小さな鈴を見つけた日 

羽月☆

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12 何度も繰り返す、そんな病気みたいなもの

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サボった。
一人でぼんやりとカフェにいる。

朝起きてもどうしても仕事に行く気も起きず。

特に忙しいわけでもない。
ちょうど次のメニューもひと段落していた時期で。
『じゃあ、休んじゃおうかなあ。』
ふとそんな気持ちになって、電話をして休みを貰った。

携帯を持っているので何かあったら連絡が来るだろう。

楽な格好をして歩いてここまで来た。
川瀬さんとトニーと入ったテラスのあるカフェ。

テラスじゃなくて店内の席に座る。
平日のお昼過ぎの時間。お店は空いていた。

結局、また一番軽そうなバゲット付のサラダを頼んだ。
ガラスボールに入ったサラダにはカットされたベーコンが入っていて。

ゆっくり時間をかけて食べた。


テラスには誰もいない。
もう一緒にここに来ることはないと思う。


「また、見かけたら声かけてね。」

「一緒に散歩できたらいいな。」

優しい川瀬さん。

私は結局またしてしまった。
『勝手に失恋』

今回はちょっと違った。
失恋してから、好きだったんだと気が付いた。

ただ知ってる人だと思ってた。
遠くにいるのを見てただけ、あまりにも何も想像できないくらい、恋愛とか、楽しく話をするとか、そんなイメージからは遠すぎて。
自分とも、他の人とも。

それなのに大切に思ってる人がいると知ってショックは大きかった。
勝手に裏切られた気分のようなショック。

これまでとは違うといえるくらい大きなショックを覚えた。


じわじわと私に浸透してくる、あの日の二人の姿の意味が。

「家族だから・・・・。」

そう言った声まで思い出せるくらい。




最初に七尾さんを知ったのは新人の自分のパソコンを設定してもらう時。
パスワード設定と簡単な注意事項を受けた。
順番に新人のところを回ってるらしい。
ササッと設定して去って行った。

その姿に圧倒された。

今と変わらない砕け過ぎた格好の七尾さん。
張り切って社会人らしい服を着てる自分の基準が揺らぐくらい。

すぐに隣の先輩に聞いた。

「あの人は・・・・会社の人ですか?」

「びっくりした?システムの人で七尾さん。いつもあんな感じだから。あれでもシステムの中で一番優秀らしいの。」

「はあ・・・・・。」

あまりに構わない見た目、自分を貫く強さなのか、同調しない主義?それとも本当に何も気にしてないの?
ビックリした、ただただビックリした。

それからも本当に同じような感じでいるのを見かけた。
1人でフラッと歩いてる姿を。

それなりに仕事を任されてきて一カ月くらいたったころ、カタログの表示内容のチェックをしていた。
写真と名前、カロリーやアレルギー食材、などなどの情報に入力間違いがないかチェックしていた。

目が疲れる仕事だった。

きちんと確実に。

ところがいきなり画面が消えた。
真っ暗になった画面。
データの入ったUSBはささったまま。

ビックリして隣の先輩に見てもらった。

すぐにシステムの人を呼んでくれた。
来てくれたのはあの七尾さんだった。

その頃には社内で囁かれてる噂が私の耳にも届いていた。

『システムの変わり者、七尾さん、不愛想だけど、でも仕事は優秀。』

すぐに来てくれてパソコンを見てくれた。
状況を説明して欲しいと言われたけど、急に真っ暗になったとしか言えなかった。
オロオロしながら見守る私。

「USBのデータが心配なんです。」

最終チェックだったから、私がデータを破壊したらどんだけ迷惑がかかるか。

「今はまだ何も言えないけど。しばらく時間がかかります。」

静かに言われた。
そりゃあそうだ。大人しく見守るしかない。

早速パソコンを起動させている。
流れる文字の羅列を見ている横顔、眼鏡にもそれがうつっている。

パソコンの中身をチェックしてくれてるらしい。
何かのウィルスの仕業か、単なるパソコンの不調か?
データは・・・・・。
一番の心配事だったけど、時間がかかるとも言われたから、又聞くことはできない。

先輩が休んできていいと言ってくれたけど、そんな気持ちにはなれなくて。

「パソコンは大丈夫です。」

途中同じように静かに言われた。

結局その後データも問題ない事を確認した。
それまで見ていたデータはそのまま表示されている。

パソコンの画面を私に向けて暗転する前のデータと変化がないと言うことを画面上で説明された。その見方は分からなかったけど。そう言われれば納得して安心できた。

再起動して問題ない事を一緒に確認した。

「何かの不具合があったとは思いますが、はっきりとはわかりません。今のところ問題ないように思えますので、このまましばらく様子を見て同じことが起こったらまた連絡ください。」

「よくある事です。特に何かの操作が悪かったとかじゃないと思います。」

私が心配の消えない表情をしていたのだろうか。
ボサボサの髪に覆われていて、視線は合わなかったけど席を立ちながらそう言われた。

背中にお礼を言ってしばらく見送り、パソコンを引き寄せた。

「良かったね。」

「はい。本当に泣きそうでした。」

「少し休んできたら?あ、時間だし、明日までに終わればいいから、もういいとも思うけど。」

時間を見るともう終わりの時間を過ぎていた。

残業をさせてしまったかもしれない。
特に嫌な顔もしてなく淡々と対応してくれた。
最後の一言は慰めの言葉だったと信じたい。
そんな勝手なことを思ってた。

ただ接点はそれくらい。
運よく、パソコンにその後同じようなトラブルはない。


春に沙良ちゃんのパソコンの設定に来てくれたのは違うシステムの人だった。
普通のスーツを着ていた。
やっぱり普通はこう。
沙良ちゃんに話しかけながらパソコンの設定をしている。
ある意味如才なく、時間もかかるけど、多分いい印象だと思う。

隣で聞いていてそう思った。

でもきっと他の社員に紛れたら忘れそうな人。
だって今でもそれが誰だったのか言えない。
システムの人もほとんど知らないから。

ただ一人区別がつく人。
そう思ってるだけだった、そう思ってた。

今でも、自分でもよくわからない。
だってほとんど顔も知らなかった。
いつも前髪に隠れてうつむきがちで、ちゃんと見たことなんてなかったし。

冷静な声と、話し方と、すごい勢いで動く細くて長い指。
それだけ。


背筋も伸びて前髪もあげて、顔がはっきり見えたあの時、先に気がついてくれなかったら分からなかった。
『週末の若いパパ』
それが会社で見る姿とは結び付かなくて。
きっとあの子にはあれが普通のパパの姿なんだろう。
奥さんにとっても。

偶然が重ならなかったら見ることもなかった姿。



昨日、偶然帰りに声をかけられた。

ぼんやり歩いてたら何もない所でつまずいて。
ビックリしたし、恥ずかしくて後ろを見るついでに周りを見たら、そこにいたらしくて目が合って。
声をかけられた。

具合が悪そうに見えたんだろうか?
思ったより親切みたいで。

ただその場を去りたくて、走った。
すごく失礼だったと思う。
二度目の失礼な態度で、きっと私の印象は悪いと思う。

この間の飲み会で偶然参加していたから少し話をした。
興味があると思われて向かいの席に連れていかれた。
私が話をしないと本当に隅っこで一人で飲んでいたかも。

でも会話の内容はあの日知った家族の事から離れなくて。
だからずっとは耐えられなくて、勝手に席を立った。

その後自分の席に戻ったのは変じゃなかったと思う。

後は知らない。

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