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5 身に覚えのない・・・・嫌がらせ?

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その日見た夢は真っ暗の闇の中で、『ギュエッ』と何かの声がして。
次のシーンでは大人の私が手づかみで鳥を食べていた。
何て・・・・ワイルド。
多分調理はされていたと思いたい。さすがに生はちょっと・・・・。
どんな仕留め方をしたのか、想像もつかない・・・・・闇討ちでしょう。
飛び道具の体操服のバッグもなく。

素手?



まだまだ水曜日。

朝に同じようにファイルをどさりと渡された。

「とりあえず今日はこれを。」

昨日と同じ顔で同じセリフを言われた。

これが終わるまで帰れない。
期間短縮だけじゃなくて、時間も短縮して、残業無しで帰りたい!
今日こそ高らかに宣言して、先に帰りたい・・・・・。

他の人はみんなお疲れさまと言い合って帰ったのに。
まさか集中し過ぎて私が気がつかなったとか?
その場合、返事もしない嫌な女ということになる。
でもさすがにそれはないだろう。


パソコンを立ち上げて、時間も来てないのに書類を処理し始めた。


昨日と同じような一日が過ぎる。
お昼も同じように誘われたけど、今日はこれで済ませますとバランスバーを見せて断った。

休んでる暇はない。
何としても定時に終わって、奴より先に・・・・。
そう思って頑張った。


でも、昼時間を使っても終わらなかった。
トイレもそれぞれ一回だけ、歯磨きと化粧直しもササっと、休憩もとらず。
それなのに、他の人が定時で帰る頃、机の上には、まだ二冊のファイルがあった。
ヤツの机にも、さらに大量の物が。

ため息をついて処理を続ける。
上の階でも定時で終わるなんてことはなかった。
休憩もして、楽しくおしゃべりもして、いつも一時間くらいは残業して帰った。

休憩もせず、楽しくおしゃべりもせず、がむしゃらでも一時間残業。
処理能力が・・・・見込みより低いということ?
プライドをかけて挑む心境だ。


目標がころころと変わってる、とうとう社会人の基本『仕事能力』というところに来た。

残念な女のままじゃ終わりたくない。
だって仕事でがっかりするような評判はないと思う。
だから・・・・その一心だった。



木曜日。

毎回、朝に軽い説明を受けて一日分の書類を受け取る。
内容にそう変わりはない、注意だけ。
会話はそれだけ。
だからすべてを聞いて、一度返事をする。
『はい。』と。
分からなかったら考える、何とかなるものだ。

相棒・・・ヘルプ・・・補佐、なんでもいい、そんな二人仕事でも会話はそれだけ。
でもヤツは他の人ともそうらしい。
お昼に誘われることもまったくない。


そして私の昼の時間もシリアルバーと野菜ジュースと、歯磨き、トイレ、少しの化粧直しだけ。
ずっとパソコンに張り付いている。
一応声はかけてくれるけど、断っている。

毎日、気の毒そうな顔で見られる。


だったら手伝ってくれてもいいのに。
皆揃ったように終業の時間に帰る。


そんな風に昼も休まず、休憩もせずにいるのに、終らない。


後一冊というころに定時になる。
そしてその時ちらりと見るとヤツの机には私より書類が積まれている。
それなのに、気がついたらいない、終ってる。

本当に嫌がらせかと思う。

朝のやり取りの返事だけ、それ以外まったく会話がないとしても、基本の挨拶はあって然るべし。

毎日1時間ちょっとの残業をして、まっすぐ部屋に帰る日々。

シャワーを浴びて適当にいろいろしたら、部屋に響くのが缶ビールを開ける音。

外でなんて飲んでられない。
悪酔いしそうで。
雰囲気もない、楽しくもない、一人部屋ビール。
立て膝に肘をのせてビール片手に、適当にテレビを見てても、ずっとモヤモヤとイライラが渦巻いて。
最終的に思いっきりののしって、ため息を吐いて、疲れて寝る。

便秘と食欲不振は化粧ののりも悪くする。

さすがに鳥を食べる夢は二回で終った。

もしかしたら覚えてないだけ・・・・かもしれないけど。



金曜日、とりあえず今週最後の一日を乗り切ろう。


同じように昼を机で済ませていた。
残っているのはいつものメンバー、上司とヤツ、私。

昼休みが終ったすぐの時間、浩美がやってきた。


「失礼します。鈴鹿さん、書類にサインが欲しくて。」

「さらりと目を通して、サインください。」

渡されたのは会議の資料だった。
いない間にあった課内の会議内容に目を通せと言うことらしい。
今ですか?

その場に立ってヤツを見てる浩美。

ぺらりと捲ると二枚目の最後に付箋が貼ってあった。

『今日飲み会あるけど行くよね?』

『無理』余白にそう書いた。

一枚目の出席のメンバーの下に名前を入れて返す。

「確認しました。」

ぺらりと捲って付箋の文字を見た浩美がこっちを見た。

「わざわざありがとう。よろしく。」

浩美の手にファイルも押し付けた。

「うん、じゃあ。」

そういって帰っていった。


悔しい、飲みに行きたい。割り勘ならガンガン飲むのに。
本当に悔しい、なんで頑張っても時間内に終わらないの?

終るだろうと思われる量を渡されてるはずなのに、昼もなく頑張ってるのに。
それとも、それもこれも嫌がらせ?

でも、そう言えるほど私は直接は何もしてない。
同期の誰かを手ひどく振ったことは・・・・ちょっと心当たりはあるけどしつこいくらいに、くどい男だったから。
ハッキリしっかり言わないと駄目な男だったから。
言い放ったのだ。

もしや、そいつととても仲が良かったとか?
敵討ちですか?
それとも、それ以外、知らない間に私が何かしましたか?


『仕事は仕事』のはずなのに。

わざと最後まで居残りさせて、そんなに恨まれる覚えはない、少なくとも私には・・・。



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