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5 今日はどんな日?寝坊したから、テレビは遠いから分からない。①

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とても暖かいものに包まれている安心感と幸福感。
触れてるものが柔らかくて、もっと顔を近づける。
もぞもぞと動いて固いものにあたる。何だろう?ほっぺたにあたる壁。
ぼんやりと意識が覚醒してきて眠りが終わる。
広い壁。体温を伴ってそびえる・・・・・、何?びっくりして反射的に離れる。

「う~ん。」

頭のてっぺんがゴンと何かにぶつかった気もする。声まで聞こえた気もする。
自分の頭のてっぺんも痛い、でも・・・ちょっと待て。
・・・・待って、もう一度目を閉じて考える。
腰にあった暖かいものが力を持ちグッと一気に引き寄せられた。

「おはよう、唯。気持ちいい。おいで、おいで。」

びっくりして一人バタバタとする。パニックが脳細胞まで完全に覚醒させる。
なかなか腰に加わった力が弱まらなくて、壁に再び激突。

「暴れないで、唯。ちょっと静かにして。大丈夫だから。」

茅野?・・・今喋ったのは茅野?
落ち着けと言われてるみたいに背中を撫でられて。
少しずつ落ち着いてそのあと、ひとり目を閉じて記憶を探る旅に出た。

まず、ここは茅野の部屋、正確にはベッドの上らしい。
横にいるのは知ってる人、茅野だ。何故か体がくっついてるが服は着ているからいい。
昨日確かにここにきて服を借りた。脱いではいない。
さりげなく自分の体の感覚を足先まで伸ばす。ちゃんと着てる。違和感なし。
薄目を開けて確認、相手も着てる。よし。
シャワーは浴びた。顔も洗い歯も磨いた。お茶も飲んだ。ついでにキッチンで発見したものもあった。・・・・ソファに座り茅野にもたれて、目を閉じて、ウトウトして・・・・記憶がない。一切の記憶がない。

「唯、よく寝てたね。でももう少し寝ていたい。」

お前は勝手に寝てろ~、仕事仕事。遅刻する~。

「仕事・・・行きたい。」

「唯、今日は祝日。俺たちは三連休。」

そうか・・・・ふっと体の力が抜ける。そうそう、だから飲んだ。
ごそごそと茅野がこっちに寄ってくる。暴れた時に離れた距離を詰められる。
かすかに触れた足の指先をゆっくり絡ませてくる。
何してる・・・・。ちょっと・・・・・。
再び体が緊張するのを茅野が感じたらしい。

「大丈夫、そんなに怯えなくても、嫌がることは何もしてない、しない。」

だからもう少しこのままでいさせてとつぶやいた声は耳の近くで聞こえた。
どんな顔してそんなこと言うの?声も喋り方も力がない、びっくりするほど柔らかい感じで違和感があるような、ないような。

やっぱり大あり。

体の力を抜けないまま背中を撫でられるのを感じる。
ポンポンとリズムよくあやされるようにされると緊張してるのもさほど続かず。
自然と自分から胸におでこを寄せた。

「唯~かわいいよ~。食べたいよ~、ダメなんだよねえ~。我慢、我慢。」

頭を撫でられる。
気持ちよくて思わず自分でも茅野の腰に手を回してしまった。
瞬間グッと抱き寄せられた。

「大好きだよ、俺なら毎日顔を見に行けるよ、話もできるし、食事もできるし、デートも出来るし、もっといろんなことも。ねえ、俺じゃダメなの?唯。考えて、感じて。」

そのまま無言でいるとふっと力を抜かれた。

「急いでもしょうがない。分かってるけどこの状態じゃ期待しちゃう。昨日も全然話できなかった。気がついたら寝てて、お姫様抱っこしてここまで運んできたんだから。」

うわっ、重かっただろうに。恥ずかしい。

「ちゃんとソファで寝るつもりだったんだけど、我慢できなかった。キスはたくさんしたけど他は一切触ってないから。」

腰に手が回って目が覚めましたがそれはどういうことでしょうか?
胸とかその下とかの事?当たり前でしょう。さすがに起きるって。そこまで無防備に寝てない。

ん、待てよ。キスはたくさんしたって・・・勝手に?しかも私起きなかったの?
聞きたいけど聞けない。かなり恥ずかしい。
がっくりと反省したらおでこをさらにくっつけるようになって、勘違いされてしまい腰の手にぎゅっと力が入った。
相変わらず足先は触れ合って包み込まれるようにサワサワされている。

