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18 植木屋見習いは本当に少しだけ。
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良平さんの家は本当に大きかった。
「こんにちは~、どうも~、佐野です。助手も一緒ですよ~。」
ガラガラと引き戸を開けて中に入る。これが門?
飛び石を歩いてお家へ。四角い敷地に四角い家、周りに庭。
その周囲を立派な塀や生け垣やらが取り囲む。
敷地に森がある・・・みたいな家。
返事がしたけど出てくる気配はない。佐野さんはぐるりと庭に回る。
縁側にのんびりと腰掛けたおじいさんがいた。
「どうも、良平さん。助手を連れてきました!」
「おぉぉぉぉ、待ってた待ってた。真奈ちゃん。」
手を出されたので握手する。
「真奈です、こんにちは。お邪魔します。」
「邪魔なもんかね。佐野君もバリバリと働くじゃろうし、爺も若返るっちゅう奴じゃ。ほらほら、座布団座布団。」
大きな手で座布団をぱんぱんとされた。
いきなり活きが良くなったお爺さん・・・。
「良平さん、今日はやたら元気ですね。僕の助手ですからね。良平さんの爺守じゃないですよ。」
「けっ、見せびらかしおって。ちいぃっとばっかり貸してくれても減らんやろう。なぁ。」
「はい。」
家族は何を心配してる?まだまだ元気じゃない。
「じゃあ、良平さん今日はこの二本やります。脚立借りますね。」
「佐野さん、押さえますか?」
「ううん、大丈夫。慣れてるし。」
荷物を廊下に置いて氷を手ぬぐいにくるんで首に巻く。ペットボトルを一本腰に差して虫よけスプレーをして麦わらをかぶって道具を持って脚立を登っていく。
「じゃあ、真奈さん日焼けしないように、日陰にいて。適当にお水飲んでね。良平さんもね。声かけたら道具渡してね。」
スルスルと登りながら木にまたがった佐野さん。
腰からの紐を一応枝にかけている。
「気を付けてくださいね。」
ちょっと怖い。もし落ちたりしたらすごい怪我しそう。
「大丈夫だよ。」
笑顔を返されて、指で良平さんの方を指す。
邪魔してもいけないので大人しく縁側に戻る。沓脱石の立派なものがあった。
下駄があるのが古風。そこから縁側に上がって良平さんの用意してくれた座布団に腰掛ける。
「お邪魔します。私はしばらく役目はないようです。」
「一緒に仕事に来るのは初めてかな?」
「はい。」
「助手なのに?」
「あ、それは・・・いろいろ他の事では・・・・。」
え、佐野さんこれは何て説明してるの?
「ふぉふぉ、まあ想像がつくわい。爺の相手に連れてきたんじゃろう。今日は高いところをやる予定じゃったし。」
「はい、まあ。でも手伝いもします、声がかかったら。」
「やっと一人前になったのう、佐野君も。」
「佐野さんとは長いんですよね。」
「そうじゃ、4、5年になるか、まだまだひよこの駆け出しのころから。剪定も教えたし、他の家も紹介したし。今は年に2回だけやのう。」
「凄く立派なお宅でびっくりしました。見せる緑や石がすごく素敵です。マンションの狭い部屋に慣れてると新鮮です。」
「ばあさんが生きとったら掃除もようしたんじゃが、今は子供夫婦も忙しいから手が回らん。わしがいなくなったら売り払わんと。広いだけで税金取られ損じゃからなあ。」
「もったいないですけどいろいろと大変そうですよね、手入れも掃除も。旅館みたいです。のんびりとこんな廊下でお茶飲んだり昼寝したり、猫を撫でたりしたいです。」
「仕事はいつもは何しとる?」
「商店街のパン屋で働いてます。ちょっとここからだと自転車でも15分くらいありますね。駅が違うからなかなか商店街にもいらっしゃいませんよね。」
「買い物はせんからなあ。嫁さんに任せてる。」
「来月は私が張り切って企画したキャンペーンなんです。カエルとテルテル坊主と雨粒もどきのビー玉とアジサイと。よろしかったらお届けしましょうか?小さいお子さんには好評予定です。」
確かお孫さんが幼稚園生って言っていた。
「そりゃ、孫がよろこぶじゃろう。頼もうかのう。」
「はい、晴れた日にお昼の時間を使って届けます。道も覚えて帰りますし。楽しみにしててください。あ、佐野さんの空いてる時間に届けてもらえばいいんだ。事前に電話してもらいますね。」
「ええのう。ほいほいと佐野君を使ってやればいい。」
「え、そんな。私ももっと近かったら自分で届けますけど。私の往復だと30分くらいかかるし、お話しする時間もないです。佐野さんならそのあたり調節できそうだし。パンは美味しいんです。最近完売続きです。」
「今年は抜群に佐野君の調子がええと思ったら、真奈さんのおかげかな。」
「へ?」
「嫁が目ざといで、何かいい事あったって言うとった。女は恐ろしい、一度、ちょっと会っただけで感づいて。息子も浮気1つできんわ。旅行から帰ったら教えちゃろう。ふぉふぉふぉ。」
怖い、お嫁さん怖い。佐野さんどこが変わったんだろう?
