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21 フヒトは歩人なりに考えてみること。
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初めて会った女の子とお酒を飲んでる自分をなんとなく他人事のように思ってる。
お酒は強いと言った通りおいしく飲んでるみたいだった。
さっきまでの緊張とか遠慮が取れて来たみたいで、自分のことをいろいろと話し始めてた。
途中自分のことも登場してきて、時々聞かれることもあって。
「本当に大好きだったんです。いつか会いたくて、どんな人だろうって思ってました。」
憧れてたと言われていたのに、それが大好きになってる。
そんな小さなことも聞き逃せない自分。
こんな可愛い子なら周りの男も落ち着かないだろう。
大学の時はもっと楽な恰好をしてたんだろうけど、お化粧も綺麗にしてるし、アクセサリーもつけて服装もおしゃれだ。
真冬より女子力が高いのは間違いない。
自分の比較基準が真冬だから、どうにもこの先にも褒める子にしか会えないかも。
真冬以下は相当なズボラな子だろう。
それとも部屋では違うんだろうか?
もっと仲良くなると違うところも見えては来るんだろう。
「歩人さんは?」
「ん?」
「歩人さん、ちゃんと聞いてくれてますか?それとも大切な幼なじみの子が気になるんですか?」
なんでさっき話しただけの真冬のことを言われるんだか、意外に鋭いと言うべきかもしれないけど。
「なんだかすごく楽しそうだから、見てて可愛いなあって思ってた。ごめん、ちょっとだけぼうっとしてたんだ。」
「もう、そうやって誤魔化すんですか?」
真っ赤になりながら怒る。
何だかよく二次元にもある女の子の反応だ。
ああ、新鮮新鮮。
思わず笑顔になってしまう。
「ごめんね、何?」
「だから、歩人さんはデートはどこに行ってたんですかって聞いたんです。」
そんな話だったかな?
確かに好きな場所の話をしてたのは聞いた気がするけど。
「特にないよ。安達さんは?今ならどこに行きたいの?」
「また誤魔化しましたね、歩人さん。じゃあ、私が行きたいところを言ったら一緒に行ってくれるんですか?」
「安達さんに誘われたら断る男はいないよ。」
「歩人さんも断りませんか?」
「そうだね。」
「じゃあ、一緒に行ってください。責任もって一日付き合ってください。」
「何の責任?」
「聞いたんだから・・・・・。私のイメージの休日に・・・・。」
「そう。どこに行くイメージしたの?」
そう言ったら、表情が消えてしばらく黙られた。
「いいよ、無理して想像しなくても。その内、そんな機会があったらでいいから。」
今日みたいに仕事の後に飲みに行くのとは違うだろうから。
自分でもあんまり想像できない。
想像しようとしたら、つい先日思い出した真冬との水族館に行った小さなころの思い出が出てきた。
よく考えなくても、あんまり他の人との思い出がない。
ああ、ゲームの中では壁を抜け、空を飛び、迷路も抜け出して、国を超え、時代も次元も越えられるのに。
リアルの思い出が少ないのだ。
このまま年をとったら本当に足元すら知らずに終わる人生かも。
ほとんど自分の家から出ない人生。それもぞっとしてきた。
我に返って彼女を見たらこっちを見ていた。
あ、また何か聞き逃したかな?
目が怖い気がする・・・。
「じゃあ、一日下さい。歩人さんの時間を私に下さい。その日は私だけに下さい。」
「いいよ。仕事が問題なければいつでもいいよ。」
じっと見られた。何だろう。さっきまで楽しそうだったのに。
「何だか分かってないみたいです。」
「分かってるよ。一緒に出掛けるんだよね。行きたいところに付き合うよ。」
どこに連れて行かれるんだろうか?
まあまあ常識範囲内でお願いしたい。
「少し飲み過ぎました、お手洗いに行ってきます。」
「大丈夫?一緒に行こうか?」
少し腰を上げたけど、普通にすくっと立ち上がってる。
「大丈夫です。」
「うん、気を付けて。」
歩いて行く後姿を見送る。
大丈夫だ、全然普通に歩けてるし。
携帯を見る。一時間半くらいは経ったらしい。
相変わらず真冬からの連絡はない。
リン、決めたのか?