いつまで二人で寝てるふりするの?
とっくに目が覚めてるのに。
いったい何時なんだろう?
寝室は遮光カーテンで外は見えない。でも暗くない、すっかり朝は来ている。
なんで私は離れないの?腕を腰に回したりして。
おでこは今も硬い胸にぴったりくっついてる。

茅野・・・・。茅野が好きなの?
でもこのままでいても嫌じゃない。
恥ずかしくて顔も上げられないけど、髪もぼさぼさ、よだれは・・・、いびきとか・・・今更か。
寝起きすっぴんの顔、さすがに明るい部屋の中には出て行きたくない。見せられない。
顔をいやいやするように振ったら怒られた。

「唯、何してるの。お願いだから大人しくして。・・・知らないよ。責任持てない。」

最後はまた耳元に聞こえた。それは止めてください。ゾクッとする。
ピタリと動きを止めた。
茅野の足が私の足を絡めるように巻きついてきた。

「唯、ダメ?だよね。分かってる分かってる。でも・・・・。」

と言いながら手の平が顔に。顎をあげられて目を開けてしまう。
暗くてよかった。目の光しか見えない。・・・でも目が慣れてくるとうっすら表情がわかる。
それでもすっぴんはまだ隠せてるくらい。
良く考えたら昨日の夜披露してたんだった。
まあ、いいか。今更だった。

茅野が手のひらで髪の毛を払いのけて顔がすっきりする。
茅野の顔も良く見える。
あんまり見たことない顔、見てるつもりでもなんとなくしか見てない。
暗闇なのにすごくよくわかる。優しい目とちょっと困った顔。
そのまま先に目を閉じた。だからキスをされた。
優しく何度も。
私も手を首に回して欲しがる。
どうしよう。止められない、私が。
茅野が止めてくれないと。
どうしよう。なんだかどうでも良くなってくる。

昨日こっそりあれを買った茅野に怯えたけど、それは自分が知らない男性の欲望がストレートに自分に向けられたから。今は自分も自分の気持ちを止められないでいる。
キスが激しくなり合間の息はかなり切羽つまったものに聞こえる。
茅野の頬に手をやって自分からキスをした。
その内キスが耳から顎から首へ。
キスをしてるだけなのに体が動いて大きなTシャツがめくれる。
その中に手を入れられて体が大きく震える。

「唯、いいの?」

分からない。いいの自分?
答える代わりに自分のデコルテに張り付く彼の頭に手をやる。
茅野がTシャツの上から胸に顔をこすりつけるようしてくる。
頬でゆすられる胸が気持ちいい。
つい体を揺らして大きな声を出してしまって自分でもびっくりする。
恥ずかしい。
茅野の頭を胸に抱き寄せる。

「唯、ごめん。やっぱり、ちゃんと話がしたい。このまま抱きあうのは待って。」

ひんやりとした冷気が体を抜けて自分の体が固まるのがわかる。

「唯、大好きだから。ねえ、唯からもちゃんと返事をもらいたい。ちゃんと言葉で返事をもらってから先に進みたい。ごめん。」

最初のようにぎゅっと抱きしめられる。痛いほどにぎゅっと。
苦しい、自分の気持ちのやり場が分からなくて。
確かに私は何も言ってない。
茅野がいきなり自分からすり寄った私に戸惑うのも無理はない。
でもいつも自信満々だったから。俺にしろってあんなに言ってたのに。
私の言葉なんてどうでもいいかと思ってたけど。
体では感じてる。朝目が覚めるより先、きっと昨日の夜から。
一緒にいると心地よくて安心できて。だけど言葉にするとどうなんだろう?
そんな事じゃなくて好きか嫌いか、男としてどう思ってるか。
なし崩しに好きになるよりもっと私が自覚してから愛し合いたいと。

