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3 大人に報告する小さなこと、隠すまでもない小さなこと。
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「久しぶり~、元気?」
懐かしい顔が四つ並んで揃った。
久しぶりとか懐かしいとか、本当に一ヶ月前くらいが最後なのに。
大学の頃の密度とは違う。
就職して連絡は取り合ってても、なかなか週末に揃えなくて、やっと五月の連休になって揃った四人。
高校のときは新聞部にいた、写真部がなかったから、それでもどこかに所属するようにと言われて、新聞部にいた。
新聞部ではハイスペックなカメラを必要とすることもないまま、週末には一人で、たまに友達と一緒に出掛けた時に写真を撮っていた。
大学ではさすがに選び放題なくらい同じようなサークルはあった。
その分野が分かれてるから、一番縛りのない自由なところに入った。
そして一番気が合ったのがこの四人だった。
サークル以外じゃあ会わないメンバーもいる、むしろその中で集まった四人。
皆が働き始めた春。
その前に卒業旅行と言って遠出したのが最後だった。
もちろん写真を撮る目的メインの旅だ。大きなダムの写真を撮りに行った。
今日は一応カメラ持参で来たけど、ランチメインと諸々の新社会人の辛酸の報告だ。
特別に外に出かける目的はなく、食事とコーヒーのお店で過ごすだけの予定だった。
仕事に多少の努力は必要だけど、週末には自分の楽しみがある。
それが『やっぱり一緒なのはカメラだけだけど』ってパターンだけど。
そんなメンバーの誰からもそれほど落ち込む報告はなかった。
結局卒業旅行の思い出を振り返り懐かしんで、一緒に日帰りで遠出しようという話も決まった。
残念ながらせっかくの連休なのに、誰も特別の予定がない。
僕だって何もない。
実家には帰るつもりだけど。
もっとウキウキ披露するような報告は誰からも無かった。
何度か詠一さんたちにも聞かれていた。
「風斗君、好きな人はいないの?」
「風斗、彼女出来た?」
「本当にいない?隠してない?取らないから紹介してよ。」
大人はどうしても知りたいらしい。
詠一さんはさり気ないけど、本当にあからさまに聞いてくる大吉さん。
大吉さんは年上だけどそうは思えない感じだ、そしてちょっと・・・・上品って感じでもない。友達かと思えるくらいの大人げの無さとよく言えば親しみやすさだ。詠一さんよりも気安く何でも話しができるかもしれないくらいに。
そして逆に全く聞いてこない明石のおじさんと武田さん、あと母さんも。
大人もいろいろだ。
だって隠すほど器用でもないし、本当に誰もいない。
それはおかしいだろうか?
大吉さんはおかしいよ~なんて言いそうだけど。
今は一人で写真を撮ってるのが楽しい。
大学の頃違う大学のサークルと一緒に写真を撮りに行ったり、ついでに仲良く花見やバーベキューをしたこともある。女子もたくさんいた。
楽しいから参加してたけど、別に楽しい皆の写真を数枚と、あとは景色がメインで。
特別な想いを持って誰かにフォーカスして写真に収めたことはない。
むしろ皆で撮ろうと誘われたら進んで写真係になった。
だって写真を撮っておきたいと言い出した人は写真を残したい人だろうから、その人が写真に写らないのはおかしい。
そんな時は携帯で撮るだけだから、自分が携帯を借りて写真係をした。
たいてい同じメンバーで交代して撮るから自分が映りこんだ写真もあってパソコンに保存されてる。
なんとなく見ることはあってもじっくり見ることはない。
一番多いのはこの四人での自撮り写真だ。
四人で撮ると景色は入らない事もあるけど、タイマーで誰かのカメラで撮った写真もある。
逆にすごいカメラだと周りの人に頼んでも取り扱いが難しくて困惑されるから。
携帯か、タイマーで撮るかだ。
「で、風斗、彼女出来た?」
誰も報告なしと確認したのに、何で聞いてくるんだか。
「なんで?まだまだ、別に・・・・誰もいないけど。」
「好きな人も、いいなあって思う感じもなし?」
しつこい康介。
だいたい一番に彼女ができるのは康介だろうと思ってる。
今度会う時には出来てるんじゃないかなって。
「ないよ。なんで?」
自分だけに聞いてきた康介。何でだろう?