「良平さんは何か変わったと気が付くところありますか?」素直に聞いてみる。
「ああ、余裕がな、随分感情に余裕が出とるな。」
お爺さんも怖い。何だろう感情の余裕って。
「佐野さんはずっとあんな感じでいつもニコニコと優しい気がします。気が利いて器用で穏やかで。」
なんだか自分の彼氏を他人に向かって堂々と褒めるのも照れる。
「そうやな、最初からじゃあなかった。仕事に慣れてもやっぱりどこか後ろめたそうな感じがあったからなあ。」
「後ろめたいですか?」
分からない。後ろめたい?
「なんやろな、自分の事は二の次にして他に気をつかわないといけないって思いこんでるような。」
役に立ちたいって言ってたからそういうことなんだろうか?
木の上にいるだろう佐野さんの方を見る。
「ようやく自分も大切にしたほうがいいことに気がついた感じや。わかるか?」
「はい、その意味は。でもそれを私が感じてるかというと全然分からないです。」
「真奈さんは大切にされてると感じるじゃろう?」
「はい、それは、いつも。」顔が熱い、照れる。
「それじゃよ。自分の大切なものを一番にしてから、他人じゃから。真奈さんの立場だとむしろ分からんかもな。」
なんかすごくうれしい事をまわりまわって聞いてる感じで。直接言われるのもうれしいけど、これもうれしい。一番って、大切って。
「私も大切です。一番に大切に思ってます。」
なかなか普通の時は言えないことをおじいさん相手だと言える。
「あ、一応内緒でお願いします。」
「まあ、真奈さんの言葉とはいえ爺の声では聞きとうないやろな。可愛い声で言ってあげっ。」
ははぁ~。恥ずかしいんですけど、さっきから。
手で風を送る。熱い。
「えっと、何の話でしたっけ?」
「佐野君と真奈さんの幸せの話やろか?」
「違います、パン屋さんの話です。」
「そういえば少し前にパン屋の前に子猫が捨てられていたんです。朝オーナーが見つけて佐野さんに里親探しを頼んだんです。」
とりあえず話を変えた。
「佐野さんの弟子の少年のネットワークであっという間に飼い主が見つかってもらわれて行きました。家族4人にかわいがられてすくすく大きくなってる写真が来たんです。パン屋の5歳の女の子が幼稚園から帰ってくる頃にはすでに子猫はいなくなっていて、佐野さん思いっきり殴られてました。待っててくれてもいいのに、さっさと飼い主見つけたって。大人でもちょっといると情が移りますから。泣いて抗議したいのは私も一緒でした。見つからなかったら数日位預かりたいって思ってたんですが。一人暮らしだと猫もかわいそうだから飼えないんですが。」
「一緒になったら飼えばいい。」
「一緒?」
「佐野君と。ここに連れてくるくらいだからそういうことだと思っとるが。いい加減なことはせんからなあ。」
「佐野さんの事、私以上に周りの人は良く知っていて。私は知り合ってそんなに間もないので、よく分からないです、いろいろ。」
「そりゃあ、見てるところが違うから、仕事するのと、個人的にもっと生活レベルで付き合うのは違うやろう。真奈さんが見るのはいろんな場面での対応と態度で、仕事相手が見るのは頼んだことをどのくらいきちんと取り組むか仕事に対する向き合い方だけやろう?外面だけや。こんなにまじめに仕事すれば浮気はせんやろうと思っても実はするかもしれん、こんなに優しい態度じゃあ、喧嘩なんかしても手をあげんやろうと思っても実はそうじゃないかもしれん。表だけだと分からん。それは誰でもそうや。本当のところは本人にしか分からん。でも長く付き合えばそれなりには隠せない部分もあるやろ。そこが見えるだけや。だから、一番知ってるのはやっぱり佐野君に近い真奈さんや。部屋で二人だと飾る必要もないやろ、想像はできんがうんと甘えてるかもしれんし、亭主関白かもしれん。どっちでもない普通かもしれん。それは想像の域やから。」
「一応、普通です。」
「ふぉふぉ、そうかい、つまらん。」
馬鹿正直に答えたのは普通だから。きっと甘え癖があったら言えない。
「何がつまらん!のですか?」
きゃっ。思わずちょっとだけ背筋が伸びた。いつの間に。あ、道具。
