過去の痛い思い出を反省して、今に至ったはずです。

羽月☆

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3 始まるのは二人の始まらなかった関係の話。

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あれから柴山さんとの接点もない。
可能な限り、避けられてたかもしれない?
廊下で会って軽く会釈したり、トイレで遭遇しても挨拶だけ返されるだけ。
もしかしなくても、すごく嫌われてるかもしれない。
そして誤解が解けるまではそのまま避けられるかも。

仕事を覚えながらじりじりと待った。そして何の罰なのか陽とは縁ができた。
仕事の打ち合わせで声をかけることもあった。よくあった。
最初は困るとも思ったし、嫌だとも思ったけど、仕事だからしょうがない。


『秋津君。』他人行儀にそう呼んでる。
誤魔化してるわけじゃない。
一般的なけじめとしては他人行儀でも、それが普通の今。
姉弟となれなかった二人で、ただの同僚の二人。

勤務してるのは事務用品の小さい物から大きいものまで扱う会社だった。
季節に合わせた商品展開、年に数回あるイベント、お得意様へのノベルティ、地味な商品だとしても意外に個性的な方向へ広がり、コアなファンもいるくらい。
私は販売促進部にいる。陽はデザイン部。
陽は器用だったらしい。

毎年この時期、二つの課の新人同士でチームを組ませて新商品を出すらしい。
販促からは私一人、デザイン部は陽と八文字示現(やつもんじ じげん)君。
最初に名前を聞いた時のインパクトは凄かった。
『八文字』と木の表札を掲げたお寺レベルの立派な門構え、飛び石のある日本庭園、鹿威しの響く長く伸びる縁側廊下、もしくは額に『○○組』みたいな墨書の立派なものがある玄関と、応接間にある高い場所の神棚・・・・ちょっと危険な目つきの人々・・・・綺麗に腰を折る挨拶、坊ちゃんと呼ばれる示現君。
つい名前からそんな想像がうっかり浮かぶほどだった。
だって本人にもそれらしい威厳があったのだ。
背が高く肩幅が広く、そして圧がある。
黙ってるとそんな感じ。隣に陽がいると特にそう思えるくらい。
陽は見た目からも家事の得意そうな今時男子だったから。

そんなイメージを勝手に持ちながらも、三人で向き合う。
でも最初のイメージはすぐに崩れた。

普通だった。

ボール競技のスポーツが得意そうな人に見えてから、ちょっと成長のいい人に落ち着いた。
多少の武術は小中の頃にやっていたから、そんな体格にもなったらしい。
でも全然実践には向かないらしい。
もしかして試したことがあるの?
そこは敢えて聞かなかった。

『陽』『示現』と呼び合う二人。
ついつられて私も『陽』と呼んでしまった。

静かになった二人。
私も黙ってしまった。

「俺も示現でいいよ。名前を呼ぶたびに舌を噛みそうだってよく言われるんだ。」

「ありがとう、示現君。」

随分呼びやすくなった。
私と陽のことについては陽から個人的に聞いてると思っていた。
誤解してたとしてもすっかり訂正されてるだろうと。
だから余計に安心して『陽』と呼んでいた。
そうなると陽も私の事を『亜紀』と呼ぶようになった。
そして示現君も亜紀さんと。
とても仲良く見える三人。実際それなりだった。
いろんな意見は言い淀むことなく遠慮なく出るし、ちゃんと言い合い、話し合い、上手くいってると思ってた。

そんな任された案件もあるし、慣れてきた仕事も楽しく出来ていた。
ある日、陽が他の仕事が終わらなくて、二人で先に向き合っていた。

「陽は終わり次第来るって。」

「分かった。」

「じゃあ、この間の続きだけど。」

試作を並べる。

デザインも実際に画面で見ていても、商品にプリントされ、立体になって形が変わったりすると雰囲気も変わる。

二人で商品の色と形とデザインの相性を見ていた。

別に陽がいないのなんてすっかり忘れてた。


意見の一致は二人だと早い。
遠慮するタイプでもないし、二人の中ではさっさと決まった。


「一応陽にも聞いてやるかな。」

つい、油断してそんな言葉で言ってしまった。

「ほんとに相性いいんだね。一度飲みすぎて酔ってたと思うけど、陽も亜紀さんの事を懐かしそうに話したことあったよ。」

「どうせ褒めてはいないでしょう?」

あの当時が多分最悪だったと思う。中途半端に甘えた反抗期でママと優しい秋津パパを振り回して、陽に対しては勝手に張り合いながらも時々姉ぶって。

ため息をついた。
やっぱり家族(仮)の崩壊は私のせいだと思う。
だって思い出が反省点ばかり浮かぶんだから、そう思う。

「聞いていいのかな?詳しく聞いていい話なの?」

示現君に遠慮がちに聞かれた。

「うん、もちろん。高校一年の終わりくらいの時期かな。一緒に暮らしたのはほんとに三ヶ月くらいだった。」

「一緒に?」

驚かれた。

「うん、多分ママはもちろんもっと長く秋津パパとお付き合いしてたんだろうと思うけど。そのあたりの記憶はぼんやりしてて、思い出すのは四人で暮らしてた短い期間のあれこれ。ママとの二人の生活に他の人が混ざったのも最初で最後だったし。」

