悪女の取り扱いには注意してください。

羽月☆

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16 恩人からの本音の仕打ち。

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漫画喫茶とか、カラオケルームとか、そっちでも良かったと思わないでもないけど、本気で眠そうで。
昨日も私込みで先輩たちに付き合わされて疲れてる、そう思うことにした。

引っ張るように立たせてタクシー乗り場に連れて行って、部屋までタクシーで帰った。

今後飲む機会があったとして、近くに居たら絶対グラスを取り上げようと思った。

タクシーで普通に寝てしまい、当然・・・料金は払った。

何とか二割ほど・・・・目を開けてもらって部屋まで引きずり込んで、ソファまで連れて行った。


疲れた。
食が細いから、体も細いのに。
自分でしっかり歩いてくれないと本当に疲れる。

放り投げるようにソファに転がらせて、一息つくと寝息が聞こえてきた。

自分のバッグを枕にしてる。
明日顔にファスナーの後がついてるんじゃないだろうか?
ちょっと愉快な想像をしてしまうが。


しょうがないのでタオルをかぶせたクッションを顔の下に敷きこんであげた。
眼鏡も顔からもぎ取った。
ひざ掛けを背中にかけて、ペットボトルの水を見えるところにおいて、使い捨ての旅行用の歯ブラシと小さいタオルも置いて。


私は日常を取り戻す。
寝室から着替えを持って普通にお風呂に入った。
私は入りたい、寝るよりはお風呂だった。

化粧も落として、歯磨きもして、寝室に引っ込んだ。

ちらりとのぞくと同じ姿勢のまま動いてない。
明日びっくりするだろうか?
ちょっと楽しみでもあった。
絶対、からかってやろう。

寝室で夜に眺めていた本の続きを見て、眠くなって電気を消した。


どうせ朝は食べないだろう。
コーヒーくらいいれてもいいが、水でもいいのかも。
・・・・それはそれで楽だと思ったりして。
でもきっと楽しくないんだろうと思う。

これからも、そう言った意味では一緒に楽しめないのは残念だ。



目を開けて、携帯を引き寄せて少し調べてみた。

『味覚障害』

亜鉛不足や他の病気の可能性とか、きっとその辺は調べてるだろう。
じゃあ、ストレス?
分からないけど、そうは思えない。

昔からってことは、先天的なものとか原因にあるんだろうか。

私が聞いて調べても役に立つことはきっとない。


『今日は何食べる?』
『これ、美味しいね。』


そんな楽しみがなかったとしたら。
勝手に気の毒になんて思ったらいけないけど、一緒に食事をしてても、がっかりするんだろうなあ。

携帯を頭の上において、そのまま目を閉じた。




目が覚めていつも思う、今日は何曜日、今日は何をする日?

何も予定のない日曜日。
外は晴れてるみたい。

ぐっすり眠って気持ちがいい。
窓を開けて、カーテンも開けて。

トイレを済ませて、うがいをしてからキッチンに行こうとして、足が止まった。
すっかり忘れてた。
何もない静かな週末に慣れ過ぎていて、すっかり忘れていた。


急いで寝室に戻り着替えをして、洗面をして、軽く化粧をする。
予定のない日はすっぴんでいることが多いのに。
眉を書いて、リップも少しだけ塗った。
髪もなでつけるようにして調える。


こっそりソファをのぞく。
昨日の姿勢のまま。
腕が落ちてるくらい。

大丈夫だっただろうか?

どこか痛くなったりしてないだろうか?

ペットボトルが開けられた気配はない。
当然歯ブラシも未使用で。


もう十分寝たと思うけど、起こすのもどうかと思って。


コーヒーをいれて、壁際の机のほうでパソコンを開く。
いつも見てるサイトをめぐり、適当に時間をつぶす。



本当に起きない。


少し心配になって声をかけた。


「佐々木君、大丈夫だよね。」

体が反応した気がするけど目は開かず。

しばらく見てたらバッグの中から携帯の音がした。
ソファから落ちた手がゆっくりと携帯を探る。
バッグを渡す頃には着信音はやんでいた。

少し目が開いて起きた。

眼鏡もないし、よく見えてないだろうか?


「佐々木君、大丈夫?」

少し距離をとった。さすがに寝顔を覗き込まれていたと知ったら恥ずかしいだろう。



「亜弓さん・・・・。」

そんな呼び方も初めてだが。

「覚えてる?電車、途中で降りて『眠い』を繰り返して、『寝かせて欲しい。』って言って私の部屋に来たんだけど。」

ゆっくり脳が活性し始めたらしい。一度目を閉じて大きく息をつく。

「水飲んだら?歯ブラシもあるけど。」

一歩近寄ったらぼんやりした目のまま見上げられて。

「・・・・全然評判と違う、ベッドに寝かせてくれると思ってた。一緒に隣で目を覚をさましてくれると思ってた。」


うつ伏せでごにょごにょと言う感じで言われたけど、ちゃんと内容は分かった。

そんな評判は知らない。
そんな事したことない。



大体そんなこと考えて、噂を検証したかったとか?
その結果を林に言いたいとか?
それとも他の誰かに。

視界に入る、変わらずうつ伏せのままのその姿に、猛烈に腹立たしさが募ってきた。

「目が覚めたら帰って。水はあげるから。じゃあ。」

ホントにそんな評判知らない。
林も、浩美も、先輩たちもそんな事は言ってない。
誰がそんなことを言ったの?
まったく身に覚えがない事。

一人寝室に引き返して、どうしようもない怒りと恥ずかしさを味わった。



ばっかじゃない。
同期なのに、そんなことするわけないし。
しかも、友達の友達に。

だいたい佐々木君こそが、そんな思考とは正反対にいると思ってた。
全然想像できなかった。
まったく興味なさそうだと思ったし。

・・・ああ、でも彼女はいるみたい?

そうよ、昨日も彼女を呼べばよかったのに。
何も馬鹿正直に私が面倒をみなくてもよかったのに。


二度とみない。
もう、二度と飲みに行くこともないだろう、行かないから。


味も分からないまま酔っぱらって一人で駅で寝てればいい。
駅員さんに冷たく追い出されればいい。


私は知らない。
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