「すみません、すっかり話し込んで忘れてました。呼びました?」
急いで駆け寄る。
「大丈夫。ちょっと休憩。」
「良平さん、楽しそうですね。顔がにやけて皺が増えてますよ?」
「そうかのう?愉快な話ができるもんでのう。」
佐野さんが水を飲みながら沓脱石に座る。
開け放たれた和室に団扇が見えた。
「団扇借りてもいいですか?」
良平さんがうなずくのを見てお邪魔しますと言って取りに行く。
手にした団扇で佐野さんを仰ぐ。
「ありがとう。」
「順調ですか?」
「そうだね。お昼までに一本終わらせるよ。次は道具の声かけるから、気がついてね。」
「はい。大丈夫です、多分。」
「よし、じゃあ、行ってくるね。」
脚立を登るのを押さえながら見送る。
「じゃあ、待ってます。」
「縁側にいていいよ、まだかかるから。」
「はい。」
また縁側の座布団に戻る。
「ええのう、若いいうんわ。財産じゃあなあ。」
「良平さん、奥さんと出会ったのは何歳の頃だったんですか?」
「爺も若かったで、22歳で見合いして結婚や。ばあさんは19歳やったのう。」
「へえぇ~、私の今と同じ歳です。早いですね。お見合いして初めて会った時はどうでした?」
「そりゃあ、えらいすましておったが、時々恥ずかしそうにうつむくのが可愛いいって、騙されるやろうなあ、わしも若かったしのう、まだまだやった。」
「騙されました?」
「騙された、まっこと女は逞しい。いままで一度も勝ったと思ったことがないわ、とうとう勝ち逃げされた。」
「それはわざと負けてたんじゃないですか?」
「おりょう、違うのう、手加減はせん、いつでも完敗や。」
「何年間一緒に過ごされたんですか?」
「50年ほどや。長いのか、短いのか。いなくなってもう6年や。」
「長いようですけどね。」
「佐野君が来るようになったのも入れ替わりぐらいやから、佐野君は会ってないのう。今日こんなかわいい子を紹介されるんだったら、わしも婆さんを紹介したかったわなあ、真奈さんにも。」
「はい、お会いしたかったです。全勝勝ち逃げの奥さんに。いろんなコツを伝授してもらいたいです。」
「生まれながらに持っとるんじゃ、女は強い、怖い、侮れん。」
「もし50年後に佐野さんの口から同じこと聞いたら、私爆笑して良平さんを思い出します。」
50年後、まったく見えないけど。
「真奈さんも言われるんだろうなあ、来年あたりには佐野君がこぼしよるやろ。」
「いろんな意味で早くないですか?」
「それが、ええやろ?」
何とも言えずに笑う。
「冬の前にもまた庭掃除を佐野君に頼むから、一緒に来てくれるとうれしいのう。」
「冬まで待たずに来ますよ。」
「そうかい、楽しみが増えたのう。」
「真奈さん、聞こえますか~?」
「あ、呼んでます。行ってきます。は~い。」
木の下に行って見上げる。
佐野さんから大きなノコギリを受け取る。
指定された道具を渡す。
「ちょっと離れてて、すぐ終わるから近くで待ってて。」
「はい。」
ボトボトと落ちる枝を離れて見ている。
しばらくして鋏を受け取り、次に長い鋏を渡す。
また後ろに下がり見ている。
長い鋏を受け取り地面に置き脚立を押さえる。
脚立を動かして落ちた枝を集め始めるのを手伝う。
「ありがとう。真奈さん終わったらお昼にしようね。」
「お疲れさまです。良平さん、もうすぐお昼ですって。何食べますか?」
良平さんが座布団を離れる。
枝を一つに集めて束ねるのをちょっとだけ手伝う。
「そういえば鳥のエサ台を作るんだ。後で二人に見てもらおうかな。」
「鳥が来るんですか?」
「昔あったけど今無くなったらしくて、新しく作りたいってことで。この辺の廃材で作ろと思ってるんだ。」
「佐野さん、私も作りたいです看板。来月のキャンペーン用の看板。」
「いいよ、得意のスケッチ書いてくれたら必要なもの準備するし手伝うよ。」
「ありがとうございます。午後書いちゃいます。良平さんにも見てもらおうっと。」
まとめて午前分終了。結局手伝ったのは最後だけ。
一緒に外の水道で手を洗う。
縁側に戻ると座布団が増えていてメニュー表が並んでいた。
「真奈さん、何食べたい?」
