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24 明日の予定が、予想以上に早まっただけ
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『週に2、3回のご使用をお勧めします。』
そう書かれてる。
昨日もしたから今日は鼻と顎だけにした。
久しぶりに外を歩いた気がする。
天気も良かった。
楽しかった時間。
そう言ってもらえた。
お部屋にも行った。
沙良ちゃんにすごく綺麗なお部屋だよって言っても、多分信じないかも。
ビックリした。
私は自分の部屋を見回す。
そう、汚くはない。
でも七尾さんのように急に連れて来たり、泊めてあげれるかというといろいろと考えるところである。前日に掃除と点検をしてからの、どうぞ状態。
泊ってもいいと言われた。
誘われたと言うことだろう。
まさか『じゃあ僕はソファでいいから。』とかないよね。
さすがにね。
うなずいてたらどうなってたんだろう。
今頃一緒にいる。
パジャマを借りて、スッピンで。
もしくはもっと薄着で。
ちょっとだけ入ったあの部屋で。
・・・もっと想像しようとしたけど、恥ずかしくてやめた。
明日の事を考えよう。
洋服を準備したり、アクセサリーを考えたり。
今朝と同じことを繰り返す。
長いスカートを選んだ。
気にされたスカート丈。
二度も裾を直されて、隠された。
ソファに座るとめくれてしまうのは仕方がない。
いつもはストールを膝に乗せたりしてた。
久しぶりに着たから忘れてた。
長い上着とタイツで充分暖かったし。
パックをはがして、肌を整えて、水分をたくさん取って寝室に引っ込んだ。
まだ眠れそうにない。
本を広げてみるけど視線が上滑りして。
携帯を見つめる。
写真欲しかったなあ。
携帯を置いて本も置いて、電気を消した。
バラと紅茶と夕焼けと、七尾さん。
もう昔のボサボサが懐かしいくらいに、薄ぼんやりとしか思い出せない。
印象がすっかり塗り変えられた。
鈴ちゃん、驚くんだろうなあ。
何て言うんだろう?
携帯が震えた。
明るい画面を見ると七尾さんからだった。
『何してるの?』
『のんびりとゴロンとしてます。だから、何もしてないです。』
『ちょっと電話いい?』
『はい。』
すぐにかかってきた。
『リンちゃん、疲れた?』
「いいえ、大丈夫です。七尾さん何してるんですか?」
『ぼんやりと音楽聞いてる。」
確かに小さく音が聞こえる。
「七尾さんこそ、疲れました?」
『大丈夫。小学生の引率で遊園地にも付き合うくらいだから。』
「そうでしたね。」
『寂しい。』
そう聞こえたのが聞かれたのか、呟かれたのか分からない。
『リンちゃん、・・・・迎えに行ったら怒る?』
「明日ですか?」
『今。』
今?
『下にいるんだ。』
下?
車?
『部屋はどこか分からないから。』
『よく考えたら迎えには行けても、下まで。』
「本当にマンションの下にいるんですか?」
何で?
『いる。ぼんやりと音楽聞いてた。』
部屋って思うじゃない・・・・、普通。
戻ってきたの?それともずっといたの?
『やっぱり無理かな?』
深呼吸する。
「ちょっとだけ、待っててください。いろいろ準備します。」
『うん、待ってる。』
そう言ってすぐに電話は切られた。
しばらく真っ暗な部屋で明るい画面を見つめた。
でもすぐに画面も沈黙した。
そして我に返り、明かりをつけてバタバタとする。
バッグに服と化粧品と歯ブラシと、ドライヤーと、いろいろ詰め込んで。
自分の恰好を改めて見る。
楽な恰好だけど、まあ下まで下りる分にはいい。
ゴミ捨てもこのままいくし。
ストールを手にしてバッグに押し込んで。
服を決めておいて良かった。
アクセサリーもテーブルに出してたし、バッグに荷物も詰め直してた。
明日、全部身に着けておかしかったら取り替える予定だったけど。
それは無理みたい。
大丈夫だろうか?
