小さな鈴を見つけた日 

羽月☆

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29 味方の見方は正しくレポートされる

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ご機嫌だ、隠しようもなくご機嫌ですが。
ただあまり表情に出ないのだ。
まあ、少しくらい出たとしても、周りは男だらけ、皆パソコンに夢中。
そんな人の表情なんて気にする人もいないはずなのだ。

ただ、珍しく、昼に呼び止められた。

誰だ?

ああ・・・・たしかいたいた、同期の・・・誰だったか。

「七尾君、ビックリした。どうしたのって、失礼?」

「ああ、別に。」

この返事は万能だ。
話は続かないが。

シーンとなったその場。
そりゃそうだ。何か用があるのだろうか?

「ねえ、今日・・・じゃなくてもいいけど、飲みに行かない?」

何故?

「えっと別に、行く理由がないんだけど。誰が行くの?あんまり参加する方じゃないし。」

「ああ・・・・えっと七尾君がいい日にメンバー揃える。」

何と、まあ、見切り発車な誘いか?

「うん、あんまり気がのらないかな。わりと自宅ですることがあって、夜も結構忙しくしてるんだ。」


それは嘘ではない。
先週あたりから、本当に忙しくなってきたから。
その少し前だって一所懸命忙しくしてた。
ただただ彼女に向かっていたんだけど。


だから無理。

そう言ったつもりなのに。


「そうか、じゃあ、また来週誘う。行こうね。」

そう言って目の前からいなくなった。

結局誰だったか名前が浮かんでこない。
隣にいた女性は一言も口を開かず。
じっと見られてた気がする。

廊下の先に集団がいた。見るとササっと動いて歩いて行った。
何だか煩わしいぞ。


とりあえず来週も同じ言い訳をすれば、もう誘われまい。




まだまだ月曜日、週末が恋しい。


午後、ぼんやりとしそうな自分の手の甲をつねりながら仕事をする。
眠い。



ちょっとだけ目を閉じてしまうと昨日の夜の事を勝手に脳が再現する。
そこに自分も映像で見える。
一体、誰の視点だ・・・・・・?


昨日は夕方に濃厚な時間を過ごして、疲れ果てて寝てしまった.
時間は短時間だったけど、満足して深く眠れたらしい。



ゴミを捨てに行った時、電線に止まっていたカラス数羽が自分に向かってくる羽音の気配を感じて、ビックリして焦ってしまった・・・・。


そんな夢を見ながら目が覚めた。
どうしてそんな夢を見たのかと思ったら、隣でジタバタとしてるリンがいた。

寝坊したと思ったのかもしれない。

時計を持っていた。

「何時?」

「19時です。」

ホッと息をつき隣に倒れこんできたリン。
体を抱きしめてその匂いを確かめた。

慣れ親しんた匂いがする。
自分の部屋のシャンプーでも覆えない、彼女の匂い。

ああ、忘れてた。
お腹が空いたと思って、思い出した。
デザートがあったんだ。
さすがに起きた方がいいだろう。


「甘いデザート食べる?」

交代でシャワーを浴びて起きだす。
すっかり自宅での部屋着を選んで着た彼女。
これであと数時間は一緒にいれるだろう。

一緒にデザートを食べて、ソファでくっついて。

ダラダラと時間を過ごして送って行った。
近くて良かった。
本当にそう思う。

彼女が部屋まで戻るのを確かめて車を切りかえして部屋に戻った。

洗濯をして、寝た。


はしゃぎ過ぎたかも。
子どもの遊園地の引率は乗り物に乗せた後と食べ物を与えてる間は気が抜けるから。
でも彼女相手だと忙しい。
隙を見て揶揄って、ふと時間が止まったら褒めて、照れたら手を出して・・・・・。
だから、本当に、いろいろと、忙しいのだ。

今も幸せな疲労感がうっすら体に残る。


社内で彼女に会うことも少ない。

仕事の合間にも時々ぼんやりして午後を過ごす。
すっかり昼の誰かからの誘いのことは忘れていたのに。

「七尾先輩。」

すぐ近くで声がしてびっくりした。

「おおっ。」

知ってる、後輩の沙良ちゃんだ。ただ、上の名前は何だったか?

「あ、どうも。」

「なかなか強情で認めないけど、ハッピーならいいかなって思ってて。でも午後はすっかりアンハッピーになりました。これは警告文です。本当に世話が焼けます。じゃあ。」

彼女から手紙(レポート用紙で色気無し)をもらった。

四つ折りのそれを開く。

『事実のみ申し上げます。
ハッピー全開がアンハッピーになった原因はきっと次の出来事です。

昼の社食で話題に上ってたのは七尾先輩。
①急なイメチェン、理由は?
②それでも態度は変わらずクールと言われる。
③誰かが猛烈にアタックしてるらしい。
④周りも失笑するくらい、七尾さん本人もため息をついているらしい。

心配なネタはないと思うのに。
誰かが落ち込むには十分のネタだったらしいです。

リカバリーはお早めに。また痩せますよ。

                       沙良     』


は~。

確かにうっすらと事実だが、本当に心配するネタはないのに。
きっと後輩の彼女がそう言っても、笑顔は見れなかったんだろう。
世話の焼ける先輩だ。そして、マメに世話を焼く気の利いた後輩だ。