今日参加するだろうか?
お礼の報告があるだろう、その辺は義理堅く礼儀正しくもありで。
通りかかった店員さんにお水を頼んだ。
しばらくして帰って来た安達さん。
「大丈夫?お水持ってきてもらったよ。」
グラス二人分持ってきてくれた店員さん。
一つを差し出した。
「・・・・ありがとうございます。」
すっかり酔いが醒めたように最初の頃の遠慮がちな感じが出て来てる。
静かにお水を飲んでる彼女。
「どうかしたの?」
「いえ、どうも・・・・。」
「そう?また雰囲気が変わったから。さっきまでの元気がなくなったけど。そろそろ帰る?」
「はい。すみませんでした、長々とお付き合いいただいて。」
「うん、大丈夫だよ。楽しかったから。」
店員さんにお会計を頼んだ。
荷物を体の横に乗せてぼんやりしてる彼女。
まだまだその胸の内を推し量ってあげるほどには仲良くないし、言ってもらわないと分からない。
会計を済ませてお店の外に出る。
ふらりと歩き出したらいきなり手をつながれてびっくりした。
「うわあぁ。」思わず声も出た。
そんな自分の反応にビックリして離れたのは彼女で。
「すみません。あの・・・・。」
立ち止まった彼女。
ただそこは他のお店を見てる人の邪魔になる場所だったから。
「どうしたの?ちょっとあそこに行こうか?」
トイレもあるらしい、イスの方へ誘う。
女性のトイレ待ちだろう男の人が数人いた。
「大丈夫?本当に心配だよ。仕事の愚痴も全然言ってないけど、いいよ、何でも吐き出しても。僕も新人の頃なんて散々香川さんに愚痴って聞いてもらってたから、頼りないかもしれないけど、何かあるなら力になるし。」
「いえ・・・・。それは・・・・。」
「セクハラとか、言いづらい事も我慢しないでね。香川さんに言って注意してもらうくらいは出来るよ。」
「いえ、本当に仕事はいろいろと面倒見てもらえてます。全然大丈夫です。」
しっかりと目を見てそう言われたから、安心した。
「そう。わかった。」
「歩人さん、連絡先を教えてもらってもいいですか?」
「ああ、そうだね。」
携帯を取り出して交換する。
「今度出社する予定はいつですか?」
「どうだろう。10日以内に今の仕事をあげればその時にって感じかな。」
「曜日関係なく出社してるんですか?」
「ううん、今日はたまたまだよ。普通はちゃんと上司がいる曜日と時間に来てるよ。」
「じゃあ、その時には会えますね。」
「まあ、そうだね。多分。」
見つめ合ったままの会話は続く。
「忙しいですか?」
「ううん、今の二つはあと少し。そろそろ新しい仕事が入るかなってところ。」
「じゃあ、次の週末は?」
「特別には・・・・。」
「外に出るのは嫌ですか?」
「ううん。」
「一緒に出かけてもらえませんか?」
「いいよ。何かあるの?」
「さっき約束してもらえたつもりでした。時間をくださいって。一日丸ごと私に時間をください。」
「ああ・・・もちろん、いいよ。」
「もしお仕事があって無理そうなら、またの週末でも大丈夫です。約束が出来たと思うだけでうれしいです。次の土曜日か、日曜日に。」
「いいよ。喜んで。」
本当にそう思った。さっきもそう思ったから。当日もそう思うと思う。
ふ~っと聞こえるくらいの息をして下を向いた彼女。
見えるのはそう高さの違わない頭のつむじの部分。
なかなか顔が上がらないから手を置いて撫でてみた。
二回くらいさらさらと。
落ち込んだ真冬によくしていた。
頑張ったと自慢したり、疲れたとうなだれた時に。
あんな感じだ。
それでも顔は上がらなかった。
「安達さん、どうかした?」
「いいえ。時々は連絡していいですか?」
「いいよ。そんなに気を遣わなくても大丈夫だよ。少ない会社の仲間だし、何かあったらいつでも連絡して。」
「・・・・そうですか。」
「うん。」
「分かりました。じゃあ、帰りましょうか。」
そう言って階段を降り始めた。
「階段でいいの?」
「はい。」