しょうがない。
携帯と鍵を持って、振り返って忘れ物がないか考えて、出た。
部屋を出て下りていくと、真っ暗な中、車が一台あった。
確かに送ってもらった車だ。
近くに寄って窓をノックるする。
そんなに待たせた気はしなかったけど、ハンドルにうつ伏せでいた七尾さん。
反省してた?後悔してた?
顔をあげたその表情を見ると、ニヤニヤしてたということはないみたい。
反対側の助手席のドアを開けて乗り込んだ。
「お待たせしました。」
「ゴメンね。」
「いえ・・・・。」
七尾さんの恰好を見ると着替えはしてる。
一度は帰ったらしい。
「お風呂に入って、ぼんやりして。それからまた来たんだ。」
「車、動かしてもいい?」
「はい。安全運転でお願いします。」
「うん。もちろん。」
恰好だけは昔のパーカーとジーンズ、靴もちょっと薄汚れたスニーカーだった。
何だかそこは懐かしい気がした。
つい、笑顔になってしまった。
「怒ってない?」
「何か怒られる心当たりあるんですか?」
「リンちゃん、逆に怖い・・・・。正直にどうぞ。」
「とりあえず、部屋で。」
「はい。」
大人なのに。私より大人なのに。
鈴ちゃんにもこうやって怒られそう。
あと5年もすれば、女子は強いし、大人ぶるのも早いから。
その頃にはすっかりオジサンの七尾さんは、ひたすらいじめられてそう。
車が止まり荷物を持って下りた。
すぐに荷物を持たれて、階段で部屋に行く。
さすがに木のライトアップも終わってるみたいで。
廊下の明かりの中、影が見えるくらいだった。
たどり着いた部屋も何も変わりなく。
荷物を下ろしてソファに座った。
「着替えてきます。」
すっかり怒られるつもりなのか、丁寧語だった。
パジャマに着替えてきた七尾さん。
何故か、そこは素直にパジャマだった。
部屋着にもなる、なんてものじゃなく普通の柄物のパジャマ。
どこから出てきたの?
てっきりあのTシャツだと思ったのに。
いや、下に着てる可能性もある。
パーカーはさっきのと同じ物。
こっちは部屋着なのかも。
「何か飲む?」
「いいです。」
キッチンに行きかけた体をこっちに向けて戻ってくる。
「怒ってる?」
「怒ってないです。」
探る目をされる。
「怒ってないですって、ビックリしましたが。」
言い切らない内に抱きしめられて。
「寂しかったから。」
そう言われた。
「七尾さん、変身していった月曜日、みんなびっくりしました?」
「もちろん。おはようって言って席に座ったら、システムの皆が注目してた。」
「他には?何か言ってきた人いました?」
「他に?・・・別に。だって気が付かなかったんじゃないかな?あの後輩の子も名前を呼ばれた時に振り向いて目が
合ったから気が付いたみたい。遠目でもびっくりした顔だった。」
確かに、その後変な報告が来たんだから。
「ずっとずっと身だしなみに無頓着で、マニアックな感じで、不愛想で、人嫌いって思われてたんじゃないですか?」
「・・・・・・そこまで酷いのかな?」
「だって仕事中は無口だし、説明もあっさりしてるし、飲み会に至っては端の席で人を寄せ付けないオーラ出してるし。」
「まあ、そうだけど。」
「だから、あのボサボサの髪の中にこんなに優しい笑顔があるなんて誰も想像してないです。とっつきにくい印象も全くなくなって、きっと誰かが興味持ちます。ギャップがあるから余計に良く見えるかも。」
「もしかして、変な心配を勝手にしてる?」
また困った顔をされた。
「変でも、勝手でもないです。あり得て、予想されて、必然の心配です。」
「喜んでいい?」
本当に顔が笑ってる。
答えない。
「じゃあ、あっち行く?」
何で?
