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8 心に残る影
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朝、少しぼんやりしてしまう。
さっきまで眠りから覚めながらの頭で今日の予定を考えた。
浮かんだのが何故か七尾さんだった。
すずちゃんでもなく、お父さんスタイルの七尾さん。
なんで?
川瀬さんと会うのに。
トニーでもなく、七尾さんを思い出していた。
会えるかどうかも分からないのに。
会えてどうなるわけでもないのに。
会ってもどうかしたいわけでもないはずなのに。
川瀬さんの笑顔を思い出す。
トニーの笑顔が浮かんだ。
いい、散歩友達だから。
洗濯して、丁寧に化粧して、服はやはり同じような服で。
時間を合わせて公園の見える場所で会えた。
手にはトイレ用のグッズにフリスビー。
トニーも嬉しそうだ。
一緒に並んで歩く。
時々視線を遠くにやる。
来るのだろうか?
いざ広場に着いた。
トニーのリードを外して遊ぶ川瀬さんをこの間のベンチから見ている。
小学生が集まってトニーに触っている。
その中には・・・・いない。
そっと視線をめぐらす。
いたらうれしくて駆け寄って来そうなのに。
見つけられなかった。
「小鈴さん?」
「ん、はい。」
いつの間にか川瀬さんとトニーが戻ってきていた。
「誰か探してる?」
「いいえ、やっぱりみんな週末は楽しそうだなあって思ってました。こんな広場があっていいですよね。」
笑顔を作り誤魔化した。
ここに着くまではすごくドキドキしていたのに。
今はすっかり落ち着いて、逆にがっかりしてる自分に気が付いてしまう。
何でそんなに期待するんだろう。
特に話をするわけでもない。
きっとトニーからも私からも距離をとって、自分の大切な娘を見てるだけだと思う。
子どもが楽しみにしてる犬が誰のペットでも関係ない。
まして、飼い主の友達の私なんてもっと関係ないから。
「ダイエットは今日までですか?」
「明日までです。月曜日にチェックしてもらっておしまいです。」
「じゃあ、明日が終わればもう散歩の必要はないんですか?」
川瀬さんを見る。
優しい目をしてる。
なんだかトニーに似てる。
「どうでしょうか?」
「明日もここまで来ますか?・・・・一緒に。」
「いえ・・・・、ここは、もういいです。」
・・・・もう、いいです。
「さて帰りましょうか?それとも、もう少しのんびりしますか?」
「帰りますか。帰りも長い道のりです。」
お茶のボトルを手にして立ち上がる。
「トニー、楽しかった?」
顔をぐしゃぐしゃに撫でると嬉しそうに口を開ける。
「川瀬さん、やっぱりペットって飼い主に似ますね。笑顔がそっくりです。」
「そうですか?じゃあ、トニーも小鈴さんが好きなんですよ。」
「・・・ありがとう。トニー。」
最後にもう一度トニーを撫でた。
深く考えないようにしよう。
ふたりで帰り道を歩く。
「トニーは吠えないんですね。」
「そうですね。最初から大人しい犬でした。ペットショップにいるころは片足をちょっとだけ引きづっていたんです。それで飼い主が見つからなかったのかもしれません。本当に少しだったんですが。今はすっかり何でもなくなって良かったです。自分が最後まで売れ残ってるのって分かるんですかね?」
「そんな・・・・。」