少しヒールがあるのに。かつかつと音を鳴らしながら降りていくのを上からついて行くように追う。ここは六階だけど・・・・・。
難しいなあ。
やっぱり性別の差はあるんだろうなあ。
真冬がリンの気持ちに鈍感ったように、自分も掴みかねる感じだ。
会社では年が一番近い自分と彼女。
そんなに気を遣われるキャラでもないのに。
ちょっと人間関係サボり過ぎかもしれない。
本当に自宅に引きこもり過ぎだ。
いい機会だから時々出勤してみようかと思わないでもないけど、やはり効率が悪い事は無駄なことだと思い直す。
本当に階段を下まで降りた。そのまま隣にいて、挨拶をして駅で別れた。
彼女とは路線も方向も違う。
手を振って見送って自分の部屋に帰る。
凄い時間、外にいた。本当に珍しいくらいに、久しぶりだった。
そんな日曜日だった。
帰って早速いつもの場に顔を出した。
ほぼメンバーは集まってるのに、リンはやはりいない。
いつもなら始まる時間、さすがに話題には上らず、そろそろと言い出した一人のセリフにのってスタートした。
一回りしてお終いになった。
まだみんなリンを待つだろうか?
『ねえ、皆さん、リンさんが悩んでたように男女の差ってなかなか深い溝だと思いますか?』
『どうしたの?悩み事?』
『えっと、ちょっとだけ、本当に男の子の考えてることも分からないなあって思って。』
『男は単純です。女の子の方が複雑です。機嫌がころころ変わるし、細かい所にこだわるとなかなかそこを離れないし。会話が自由に行きつ戻りつしてしまうし。』
『確かにそうですね。』
そうかも、そうだったかも・・。
『悩み事ならまたみんなで解決しよう!』
すっかりリンの力になったと自信をつけたらしいメンバーがいる。
『はい。でも、もう少し、焦点が絞れたら相談にのってください。』
『いいよ~。』
『じゃあ、頼りにしてますね。』
明らかに喜んで相手をしてくれそうな仲間たち。
相手がギャルだと思ってるんだろうから。
リンの時と違って、男の気持ちを教えることは簡単だと思ってるだろう。
なんでここでそんな暴露をしたのか自分でも悩むところだ。
そんな事を話してたら、リンが入ってきた。
お礼と報告は律儀に。
『皆さんのおかげで少し先に進めました。長い時間一緒にいて、いろいろと話も出来ました。ありがとうございました。また何かに悩んだら相談にのってください。』
『おめでとう。』
『いい結果だったんだ。良かった。』
『安心した。』
そんな返事が続く。
『長い時間。』というのがどのくらいなのか非常に気になるけど。
携帯にメッセージが届いた。
真冬じゃなくて安達さんだった。
『歩人さん、今日はごちそうさまでした。私は次の週末をすごく楽しみにしてます。また近くなったら連絡いたします。歩人さんもどちらがいいか考えておいてもらえますか?お願いしたので私が合わせます。よろしくお願いします。』
『お疲れ様。僕はどちらでもいいです。ゆっくりするなら土曜日の方が気が楽?安達さんの都合に僕も合わせられるよ。僕も楽しみにしてます。またね。』
三度読み返して送信した。
久しぶりの遠出を楽しみにしてると言う風にもとれるように、なんとなくぼんやりさせたつもりだけど。
憧れてたと言われてもゲームの強さにだろうし。
実際のイメージも二次元のままだろう。
そんなに万能でもないし、強くもないし、リーダーシップもないのに。
あくまでも得意なのは個人プレーだと思う。
そこがこの分野においてちょっとだけ得意なだけだ。
実際に自分を褒めてくれる人に会うのは、初めてだと思う。
仕事相手になんとなく名前を確認されたこともあるけど、はっきりと聞かれたことはなかった。
それも一応ルールなんだと思う。
だからこんなにストレートに言われたのもびっくりだ。
内緒にしてくれるという彼女の言葉は信じたいと思う。
その後、行きたいところを考えてくれたらしい。
ああ・・・そこか・・・・・。
ネズミの遊園地。土曜日、予報では晴れ。決定!