「う~ん、私は決められないタイプなので良平さんと佐野さんが食べたいものでいいです。このところずっと出前ですよね。何食べられてたんですか?」
「次はこれかこれじゃない、良平さん。」
「真奈さん、どっちがいい?」
「・・こっち!いろいろあります。良平さんいいですか?」
「いいよ、何にするかのう。」
メニューを決めて良平さんに電話してもらう。
佐野さんはバッグを持ってもう一度水道のところへ。
着替えて帰ってきた。
「私お茶淹れてきますか?」
「真奈さんはお客さんじゃい。冷たいのを持ってくるわい。」
「佐野さん、これ冷やしててもらう?」
「良平さん、これお願いします。忘れてました。これも、冷凍室ですよ。」
お昼が届いてランチタイム。
「良平さん、お昼はいつもどうしてるんですか?」
「嫁が作っておいてくれるんじゃ、よう出来とる嫁じゃ。」
きっと、じゃあ一人なんだろうなあ。お孫さんが帰って来るまで一人。
鳥が遊びに来てくれたらうれしいだろう。
「あとでパン屋さんに出す看板を一つ作るんです。切り落とした木材を頂いて、一緒に作りませんか?」
「看板とな。」
「はい、佐野さんと違って不器用なので釘と一緒に自分の手を打ち付けるパターンです。佐野さんは仕事中だし、お願いします。良平さん、器用ですよね、私よりは。」
「真奈さん、さすがにずっと器用だよ。目をつぶっても勝つかもね。」
「佐野さん、また、馬鹿にしてませんか?じゃあ良平さん、お願いします。一緒に佐野さんが褒めたくなるようなの作りたいので。」
手を合わせて拝む。
「ええよ。暇じゃし。」
「あとで絵を描いて見本を見せます。立派なの作りましょうね。」
「佐野さん、道具貸してくださいね。」
「どうぞ。怪我には気を付けてね、2人とも。」
「大丈夫です、こっちは百人力です。」
「佐野さん、良平さんとお孫さんに来月のキャンペーンのパンを届ける約束しました。時間のある時に配達をお願いしてもいいですか?私がお昼時間に来るとゆっくりお喋りする時間もなさそうで。」
「いいよ。本当にやる気だね。その内パン屋さんをやりたいとか言い出しそうだね。」
「全然分からないから出来るんです。材料費とか利益とか作業の手間とか、私は全く考えてませんから。務さんと今日子さんは面倒かもしれません。だからちゃんとやりたいんです、一ケ月。」
「了解。じゃあ良平さん、電話してから来ますね。」
「ええのう、楽しみじゃのう。」
「縁側でご飯って楽しいですね。ほとんどお喋りしながらすっかりおいしく完食です。」
「最近良平さんと2人きりだったから、真奈さん一人いるだけでもにぎやかだし、いいね。」
「私もいつもお昼は一人です。寂しいですよ。あんまり食べる気がしないですもん。だから今日は私もうれしいです、楽しいし美味しい。」
佐野さんも食べ終わり少し休憩して、さてと、と立ち上がる。ゴミを片付けて氷とペットボトルを持ってきてくれた良平さん。それを体にセッティングして二本目に取り掛かる佐野さん。
私は小さいスケッチブックを出してイラストを描く。
大したものじゃない、四角い看板の画。
いかにも手作り感を出した四角いフレーム取りしたものに自立するような足をつけて。
その辺は作る時に教えてもらうとして、看板には『雨の日キャンペーン』と文字を入れて周囲にはカエルやパンやテルテル坊主などのモチーフをくっつけて。丸い雨粒をカラフルに色付けてくっつけよう。
「良平さん、出来上がりです。こんなの作りたいです。」
「ほほう。また可愛らしい。どのくらいの大きさじゃろうか?」
「えっと、このくらいかな?」
適当に手で四角を作る。
「お店の外に置いて風で倒れないように重りをつけて自立させたいんですけど。」
説明すると良平さんにペンを取られて次のページにサラサラと足の部分を書かれた。
「これじゃとええのう、飛ばんようにここにレンガを置いたらええ。」
「分かりました。これでお願いします。」
「ほな、と。」
一緒に庭に降りてまとめた枝の束から数本引き抜き、他のところからもよさそうな木材を持ってきてくれた。ほとんど私は指示するだけで良平さんが切って打って整えて。