その他の二人も思ったみたいで、自分と康介を見てる。
「実はさあ・・・・・。」
ちょっとだけ体を前のめりにして、僕を含めた三人を見まわしながら勿体つけるように話し出す康介。
「何度か一緒に遊んだサークルの中の女子に聞かれたんだよ。」
「何を?」「誰に?」「連絡とってたの?」
皆が一斉に聞く。
「風斗の就職した会社はどこだろうって。」
自分の就職先を聞いてきた誰か。女子。知らない人・・・で?
「だからそこを目指したいってことだよ。」
来年?それとも・・・いつ?誰?何で?
スッキリしない三人。
「風斗の会社を知りたいって連絡が二人くらいはさんで回って来て、まあ、いいかなって思って教えたんだよ。直接その人に連絡したんだ。桜木さんだって。多分顔は分かるよ。」
そう言って写真を見せてきた。
たくさんの人の中で小さくいる女の人。
うっすらと見覚えがあるようなないような・・・・。
「話したこともないけど。」
「本人じゃないんだよ、頼んだのは桜木さんの後輩らしいよ。どの子かは知らない。」
その写真は僕も持ってる。
だからその中の誰かとは話をしただろうけど、誰も特別に記憶に残ってる人はいない。
「風斗の事を追いかけたいってこと?」
「そうらしい。何度か話をしたらしいけど全く個人的な話は出来なかったって。就活の忙しい時はあえてジッとしてたらしいけど、就職しただろうからって桜木さんに聞いてきたらしいよ。」
「来年の春を待たなくてもよくない?桜木さんに頼んで誘えばいいんだよね、一緒に写真撮りに行こうでもいいし、ご飯食べようでもいいし。」
「その子が忙しいとか?」
皆が康介に聞いたけど、そんなのは分からないよね。
「それでさっきの事なんだけど・・・・いっしょに誘ってもいい?」
「さっきの事って明後日の事?」
今度は自分が聞いた。うなずく康介。
明後日の予定・・・・四人のはずだったのに・・・・。
「桜木さんとその子が来るの?」
「一応誘ってみようかなって、多分喜ぶと思うけど、二人にも予定もあるだろうし分からないけど。」
「いいんじゃない?」
あっさりと有栖が言う。
郁弥(いくみ)もうなずきながらこっちを見て嬉しそうな笑顔になる。
楽しそうだけど。
皆が自分を見る。
「別に・・・・。」
そう普通に反応したいけど、ちょっと緊張する。
「じゃあ、さっそく聞いてみる。」
そう言って携帯をいじる。返事待ちになった。
「楽しみだけど、なんだか気を遣う。風斗頑張れ。」
「知らないよ・・・・・・。」
四人だったら慣れて楽な気分なのに。
緊張するじゃないか。
桜木さんも反応が素早かったらしい。
そしてさらに聞かれただろうその子も。
そしてメンバーが確定した時にはすでに心拍は上がり顔が赤くなってたと思う。
当日、朝からドキドキはしてた。
実際は昨日の夜からドキドキしてた。
母さんに電話をして今日の事は教えた。
当然友達と遠出するという情報だけだ。
電車に乗っていくし、問題はない。
母さんの予定を聞いて実家に戻る日も決めた。
もしかしたらおじさんも合流するんじゃないだろうか?
そう思ったけど言い出さず、言い出されず。
一人暮らしのアパートを探すときに手伝ってくれたのは詠一さんだった。
引っ越しの手伝いはちょっとの荷物だったけど、ここで留守番をしてくれた人もいた。
詠一さんがお願いしたらしい。
しかもその間にガスの立ち合いもしてくれて、買っていたカーテンを取り付けてくれたり、掃除もしてくれて、隣の部屋への挨拶のお菓子まで・・・・・。
詠一さんと一緒にそれをもって挨拶に行って、ちょっとだけ家具の組み立てと配置を手伝ってもらって。
三人で引っ越しそばを食べた。
手伝いの加賀野さんと呼ばれた人は詠一さんより少し年下で、部下なのかな?