憧れてると言ってくれた後輩。誘われた週末の一日。
お酒は強いと言った通りおいしく飲んでるみたいだった。
さっきまでの緊張とか遠慮が取れて来たみたいで、自分のことをいろいろと話し始めてた。
途中自分のことも登場してきて、時々聞かれることもあって。
「本当に大好きだったんです。いつか会いたくて、どんな人だろうって思ってました。」
憧れてたと言われていたのに、それが大好きになってる。
そんな小さなことも聞き逃せない自分。
こんな可愛い子なら周りの男も落ち着かないだろう。
大学の時はもっと楽な恰好をしてたんだろうけど、お化粧も綺麗にしてるし、アクセサリーもつけて服装もおしゃれだ。
真冬より女子力が高いのは間違いない。
自分の比較基準が真冬だから、どうにもこの先にも褒める子にしか会えないかも。
真冬以下は相当なズボラな子だろう。
それとも部屋では違うんだろうか?
もっと仲良くなると違うところも見えては来るんだろう。
「歩人さんは?」
「ん?」
「歩人さん、ちゃんと聞いてくれてますか?それとも大切な幼なじみの子が気になるんですか?」
なんでさっき話しただけの真冬のことを言われるんだか、意外に鋭いと言うべきかもしれないけど。
「なんだかすごく楽しそうだから、見てて可愛いなあって思ってた。ごめん、ちょっとだけぼうっとしてたんだ。」
「もう、そうやって誤魔化すんですか?」
真っ赤になりながら怒る。
何だかよく二次元にもある女の子の反応だ。
ああ、新鮮新鮮。
思わず笑顔になってしまう。
「ごめんね、何?」
「だから、歩人さんはデートはどこに行ってたんですかって聞いたんです。」
そんな話だったかな?
確かに好きな場所の話をしてたのは聞いた気がするけど。
「特にないよ。安達さんは?今ならどこに行きたいの?」
「また誤魔化しましたね、歩人さん。じゃあ、私が行きたいところを言ったら一緒に行ってくれるんですか?」
「安達さんに誘われたら断る男はいないよ。」
「歩人さんも断りませんか?」
「そうだね。」
「じゃあ、一緒に行ってください。責任もって一日付き合ってください。」
「何の責任?」
「聞いたんだから・・・・・。私のイメージの休日に・・・・。」
「そう。どこに行くイメージしたの?」
そう言ったら、表情が消えてしばらく黙られた。
「いいよ、無理して想像しなくても。その内、そんな機会があったらでいいから。」
今日みたいに仕事の後に飲みに行くのとは違うだろうから。
自分でもあんまり想像できない。
想像しようとしたら、つい先日思い出した真冬との水族館に行った小さなころの思い出が出てきた。
よく考えなくても、あんまり他の人との思い出がない。
ああ、ゲームの中では壁を抜け、空を飛び、迷路も抜け出して、国を超え、時代も次元も越えられるのに。
リアルの思い出が少ないのだ。
このまま年をとったら本当に足元すら知らずに終わる人生かも。
ほとんど自分の家から出ない人生。それもぞっとしてきた。
我に返って彼女を見たらこっちを見ていた。
あ、また何か聞き逃したかな?
目が怖い気がする・・・。
「じゃあ、一日下さい。歩人さんの時間を私に下さい。その日は私だけに下さい。」
「いいよ。仕事が問題なければいつでもいいよ。」
じっと見られた。何だろう。さっきまで楽しそうだったのに。
「何だか分かってないみたいです。」
「分かってるよ。一緒に出掛けるんだよね。行きたいところに付き合うよ。」
どこに連れて行かれるんだろうか?
まあまあ常識範囲内でお願いしたい。
「少し飲み過ぎました、お手洗いに行ってきます。」
「大丈夫?一緒に行こうか?」
少し腰を上げたけど、普通にすくっと立ち上がってる。
「大丈夫です。」
「うん、気を付けて。」
歩いて行く後姿を見送る。
大丈夫だ、全然普通に歩けてるし。
携帯を見る。一時間半くらいは経ったらしい。
相変わらず真冬からの連絡はない。
リン、決めたのか?
