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6 想像した通り、それはずっと思ってたとおりだった。

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それでもやっぱり最初に私を見つけてくれた人に感謝するでしょう。
でも内緒。

「ひっそりとした味方というかサポーターがいたんですね。」

「そうだね。」

「はい。」

「でもそう考えるとずっとずっと見ていた僕が動いたのが良かったのかな?一応チャンスを逃さずに、堂々とナンパしたんだから。あの日に感謝だよ。ずっとずっと待ってたチャンスだったから。」

立夏ちゃんが彼氏と旅行に行って一人で仕事をした日のことだ。

「あの時に名刺を受け取ってもらえて良かった、その日のうちに神のお店まで来てくれて本当に良かった。そこがダメだったら、きっと残りの二つも全然だったからね。さすがに諦めたと思う。」

私はそこまで深く考えていたんだろうか?時間が合ったから誘われた。他の営業の人だったら・・・・行ったかもしれないけど、行かない可能性も大きい。ずっと担当が長くて知ってる人だと思ったから。待ち合わせの猪原さんも楽しそうに降りて来るし。

きっといい人だと思ってた。


車が混んでいて、少しは渋滞にはまった。
それでも安全運転で急ぐことなく、美術館で散歩して、食事をして、ちょっとだけお土産を買って、帰って来た。
知らない部屋に。

思った通り綺麗だった。

あんまり無駄なものはないらしい。

壁に時計しかないって、本当にシンプル。

くるりと見回してそんな事を思っていた。

「詩央さん。」

後ろから抱きつかれた。
軽く。

自分の前で交差する腕に自分の手を乗せて引き寄せた。

耳元で声がする。

「すごく楽しみだった、今日。」

そう言われると恥ずかしい。

「がっかりするパターンは想像しないんですか?」

「それは何で?」

「それは・・・・色々長い時間一緒にいたら、隠せない部分があるかもしれないし、根本的に合わないってことがあるかもしれないです。」

「ないよ。」

そうは言えないと思う。

「そんなところを見つけないでね。」

くるりと体が回された。
少し見上げるとそこにいる。
ヒールがない分今までより、ちょっと遠いくらい。
でもそのくらいの距離はちょっとだけ踵をあげれば届く。

車の中でも何度かキスをした。
渋滞で止まったら手をつないで、指を絡めて。
誰も知ってる人がいないドライブ先で、一緒の景色を見ながら体が重なった時、目が合った時。

「疲れた?」

「大丈夫です。柿崎さんこそ、ずっと運転でしたよ。」

「僕は大丈夫。でもシャワー浴びたい。」

「どうぞ。」

もちろんお先に。

「じゃあ、ササっと浴びてくる。すぐ交代するから待ってて。」

ゆっくりでもいいです。
小さく言ったのに笑われたから聞こえたみたい。

本当にすぐに出てきた。だってパジャマも着てなくてバスタオルだけ・・・・かもしれない。
私が積み上げたパジャマ代わりのものを見られた。

「すぐに出てきて。待ってる。」

そう言われて化粧品と歯磨きセットを持って、タオルを借りて。
それでもすぐには出れない。
顔を整えて、髪を乾かして、スッピンをさらすのに勇気もいる。

「大丈夫?何か足りない?」

「大丈夫です。」

深呼吸して扉を開けたらそこにいた。
バスタオルの下は何も着てない。

そのまま手をつないで寝室に入った。
ベッドの横で振り向かれて抱きしめられた。

「遅いよ。髪は明日でもいいのに。考えた?それとも焦らしたの?」

「どちらでもないです。普通にサササッとしたつもりです。そのくらいはかかります。」

「そう。長く感じた。すごく長く待った気がする。ドキドキしながら待ってた。」

バスタオルの上から体を撫でられる。
私も同じようにして確認した。
タオルの下に布があるかどうか。

ないと思う。
そこは安心した。

私はタオルの上からだったのに、柿崎さんはもっと直接確認したかったらしい。
スルッと手を入れて腰を撫でられた。

「ぃやぁ。」

思わず声が出た。

「ちゃんとバスタオルだけで出て来てくれたんだ。」

わざわざ口にしなくてもいいのに。

確認は一度で終わったから、あとはゆっくり背中と腰を撫でられる。
前はぴったりとくっついていて、その辺りしかお互いに探るところは空いてない。

首に手を回して体が伸びた時にバスタオルが落ちた。