試作品を手にしていた示現君の手が空になった。
ぽとって感じで、さっきまで見つめて吟味していた試作品が転がった。


「少しの間だったけど姉と弟だった。お互い悪ガキっていうくらいの子供っぽさはあったと思う。」

「ちょっと分からないんだけど?」

「なに?」

「お父さんとお母さんも一緒なの?」

「そう、私の方がシングルマザーのママと陽の方がシングルファザーの秋津パパ、お互い子持ち。もし陽と私のどちらかがもっと可愛らしくて、年が離れてたら、今頃私は秋津亜紀になってたと思う。」


「ほんとに?」

「多分・・・・って今は思ったりするんだけど。秋津パパはすごくいい人だった。ほんとのパパ・・・・は記憶もない内に死んでしまったから、覚えてないし分からないから比べられないけど。」



「ああ・・・・そうだったんだ・・・・そうなんだ。」

「うん。だから陽もいいやつの可能性はある、なんてね。」

やっと納得してくれた表情の示現君。

まさか・・・・。

「ねえ、もしかして陽に聞いてなかった?」

「うん、なんとなく聞きにくいかなと、その内に聞いてたかもしれないけど、きっかけがなかったから。」


「ねえ、私の友達も変な誤解してたんだけど、まさか、示現君も?」

「うん。てっきり二人の問題だと思ってた。それもここ数年くらいの最近の話かなって。」

「それは陽と私が元カレ元カノって事だよね?もう、示現君が知らないなら、皆誤解したままじゃない!!」

大きな声が出た。
本当にその可能性しか見えない。
やっぱり訂正したい!!

「示現君、お願いがあるんだけど、同期の皆で飲み会をしたいの。一緒に幹事してくれない?」

目をしっかり見てお願いした。

「誤解をときたいの、柴山さんのためにも。」

一番は自分のために。


「自分の誤解もときたいんでしょう?」

すっかりお見通しなのか、柴山さんのことは何も言われず、ただ、そう言われた。

「そりゃあ、もちろん。」

このままだと・・・・・。
モゴモゴと言い訳してしまった。
隠せない。


「いいよ。幹事やるよ。」


「ありがとう。」

「でも陽と二人でやるって言ったほうがみんなの興味を引きそうだね。」

「もちろん手伝わせる。陽がちゃんと正直に言ってくれてたら、ほとんどの人の誤解はとけてるはずなんだから。何でそこをサボってるのよ。」

示現君が首を倒す。

「でも幹事席じゃあ可哀想だから、自由にさせないと柴山さんと話ができないからね。」

そう言ったら、驚かれた。

なんで?
そのくらいの反省はしましたよ。


「僕はいいんだ。」

「何が?」

「僕の事は、幹事席で不自由なままで。」

「あ、示現くんもいいよ。じゃんじゃん自由で。」


「ありがとう。」

お礼を言われた。


だって当日までの段取りがあるくらい、幹事だからってゲームなんて仕掛けるわけじゃなし。ただの飲み会だし。当日の会計を担当するくらいだし。

それでも陽と示現君が告知と場所決めと予約と、全部してくれた。私は特に何もせず。
私がしたのは『やるよ!』の招集令に名前を連ねただけ。
こうなったら私と陽以外の誰かのための飲み会にもなってくれたらいい。
特に協力してくれた示現君のために。


当日、久しぶりの面々が揃った。
私の席を含め、幹事席は作らなかったから自由で良かった。
どこかに陽が座り、示現君もどこかに。
私は友達の席の塊に一つキープしている。

「みんな揃った?」

「後二人くらい。」

示現君に聞いた。

「ちょっと遅くなるらしいから、始めよう。」

「そうだね。」

そう言われて私を見られた。
いきなり?それはないよ。後二人揃ってからでいいし。

「とりあえず皆揃ってから挨拶したい。」

小声で言ったら笑われた。
陽には示現君が言ってると思う。
だいたい陽が全く否定してないのも問題なんだから。
変な誤解されてるって知らないの?
ついでに私のあの評判も耳にしてないの?