携帯を取り出す。

『リン、お疲れ。急だけど、今日も送るからちょっと時間もらえるかな?』
『仕事が終わったら連絡とり合おう。じゃあ、もう少し頑張ろうね。』

すぐ読んではくれたらしい。
今日中にちゃんとリカバリーする。


『分かりました。残業はほとんどないくらいの予定です。後ほど。』

返信を見て安心してポケットに携帯を落とす。


眠気も冷めた。
手の甲をつねることなく午後の仕事に集中した。
残業してる暇はない。
言った通り以上に、今日の夜は忙しくなった。

それでも残務に30分くらいかかった。
終業時間にそう送っていた。
先に終わる彼女に駅前のカフェで待ってもらうことにしていた。


パソコンを閉じたらササっと上着を手にして部屋を出た。

エレベーターの中で話しかけられた。

「七尾君、どうして急に変わったの?」

知ってる知ってる。名前は出てこないが。同期だ。

「なんで、皆理由を聞きたいの?特に女性は。気分転換だけど。」

「さすがにそれで納得する女子はいません。」

「そう?だってそうとしか言えない。」

「ねえ、いっそ新しい彼女の好みとか言ってた方がいろいろ楽かもよ。しつこいよ、彼女。」

「誰のこと?」

誰だ?リン・・・・?後輩、沙良ちゃん?まさかな。

「お昼誘われてたから。」

「ああ・・・・・・ああ・・・・・。」

つい二度も納得してしまった。

彼女の顔を見る。

「一応、良かれと思ってアドバイス。」

「ありがとう。そうする。」

「うん、変な事言ってしまったけど、まあ、・・・・本当のことだから。」

そんなに危険人物なのだろうか?
怖い。

ハッキリ言おう。
いろいろと誤解を、しかも勝手に積み重ねる彼女がいるから。
早いうちに心配の芽は無くそう。
もう、遅いくらいなのだ。


「リン。」小さく声をかけた。

ぼんやりしてて、びっくりしたようだ。
危うくコーヒーを倒しそうになった。
その中身はあんまり減ってない。
倒さなくて良かった。

隣に座り、手に取ったまま飲んで見たら・・・・・・。
ビックリするほど甘かった。
勝手にコーヒーだと思って飲んだから、こっちがびっくりだ。

「帰ろう。」

手を差し出したけど、とられなかったのでカップを持ってごみを捨てて、改札をくぐった。

電車に乗って、肩に手を置いて。
それでもなかなかこっちを見てくれない。

何か酷く裏切られたトラウマでもあるのだろうか?
つい、勘繰りたくなる。

部屋に着く前に食事をと言ったけど、あまり食べたそうでもなかった。

パン屋に寄って適当に冷凍もできるパンを買い、マドレーヌとプリンも買った。
実はすごく好きなのだ。ここのこの二つ。
冷凍パスタもあるから明太子のバゲットも買った。

部屋に入りソファに座り込んだままのリン。
結局ここまで一言もしゃべってないじゃないか。
しょうがないので後輩に渡された色気のない手紙を開いて見せる。

ぼんやりと手に取って読んだらしい。

「何か聞きたい?」

ようやく顔をあげて、自分を見てくれた。

「だから言ったのに・・・。絶対誰かが寄ってくるって、七尾さんが優しいのにも気が付くって。」

自分の悲しい予感が当たったことを自慢そうに言うが、顔が誇らし気じゃないよ。

「ねえ、彼女が書いてくれたことちゃんと読んだ?ほら、クールで嫌がってるみたいって書いてるでしょう?」

「ただ飲みに行こうと誘われたから、行きたい気もしないし、もともと行く方でもないし、夜は忙しいって断ったよ。」

それでも無言で。

「帰りのエレベーターで、しつこいからはっきり断った方がいいって、他の同期の子からアドバイスももらった。きっと前例があるんだよ。だからまた誘われたらちゃんと言う。彼女が待ってるし、知らない人と飲みに行くのは苦手だからもう誘わないでって言うから。」

頭を撫でてようやく顔を見せてくれた。

「分かってる。」

「でしょう。」

何がだかわからないけど、自分のことを信じてくれてはいると思う。


「ねえ、聴きにくいけど、前に二股とかかけられた?ひどく裏切られたとかあった?そんな辛い思いした?」

首を振る。

「じゃあ、今後もないよ、俺もリンが悲しむようなことはしないよ。信じていいから。」

小指を絡ませる。

「ご飯食べよう。後輩の世話焼きが激しいね。完全に立場が逆転してない?」

「最初から、そうだったから。」

「想像できるね。でも、助かった。」

頭を撫でて、プリンを冷蔵庫に入れる。

「どうする?明太バターのパンを買ったし、パスタをチンする?何食べる?」

適当に冷凍食品を取り上げて見せる。

「じゃあ、パスタ。」

バゲットをトーストして、パスタをレンジにかけて、皿に乗せる。

「美味しいご飯食べに行きたい。いつ行く?」

フォークを手にしたまま動きを止めてこっちを見る。

「何?」

「いつでもいい。」

今週は今のところ忙しくもなさそうだ。

「でもやっぱりお酒も飲みたいから、週末かな。金曜日に予約しとくから。」

「はい。お願いします。」

「何食べたい?」

「う~ん、何でも、美味しい物なら何でもいいです。」

「文句言わないでね。勝手に決めるよ。」

「言わないです。どこでもいいです。」

やっと笑顔になった。


まあ、解決したとしよう。
危ない危ない。

本当に世話の焼ける彼女だ。
鈴が拗ねた時の比じゃない無言劇だった。
大人が拗ねると本当に厄介だ。
予防と察知と即時対応、それしかない。

心当たりがなかったら本当にお手上げだろうなあ。
まあ、あんな心強い味方がいるからいいか。
喜んで聞き出してくれた上で報告してくれるだろう。

世話焼きの後輩、自分も頼りにしてます。


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