首を振って拒否。
「まさかソファで寝るの?」
私が?それも予想外。
「心配いらないって分かるから。だって、わざわざ迎えに行ったのに。帰りたいっていうから送ったのに、帰したくないのに送ったから、結局諦められなくてお酒飲むより迎えに行ったんだから。」
「あ、結局は部屋番号教えてもらえてないなあ。」
「携帯切られてたら切なかった。良かった、通じて。」
「本当に、一緒にいるだけでいいかも、嫌ならそれでも。だって、ソファは狭いからね。」
ベッドは譲ってもらえないらしい。
「七尾さんがソファでもいいのに。」
「嫌だ。」
即答だった。
そこは優しくないらしい。
「明日はお昼前に起きればいいから、ゆっくりできるね。」
「ねえ、今、勝手に寝たら・・・・知らないよ。」
「寝ません。」
顔をあげた。
「良かった。寝かせません!」
すっかり見慣れた笑顔だけど。
「なんで髪の毛伸ばしてたんですか?」
「何で理由がいるの?伸びるものだからしょうがないって。切ってないだけだし。」
「なんで顔を隠してたんですか?」
「そんなつもりはないけど隠れるんだからしょうがない。髪が長いんだから。」
「なんであんなに不愛想にふるまってたんですか?」
「普通だよ。知らない人とは話をしないだけだし。知ってる兵頭とは普通に話をしてるし。」
「何で・・・・・・、そんなに変身したんですか?」
「それを言うの?顔が見えないとって言い出したのはリンちゃんでしょう。」
「だってふり幅がいきなりすぎます。横と前の髪をちょっと切るだけでも良かったのに。恰好も変わるし、キャラクターも変わるし。」
「変わったのは髪型と服だけだよ。月曜日からまともに話をした人はほとんどいないし。仕事中は無口だったし。リンちゃんとだけ喋ってるだけで、会社では笑顔も振りまいてないし、おしゃべりもしてないし。あとは、鈴とか鈴の友達とかにはこんな感じだよ。」
そう言われても確かめようがない。
「もしかして前の方が良ければ、戻すのは簡単だよ。多分今ならみんな気の迷いだったんだなって思ってくれるはず。髪は伸びるのを待つしかないけど。」
そう言われて顔を見る。
どっちがいいんだろう。
どっちもどっち。どっちも七尾さん。
鈴ちゃんもそう思うだろうか?
「なんだか狼のおばあさんと赤ずきんみたいだね。または、小さい子供と大人みたいでもあるなあ。懐かしい『何で』攻撃。4、5歳だったかな?鈴の時は大変だったなあ。」
さっき私が思ったのに。
大人なのに子供みたいだって。
でも言わずにいたのに、今自分が言われた。
ちょっとカチンときた。
「あ、怒った?」
すぐにバレた。
それも悔しい。
「大人大人。大丈夫。子供のミニスカートは全然危険じゃないから。大人だよ。」
腰に当てられた手がパタパタと体を叩くように動く。
「大人だから困る。ソファで寝かせたくない。せめて一緒がいい。」
「ソファで寝るつもりは全くありません。」
「だよね、さっきも寝ません宣言してたしね。」
それは違う。
「じゃあ、もういい?」
さすがに体も心も態度も固いまま。
顔を見るともっと緊張してきた。
「まだ。」
「まあ、いいけど。明日眠いなんて言っても知らないよ。」
「絶対言わない。」
「絶対言わす。」
顔を見ると笑顔があって、うれしそうに笑ってるのが分かった。
ずるい。
本当にこんな笑顔を隠してたなんて。
「じゃあ、もういいです。」
「何が?」
「だからお部屋移動してもいいです。」
「お願いを聞いてあげる。」
手をつないで電気を消しながら寝室に入った。
頭の方に小さいランプがあって既につけられていた。
着替えた時につけたらしい。