すごく丁寧語を使って詠一さんに喋ってるまま、僕にもそんな感じだった。
ずっと年下なのに・・・・。
それでも詠一さんにバイト代をもらっていたみたいだ。
休日出勤だし、留守番の時間もいれたら4時間は使ってくれたんだと思う。
こまごまと詠一さんにアドバイスを受けて、一緒に買い物をして、お礼を言って別れた。
もしかして詠一さんもおじさんに同じようにお金をもらってるのかもしれない。
詠一さんがプライベートで僕をドライブついでに写真を撮りに連れて行ってくれたのか、今回もいろいろお世話してくれたのか、それは分からない。
でも写真以外でここまでしてくれるなんて・・・・普通あり得ない。
きっと頼まれてるんだろう。相談に乗ってくれ、力になってくれって。
一番信頼が厚いのかもしれない。
そして詠一さんにも写真を撮りに行くと、今日の事の話をした。
誰と行くの?と言われて・・・結局全部話をした。
会社の同期に報告するにも休み中だし、母さんやおじさんよりは・・・ほかの二人よりは・・・。
なんだかすぐにバレてしまうんだから、大人は本当に騙せない。
付き合いが長いと電話の声だけでバレるんだから。
「楽しそうじゃない。その時期はすっごく混むからね。気を付けて、あと女の子の事も気を遣ってあげて。きっと向こうも緊張してるだろうしね。仲良くできたらいいね。」
そんな大人の男性のアドバイスをもらった。
ついでのように今度目的のSLの写真も見せてほしいと言われた。
もちろん見せるつもりだった。
明石のおじさんには内緒だとは言わなかった。
どうしようと思ったけど内緒にしてくれると思った。
それにあえて言うことでもないけど、内緒にするようなことでもない、かな。
ちょっとだけ懐かしいらしい子と会うだけだ。
それが女の子だと言うだけだ。
ちょっとだけ自分に会いたいと思ってくれた子・・・それだけ、ちょっとだけ会いたいだけ。
自分に言い聞かせるようにそうつぶやいてた。
あれからあの写真を見て、桜木さんの周りの女の子を見た。
年下で、毎回近くにいる子。
自分が持ってる写真をよく見てたら桜木さんがわりと近くにいるのだ。
でもそれ以上に近くにいる子がいた。
小さいその写真をグッと大きくして見て思い出してみる。
挨拶と・・・・やっぱり特別に思い出せる会話はない。
これでその子の勘違いで人違いだったら悲しいけど。
例えば僕じゃなくて有栖とか郁弥の事だったりとか・・・・。
でもそうならそうと早く分からないと全く見当違いの会社を目指すことにもなるから。
そうだった場合、なんと言って詠一さんに報告するんだろう。
『人違いで目当ては友達でした。勘違いだったので写真を撮りまくりました。』
そう報告するしかない。
それでも自分でもちょっとガッカリしそうな気もしてきた。
懐かしい顔が四つ並んで揃った。
久しぶりとか懐かしいとか、本当に一ヶ月前くらいが最後なのに。
大学の頃の密度とは違う。
就職して連絡は取り合ってても、なかなか週末に揃えなくて、やっと五月の連休になって揃った四人。
高校のときは新聞部にいた、写真部がなかったから、それでもどこかに所属するようにと言われて、新聞部にいた。
新聞部ではハイスペックなカメラを必要とすることもないまま、週末には一人で、たまに友達と一緒に出掛けた時に写真を撮っていた。
大学ではさすがに選び放題なくらい同じようなサークルはあった。
その分野が分かれてるから、一番縛りのない自由なところに入った。
そして一番気が合ったのがこの四人だった。
サークル以外じゃあ会わないメンバーもいる、むしろその中で集まった四人。
皆が働き始めた春。
その前に卒業旅行と言って遠出したのが最後だった。
もちろん写真を撮る目的メインの旅だ。大きなダムの写真を撮りに行った。
今日は一応カメラ持参で来たけど、ランチメインと諸々の新社会人の辛酸の報告だ。
特別に外に出かける目的はなく、食事とコーヒーのお店で過ごすだけの予定だった。
仕事に多少の努力は必要だけど、週末には自分の楽しみがある。
それが『やっぱり一緒なのはカメラだけだけど』ってパターンだけど。
そんなメンバーの誰からもそれほど落ち込む報告はなかった。
結局卒業旅行の思い出を振り返り懐かしんで、一緒に日帰りで遠出しようという話も決まった。
残念ながらせっかくの連休なのに、誰も特別の予定がない。
僕だって何もない。
実家には帰るつもりだけど。
もっとウキウキ披露するような報告は誰からも無かった。
何度か詠一さんたちにも聞かれていた。
「風斗君、好きな人はいないの?」
「風斗、彼女出来た?」
「本当にいない?隠してない?取らないから紹介してよ。」
大人はどうしても知りたいらしい。
詠一さんはさり気ないけど、本当にあからさまに聞いてくる大吉さん。
大吉さんは年上だけどそうは思えない感じだ、そしてちょっと・・・・上品って感じでもない。友達かと思えるくらいの大人げの無さとよく言えば親しみやすさだ。詠一さんよりも気安く何でも話しができるかもしれないくらいに。
そして逆に全く聞いてこない明石のおじさんと武田さん、あと母さんも。
大人もいろいろだ。
だって隠すほど器用でもないし、本当に誰もいない。
それはおかしいだろうか?
