4 / 7
4 気まぐれな後輩の計らいで状況が複雑になりそうな日。
しおりを挟む
月曜日。
「何か変わったことや面白い事はなかったですか?」
横並びでカウンターに入って座った途端、立夏ちゃんに聞かれた。
思わず動揺した。
何で?どうしてバレた?誰が気がついた?
立夏ちゃんを見た。
「お休みありがとうございました。特に変わりなかったですか?」
「うん・・・別に。」
「私は楽しかったです。」
笑顔でそう言いながらこっそりカウンターの中で携帯の写真を見せられた。
連休を作ってまで行きたかったらしい旅行。
楽しんだ二人の写真を普通に見せられた。
立夏ちゃんだって仕事時間でそんな休日のあれこれを披露できるのは私くらい。
お昼の時間に他の同期の友達に披露してるとしても、とりあえずは私だから。
一足先に夏を先取りしたような写真。
「お土産もありますよ。帰りに渡しますので持って帰ってくださいね。」
「ありがとう。」
とりあえず私は普通の金曜日からの週末を過ごしたことにした。
さすがに誰かにバレてるとは思わない。
神さんのお店も遠いし、昨日のお店も会社からは離れていたし。
あの後一緒にふらふらと歩いた。
駅に向かう道は雨も降ってなかったので地上を歩いた。
そこにある景色を一緒に見ながら話をして、ゆっくり駅まで歩いて、途中立ち止まったり、立ち寄ったり。
お店に入って何かを手にするとちょっとだけ距離をつめて話したり、一緒に手にしたり。
全然普通だった。
不器用そうでもなく、かといって仕事用の声よりも柔らかくて。
やっぱりあの日は緊張していたんだと分かった。
神さんの言うように。
表情は違うけど、ずっと存在は知っていたから、そこは安心できる。
むしろなかなか会わない同期の男の人よりも声を聞いて、姿を見てるんだと気がついたくらいだ。
二人でいてもまったく違和感がなかったくらいに。
それから夜、セミナーの帰りにちょっとだけコーヒーを一緒に飲んだり、週末に予定を合わせて出かけたり。
ゆっくり二人の時間を増やしていた。
数週間くらい後の事。
『明日の午後、そっちの会社に行くんだ。出来たら直帰にするから。打ち合わせが終わる時間によっては、一緒に食事をどうかな。連絡するから、携帯見てくれる?』
「はい。仕事が終わったら見ます。」
来訪の予定が入ってたのは知っていた。
それはもう数日前から知っていた。
時間もなんとなく、合わせたられたらなあって、神さんのお店で会えるかなあって思うくらいに。
楽しみにしつつも、今まで通りと変わらないようにしていたつもりで。
「詩央さん、私思ってたんですけど、この人っていつも詩央さんの方に直進してくるじゃないですか?」
立夏ちゃんがパソコンの画面を見ながら、ツンツンと綺麗な爪で指さしたのは柿崎さんの名前だった。
「そう・・・かな?立夏ちゃんになってからはそうかもしれない。だって凄く長いお付き合いしてる営業の人みたい。だから当然古い私の方がより知ってるからじゃない?」
「そうでしょうか?私はこれでも話しかけやすさは詩央さんより上だと思ってるんです。」
あっけらかんと言う立夏ちゃん。
その意味は深くは考えまい。
「だってやっぱり詩央さんのほうが隙がないですもん。」
「別に隙がある方に話しかけるとは限らない・・・・・んじゃない?」
「いいえ、話しかけやすさって、そんなところを人は選んでると思います。後普通だったら気遣いで交互に話しかけたりとかしますし、そうじゃなかったら完璧に話しかけたい方に行くと思うんです。」
「でもチケット売り場もなんとなく入り口ゲートの近くが混むって言うじゃない。心理的にどちらかに行きやすいってあるんじゃないかな?」
「全然そのパターンとは違います。」
はっきりそう言われた。
「いつも時間ぴったりですよね、ちょっと試してみましょうよ。」
立夏ちゃんを見たら楽しそうに笑顔になってる。
「何を?」
「入り口を見て、この人が来たら席を立ってしばらく留守にしてください。私が確かめます。」
立夏ちゃん・・・何? 何か気がついてるの?偶然???