小一時間で出来上がったのは画にかいたような看板。
「かわいいです。イメージ通り。すごい、私何もしてないのに・・・。」
「ちゃんと立つじゃろ。」
「はい、大丈夫です。」
必要もなかった軍手を外しながら手を叩く。
「佐野さん、びっくりしますよ。楽しみ。」
しばらくすると上から声がした。午前中と同じように道具を交換して、落ちてくる木材を拾い集めて縛る。お終い。
佐野さんと手を洗い縁側に戻る。
着替えをして頭からボタボタとしずくを垂らしながら歩いてきた佐野さんに看板を指さして自慢する。
「佐野さん、見てください。これ作りました!」
「おお、可愛いね。廃材からのリメイクも手作りっぽい感じがいいね。」
「そうですよね、イメージぴったり。」
「お疲れさまでした、良平さん。」
「なになに。楽しかったのう、真奈さん。」
「はい。でも私も少しは手伝いましたよ。」
「うん、悲鳴が聞こえなかったから大体わかる。怪我もしてないしね。」
「なんだかひっかかるような言い方ですね、だって本当にあっという間に作ってもらえたんです。」
「だから器用だって言ったじゃない。」
「だって餌台作るのを頼まれたって言ってたから。」
「そうだよね、これが出来るならササっと作れるでしょう。」
「いやいや老体に鞭は、ほんのたまにだけじゃ。」
「都合のいい時だけ年寄りぶって。」
「でも良かったね。お店にも合うんじゃない?」
「はい、出していいって言われたら飾ります。」
「ここまで作ってダメっては言われないよ。」
「はい。」まあ、そうだろう。
お茶を飲んで佐野さんが明日の予定を決めてお暇することになった。
「じゃあ、また遊びに来ます。その時までに鳥を餌付けしておいてくださいね。」
「楽しみにしとるわい。佐野君もお疲れ。」
看板をかごに入れて自転車に乗る。佐野さんの後をついて漕いで行く。
「こんにちは~、どうも~、佐野です。助手も一緒ですよ~。」
ガラガラと引き戸を開けて中に入る。これが門?
飛び石を歩いてお家へ。四角い敷地に四角い家、周りに庭。
その周囲を立派な塀や生け垣やらが取り囲む。
敷地に森がある・・・みたいな家。
返事がしたけど出てくる気配はない。佐野さんはぐるりと庭に回る。
縁側にのんびりと腰掛けたおじいさんがいた。
「どうも、良平さん。助手を連れてきました!」
「おぉぉぉぉ、待ってた待ってた。真奈ちゃん。」
手を出されたので握手する。
「真奈です、こんにちは。お邪魔します。」
「邪魔なもんかね。佐野君もバリバリと働くじゃろうし、爺も若返るっちゅう奴じゃ。ほらほら、座布団座布団。」
大きな手で座布団をぱんぱんとされた。
いきなり活きが良くなったお爺さん・・・。
「良平さん、今日はやたら元気ですね。僕の助手ですからね。良平さんの爺守じゃないですよ。」
「けっ、見せびらかしおって。ちいぃっとばっかり貸してくれても減らんやろう。なぁ。」
「はい。」
家族は何を心配してる?まだまだ元気じゃない。
「じゃあ、良平さん今日はこの二本やります。脚立借りますね。」
「佐野さん、押さえますか?」
「ううん、大丈夫。慣れてるし。」
荷物を廊下に置いて氷を手ぬぐいにくるんで首に巻く。ペットボトルを一本腰に差して虫よけスプレーをして麦わらをかぶって道具を持って脚立を登っていく。
「じゃあ、真奈さん日焼けしないように、日陰にいて。適当にお水飲んでね。良平さんもね。声かけたら道具渡してね。」
スルスルと登りながら木にまたがった佐野さん。
腰からの紐を一応枝にかけている。
「気を付けてくださいね。」
ちょっと怖い。もし落ちたりしたらすごい怪我しそう。
「大丈夫だよ。」
笑顔を返されて、指で良平さんの方を指す。
邪魔してもいけないので大人しく縁側に戻る。沓脱石の立派なものがあった。
下駄があるのが古風。そこから縁側に上がって良平さんの用意してくれた座布団に腰掛ける。
「お邪魔します。私はしばらく役目はないようです。」
「一緒に仕事に来るのは初めてかな?」
「はい。」
「助手なのに?」
「あ、それは・・・いろいろ他の事では・・・・。」
え、佐野さんこれは何て説明してるの?