「今は長生きですから。15年くらいは一緒にいるんです。本当の家族ですよね。」
「トニーは良かったです。本当に川瀬さんたちに出会えて。」
歩きながらトニーを介して話をする。
公園が見えて、朝待ち合わせた場所に着いた。
「少し休憩していこうと思うんですが、どうですか?」
前のテラス席のあるカフェ。
テラスには誰もいない。
「じゃあ、少しだけ。」
階段を降りて公園を抜ける。
同じようにテラス席に座りカフェオレをお願いする。
お水を飲んだあと顎を伏せるトニー。
「今日も実家に行かれるんですか?」
「そうですね。トニーを送りますから。」
「仲がいいですか?」
「普通ですよ。トニーを飼うまでは本当に電話をたまにするくらいでしたから。」
「やっぱり子供とか、ペットとか、間にいてくれると大きいんですかね。」
「・・・・それは何か思うところがあっての意見ですか?」
「・・・なんでですか?」
「いえ。ただそう思っただけです。」
川瀬さんを見る。
何を聞かれたのかはわからないけど。
家族じゃなくても、私と川瀬さんもトニーがいることでつながってる気がするし。
はっきりは言いにくくて言えないけど。
時々トニーが顔をあげてこっちを見る。
癒される。
しばらくゆっくりして別れた。
夕方連絡が来た。
『明日は姪っ子たちがトニーと遊ぶので散歩係は免除になりました。残念です。ご飯に誘いたいけど明日まで食べれないんですよね。来週また連絡していいですか?』
『今日もお付き合いいただいてありがとうございました。明日までダイエットを頑張ります。また来週、トニーとも会いたいです。』
自分でもよくわからない。
何だろう、この甘えた感じの犬友達。
ただ、私も癒してくれるトニーがいてくれたらうれしい。
すこし弱りそうな心が元気になる感じで。
じゃあ、川瀬さんは?
いつもならうれしい誘いなのに、喜ぶくらいなのに。
少しも晴れない思いがずっと心を占めている。
そんなの見たくないのに、気になって仕方ないこと。
思い出したくないとも思うのに、その映像が一番クリアで近いから。
その映像しかないから、何度も思いだしてしまうこと。
少しづつ形が変わり二人だった姿が三人になる。
二人の大人と小さな一人の影に。
日曜日、一人で散歩をした。
また歩いた。ただ橋は渡らずに、こっち側の川べりの道を歩いて、いるかもしれない影が見えないように遠くから見やって。
諦めてすぐに引き返した。
イヤホンをして音楽を聴きながら。
元気な曲をかけているのに、少しも足取りは軽くなく。
疲れただけだった。
お弁当は少しだけ食べて感想を書いて、捨ててしまった。
さっきまで眠りから覚めながらの頭で今日の予定を考えた。
浮かんだのが何故か七尾さんだった。
すずちゃんでもなく、お父さんスタイルの七尾さん。
なんで?
川瀬さんと会うのに。
トニーでもなく、七尾さんを思い出していた。
会えるかどうかも分からないのに。
会えてどうなるわけでもないのに。
会ってもどうかしたいわけでもないはずなのに。
川瀬さんの笑顔を思い出す。
トニーの笑顔が浮かんだ。
いい、散歩友達だから。
洗濯して、丁寧に化粧して、服はやはり同じような服で。
時間を合わせて公園の見える場所で会えた。
手にはトイレ用のグッズにフリスビー。
トニーも嬉しそうだ。
一緒に並んで歩く。
時々視線を遠くにやる。
来るのだろうか?