目が慣れると結構明るく感じる。
そう書かれてる。
昨日もしたから今日は鼻と顎だけにした。
久しぶりに外を歩いた気がする。
天気も良かった。
楽しかった時間。
そう言ってもらえた。
お部屋にも行った。
沙良ちゃんにすごく綺麗なお部屋だよって言っても、多分信じないかも。
ビックリした。
私は自分の部屋を見回す。
そう、汚くはない。
でも七尾さんのように急に連れて来たり、泊めてあげれるかというといろいろと考えるところである。前日に掃除と点検をしてからの、どうぞ状態。
泊ってもいいと言われた。
誘われたと言うことだろう。
まさか『じゃあ僕はソファでいいから。』とかないよね。
さすがにね。
うなずいてたらどうなってたんだろう。
今頃一緒にいる。
パジャマを借りて、スッピンで。
もしくはもっと薄着で。
ちょっとだけ入ったあの部屋で。
・・・もっと想像しようとしたけど、恥ずかしくてやめた。
明日の事を考えよう。
洋服を準備したり、アクセサリーを考えたり。
今朝と同じことを繰り返す。
長いスカートを選んだ。
気にされたスカート丈。
二度も裾を直されて、隠された。
ソファに座るとめくれてしまうのは仕方がない。
いつもはストールを膝に乗せたりしてた。
久しぶりに着たから忘れてた。
長い上着とタイツで充分暖かったし。
パックをはがして、肌を整えて、水分をたくさん取って寝室に引っ込んだ。
まだ眠れそうにない。
本を広げてみるけど視線が上滑りして。
携帯を見つめる。
写真欲しかったなあ。
携帯を置いて本も置いて、電気を消した。
バラと紅茶と夕焼けと、七尾さん。
もう昔のボサボサが懐かしいくらいに、薄ぼんやりとしか思い出せない。
印象がすっかり塗り変えられた。
鈴ちゃん、驚くんだろうなあ。
何て言うんだろう?
携帯が震えた。
明るい画面を見ると七尾さんからだった。
『何してるの?』
『のんびりとゴロンとしてます。だから、何もしてないです。』
『ちょっと電話いい?』
『はい。』
すぐにかかってきた。
『リンちゃん、疲れた?』
「いいえ、大丈夫です。七尾さん何してるんですか?」
『ぼんやりと音楽聞いてる。」
確かに小さく音が聞こえる。
「七尾さんこそ、疲れました?」
『大丈夫。小学生の引率で遊園地にも付き合うくらいだから。』
「そうでしたね。」
『寂しい。』
そう聞こえたのが聞かれたのか、呟かれたのか分からない。
『リンちゃん、・・・・迎えに行ったら怒る?』
「明日ですか?」
『今。』
今?
『下にいるんだ。』
下?
車?
『部屋はどこか分からないから。』
『よく考えたら迎えには行けても、下まで。』
「本当にマンションの下にいるんですか?」
何で?
『いる。ぼんやりと音楽聞いてた。』
部屋って思うじゃない・・・・、普通。
戻ってきたの?それともずっといたの?
『やっぱり無理かな?』
深呼吸する。
「ちょっとだけ、待っててください。いろいろ準備します。」
『うん、待ってる。』
そう言ってすぐに電話は切られた。
しばらく真っ暗な部屋で明るい画面を見つめた。
でもすぐに画面も沈黙した。
そして我に返り、明かりをつけてバタバタとする。
バッグに服と化粧品と歯ブラシと、ドライヤーと、いろいろ詰め込んで。
自分の恰好を改めて見る。
楽な恰好だけど、まあ下まで下りる分にはいい。
ゴミ捨てもこのままいくし。
ストールを手にしてバッグに押し込んで。
服を決めておいて良かった。
アクセサリーもテーブルに出してたし、バッグに荷物も詰め直してた。
明日、全部身に着けておかしかったら取り替える予定だったけど。
それは無理みたい。
大丈夫だろうか?