力を抜かれた。
背中の捲れた裾を直してくれながらまた背中を撫でてくれる。
今でもいいのに、その手が欲しい。でも言葉にはできない。まだ。
気持ちは心にあるの?頭にあるの?体にあるの?
感じろって言ったのに、体じゃなくて心だった?
考えろとも言われた。私には難しい。
もっと恋愛上手になれなかったのかな。1つの経験も満足にできてないから無理か。
私には無理。

「茅野・・・私には分からないことが多すぎて。ね、教えて。」

「ゆっくりでいい、ごめんちょっと寝起きで我慢できなかった。パニックになった唯が可愛すぎて。」

「先に起きてたの?」

「ううん、手の中で暴れるウナギをつかんでる映像が出てきて目が覚めたら唯が暴れてた。びっくりした~、ウナギが大きくて。ごめんね、せめて人魚姫とかだったらロマンチックだったのにね、ウナギって。」

そういって面白そうに笑う。
本当か?冗談だろう。

「人魚姫なら暴れないと思う。」

「確かにね。貝殻のブラジャーか、さすがに持ってないな。」

「あん?」上を見て目が合った。

「おはよう、唯。情熱的なキスをありがとう。」

「なっ。そっちがした。」

「だって続きをどうぞって目を閉じたのは唯だよ。」

「続きって何?」

「だから昨日の夜のこと。お姫様抱っこもちょっと失敗して布団に落っことしてしまいました。お尻に痣とか出来なかったかな?」

とか言いながらおしりを触る。

「ぎゃあ。」

もう言ってることとやってることが違う。

「で、何しても起きないから茨の眠り姫ごっこでキスした。何度も。顔いっぱい。」

「私全然起きなかったの?グーで殴りつけたりもしなかったの?」

「うん、まったくの無反応。布団をかけるのにゴロゴロと転がした時だけ煩わしそうに唸り声をあげた。」

唸り声って、なんだか聞くだけでも色気ないのがわかる。

「唯は眠りが深いほうなの?」

首を振る。ちゃんと震度3くらいの地震ではっと目が覚める。目覚ましも三回位で止められるからましな方よね?

「そんなに安心して寝たの?オオカミの雄たけびが聞こえなかった?」

「細胞レベルで無視したみたい。」

「なのにさっきはあんなに大胆になるんだね。」

急に話を戻さないで。
暗闇でも顏がほてって赤くなってるのがばれちゃう。
胸をこぶしで殴ってやった。

「痛い。もう唯ほど巨乳じゃないんだから・・・・さらっと触ったけど。あれ?背中だったかな?」

「ひどい、この状態でどうしてそんなに揶揄うの?」

「だって本当にうれしかったんだ。ちょっとだけ希望が見えて。ね、あとで話をしよう。昨日話したかったんだけど聞き手が誰かに一服盛られたみたいだから。」

うん、とうなずく。なんだかさっきから甘い、言葉遣いも、内容もさることながら、きっと表情も怖いなんて思えない甘い顔してるんじゃないの?見たこともない顔を。

「いつもとは違うキャラクターになってる、気持ち悪い。」

「唯、怖いっていうからめちゃくちゃ甘やかしてるのに、気持ち悪いって酷いね。」

何時だろうとつぶやきながら手を伸ばす。
茅野がベッドの上に手を伸ばして時計を探ったんだと思う。
時計の代わりに軽めの箱が私の頭に落ちてきて茅野が慌てて拾ったのが分かった。
そこに置いてたの?気がつかないふりしてあげよう。

「今何時?」

「8時半。」

「起きる?」

「もう少しこのままでいい?」甘えるふりしてくっついた。

でも本当に暖かい。頭を撫でられて目を閉じてまた眠れそう。興奮した神経を鎮めながら。鎮まり過ぎたんだと思う。鎮静剤レベルに。だって・・・・。


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