「ふぉふぉ、まあ想像がつくわい。爺の相手に連れてきたんじゃろう。今日は高いところをやる予定じゃったし。」
「はい、まあ。でも手伝いもします、声がかかったら。」
「やっと一人前になったのう、佐野君も。」
「佐野さんとは長いんですよね。」
「そうじゃ、4、5年になるか、まだまだひよこの駆け出しのころから。剪定も教えたし、他の家も紹介したし。今は年に2回だけやのう。」
「凄く立派なお宅でびっくりしました。見せる緑や石がすごく素敵です。マンションの狭い部屋に慣れてると新鮮です。」
「ばあさんが生きとったら掃除もようしたんじゃが、今は子供夫婦も忙しいから手が回らん。わしがいなくなったら売り払わんと。広いだけで税金取られ損じゃからなあ。」
「もったいないですけどいろいろと大変そうですよね、手入れも掃除も。旅館みたいです。のんびりとこんな廊下でお茶飲んだり昼寝したり、猫を撫でたりしたいです。」
「仕事はいつもは何しとる?」
「商店街のパン屋で働いてます。ちょっとここからだと自転車でも15分くらいありますね。駅が違うからなかなか商店街にもいらっしゃいませんよね。」
「買い物はせんからなあ。嫁さんに任せてる。」
「来月は私が張り切って企画したキャンペーンなんです。カエルとテルテル坊主と雨粒もどきのビー玉とアジサイと。よろしかったらお届けしましょうか?小さいお子さんには好評予定です。」
確かお孫さんが幼稚園生って言っていた。
「そりゃ、孫がよろこぶじゃろう。頼もうかのう。」
「はい、晴れた日にお昼の時間を使って届けます。道も覚えて帰りますし。楽しみにしててください。あ、佐野さんの空いてる時間に届けてもらえばいいんだ。事前に電話してもらいますね。」
「ええのう。ほいほいと佐野君を使ってやればいい。」
「え、そんな。私ももっと近かったら自分で届けますけど。私の往復だと30分くらいかかるし、お話しする時間もないです。佐野さんならそのあたり調節できそうだし。パンは美味しいんです。最近完売続きです。」
「今年は抜群に佐野君の調子がええと思ったら、真奈さんのおかげかな。」
「へ?」
「嫁が目ざといで、何かいい事あったって言うとった。女は恐ろしい、一度、ちょっと会っただけで感づいて。息子も浮気1つできんわ。旅行から帰ったら教えちゃろう。ふぉふぉふぉ。」
怖い、お嫁さん怖い。佐野さんどこが変わったんだろう?
「良平さんは何か変わったと気が付くところありますか?」素直に聞いてみる。
「ああ、余裕がな、随分感情に余裕が出とるな。」
お爺さんも怖い。何だろう感情の余裕って。
「佐野さんはずっとあんな感じでいつもニコニコと優しい気がします。気が利いて器用で穏やかで。」
なんだか自分の彼氏を他人に向かって堂々と褒めるのも照れる。
「そうやな、最初からじゃあなかった。仕事に慣れてもやっぱりどこか後ろめたそうな感じがあったからなあ。」
「後ろめたいですか?」
分からない。後ろめたい?
「なんやろな、自分の事は二の次にして他に気をつかわないといけないって思いこんでるような。」
役に立ちたいって言ってたからそういうことなんだろうか?
木の上にいるだろう佐野さんの方を見る。
「ようやく自分も大切にしたほうがいいことに気がついた感じや。わかるか?」
「はい、その意味は。でもそれを私が感じてるかというと全然分からないです。」
「真奈さんは大切にされてると感じるじゃろう?」
「はい、それは、いつも。」顔が熱い、照れる。
「それじゃよ。自分の大切なものを一番にしてから、他人じゃから。真奈さんの立場だとむしろ分からんかもな。」
なんかすごくうれしい事をまわりまわって聞いてる感じで。直接言われるのもうれしいけど、これもうれしい。一番って、大切って。
「私も大切です。一番に大切に思ってます。」
なかなか普通の時は言えないことをおじいさん相手だと言える。
「あ、一応内緒でお願いします。」
「まあ、真奈さんの言葉とはいえ爺の声では聞きとうないやろな。可愛い声で言ってあげっ。」
ははぁ~。恥ずかしいんですけど、さっきから。
手で風を送る。熱い。
「えっと、何の話でしたっけ?」
「佐野君と真奈さんの幸せの話やろか?」
「違います、パン屋さんの話です。」
「そういえば少し前にパン屋の前に子猫が捨てられていたんです。朝オーナーが見つけて佐野さんに里親探しを頼んだんです。」
とりあえず話を変えた。
「佐野さんの弟子の少年のネットワークであっという間に飼い主が見つかってもらわれて行きました。家族4人にかわいがられてすくすく大きくなってる写真が来たんです。パン屋の5歳の女の子が幼稚園から帰ってくる頃にはすでに子猫はいなくなっていて、佐野さん思いっきり殴られてました。待っててくれてもいいのに、さっさと飼い主見つけたって。大人でもちょっといると情が移りますから。泣いて抗議したいのは私も一緒でした。見つからなかったら数日位預かりたいって思ってたんですが。一人暮らしだと猫もかわいそうだから飼えないんですが。」