しょうがない。
携帯と鍵を持って、振り返って忘れ物がないか考えて、出た。
部屋を出て下りていくと、真っ暗な中、車が一台あった。
確かに送ってもらった車だ。
近くに寄って窓をノックるする。
そんなに待たせた気はしなかったけど、ハンドルにうつ伏せでいた七尾さん。
反省してた?後悔してた?
顔をあげたその表情を見ると、ニヤニヤしてたということはないみたい。
反対側の助手席のドアを開けて乗り込んだ。
「お待たせしました。」
「ゴメンね。」
「いえ・・・・。」
七尾さんの恰好を見ると着替えはしてる。
一度は帰ったらしい。
「お風呂に入って、ぼんやりして。それからまた来たんだ。」
「車、動かしてもいい?」
「はい。安全運転でお願いします。」
「うん。もちろん。」
恰好だけは昔のパーカーとジーンズ、靴もちょっと薄汚れたスニーカーだった。
何だかそこは懐かしい気がした。
つい、笑顔になってしまった。
「怒ってない?」
「何か怒られる心当たりあるんですか?」
「リンちゃん、逆に怖い・・・・。正直にどうぞ。」
「とりあえず、部屋で。」
「はい。」
大人なのに。私より大人なのに。
鈴ちゃんにもこうやって怒られそう。
あと5年もすれば、女子は強いし、大人ぶるのも早いから。
その頃にはすっかりオジサンの七尾さんは、ひたすらいじめられてそう。
車が止まり荷物を持って下りた。
すぐに荷物を持たれて、階段で部屋に行く。
さすがに木のライトアップも終わってるみたいで。
廊下の明かりの中、影が見えるくらいだった。
たどり着いた部屋も何も変わりなく。
荷物を下ろしてソファに座った。
「着替えてきます。」
すっかり怒られるつもりなのか、丁寧語だった。
パジャマに着替えてきた七尾さん。
何故か、そこは素直にパジャマだった。
部屋着にもなる、なんてものじゃなく普通の柄物のパジャマ。
どこから出てきたの?
てっきりあのTシャツだと思ったのに。
いや、下に着てる可能性もある。
パーカーはさっきのと同じ物。
こっちは部屋着なのかも。
「何か飲む?」
「いいです。」
キッチンに行きかけた体をこっちに向けて戻ってくる。
「怒ってる?」
「怒ってないです。」
探る目をされる。
「怒ってないですって、ビックリしましたが。」
言い切らない内に抱きしめられて。
「寂しかったから。」
そう言われた。
「七尾さん、変身していった月曜日、みんなびっくりしました?」
「もちろん。おはようって言って席に座ったら、システムの皆が注目してた。」
「他には?何か言ってきた人いました?」
「他に?・・・別に。だって気が付かなかったんじゃないかな?あの後輩の子も名前を呼ばれた時に振り向いて目が
合ったから気が付いたみたい。遠目でもびっくりした顔だった。」
確かに、その後変な報告が来たんだから。
「ずっとずっと身だしなみに無頓着で、マニアックな感じで、不愛想で、人嫌いって思われてたんじゃないですか?」
「・・・・・・そこまで酷いのかな?」
「だって仕事中は無口だし、説明もあっさりしてるし、飲み会に至っては端の席で人を寄せ付けないオーラ出してるし。」
「まあ、そうだけど。」
「だから、あのボサボサの髪の中にこんなに優しい笑顔があるなんて誰も想像してないです。とっつきにくい印象も全くなくなって、きっと誰かが興味持ちます。ギャップがあるから余計に良く見えるかも。」
「もしかして、変な心配を勝手にしてる?」
また困った顔をされた。
「変でも、勝手でもないです。あり得て、予想されて、必然の心配です。」
「喜んでいい?」
本当に顔が笑ってる。
答えない。
「じゃあ、あっち行く?」
何で?