大吉さんはおかしいよ~なんて言いそうだけど。
今は一人で写真を撮ってるのが楽しい。
大学の頃違う大学のサークルと一緒に写真を撮りに行ったり、ついでに仲良く花見やバーベキューをしたこともある。女子もたくさんいた。
楽しいから参加してたけど、別に楽しい皆の写真を数枚と、あとは景色がメインで。
特別な想いを持って誰かにフォーカスして写真に収めたことはない。
むしろ皆で撮ろうと誘われたら進んで写真係になった。
だって写真を撮っておきたいと言い出した人は写真を残したい人だろうから、その人が写真に写らないのはおかしい。
そんな時は携帯で撮るだけだから、自分が携帯を借りて写真係をした。
たいてい同じメンバーで交代して撮るから自分が映りこんだ写真もあってパソコンに保存されてる。
なんとなく見ることはあってもじっくり見ることはない。
一番多いのはこの四人での自撮り写真だ。
四人で撮ると景色は入らない事もあるけど、タイマーで誰かのカメラで撮った写真もある。
逆にすごいカメラだと周りの人に頼んでも取り扱いが難しくて困惑されるから。
携帯か、タイマーで撮るかだ。
「で、風斗、彼女出来た?」
誰も報告なしと確認したのに、何で聞いてくるんだか。
「なんで?まだまだ、別に・・・・誰もいないけど。」
「好きな人も、いいなあって思う感じもなし?」
しつこい康介。
だいたい一番に彼女ができるのは康介だろうと思ってる。
今度会う時には出来てるんじゃないかなって。
「ないよ。なんで?」
自分だけに聞いてきた康介。何でだろう?
その他の二人も思ったみたいで、自分と康介を見てる。
「実はさあ・・・・・。」
ちょっとだけ体を前のめりにして、僕を含めた三人を見まわしながら勿体つけるように話し出す康介。
「何度か一緒に遊んだサークルの中の女子に聞かれたんだよ。」
「何を?」「誰に?」「連絡とってたの?」
皆が一斉に聞く。
「風斗の就職した会社はどこだろうって。」
自分の就職先を聞いてきた誰か。女子。知らない人・・・で?
「だからそこを目指したいってことだよ。」
来年?それとも・・・いつ?誰?何で?
スッキリしない三人。
「風斗の会社を知りたいって連絡が二人くらいはさんで回って来て、まあ、いいかなって思って教えたんだよ。直接その人に連絡したんだ。桜木さんだって。多分顔は分かるよ。」
そう言って写真を見せてきた。
たくさんの人の中で小さくいる女の人。
うっすらと見覚えがあるようなないような・・・・。
「話したこともないけど。」
「本人じゃないんだよ、頼んだのは桜木さんの後輩らしいよ。どの子かは知らない。」
その写真は僕も持ってる。
だからその中の誰かとは話をしただろうけど、誰も特別に記憶に残ってる人はいない。
「風斗の事を追いかけたいってこと?」
「そうらしい。何度か話をしたらしいけど全く個人的な話は出来なかったって。就活の忙しい時はあえてジッとしてたらしいけど、就職しただろうからって桜木さんに聞いてきたらしいよ。」
「来年の春を待たなくてもよくない?桜木さんに頼んで誘えばいいんだよね、一緒に写真撮りに行こうでもいいし、ご飯食べようでもいいし。」
「その子が忙しいとか?」
皆が康介に聞いたけど、そんなのは分からないよね。
「それでさっきの事なんだけど・・・・いっしょに誘ってもいい?」
「さっきの事って明後日の事?」
今度は自分が聞いた。うなずく康介。
明後日の予定・・・・四人のはずだったのに・・・・。
「桜木さんとその子が来るの?」
「一応誘ってみようかなって、多分喜ぶと思うけど、二人にも予定もあるだろうし分からないけど。」
「いいんじゃない?」
あっさりと有栖が言う。
郁弥(いくみ)もうなずきながらこっちを見て嬉しそうな笑顔になる。
楽しそうだけど。
皆が自分を見る。
「別に・・・・。」
そう普通に反応したいけど、ちょっと緊張する。
「じゃあ、さっそく聞いてみる。」
そう言って携帯をいじる。返事待ちになった。
「楽しみだけど、なんだか気を遣う。風斗頑張れ。」
「知らないよ・・・・・・。」
四人だったら慣れて楽な気分なのに。
緊張するじゃないか。
桜木さんも反応が素早かったらしい。
そしてさらに聞かれただろうその子も。
そしてメンバーが確定した時にはすでに心拍は上がり顔が赤くなってたと思う。
当日、朝からドキドキはしてた。
実際は昨日の夜からドキドキしてた。
母さんに電話をして今日の事は教えた。
当然友達と遠出するという情報だけだ。
電車に乗っていくし、問題はない。
母さんの予定を聞いて実家に戻る日も決めた。
もしかしたらおじさんも合流するんじゃないだろうか?