今日参加するだろうか?
お礼の報告があるだろう、その辺は義理堅く礼儀正しくもありで。
通りかかった店員さんにお水を頼んだ。
しばらくして帰って来た安達さん。
「大丈夫?お水持ってきてもらったよ。」
グラス二人分持ってきてくれた店員さん。
一つを差し出した。
「・・・・ありがとうございます。」
すっかり酔いが醒めたように最初の頃の遠慮がちな感じが出て来てる。
静かにお水を飲んでる彼女。
「どうかしたの?」
「いえ、どうも・・・・。」
「そう?また雰囲気が変わったから。さっきまでの元気がなくなったけど。そろそろ帰る?」
「はい。すみませんでした、長々とお付き合いいただいて。」
「うん、大丈夫だよ。楽しかったから。」
店員さんにお会計を頼んだ。
荷物を体の横に乗せてぼんやりしてる彼女。
まだまだその胸の内を推し量ってあげるほどには仲良くないし、言ってもらわないと分からない。
会計を済ませてお店の外に出る。
ふらりと歩き出したらいきなり手をつながれてびっくりした。
「うわあぁ。」思わず声も出た。
そんな自分の反応にビックリして離れたのは彼女で。
「すみません。あの・・・・。」
立ち止まった彼女。
ただそこは他のお店を見てる人の邪魔になる場所だったから。
「どうしたの?ちょっとあそこに行こうか?」
トイレもあるらしい、イスの方へ誘う。
女性のトイレ待ちだろう男の人が数人いた。
「大丈夫?本当に心配だよ。仕事の愚痴も全然言ってないけど、いいよ、何でも吐き出しても。僕も新人の頃なんて散々香川さんに愚痴って聞いてもらってたから、頼りないかもしれないけど、何かあるなら力になるし。」
「いえ・・・・。それは・・・・。」
「セクハラとか、言いづらい事も我慢しないでね。香川さんに言って注意してもらうくらいは出来るよ。」
「いえ、本当に仕事はいろいろと面倒見てもらえてます。全然大丈夫です。」
しっかりと目を見てそう言われたから、安心した。
「そう。わかった。」
「歩人さん、連絡先を教えてもらってもいいですか?」
「ああ、そうだね。」
携帯を取り出して交換する。
「今度出社する予定はいつですか?」
「どうだろう。10日以内に今の仕事をあげればその時にって感じかな。」
「曜日関係なく出社してるんですか?」
「ううん、今日はたまたまだよ。普通はちゃんと上司がいる曜日と時間に来てるよ。」
「じゃあ、その時には会えますね。」
「まあ、そうだね。多分。」
見つめ合ったままの会話は続く。
「忙しいですか?」
「ううん、今の二つはあと少し。そろそろ新しい仕事が入るかなってところ。」
「じゃあ、次の週末は?」
「特別には・・・・。」
「外に出るのは嫌ですか?」
「ううん。」
「一緒に出かけてもらえませんか?」
「いいよ。何かあるの?」
「さっき約束してもらえたつもりでした。時間をくださいって。一日丸ごと私に時間をください。」
「ああ・・・もちろん、いいよ。」
「もしお仕事があって無理そうなら、またの週末でも大丈夫です。約束が出来たと思うだけでうれしいです。次の土曜日か、日曜日に。」
「いいよ。喜んで。」
本当にそう思った。さっきもそう思ったから。当日もそう思うと思う。
ふ~っと聞こえるくらいの息をして下を向いた彼女。
見えるのはそう高さの違わない頭のつむじの部分。
なかなか顔が上がらないから手を置いて撫でてみた。
二回くらいさらさらと。
落ち込んだ真冬によくしていた。
頑張ったと自慢したり、疲れたとうなだれた時に。
あんな感じだ。
それでも顔は上がらなかった。
「安達さん、どうかした?」
「いいえ。時々は連絡していいですか?」
「いいよ。そんなに気を遣わなくても大丈夫だよ。少ない会社の仲間だし、何かあったらいつでも連絡して。」
「・・・・そうですか。」
「うん。」
「分かりました。じゃあ、帰りましょうか。」
そう言って階段を降り始めた。
「階段でいいの?」
「はい。」
