに辞められたりするパターンも困る。
まだ、良かったのだろうか?
は~、今一つ掴み切れない。
このまま今度の紹介先を探しても上手くいくとも思えないし。
とりあえず私が連絡するしかない。
たとえ厄介な相手だと思っても、ありがたい顧客だと思うしかない。
完全出来高制の給料体系だ、上手く人と企業を結び付けられたら自分に戻ってくるものが大きいのだ。
やるしかない。
何度でも、繰り返し、少なからずのご縁で担当した人が落ち着くまで。
隣を見る、相変わらずあの女性のファイルがあった。
大丈夫なんだろうか?
余計なお世話だと思うが担当がこの人で大丈夫なんだろうか?
思わずエントリーした女性の方に聞いてみたくなる。
だいたい何でこんなタイプがここ営業にいるんだろう?
明らかにバックアップ要員の部署にいそうなタイプだ。
表に出るタイプじゃないと思うのに。
最初からそれは思っていた、注目しなくても一人目立つほどの個性だった。
いい意味じゃなく逆の意味で。
弱弱しい声で、人馴れしないタイプで、むしろ何で面接を潜り抜けれたのか。
面接官の弱みでも掴んでいたか、偉い人のコネか。
そうも思ったりしていた。
実際要領が悪く見えてしまう。
本当はそうでもないと思うけど、馬鹿丁寧な感じが回りくどくて、すんなりとリズムが取れないタイプだったから。
それなのに、まさか私が希望したこの部署に一緒にいるなんて思いもしなかった。
ホントに?
希望したの?
私だけじゃなくて先輩も思ったらしい。
新人歓迎会の席でもいじられていた。
隣にいた私はガンガンお酒を注がれて、それを飲み干し、つぎ返し、頼もしいとまで言われたのに。隣で真っ赤になって、ゆらゆらとして呂律も怪しくなっていた。
途中気分が悪くなったのか、いなくなった時間が長かった。
飲ませた先輩はどこかに行っていたので気がついた人もいなかった。
しょうがないのでトイレに歩いて行った。
心配だからといっても男子トイレには入れない。
男性の店員さんを捕まえて声をかけてもらったら、いなかった。
お店の外に出てみたら、外の階段に座り込んでいるのを見つけた。
「大丈夫?」
俯いてたけど足音は聞こえてただろうに、ビクッとして顔をあげた。
顔色は明らかに悪かった。
「飲めないの?」
「自分のペースなら大丈夫だけど、先輩達が凄くて。でも氷室さんはもっと凄いんだね。」
弱弱しく笑った。
とても褒められたとは思えなくても、もしかして羨ましがられたんだろうか?
「小さいころから鍛えてるから。」
「お酒を?」
今、体の話はしてない、流れからして当然その事ですが。
やはり未成年の飲酒はびっくりらしい。
顔がそう言ってた。
「うちの辺りはお酒の名産地で、普通だったの。」
「デザートも結構な確率でお酒が強い物が有名だし。」
なんとか言い訳をした。親のモラルを問われてしまう。
「そうなんだ。すごいね。羨ましい。」
やはりそう言われた。
「お水もらって来ようか?大丈夫?」
「うん、大丈夫。冷たい空気で少し気分も良くなったし。」
「今日のところはやめてたらいいよ。代わりに私が先輩には付き合うから。」
「ありがとう。」
情けないなあとか小さく呟かれたかもしれない。
席に二人で戻った。
人はさらに入り乱れて、新人は放っとかれた。
私はマイペースにお酒を飲み、隣で大人しくウーロン茶を飲んでる丸山君を相手に盛り上がりもない会話を続けていた。
まだまだ先輩にくっついて修行中だった頃のこと。
「どう、仕事?」
とても向いてるとは思えてなくて、ストレスがないか気になったくらいだった。
他の人に話せなくても、もしかしたら何か辛い事があったら話してくれるかもしれない・・・・と思ったかもしれない。
別に世話を焼く必要もないのに、なんとなく放っとけない気もした。
それは『同僚のよしみ』というやつで。
「うん、いろんな人がいるんだなあって思った。前向きな転職の人ばかりだからそのあたりはいいよね。」
そんな感想は求めてなかった。
独り立ちの不安とか聞くことになると思ったのに。
その辺は大丈夫?意外に器用なの?
嬉しそうに笑った顔に不器用さは見えてなかった。
勝手に不器用だと思ったのを申し訳ないとさえ思った。
意外だったなあ・・・そう思った。
でも、やっぱりそうではなかったらしい。
よく言えばマイペース。
悪く言えば向いてないのでは。
何ヶ月も一人の人の行先を決められずにいるんじゃない?
紹介したら終わりって訳じゃない。
結構な面接をクリアしないと雇用契約は成立せず、試用期間を過ぎないと成功報酬もない。
だいたい半年、短くて三ヶ月の試用期間があるのだし。
一体何人受け持ってるんだろう?
長引けば長引くほど、他の登録会社にとられるリスクもあるし、関係なく決めてくる可能性もあるし、何より本人のやる気が落ちそう。
ちょっとでも気に入ったら話は勧めてみて、やる気を出してもらうように誘導していた。
それに実際面接でダメになることもあるけど、同じくらい上手くいくことも増える。
今手にしてる人みたいなパターンは稀だ。
もう・・・・・・。
しょうがないので見覚えのあるアドレスを呼び出してメールを作成した。
すぐに見てもらえたようで打合せという名の事情聴取の時間をとってもらう。
明日、お昼の時間。
毎回食事をしながらだけど、奢ってくれる人。
年齢もかなり上だし、お世話になるからと明るく言われて、奢ってもらうことがある。
食事がないときは自分が奢る。
コーヒーくらいだし、経費に乗せるほどでもないようなその辺のお手軽価格のコーヒーが多い。
翌日昼前には待ち合わせの・・・・ランチ場所に向かう。
だいたいの人はコーヒー屋でいろいろと話を聞くのに、最初っから食事しながらを望まれた。
最初からそうだったから、今更だ。
そういうスタンスで打ち合わせしたい人なんだろうと思ってる。
一応最初の頃に先輩には相談してみた。
それで話が進むならいいんじゃないかと言われた。
奢られたと言った時も、ちょっとの間止まったけど、まあ、その辺も自分で判断してもいいと言われた。
半年くらいの休職など全然問題ないくらい経済的余裕があるのだろう。
それはまずマンションを持ち独身であることからも言えた。
『倉田 優一 38歳 元某有名商社課長』
だいたい辞めた理由もぼんやりしていた。
『だってなんだかただただ動く歩道に乗って仕事してる気分なんだよ。適当に外側を歩いてる人に手を振るくらいの変化。サラッとかかわるくらい。つまんないよね管理職。昔はもっと楽しんでた気がするんだ。』
乗せてもらえるなら乗りたい、きっと随分と景色のいい場所を動いてる歩道だろう。
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