首を振って拒否。
「まさかソファで寝るの?」
私が?それも予想外。
「心配いらないって分かるから。だって、わざわざ迎えに行ったのに。帰りたいっていうから送ったのに、帰したくないのに送ったから、結局諦められなくてお酒飲むより迎えに行ったんだから。」
「あ、結局は部屋番号教えてもらえてないなあ。」
「携帯切られてたら切なかった。良かった、通じて。」
「本当に、一緒にいるだけでいいかも、嫌ならそれでも。だって、ソファは狭いからね。」
ベッドは譲ってもらえないらしい。
「七尾さんがソファでもいいのに。」
「嫌だ。」
即答だった。
そこは優しくないらしい。
「明日はお昼前に起きればいいから、ゆっくりできるね。」
「ねえ、今、勝手に寝たら・・・・知らないよ。」
「寝ません。」
顔をあげた。
「良かった。寝かせません!」
すっかり見慣れた笑顔だけど。
「なんで髪の毛伸ばしてたんですか?」
「何で理由がいるの?伸びるものだからしょうがないって。切ってないだけだし。」
「なんで顔を隠してたんですか?」
「そんなつもりはないけど隠れるんだからしょうがない。髪が長いんだから。」
「なんであんなに不愛想にふるまってたんですか?」
「普通だよ。知らない人とは話をしないだけだし。知ってる兵頭とは普通に話をしてるし。」
「何で・・・・・・、そんなに変身したんですか?」
「それを言うの?顔が見えないとって言い出したのはリンちゃんでしょう。」
「だってふり幅がいきなりすぎます。横と前の髪をちょっと切るだけでも良かったのに。恰好も変わるし、キャラクターも変わるし。」
「変わったのは髪型と服だけだよ。月曜日からまともに話をした人はほとんどいないし。仕事中は無口だったし。リンちゃんとだけ喋ってるだけで、会社では笑顔も振りまいてないし、おしゃべりもしてないし。あとは、鈴とか鈴の友達とかにはこんな感じだよ。」
そう言われても確かめようがない。
「もしかして前の方が良ければ、戻すのは簡単だよ。多分今ならみんな気の迷いだったんだなって思ってくれるはず。髪は伸びるのを待つしかないけど。」
そう言われて顔を見る。
どっちがいいんだろう。
どっちもどっち。どっちも七尾さん。
鈴ちゃんもそう思うだろうか?
「なんだか狼のおばあさんと赤ずきんみたいだね。または、小さい子供と大人みたいでもあるなあ。懐かしい『何で』攻撃。4、5歳だったかな?鈴の時は大変だったなあ。」
さっき私が思ったのに。
大人なのに子供みたいだって。
でも言わずにいたのに、今自分が言われた。
ちょっとカチンときた。
「あ、怒った?」
すぐにバレた。
それも悔しい。
「大人大人。大丈夫。子供のミニスカートは全然危険じゃないから。大人だよ。」
腰に当てられた手がパタパタと体を叩くように動く。
「大人だから困る。ソファで寝かせたくない。せめて一緒がいい。」
「ソファで寝るつもりは全くありません。」
「だよね、さっきも寝ません宣言してたしね。」
それは違う。
「じゃあ、もういい?」
さすがに体も心も態度も固いまま。
顔を見るともっと緊張してきた。
「まだ。」
「まあ、いいけど。明日眠いなんて言っても知らないよ。」
「絶対言わない。」
「絶対言わす。」
顔を見ると笑顔があって、うれしそうに笑ってるのが分かった。
ずるい。
本当にこんな笑顔を隠してたなんて。
「じゃあ、もういいです。」
「何が?」
「だからお部屋移動してもいいです。」
「お願いを聞いてあげる。」
手をつないで電気を消しながら寝室に入った。
頭の方に小さいランプがあって既につけられていた。
着替えた時につけたらしい。
目が慣れると結構明るく感じる。
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