そう思ったけど言い出さず、言い出されず。
一人暮らしのアパートを探すときに手伝ってくれたのは詠一さんだった。
引っ越しの手伝いはちょっとの荷物だったけど、ここで留守番をしてくれた人もいた。
詠一さんがお願いしたらしい。
しかもその間にガスの立ち合いもしてくれて、買っていたカーテンを取り付けてくれたり、掃除もしてくれて、隣の部屋への挨拶のお菓子まで・・・・・。
詠一さんと一緒にそれをもって挨拶に行って、ちょっとだけ家具の組み立てと配置を手伝ってもらって。
三人で引っ越しそばを食べた。
手伝いの加賀野さんと呼ばれた人は詠一さんより少し年下で、部下なのかな?
すごく丁寧語を使って詠一さんに喋ってるまま、僕にもそんな感じだった。
ずっと年下なのに・・・・。
それでも詠一さんにバイト代をもらっていたみたいだ。
休日出勤だし、留守番の時間もいれたら4時間は使ってくれたんだと思う。
こまごまと詠一さんにアドバイスを受けて、一緒に買い物をして、お礼を言って別れた。
もしかして詠一さんもおじさんに同じようにお金をもらってるのかもしれない。
詠一さんがプライベートで僕をドライブついでに写真を撮りに連れて行ってくれたのか、今回もいろいろお世話してくれたのか、それは分からない。
でも写真以外でここまでしてくれるなんて・・・・普通あり得ない。
きっと頼まれてるんだろう。相談に乗ってくれ、力になってくれって。
一番信頼が厚いのかもしれない。
そして詠一さんにも写真を撮りに行くと、今日の事の話をした。
誰と行くの?と言われて・・・結局全部話をした。
会社の同期に報告するにも休み中だし、母さんやおじさんよりは・・・ほかの二人よりは・・・。
なんだかすぐにバレてしまうんだから、大人は本当に騙せない。
付き合いが長いと電話の声だけでバレるんだから。
「楽しそうじゃない。その時期はすっごく混むからね。気を付けて、あと女の子の事も気を遣ってあげて。きっと向こうも緊張してるだろうしね。仲良くできたらいいね。」
そんな大人の男性のアドバイスをもらった。
ついでのように今度目的のSLの写真も見せてほしいと言われた。
もちろん見せるつもりだった。
明石のおじさんには内緒だとは言わなかった。
どうしようと思ったけど内緒にしてくれると思った。
それにあえて言うことでもないけど、内緒にするようなことでもない、かな。
ちょっとだけ懐かしいらしい子と会うだけだ。
それが女の子だと言うだけだ。
ちょっとだけ自分に会いたいと思ってくれた子・・・それだけ、ちょっとだけ会いたいだけ。
自分に言い聞かせるようにそうつぶやいてた。
あれからあの写真を見て、桜木さんの周りの女の子を見た。
年下で、毎回近くにいる子。
自分が持ってる写真をよく見てたら桜木さんがわりと近くにいるのだ。
でもそれ以上に近くにいる子がいた。
小さいその写真をグッと大きくして見て思い出してみる。
挨拶と・・・・やっぱり特別に思い出せる会話はない。
これでその子の勘違いで人違いだったら悲しいけど。
例えば僕じゃなくて有栖とか郁弥の事だったりとか・・・・。
でもそうならそうと早く分からないと全く見当違いの会社を目指すことにもなるから。
そうだった場合、なんと言って詠一さんに報告するんだろう。
『人違いで目当ては友達でした。勘違いだったので写真を撮りまくりました。』
そう報告するしかない。
それでも自分でもちょっとガッカリしそうな気もしてきた。
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