「何をするの?」
「普通にお話です。」
「それで?」
「どうして詩央さんの方ばかりに偏るのか聞いてみます。受付嬢のプライドと後学の為と言えば教えてくれます。それで言い澱むようだったら・・・・・。」
「だったら?」
「やっぱり詩央さん目当てなんだなあって思うので、きっと私がいなくなりたい気分になります。」
「そんな必要ないよ。」
本当にやめて欲しい。
柿崎さんに教えたい。心構えをしてくださいと。
でも無理。せめて午前中にこの話が出たら、教えられたのに。
「お願いします。何となく気になってるんです。確かめたいんです。」
言い出したら聞かないだろう。
ここで嫌がっても変かもしれないし、意識してしまう。
むしろ不自然に振舞ってしまう。
「もう・・・・分かった。じゃあ、合図して、帰って来ていいタイミングも教えてね。」
本当に・・・・厄介な事を思いつくのね。
今日は一緒にご飯を食べられるかもしれない、その時に話が出来るからいい。
別にちょっとくらいの電話の取次ぎなんて、立夏ちゃんがやってくれればいい。
柿崎さん、どう答えるの?
立夏ちゃんの追及は結構手ごわいかもしれない・・・・。
時間になる頃。
「ああ、詩央さん、来ましたよ。」
素晴らしい、立夏ちゃん。
私より先に気がつくなんて。
「立夏ちゃん、よく気がついたね。」
素直にそう言ってみた。
「だっていつも時間ぴったりなくらいだし、外からでも詩央さんのことを見てる気がするんです。」
「ええっ。」
普通に驚いた。
いつもきちんと時間通りに来る柿崎さん。近くで時間調節をしてるらしい。
確かに外からでもさりげなく確認してるとは言われた。
でも立夏ちゃんに気がつかれてるって、全然さり気なくないんじゃないの?
入り口から柿崎さんが入って来た。
顔をあげて私と立夏ちゃんを見たのも分かった。
デスクの下の足をパンパンと手の甲で叩かれた。
席を外してくださいの合図だと思う。
分かってますって・・・・。
「じゃあ、良かったらこっちを見て合図してね。」
小声でお願いして席から立って、柿崎さんが正面に立つより前に席を離れた。
ビックリしてるだろう。
どう思うだろうか?
やっぱりやりにくいのかなあ?って心配する?
立夏ちゃんの言うとおりに少し離れて、ついでにトイレを済ませた。
さっさと済ませてすぐに柱からカウンターを見た。
柿崎さんが名刺を手にしてる、立夏ちゃんが話しかけてるのが見えた。
明るく対応してる立夏ちゃん。
まあまあ普通に対応してるように見える柿崎さん。
あ・・・・・。
柿崎さんの視線が私の席を見た。
明らかにうろたえてる気がする。
何を言われたの?
立夏ちゃんがもらった名刺を返した後、もう一枚渡している。
立夏ちゃんの名刺?
何??どう言うこと?
それを受け取って笑顔になった柿崎さん。
名刺にペンで何かを書いて立夏ちゃんに渡してる。
何?何で??
立夏ちゃんも名刺を笑顔で受け取り、やっと本来の仕事である来訪の連絡をしてるみたい。
柿崎さんがさりげなく私の席を見てる。
お礼をしてカウンターを離れた柿崎さん。
立夏ちゃんから戻ってきてくださいの合図がない。
でもよく考えたら怪しい私。
変だよね・・・・。
背伸びをする振りした後、自分の持ち場に戻った。
「ああ、詩央さん、やっぱり思った通りでした。もう、私の推理完璧です。」
うれしそうな立夏ちゃんがひらひらと柿崎さんの名刺を振る。
カウンターの下で。
確かに個人の連絡先が追記されてる。
私が既に手にしてる情報を。
「はい、これは詩央さんに渡してほしいと、預かりました。」
何で?
声にもならない。
「本当に最初がっかりな顔をしてました。さっき確かめた時はいたのになあって顔でしたよ。」
笑いながら思い出してる立夏ちゃん。
そんな顔をしたの?本当に?
「で、挨拶をして初めて私に声をかけてくれたことに感謝しました。詩央さんに彼氏がいない事は教えてます。そのうえで必要だったらお手伝いしましょうかと言ってみたら、この通り。詩央さんの名刺も渡しました。」
「待って・・・・なんで?なんで私の名刺を持ってるの?」
「ここに入ってるって前に教えてくれたじゃないですか。取り出すところは見たことないですけど、良かったです、今もちゃんと入ってましたよ。」
「はい、どうぞ。」
柿崎さんの名刺を私に渡す立夏ちゃん。
「連絡待ってますって言ってましたよ。」
「・・・・。」
「だってなんだかいい人そうじゃないですか。実際いい人らしいです。営業の人に聞いたので本当です。彼女もいないそうです。」
「それは誰に聞いたの?」
「さっき、本人にですよ。」
いないって言ったの?