体と体の間でかろうじて止まったけど、ちょっとだけ体を離されて、結局落ちた。

柿崎さんの分も落とした。
適当に指を入れて引っ張って落とした。

くっついた体はお互いの熱が分かる。
柿崎さんの熱を直接感じたけど、自分でも体をこすりつけるようにくっつけた。

お互いの体を探る手も遠慮がなくなる。
ベッドに座り、私の足が柿崎さんの足に乗り、そのまま抱えられてベッドに横になった。

上からのぞかれて、体も見られた。
ゆっくりキスをされながら胸をそっと触られた。
優しすぎて、直ぐに自分から胸を突き出すようにした。

空いた背中の隙間に腕を入れられて、指で、降りて来た口で刺激される。

少しも大人しくない私も柿崎さんの体に絡みついた。

「詩央さん・・・・。」

「ん・・・・・。」

「もっと、来て。」

そう言われて本当にもっと絡みついた。
柿崎さんの熱いものに触れるように絡みつく。

お互いに声が出る。

後は本当に勢いがついて、いろんな声と音を立てながら、お互いを感じた。



体に汗をかいて、冷えていく。
くっついてタオルケットを手繰り寄せられた。

「詩央・・・・。」

そう呼ばれてぎゅっとくっついた。



少しだけ微睡んで、名前を呼ばれながらおでこにキスをされて目を開けた。
やっぱり柿崎さんがそこにいた。

下げた顔が陰になり、表情はよく分からない。
でも頬に触れた指は優しいから、きっとそんな表情をしてると思う。

「神に自慢したい・・・・。」

「言わなくても、お見通しです。きっと『神』様ですから。」

「満足した顔をしてるって言われそう。」


「しばらく行ってないんだ。」

「一緒に行く?」

どう・・・・?行く?

「お礼参り。」

出来たら一人で言って欲しい。しばらくは行けない。視線から逃れられない気がする。

「まだいいか。」

勝手に結論を出してくれて助かった。

「あそこに行くくらいなら一緒にいたい、そう思ってくれた?」

顔を上げた。
そんな事までは思ってなかった、見上げた顔でバレてしまった。

「・・・・・思ってよ。」

耳元で言われた言葉よりも吹きかれられるように感じた息にぞくりとした。
仰向けにされて、腰に手を置かれた。
ゆっくり上がる手が誘ってるのに、焦らしてる。

同じように腰から手を動かしてみた。
厚みがある体に手を緩く這わせる。

「くすぐったい。」

そう言って手が大きく動いた。
体をひねって反応してしまい、声が出た。





目が覚める時に、体にかかる重さを苦しく感じた。
重い・・・そう思いながら目が覚めた。

仰向けに寝ている私の体を斜めに横切るように伸ばされた手。
柿崎さんの腕だった。

力なくだらりとのしかかるように重く感じて、でも動かすわけにもいかない。
せめて横を向いて、腰のあたりでだけ重さを受け止めた。

楽。

しばらく大人しく横になり、目を閉じた。

随分外は明るくなったと思う。
仕事に行くくらいの時間かもしれない。
休日もゆっくり寝坊出来る方じゃなくて、一度はその頃に目が覚める。
そのあとちょっとだけ二度寝して、会社に着く時間のころに起きだす。
昨日は夜からワクワクとドキドキで、朝も早く目が覚めた。
時計を見て何度もアラームがセットしてあるのを確認して、目を閉じても、結局アラームの鳴る随分前に起きだした。

ドライブも途中までは緊張してたけど、音楽を聞いたり、ラジオを聞いたりしてるうちに沈黙も苦痛じゃなくなり、しばらく黙っていることもあった。
ナビがしゃべるとちょっとだけ反応して、目的地で車を降りる頃は達成感と解放感が相まって自然に寄り添って手をつないだ。
普通のカップルの週末デートの二人だった。

食事をして、買い物をして、散歩をして、景色を見て。
車に戻る頃にはもっと親密になっていた。


『なかなか夜にはたどり着けないなあ。』
渋滞で完全に止まった時に指を絡められて言われた。
お互いの期待を指で感じた。

ずっと長く知っているのに、重なった時間は本当に数時間。
食事をしても、週末会っても本当にそんなに一緒には過ごしてないくらい。
昨日からずっと一緒にいた。
でもやっぱりそんなにゆっくりくつろいで話をしてる時間もなく、この部屋に来てからも二人の時間は相変わらず。

どうだったんだろう?

そんなに相性悪い感じじゃないよね。
私も普通に自分らしくいるつもり、柿崎さんも今までの印象とそう違和感はない。
神さんのところでの時がちょっと違うと思ったけど、その後はスマートだし。