いざ広場に着いた。
トニーのリードを外して遊ぶ川瀬さんをこの間のベンチから見ている。
小学生が集まってトニーに触っている。
その中には・・・・いない。
そっと視線をめぐらす。
いたらうれしくて駆け寄って来そうなのに。
見つけられなかった。
「小鈴さん?」
「ん、はい。」
いつの間にか川瀬さんとトニーが戻ってきていた。
「誰か探してる?」
「いいえ、やっぱりみんな週末は楽しそうだなあって思ってました。こんな広場があっていいですよね。」
笑顔を作り誤魔化した。
ここに着くまではすごくドキドキしていたのに。
今はすっかり落ち着いて、逆にがっかりしてる自分に気が付いてしまう。
何でそんなに期待するんだろう。
特に話をするわけでもない。
きっとトニーからも私からも距離をとって、自分の大切な娘を見てるだけだと思う。
子どもが楽しみにしてる犬が誰のペットでも関係ない。
まして、飼い主の友達の私なんてもっと関係ないから。
「ダイエットは今日までですか?」
「明日までです。月曜日にチェックしてもらっておしまいです。」
「じゃあ、明日が終わればもう散歩の必要はないんですか?」
川瀬さんを見る。
優しい目をしてる。
なんだかトニーに似てる。
「どうでしょうか?」
「明日もここまで来ますか?・・・・一緒に。」
「いえ・・・・、ここは、もういいです。」
・・・・もう、いいです。
「さて帰りましょうか?それとも、もう少しのんびりしますか?」
「帰りますか。帰りも長い道のりです。」
お茶のボトルを手にして立ち上がる。
「トニー、楽しかった?」
顔をぐしゃぐしゃに撫でると嬉しそうに口を開ける。
「川瀬さん、やっぱりペットって飼い主に似ますね。笑顔がそっくりです。」
「そうですか?じゃあ、トニーも小鈴さんが好きなんですよ。」
「・・・ありがとう。トニー。」
最後にもう一度トニーを撫でた。
深く考えないようにしよう。
ふたりで帰り道を歩く。
「トニーは吠えないんですね。」
「そうですね。最初から大人しい犬でした。ペットショップにいるころは片足をちょっとだけ引きづっていたんです。それで飼い主が見つからなかったのかもしれません。本当に少しだったんですが。今はすっかり何でもなくなって良かったです。自分が最後まで売れ残ってるのって分かるんですかね?」
「そんな・・・・。」
「今は長生きですから。15年くらいは一緒にいるんです。本当の家族ですよね。」
「トニーは良かったです。本当に川瀬さんたちに出会えて。」
歩きながらトニーを介して話をする。
公園が見えて、朝待ち合わせた場所に着いた。
「少し休憩していこうと思うんですが、どうですか?」
前のテラス席のあるカフェ。
テラスには誰もいない。
「じゃあ、少しだけ。」
階段を降りて公園を抜ける。
同じようにテラス席に座りカフェオレをお願いする。
お水を飲んだあと顎を伏せるトニー。
「今日も実家に行かれるんですか?」
「そうですね。トニーを送りますから。」
「仲がいいですか?」
「普通ですよ。トニーを飼うまでは本当に電話をたまにするくらいでしたから。」
「やっぱり子供とか、ペットとか、間にいてくれると大きいんですかね。」
「・・・・それは何か思うところがあっての意見ですか?」
「・・・なんでですか?」
「いえ。ただそう思っただけです。」
川瀬さんを見る。
何を聞かれたのかはわからないけど。
家族じゃなくても、私と川瀬さんもトニーがいることでつながってる気がするし。
はっきりは言いにくくて言えないけど。
時々トニーが顔をあげてこっちを見る。
癒される。
しばらくゆっくりして別れた。
夕方連絡が来た。
『明日は姪っ子たちがトニーと遊ぶので散歩係は免除になりました。残念です。ご飯に誘いたいけど明日まで食べれないんですよね。来週また連絡していいですか?』
『今日もお付き合いいただいてありがとうございました。明日までダイエットを頑張ります。また来週、トニーとも会いたいです。』
自分でもよくわからない。
何だろう、この甘えた感じの犬友達。
ただ、私も癒してくれるトニーがいてくれたらうれしい。
すこし弱りそうな心が元気になる感じで。
じゃあ、川瀬さんは?
いつもならうれしい誘いなのに、喜ぶくらいなのに。
少しも晴れない思いがずっと心を占めている。
そんなの見たくないのに、気になって仕方ないこと。
思い出したくないとも思うのに、その映像が一番クリアで近いから。
その映像しかないから、何度も思いだしてしまうこと。
少しづつ形が変わり二人だった姿が三人になる。
二人の大人と小さな一人の影に。
日曜日、一人で散歩をした。
また歩いた。ただ橋は渡らずに、こっち側の川べりの道を歩いて、いるかもしれない影が見えないように遠くから見やって。
諦めてすぐに引き返した。
イヤホンをして音楽を聴きながら。
元気な曲をかけているのに、少しも足取りは軽くなく。
疲れただけだった。
お弁当は少しだけ食べて感想を書いて、捨ててしまった。
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