いるって言ったら勘違いで済んだだろうに。
「連絡とってください。きっとずっっっと待ってますよ。」
名刺を初めてじっくり見るふりをする。
最初にもらったものと同じ名刺。
ここまでやられたら後日、立夏ちゃんに報告義務もあるでしょう?
多分それをしないと聞かれるでしょう?
知りたいって思うだろうから、聞くつもりでしょう?
どうするの?
手にした名刺を眺めるふりして、全然立夏ちゃんの想像より進んだ状況を考えていた。
とりあえず引き出しにしまった名刺。
「忘れないでくださいね。」
視線で名刺を追われてそう言われた。
「分かってる。」
小さく答えた。
忘れても実際何の問題もないからいいの!!
もう、あとは今夜でいい。
柿崎さんの予定も午後の遅い時間だったから、それからは静かに私の仕事は終わった。
でも、ちょっとだけ聞きたかった。
「ねえ、立夏ちゃん、そんなに柿崎さんのために何かしたいって思ったの?」
「う~ん、とりあえずは詩央さんのためにです。最近なんだか元気ないし、つまらなそうだし、しょぼしょぼの週末を一人で過ごしてるって言ったじゃないですか。」
そんな言い方はしてない。静かに過ごすことが多いって、最近は特に誤魔化してたのに、そこはうまく騙されてくれたみたい。
「きっと柿崎さんも元気ないなあって思ってたと思いますよ。ずっと見てきたんならなおさら。憂いに色気を感じてくれたんならいいですけどね。」
「まさか・・・・。」
「もしかして私が柿崎さんに話しかけたかっただけとか思わないですよね。もう、ラブラブですからご心配なく。」
本当にあっけらかんと否定してくれた。
「じゃあ、終わりですね。」
そう言って手を振ってロッカーに向かった立夏ちゃん。
ちゃんと名刺を取り出して、携帯と一緒にポケットに入れる。
私も自分のロッカーに向かって荷物を出す。
さっき携帯に連絡があったのは気がついていた。
ちょっとだけ、期待してる。
それにあの時、留守にした理由も聞きたいだろうし、いろいろ話したいだろうし。
「何か変わったことや面白い事はなかったですか?」
横並びでカウンターに入って座った途端、立夏ちゃんに聞かれた。
思わず動揺した。
何で?どうしてバレた?誰が気がついた?
立夏ちゃんを見た。
「お休みありがとうございました。特に変わりなかったですか?」
「うん・・・別に。」
「私は楽しかったです。」
笑顔でそう言いながらこっそりカウンターの中で携帯の写真を見せられた。
連休を作ってまで行きたかったらしい旅行。
楽しんだ二人の写真を普通に見せられた。
立夏ちゃんだって仕事時間でそんな休日のあれこれを披露できるのは私くらい。
お昼の時間に他の同期の友達に披露してるとしても、とりあえずは私だから。
一足先に夏を先取りしたような写真。
「お土産もありますよ。帰りに渡しますので持って帰ってくださいね。」
「ありがとう。」
とりあえず私は普通の金曜日からの週末を過ごしたことにした。
さすがに誰かにバレてるとは思わない。
神さんのお店も遠いし、昨日のお店も会社からは離れていたし。
あの後一緒にふらふらと歩いた。
駅に向かう道は雨も降ってなかったので地上を歩いた。
そこにある景色を一緒に見ながら話をして、ゆっくり駅まで歩いて、途中立ち止まったり、立ち寄ったり。
お店に入って何かを手にするとちょっとだけ距離をつめて話したり、一緒に手にしたり。
全然普通だった。
不器用そうでもなく、かといって仕事用の声よりも柔らかくて。
やっぱりあの日は緊張していたんだと分かった。
神さんの言うように。
表情は違うけど、ずっと存在は知っていたから、そこは安心できる。
むしろなかなか会わない同期の男の人よりも声を聞いて、姿を見てるんだと気がついたくらいだ。
二人でいてもまったく違和感がなかったくらいに。
それから夜、セミナーの帰りにちょっとだけコーヒーを一緒に飲んだり、週末に予定を合わせて出かけたり。
ゆっくり二人の時間を増やしていた。
数週間くらい後の事。
『明日の午後、そっちの会社に行くんだ。出来たら直帰にするから。打ち合わせが終わる時間によっては、一緒に食事をどうかな。連絡するから、携帯見てくれる?』
「はい。仕事が終わったら見ます。」
来訪の予定が入ってたのは知っていた。
それはもう数日前から知っていた。