お酒がじゃんじゃんと運ばれてきて、好きなものを自分でグラスに注いで、皆が落ち着いて席に着くころには残りの二人も揃った。

「早かったな。」

「頑張ったよ。とりあえず間に合った?」

「ああ。」

そんな会話が聞こえた。
皆が落ちついて示現君が乾杯の声をかけてくれて、宴は始まった。


「亜紀、で、いよいよ今夜釈明会見するの?」

「する。謝罪会見だよ。」

「謝るのは秋津君ととばっちりで絡まれた女子にだけだと思うけど。」

「身の潔白を言いたいんでしょう?」

それは言いたい。

「それより八文字君と仲いいの?」

「うん、ずっと一緒に陽も含めて三人で仕事してる。いい人だよ。・・・・怖くはないよ。」

最後小さく言い添えた。

「スポーツやってたのかな?」

「小中と合気道だって。みんな大きい家族らしいよ。」

「名前がインパクトあるよね。」

「そうだね。」

料理も運ばれていて、あちこちで立ち上がり、取り分けてる人もいる。
陽を見たら、柴山さんじゃない子と話をしてる。
タイプは違う。
だって明らかに私寄りの気の強そうなタイプだ。

「ねえ、陽と話をしてるのは、西方さんだよね?」

隣の沙耶に聞く。

「ああ、そうだね。」

「・・・・柴山さんは席が遠いけど。」

「気にしてるんだ。でもほらしょうがないよ。今はそうでも、この後席も変るかもしれないし。」

示現君を見た。
男子グループの中にいる。せっかく自由でいいと言ったのに、今のところそんな感じだ。
それは私と変わらない。
やっぱり、ちょっと怖いかな?

「ねえ、柴山さんの方がいい気がするんだけど。」

「またお姉さんぶってクレームつけたりしたら、もう訂正不可能だよ。」


「どうしたの?」

「亜紀がまたお姉さんモードでちょっかい出したそうにしてるの。」

皆が陽の方を見る。

「何がしたいの?」

「この間邪魔した子の方がお気に入りみたい。」

「ああ・・・まあね。本人の好みもあるし、他人は何も言えないね。」

そう他人だから。

「酔っぱらっちゃう前に釈明して来たら?」

「だって今は・・・・邪魔しちゃうじゃない。」

「したいんでしょう?」

そんな・・・あからさまには・・・・。
こんな時には示現君。
見てたら気がついてくれたらしい。
示現君が陽を見て、こっちに来てくれた。

席を立って少し離れる。

「ねえ、今、陽に声をかけたら邪魔したみたいになると思う?」

「そうだね。でもあんまり陽は困らなそうだよ。適当に話をしてるだけじゃない?」

「そう思う?そんなの分かるの?やっぱり可愛い子の方が好みなのかな?」

「気になるの?」

「そりゃあ、なる。だいぶんタイプが違うし。柴山さんの方が私はいいと思うんだけど・・・・って言ったらまたお姉さんぶってちょっかい出すのって言われた。」



「示現君はどう思う?」

こそこそとする二人。

「お姉さんぶりたいの?」

「違うよ・・・・ただ、あの人は私寄りのタイプだから、どうなんだろうって思っただけ。」

「亜紀さんはいつでもいいの?心の準備は出来てる?」

「も、もちろん。」

そのために開いた飲み会です。
背筋を伸ばした。

「じゃあ、さり気なく陽を誘ってタイミングを見て連れ出す。」

「ありがとう・・・・ごめんね、私と陽の事が片付かないと、示現君が楽しめないよね。」

「いいよ・・・僕は友達ぶりたい方だから。」

「ありがとう。あと少しだけ、よろしくお願いします。」

お辞儀をして頼んだ。
顔をあげて陽を見たら、こそこそとした二人に気がついたらしい。
示現君が陽の方へ歩いて行った。
私は元の席へ。


「どうなったの?」

「示現君がタイミングを見て連れ出してくれるって。」

「本当に二人並んでするの?」

「だってそうしないと信じないって言ったじゃない。」

「まあ、言ったけど。皆、静かになるよね。」

「何が始まるのか興味津々の視線を一気に浴びるよ。まさかの姉弟落ちって、皆ががっかりしないように楽しそうに話してね。」

「そんなの無理。事実を淡々と述べるだけだよ。」

「そこはショーアップしてくれてもいい。具体的なエピソードがあったら秋津君も好感度アップかも。」

「そうかなあ、私もアップする?」

「秋津君の方を上げたいなら、犠牲になるしかないんじゃない?」

そんな・・・・・。
一挙両得と二兎追うものと、絶対両得がいいじゃない。
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