少しヒールがあるのに。かつかつと音を鳴らしながら降りていくのを上からついて行くように追う。ここは六階だけど・・・・・。
難しいなあ。
やっぱり性別の差はあるんだろうなあ。
真冬がリンの気持ちに鈍感ったように、自分も掴みかねる感じだ。
会社では年が一番近い自分と彼女。
そんなに気を遣われるキャラでもないのに。
ちょっと人間関係サボり過ぎかもしれない。
本当に自宅に引きこもり過ぎだ。
いい機会だから時々出勤してみようかと思わないでもないけど、やはり効率が悪い事は無駄なことだと思い直す。
本当に階段を下まで降りた。そのまま隣にいて、挨拶をして駅で別れた。
彼女とは路線も方向も違う。
手を振って見送って自分の部屋に帰る。
凄い時間、外にいた。本当に珍しいくらいに、久しぶりだった。
そんな日曜日だった。
帰って早速いつもの場に顔を出した。
ほぼメンバーは集まってるのに、リンはやはりいない。
いつもなら始まる時間、さすがに話題には上らず、そろそろと言い出した一人のセリフにのってスタートした。
一回りしてお終いになった。
まだみんなリンを待つだろうか?
『ねえ、皆さん、リンさんが悩んでたように男女の差ってなかなか深い溝だと思いますか?』
『どうしたの?悩み事?』
『えっと、ちょっとだけ、本当に男の子の考えてることも分からないなあって思って。』
『男は単純です。女の子の方が複雑です。機嫌がころころ変わるし、細かい所にこだわるとなかなかそこを離れないし。会話が自由に行きつ戻りつしてしまうし。』
『確かにそうですね。』
そうかも、そうだったかも・・。
『悩み事ならまたみんなで解決しよう!』
すっかりリンの力になったと自信をつけたらしいメンバーがいる。
『はい。でも、もう少し、焦点が絞れたら相談にのってください。』
『いいよ~。』
『じゃあ、頼りにしてますね。』
明らかに喜んで相手をしてくれそうな仲間たち。
相手がギャルだと思ってるんだろうから。
リンの時と違って、男の気持ちを教えることは簡単だと思ってるだろう。
なんでここでそんな暴露をしたのか自分でも悩むところだ。
そんな事を話してたら、リンが入ってきた。
お礼と報告は律儀に。
『皆さんのおかげで少し先に進めました。長い時間一緒にいて、いろいろと話も出来ました。ありがとうございました。また何かに悩んだら相談にのってください。』
『おめでとう。』
『いい結果だったんだ。良かった。』
『安心した。』
そんな返事が続く。
『長い時間。』というのがどのくらいなのか非常に気になるけど。
携帯にメッセージが届いた。
真冬じゃなくて安達さんだった。
『歩人さん、今日はごちそうさまでした。私は次の週末をすごく楽しみにしてます。また近くなったら連絡いたします。歩人さんもどちらがいいか考えておいてもらえますか?お願いしたので私が合わせます。よろしくお願いします。』
『お疲れ様。僕はどちらでもいいです。ゆっくりするなら土曜日の方が気が楽?安達さんの都合に僕も合わせられるよ。僕も楽しみにしてます。またね。』
三度読み返して送信した。
久しぶりの遠出を楽しみにしてると言う風にもとれるように、なんとなくぼんやりさせたつもりだけど。
憧れてたと言われてもゲームの強さにだろうし。
実際のイメージも二次元のままだろう。
そんなに万能でもないし、強くもないし、リーダーシップもないのに。
あくまでも得意なのは個人プレーだと思う。
そこがこの分野においてちょっとだけ得意なだけだ。
実際に自分を褒めてくれる人に会うのは、初めてだと思う。
仕事相手になんとなく名前を確認されたこともあるけど、はっきりと聞かれたことはなかった。
それも一応ルールなんだと思う。
だからこんなにストレートに言われたのもびっくりだ。
内緒にしてくれるという彼女の言葉は信じたいと思う。
その後、行きたいところを考えてくれたらしい。
ああ・・・そこか・・・・・。
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