時間もなんとなく、合わせたられたらなあって、神さんのお店で会えるかなあって思うくらいに。
楽しみにしつつも、今まで通りと変わらないようにしていたつもりで。
「詩央さん、私思ってたんですけど、この人っていつも詩央さんの方に直進してくるじゃないですか?」
立夏ちゃんがパソコンの画面を見ながら、ツンツンと綺麗な爪で指さしたのは柿崎さんの名前だった。
「そう・・・かな?立夏ちゃんになってからはそうかもしれない。だって凄く長いお付き合いしてる営業の人みたい。だから当然古い私の方がより知ってるからじゃない?」
「そうでしょうか?私はこれでも話しかけやすさは詩央さんより上だと思ってるんです。」
あっけらかんと言う立夏ちゃん。
その意味は深くは考えまい。
「だってやっぱり詩央さんのほうが隙がないですもん。」
「別に隙がある方に話しかけるとは限らない・・・・・んじゃない?」
「いいえ、話しかけやすさって、そんなところを人は選んでると思います。後普通だったら気遣いで交互に話しかけたりとかしますし、そうじゃなかったら完璧に話しかけたい方に行くと思うんです。」
「でもチケット売り場もなんとなく入り口ゲートの近くが混むって言うじゃない。心理的にどちらかに行きやすいってあるんじゃないかな?」
「全然そのパターンとは違います。」
はっきりそう言われた。
「いつも時間ぴったりですよね、ちょっと試してみましょうよ。」
立夏ちゃんを見たら楽しそうに笑顔になってる。
「何を?」
「入り口を見て、この人が来たら席を立ってしばらく留守にしてください。私が確かめます。」
立夏ちゃん・・・何? 何か気がついてるの?偶然???
「何をするの?」
「普通にお話です。」
「それで?」
「どうして詩央さんの方ばかりに偏るのか聞いてみます。受付嬢のプライドと後学の為と言えば教えてくれます。それで言い澱むようだったら・・・・・。」
「だったら?」
「やっぱり詩央さん目当てなんだなあって思うので、きっと私がいなくなりたい気分になります。」
「そんな必要ないよ。」
本当にやめて欲しい。
柿崎さんに教えたい。心構えをしてくださいと。
でも無理。せめて午前中にこの話が出たら、教えられたのに。
「お願いします。何となく気になってるんです。確かめたいんです。」
言い出したら聞かないだろう。
ここで嫌がっても変かもしれないし、意識してしまう。
むしろ不自然に振舞ってしまう。
「もう・・・・分かった。じゃあ、合図して、帰って来ていいタイミングも教えてね。」
本当に・・・・厄介な事を思いつくのね。
今日は一緒にご飯を食べられるかもしれない、その時に話が出来るからいい。
別にちょっとくらいの電話の取次ぎなんて、立夏ちゃんがやってくれればいい。
柿崎さん、どう答えるの?
立夏ちゃんの追及は結構手ごわいかもしれない・・・・。
時間になる頃。
「ああ、詩央さん、来ましたよ。」
素晴らしい、立夏ちゃん。
私より先に気がつくなんて。
「立夏ちゃん、よく気がついたね。」
素直にそう言ってみた。
「だっていつも時間ぴったりなくらいだし、外からでも詩央さんのことを見てる気がするんです。」
「ええっ。」
普通に驚いた。
いつもきちんと時間通りに来る柿崎さん。近くで時間調節をしてるらしい。
確かに外からでもさりげなく確認してるとは言われた。
でも立夏ちゃんに気がつかれてるって、全然さり気なくないんじゃないの?
入り口から柿崎さんが入って来た。
顔をあげて私と立夏ちゃんを見たのも分かった。
デスクの下の足をパンパンと手の甲で叩かれた。
席を外してくださいの合図だと思う。
分かってますって・・・・。
「じゃあ、良かったらこっちを見て合図してね。」
小声でお願いして席から立って、柿崎さんが正面に立つより前に席を離れた。
ビックリしてるだろう。
どう思うだろうか?
やっぱりやりにくいのかなあ?って心配する?
立夏ちゃんの言うとおりに少し離れて、ついでにトイレを済ませた。
さっさと済ませてすぐに柱からカウンターを見た。
柿崎さんが名刺を手にしてる、立夏ちゃんが話しかけてるのが見えた。
明るく対応してる立夏ちゃん。
まあまあ普通に対応してるように見える柿崎さん。
あ・・・・・。
柿崎さんの視線が私の席を見た。
明らかにうろたえてる気がする。
何を言われたの?