部屋を見ても本当にきちんとしてる。
だらしない感じはないし、シンプルで、柿崎さんの印象はやっぱりそんな感じだ。

眠れなくなって目を開けた。

まだぐっすり寝てるみたい。
やっぱり一人のドライブよりは気を遣ってもらったかもしれない。
疲れたんだろう。

そっと頭を起こし、腕の下から抜け出そうとしたら、引き留めるように腰に腕が巻き付いて元に戻された。

「起きてますか?」

小さい声で聞いてみた。

「うん。」

目は開かない。

眠くないのに、このままなのも辛いから。
シャワーを借りて服を着たい。
ちゃんと部屋着を持って来てるし。

どうしよう。

そういう思いが伝わったのか、目は開かなくても口が開いた。

「詩央、今日何する?どっかに出かけたい?」

「食事をして、映画でも見ますか?」

「見たいのあるの?」

探せばあるかも。

「じゃあ、立夏ちゃんにお礼のプレゼントを、一応。」

「そうか・・・・・今度どっちに声をかけるか、すごく見られてそうだよ。」

「席を外すかもしれませんよ、ごゆっくりとか言いそうです。」

「でもどこかからのぞき見してるんじゃない?」

「はい、多分。」私もこの間そうしてましたから。

「あ~、夜なんて本当にあっという間に過ぎるよね。本当に毎朝思うけど、今日もそう思った。ずっとずっと暗かったらいいのに。このままここに籠りたい。」

そう言って腰の手に力が入った。

「お昼に出かければいいよね。」

足をかけられて、手は頬に来た。
やっと目が開いた。
目が合ったのも一瞬で、すぐに目を閉じた。


お昼前に起きだして着替えをした。

お腹空いた。

高速での夕食は早い時間だった。
あの後何も食べてない。まさか本当に何も食べないなんて。
朝ごはんも抜きで、やっとお昼にありつけるらしい。

「お腹空いた。」

「そう?」

「僕はお腹いっぱいになった。満足したし。」

着替えを詰め終わり、荷物をまとめた私。
バッグを手にして準備完了を教えようと思ったのに。

荷物を下ろされた。

「全部持って帰るの?」

そう言われた。

「置いて行けばいいのに。」

そう言われて荷物から部屋着と化粧品の一部を取り出した。

「これをお願いしていいですか?」

「了解。」

バッグが大きくて、中身はぐっと減った。

バッグから残りを全部取り出して、普段の荷物に押し込んだ。
空いたバッグに預かり品を詰め込んでファスナーを閉めた。

「洗おうか?」

そう言われてまたTシャツだけ取り出して洗濯をお願いした。

「ああ・・・・部屋着なのでちょっとよれよれです。」

首元が数回の洗濯に耐えかねてちょっと伸びてる。

「じゃあ、洗濯にも気を遣わないで済むなあ。」

「はい、大丈夫です。」

ちょっとした気遣いが嬉しかった。


部屋着なんてそんなものでしょう?
そうよね。普通よね。

本当にお腹空いたから、がっつりと食べた。
お腹いっぱいなんて言いながら、正面でもそれ以上のペースで食べてる柿崎さん。
お互いしばらく無口だ。
携帯で映画を調べて、丁度いいものを見つけて出かけた。
それでも週末、それなりににぎやかな映画館。
ポップコーンを片手に、ジュースを両手に並ぶ人、多くの家族連れやカップルに連なって並んだ。

それぞれの目的の番号の部屋に吸い込まれると自分たちの席を探す。

クッションもいいし、背もたれの高さもあり、本当にリラックス。
斜めの椅子に座るとほとんど頭のてっぺんしか椅子からは出ない。
さすがに柿崎さんはそうはいかなくて足を軽く開いて、頭も半分以上は出ている。

隣を見たら手を出されて、軽くつながれた。

まだ適当な画像が流れるスクリーンで、当然会場は明るい。
それでも椅子の堺で重なった手はそのまま落ち着いた。

久しぶりだった。
前はよく来てたのに、本当に最近は部屋で見ることも少なくなってきた。
テレビで予告を見たら見たいって思う作品も多いのに、なかなか出かけることもなくなってきていた。二時間ここでじっとしてるのを苦痛に感じそうな自分がいたから。
今日は一緒に見れるし、そうは思ってない。

「柿崎さんはどんなのを好んで見てますか?」

「明るいのかな。笑えて、見終わった後スッキリするのがいい。」

「そうですね。でもサスペンスも一人で部屋で見るよりはたくさんの人と見た方が安心ですよ。逆に泣ける作品は部屋で一人で見たいし。」

「最近見なくなってたかもしれない。」

「私もです。本当に久しぶりです。」

笑顔でそう言った。
繋がった手は柿崎さんの方へ引っ張って行かれた。手だけ。腕を伸ばした状態。
さすがに食後でポップコーンもドリンクも買ってない。
あとでコーヒーを飲みに行こうと言っていた。

人がたくさん入ってくる、前にも後ろにも、横にも。
手をつないでる二人は珍しくはない、そう思いたい。
多分、普通。その内に暗くなったら、もっと。


ブザーが鳴り、ざわざわとした音が落ち着き、劇場は暗転した。
画面が明るくなり、音が溢れてくる。

始まったら集中する。
途中足を組んだ柿崎さんの体が少しだけ傾いて、足の間に軽く挟まれて、両手を重ねられた。

それでも正面を向いていた。
暗い中、スクリーンの光では例え顔が赤くなっていたとしても分からないと思う。

私は、集中している・・・・映画に。


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