「一緒になったら飼えばいい。」
「一緒?」
「佐野君と。ここに連れてくるくらいだからそういうことだと思っとるが。いい加減なことはせんからなあ。」
「佐野さんの事、私以上に周りの人は良く知っていて。私は知り合ってそんなに間もないので、よく分からないです、いろいろ。」
「そりゃあ、見てるところが違うから、仕事するのと、個人的にもっと生活レベルで付き合うのは違うやろう。真奈さんが見るのはいろんな場面での対応と態度で、仕事相手が見るのは頼んだことをどのくらいきちんと取り組むか仕事に対する向き合い方だけやろう?外面だけや。こんなにまじめに仕事すれば浮気はせんやろうと思っても実はするかもしれん、こんなに優しい態度じゃあ、喧嘩なんかしても手をあげんやろうと思っても実はそうじゃないかもしれん。表だけだと分からん。それは誰でもそうや。本当のところは本人にしか分からん。でも長く付き合えばそれなりには隠せない部分もあるやろ。そこが見えるだけや。だから、一番知ってるのはやっぱり佐野君に近い真奈さんや。部屋で二人だと飾る必要もないやろ、想像はできんがうんと甘えてるかもしれんし、亭主関白かもしれん。どっちでもない普通かもしれん。それは想像の域やから。」
「一応、普通です。」
「ふぉふぉ、そうかい、つまらん。」
馬鹿正直に答えたのは普通だから。きっと甘え癖があったら言えない。
「何がつまらん!のですか?」
きゃっ。思わずちょっとだけ背筋が伸びた。いつの間に。あ、道具。
「すみません、すっかり話し込んで忘れてました。呼びました?」
急いで駆け寄る。
「大丈夫。ちょっと休憩。」
「良平さん、楽しそうですね。顔がにやけて皺が増えてますよ?」
「そうかのう?愉快な話ができるもんでのう。」
佐野さんが水を飲みながら沓脱石に座る。
開け放たれた和室に団扇が見えた。
「団扇借りてもいいですか?」
良平さんがうなずくのを見てお邪魔しますと言って取りに行く。
手にした団扇で佐野さんを仰ぐ。
「ありがとう。」
「順調ですか?」
「そうだね。お昼までに一本終わらせるよ。次は道具の声かけるから、気がついてね。」
「はい。大丈夫です、多分。」
「よし、じゃあ、行ってくるね。」
脚立を登るのを押さえながら見送る。
「じゃあ、待ってます。」
「縁側にいていいよ、まだかかるから。」
「はい。」
また縁側の座布団に戻る。
「ええのう、若いいうんわ。財産じゃあなあ。」
「良平さん、奥さんと出会ったのは何歳の頃だったんですか?」
「爺も若かったで、22歳で見合いして結婚や。ばあさんは19歳やったのう。」
「へえぇ~、私の今と同じ歳です。早いですね。お見合いして初めて会った時はどうでした?」
「そりゃあ、えらいすましておったが、時々恥ずかしそうにうつむくのが可愛いいって、騙されるやろうなあ、わしも若かったしのう、まだまだやった。」
「騙されました?」
「騙された、まっこと女は逞しい。いままで一度も勝ったと思ったことがないわ、とうとう勝ち逃げされた。」
「それはわざと負けてたんじゃないですか?」
「おりょう、違うのう、手加減はせん、いつでも完敗や。」
「何年間一緒に過ごされたんですか?」
「50年ほどや。長いのか、短いのか。いなくなってもう6年や。」
「長いようですけどね。」
「佐野君が来るようになったのも入れ替わりぐらいやから、佐野君は会ってないのう。今日こんなかわいい子を紹介されるんだったら、わしも婆さんを紹介したかったわなあ、真奈さんにも。」
「はい、お会いしたかったです。全勝勝ち逃げの奥さんに。いろんなコツを伝授してもらいたいです。」
「生まれながらに持っとるんじゃ、女は強い、怖い、侮れん。」
「もし50年後に佐野さんの口から同じこと聞いたら、私爆笑して良平さんを思い出します。」
50年後、まったく見えないけど。
「真奈さんも言われるんだろうなあ、来年あたりには佐野君がこぼしよるやろ。」
「いろんな意味で早くないですか?」
「それが、ええやろ?」
何とも言えずに笑う。
「冬の前にもまた庭掃除を佐野君に頼むから、一緒に来てくれるとうれしいのう。」
「冬まで待たずに来ますよ。」
「そうかい、楽しみが増えたのう。」
「真奈さん、聞こえますか~?」
「あ、呼んでます。行ってきます。は~い。」
木の下に行って見上げる。
佐野さんから大きなノコギリを受け取る。
指定された道具を渡す。
「ちょっと離れてて、すぐ終わるから近くで待ってて。」