立夏ちゃんがもらった名刺を返した後、もう一枚渡している。
立夏ちゃんの名刺?
何??どう言うこと?
それを受け取って笑顔になった柿崎さん。
名刺にペンで何かを書いて立夏ちゃんに渡してる。
何?何で??
立夏ちゃんも名刺を笑顔で受け取り、やっと本来の仕事である来訪の連絡をしてるみたい。
柿崎さんがさりげなく私の席を見てる。
お礼をしてカウンターを離れた柿崎さん。
立夏ちゃんから戻ってきてくださいの合図がない。
でもよく考えたら怪しい私。
変だよね・・・・。
背伸びをする振りした後、自分の持ち場に戻った。
「ああ、詩央さん、やっぱり思った通りでした。もう、私の推理完璧です。」
うれしそうな立夏ちゃんがひらひらと柿崎さんの名刺を振る。
カウンターの下で。
確かに個人の連絡先が追記されてる。
私が既に手にしてる情報を。
「はい、これは詩央さんに渡してほしいと、預かりました。」
何で?
声にもならない。
「本当に最初がっかりな顔をしてました。さっき確かめた時はいたのになあって顔でしたよ。」
笑いながら思い出してる立夏ちゃん。
そんな顔をしたの?本当に?
「で、挨拶をして初めて私に声をかけてくれたことに感謝しました。詩央さんに彼氏がいない事は教えてます。そのうえで必要だったらお手伝いしましょうかと言ってみたら、この通り。詩央さんの名刺も渡しました。」
「待って・・・・なんで?なんで私の名刺を持ってるの?」
「ここに入ってるって前に教えてくれたじゃないですか。取り出すところは見たことないですけど、良かったです、今もちゃんと入ってましたよ。」
「はい、どうぞ。」
柿崎さんの名刺を私に渡す立夏ちゃん。
「連絡待ってますって言ってましたよ。」
「・・・・。」
「だってなんだかいい人そうじゃないですか。実際いい人らしいです。営業の人に聞いたので本当です。彼女もいないそうです。」
「それは誰に聞いたの?」
「さっき、本人にですよ。」
いないって言ったの?
いるって言ったら勘違いで済んだだろうに。
「連絡とってください。きっとずっっっと待ってますよ。」
名刺を初めてじっくり見るふりをする。
最初にもらったものと同じ名刺。
ここまでやられたら後日、立夏ちゃんに報告義務もあるでしょう?
多分それをしないと聞かれるでしょう?
知りたいって思うだろうから、聞くつもりでしょう?
どうするの?
手にした名刺を眺めるふりして、全然立夏ちゃんの想像より進んだ状況を考えていた。
とりあえず引き出しにしまった名刺。
「忘れないでくださいね。」
視線で名刺を追われてそう言われた。
「分かってる。」
小さく答えた。
忘れても実際何の問題もないからいいの!!
もう、あとは今夜でいい。
柿崎さんの予定も午後の遅い時間だったから、それからは静かに私の仕事は終わった。
でも、ちょっとだけ聞きたかった。
「ねえ、立夏ちゃん、そんなに柿崎さんのために何かしたいって思ったの?」
「う~ん、とりあえずは詩央さんのためにです。最近なんだか元気ないし、つまらなそうだし、しょぼしょぼの週末を一人で過ごしてるって言ったじゃないですか。」
そんな言い方はしてない。静かに過ごすことが多いって、最近は特に誤魔化してたのに、そこはうまく騙されてくれたみたい。
「きっと柿崎さんも元気ないなあって思ってたと思いますよ。ずっと見てきたんならなおさら。憂いに色気を感じてくれたんならいいですけどね。」
「まさか・・・・。」
「もしかして私が柿崎さんに話しかけたかっただけとか思わないですよね。もう、ラブラブですからご心配なく。」
本当にあっけらかんと否定してくれた。
「じゃあ、終わりですね。」
そう言って手を振ってロッカーに向かった立夏ちゃん。
ちゃんと名刺を取り出して、携帯と一緒にポケットに入れる。
私も自分のロッカーに向かって荷物を出す。
さっき携帯に連絡があったのは気がついていた。
ちょっとだけ、期待してる。
それにあの時、留守にした理由も聞きたいだろうし、いろいろ話したいだろうし。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる