過去の痛い思い出を反省して、今に至ったはずです。

羽月☆

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8 個人情報はあっさりと渡されたらしい。

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自分からキスをした。
その瞬間まわされた両手に力が入って、長い足にがっつりと挟まれるようにパジャマの足が捕らえられた。
逃げることもできない。
少しづつ位置を変えてキスを繰り返して、背中から腰に動く手を感じていた。
パジャマが捲られて、中に入って来ても、体を離すことも、その手を止めることもしない。

さすがに胸に手を当てられたときは声が出た。

顔を離して見ろしたらそのまま横に下ろされた。

視線は合ったまま。

「帰れって言う?」

「泊まりたいなら・・・・いい。」

「『泊まって』とは言ってくれないんだ?」

「・・・・・一緒にいて。」

「いいよ。」

やっと笑顔を見れたかもしれない。
随分久しぶりに。

「ちゃんと持って来た。さっきコンビニで買ったから。」

着替えを買ってたの?
電話をして、ここに来る前に?

「良かった。無駄にならなかった。」

嬉しそうに言う。

「・・・・良かったね。」

軽く頷いた後起き上がり、手をひかれた。

「シャワーは浴びて来てるし、着替えもしたから、もういい。」

私もこの状態だから、全部終わってる。
それは見ればわかるだろう。

コンビニの袋を持って中身をテーブルに落とした示現君。
その中に着替えはなかった。
すくなくとも大きいものは入ってない。
お菓子が数個。チョコやガムやなにやら・・・・なにやら!!

「ねえ、買って来たって、それの事?」

「そうだよ。」

変らぬ笑顔だ。

「何もしないよって、言ったのに?」

それなのにしっかり買ってたの?

「嫌がることはって言ったじゃない。自信はあるって言ったし、こうなるって思ってたとも言ったし、だからこうなったよね。ちゃんと確認したでしょう?嫌がってないよねって聞いたよね。」



「のんびりしてたらずっと答えを出せそうにないから、ちゃんと分らせた方がいいって、亜紀さんの友達からのアドバイス。」

「それは本当に?・・・・・・誰?」

「白井さん、この間席を譲ってくれてから、ずっと応援してくれてると思う。」

やっぱり冬美だったらしい。
住所を勝手に教えて、背中を蹴るようなことまで言って。

「本当に嫌ならいい。この部屋に預けとくから、いいと思ったら使うんでいい。今日はお願いされたから一緒にいるけど、使わないで、横にいるだけでもいい。」

じゃあ、そうしてって、言うとは思ってない・・・よね。
さっきからクイクイと手を引っ張ってる。
明らかに違う部屋に行きたそうにしてるし、変らない笑顔のままだった。
一応言っとくけどねって感じだった。
あんなに優しいって褒めてたのに、面倒なことをやってくれる。
振り回してくれる。

「亜紀さんは、優柔不断なの?それとも鈍い?」

ギロッとにらんだ。
テーブルの上の箱を手にして、握りつぶすくらい力いっぱい手にして、先に歩いた。
手はつながれたままで、自分が寝室に誘った、そんな形にはなった。

電気を消して、寝室に入って・・・・。
真っ暗だった。

いつも明かりは消して寝るし、小さい明かりはいらない、必要ない。

真っ暗な中、手をつないだままどうしようかと考える。

目が慣れて来たのか、少し輪郭は分かる。
カーテンを開ければ街灯が入るかもしれない。

ちょっとだけ開けてみた。
少しだけ明るい光の筋が部屋に入る。

その光が二人の真ん中を通った。
完全に姿が浮かんだ。


手にしたものを渡した。
本当に力が入ってらしく、受け取った後じっと見て、パンパンと形を整えられた。

もう一度その手から取り上げて、セロファンを剥いだ。

開けて、取り出して、渡した。


暗闇でも笑ったのが分かった。
笑われたのが分かった。

「たくさんあるし、今日も使う?」

「好きにして。」

「・・・・・使わない派だったの?」

「そんな訳ない。大人しくしてもいいし、そうじゃなくてもいい、その二択。」

「じゃあ、使う。遠慮なく使う。容赦なく使う。全部使いきる気持ちで使う。」

そんな覚悟はいらない。気合もいらない。もっと自然に。


「本当にマンションを見て帰るつもりだったの?」

「そうだね。」

「何で住所聞いたの?」

「教えてくれたんだよ。教えて欲しいと言った訳じゃないよ。」

何と、勝手に、本当に勝手に教えたらしい。
そこは取扱注意の個人情報なのに。
なんでそんなに信頼してるの?

「今まで冬美と話をした事あったの?」

「ないよ。今回で二回目。この間の時と、今日。」

「何でそんなに示現君の方に協力的なの?」

「きっともう一方は頑固にも動きそうにないって思われたんじゃない?だったら動きやすい方を寄せた方が早いって判断したんだろうね。適切な判断だし、よっぽど友達ぶって役に立ちたかったんだろうね。いい人だよ。」

立ち話が好きな二人だ。

壁にはりついて話をするかと思うと、人混みの中でも、泥水コーヒーを飲みながらでも、ソファに座る前にも、なかなかベッドに行けない暗闇の中でも。

後ろにあるベッド。私が手を引くか、引かれるか。

でも逆にそこからは離れた。

窓からの光の道を超えて近寄ったら、結果はそうなった。

腰に抱きついて見上げた。

ボトッと箱が落ちた。
それでも手の中にいくつかあるのは分かってる。

適当に出してたから。

やっぱり立ったまま、さっきの続きを始めた。


お互いに服を脱がして脱いで、とりあえず薄着になろうと必死に動く。
もっと落ち着いたらササッとワンツーアクションで脱げるパジャマなのに、キスをしながら、必要もないボタンを外されながら、余計時間がかかってる。
おまけに自分も負けじと示現君の服に手を出して緩めてるから、もう何が何だか。

足元で踏み込まれたパジャマ。
示現君に蹴られたズボンとシャツ。

やっとベッドに入った。

その後も慌ただしい動きは続いた。

何もなくなるまで続いた。

本当に最初からここまで脱げば早いのに。
暗闇だからそれでも良かったのに。

小さな明かりを買うか、今度から・・・今度があれば、ちゃんと脱いでから入るか。
どっちだろう。


そんなバタバタは陽には言わないよね。

亜紀、と呼び捨てで呼ばれた。
陽にはそう呼ばれてるのに、それとは全く違う。

途中時々文句をつけられたのは心外だった。

痛いとか、噛みつかないでとか、大人しくしてとか。
逆に声を出してとか、名前を呼んでとかのリクエストもうるさい。

そのたびに反抗的になる私も、大人しく言いなりじゃなかった。

こんな感じだった?
もっと大人の女性らしくやさぐれた部分を捨てた私を見せていた。
示現君は優しい感じだった。
なのに・・・・。
最後は二人で大きくため息をついて終わった、沈んだ、大人しくなった。

部屋が静かになった途端、眠ったらしい。


外の光の筋は明らかに部屋を明るくしてる。
いつもきっちり閉めてるとそんな事は思わないのに。
明るい中で横にあった寝顔も見れた。
逆じゃなくて良かった。
何と思われるか、あんまり・・・・自信はない。

男の人はいい、常にスッピンだから、いっそ寝顔もどうでもいいじゃない。
女性はそうはいかない。

それでも寝てる顔はいつもの逞しさも鳴りを潜めてる感じで、ちょっと間が抜けたくらいに・・・・可愛い。
思わず笑顔で見てたら、その目がパチッと開いてビックリした。

「そんなに楽しい思い出が出来た?」

「何?」

「さっきから楽しそうな笑い声が聞こえてたから。」

「笑い声なんて出してない。」

「なんとなく雰囲気で、笑ってるって思った。何か言われるかなあって寝たふりしてたのに、文句を含めて昨夜の感想を言われるか、お礼を言われるか、ちょっとした愛の告白をされるか、すごく楽しみにしてたら、笑ったような息が聞こえた。最初に見たのも笑顔だったし。」

「先に起きたって事?」

「うん、すごくよく寝たし、目覚めはいい方なんだ。」

しっかり見られたらしい。
見られなかったと安心していた寝顔を。

「ものすごくじっと見てたのに、全然目を覚ましてくれないんだから、相当安心してたんだね。久しぶりに暴れたから疲れてたのかもしれないけど。」

「なんで久しぶりって思うの?」

「白井さんが言ってた。」

・・・・・・何を教えてるの?

「ちなみに前の人のことも少し聞いた。『だから料理も秋津君が知ってる頃よりは成長してるらしいよ。』って。」

いつそんなに話し込んだのよ。
全く知らない。
そんな事私には全然教えてくれてない。


だいたい関係ないのに前の人のことまでバラしてる。


「終わったことだし、そこは単純に楽しみにしてるから。陽は凄いご飯が出て来るって言ってたから、逆にそれも楽しみだと思ったけど、美味しいものが出て来るならご馳走になりたい。」

ハードルが上がってる気がする。

「普通だよ。」

本当に普通だと思う。あの最初で最後がひどかっただけだ。たった一回の失敗。それ以降は陽には披露してないから。

半分起き上がった示現君がカーテンを閉めてくれた。
何度か引っ張ってやっとぴったりと閉じた。
部屋はまた薄暗い感じになった。

それでも夜とは違う、朝だと分かる。

「亜紀さん、途中言ってくれたけど、普通の時に言ってくれてもいいよね。」

「何?」

分かってる気がしたけど、間違うと恥ずかしいから聞いた。

「『示現君が好き。』って。」

しっとりとした声で言われた。
自分の名前をそんなにしっとり言うなんて。

そんな風に昨日言ったのかと思ったら、顔が熱くなる。
夢中で言ってしまった、多分言った記憶はある・・・気がする。

「亜紀さん、どう?」

どうしても言わせたいらしい。二度も言わせた私が言うのもなんだけど。
多分しつこいだろうし。言った方が楽にはなる。

「示現君、好き・・・かも。」

さっきの示現君が言ったのよりはドライだった。
だって朝だし。

「最後のはいらないよね。」


「好き。」

「誰が?」

やっぱりしつこかった。

「示現君が好き。」

さっきよりはちょっとだけ湿った声になったかも。自然に。

「知ってる。」

うれしそうに笑う。
本当に大好きな笑い顔だ。
ちょっと厳ついくせに。すごい名前の癖に。

目を閉じれば暗闇、ほとんど夜と変わりない・・・・と思おう。
外の音が時々聞こえる、動物の声、車の音、子供の声も。

「噛みつかないの?」

「やめてって言ったのに。」

「なんとなく寂しい。そこまで夢中になってもらうのもいいかも。野性的な本能で応えてるみたいな感じで。」

「だって・・・・・やっぱり朝じゃない。」

目を開けて見つめ合ったらさっきより部屋が明るく感じられる。
遮光カーテンでもそんなものだ。
夜の暗さとは全然違う。間違えられない、思い込めない。

「週末じゃない。いいよ。」

本当にそう思ってるのは分かってる。
全然変わりなく手を出してくるし、湿った声で名前を呼ばれて、いろいろ言われてる。


目を閉じて、自己暗示。夜。続いてる、夜。

そしてもっとくっついた。

やっぱり名前を呼ぶと湿った声になる。
全然違う、恥ずかしいほど違う。


長かった夜がやっと終わった。

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