「はい。」
ボトボトと落ちる枝を離れて見ている。
しばらくして鋏を受け取り、次に長い鋏を渡す。
また後ろに下がり見ている。
長い鋏を受け取り地面に置き脚立を押さえる。
脚立を動かして落ちた枝を集め始めるのを手伝う。
「ありがとう。真奈さん終わったらお昼にしようね。」
「お疲れさまです。良平さん、もうすぐお昼ですって。何食べますか?」
良平さんが座布団を離れる。
枝を一つに集めて束ねるのをちょっとだけ手伝う。
「そういえば鳥のエサ台を作るんだ。後で二人に見てもらおうかな。」
「鳥が来るんですか?」
「昔あったけど今無くなったらしくて、新しく作りたいってことで。この辺の廃材で作ろと思ってるんだ。」
「佐野さん、私も作りたいです看板。来月のキャンペーン用の看板。」
「いいよ、得意のスケッチ書いてくれたら必要なもの準備するし手伝うよ。」
「ありがとうございます。午後書いちゃいます。良平さんにも見てもらおうっと。」
まとめて午前分終了。結局手伝ったのは最後だけ。
一緒に外の水道で手を洗う。
縁側に戻ると座布団が増えていてメニュー表が並んでいた。
「真奈さん、何食べたい?」
「う~ん、私は決められないタイプなので良平さんと佐野さんが食べたいものでいいです。このところずっと出前ですよね。何食べられてたんですか?」
「次はこれかこれじゃない、良平さん。」
「真奈さん、どっちがいい?」
「・・こっち!いろいろあります。良平さんいいですか?」
「いいよ、何にするかのう。」
メニューを決めて良平さんに電話してもらう。
佐野さんはバッグを持ってもう一度水道のところへ。
着替えて帰ってきた。
「私お茶淹れてきますか?」
「真奈さんはお客さんじゃい。冷たいのを持ってくるわい。」
「佐野さん、これ冷やしててもらう?」
「良平さん、これお願いします。忘れてました。これも、冷凍室ですよ。」
お昼が届いてランチタイム。
「良平さん、お昼はいつもどうしてるんですか?」
「嫁が作っておいてくれるんじゃ、よう出来とる嫁じゃ。」
きっと、じゃあ一人なんだろうなあ。お孫さんが帰って来るまで一人。
鳥が遊びに来てくれたらうれしいだろう。
「あとでパン屋さんに出す看板を一つ作るんです。切り落とした木材を頂いて、一緒に作りませんか?」
「看板とな。」
「はい、佐野さんと違って不器用なので釘と一緒に自分の手を打ち付けるパターンです。佐野さんは仕事中だし、お願いします。良平さん、器用ですよね、私よりは。」
「真奈さん、さすがにずっと器用だよ。目をつぶっても勝つかもね。」
「佐野さん、また、馬鹿にしてませんか?じゃあ良平さん、お願いします。一緒に佐野さんが褒めたくなるようなの作りたいので。」
手を合わせて拝む。
「ええよ。暇じゃし。」
「あとで絵を描いて見本を見せます。立派なの作りましょうね。」
「佐野さん、道具貸してくださいね。」
「どうぞ。怪我には気を付けてね、2人とも。」
「大丈夫です、こっちは百人力です。」
「佐野さん、良平さんとお孫さんに来月のキャンペーンのパンを届ける約束しました。時間のある時に配達をお願いしてもいいですか?私がお昼時間に来るとゆっくりお喋りする時間もなさそうで。」
「いいよ。本当にやる気だね。その内パン屋さんをやりたいとか言い出しそうだね。」
「全然分からないから出来るんです。材料費とか利益とか作業の手間とか、私は全く考えてませんから。務さんと今日子さんは面倒かもしれません。だからちゃんとやりたいんです、一ケ月。」
「了解。じゃあ良平さん、電話してから来ますね。」
「ええのう、楽しみじゃのう。」
「縁側でご飯って楽しいですね。ほとんどお喋りしながらすっかりおいしく完食です。」
「最近良平さんと2人きりだったから、真奈さん一人いるだけでもにぎやかだし、いいね。」
「私もいつもお昼は一人です。寂しいですよ。あんまり食べる気がしないですもん。だから今日は私もうれしいです、楽しいし美味しい。」
佐野さんも食べ終わり少し休憩して、さてと、と立ち上がる。ゴミを片付けて氷とペットボトルを持ってきてくれた良平さん。それを体にセッティングして二本目に取り掛かる佐野さん。
私は小さいスケッチブックを出してイラストを描く。
大したものじゃない、四角い看板の画。
いかにも手作り感を出した四角いフレーム取りしたものに自立するような足をつけて。
その辺は作る時に教えてもらうとして、看板には『雨の日キャンペーン』と文字を入れて周囲にはカエルやパンやテルテル坊主などのモチーフをくっつけて。丸い雨粒をカラフルに色付けてくっつけよう。
「良平さん、出来上がりです。こんなの作りたいです。」
「ほほう。また可愛らしい。どのくらいの大きさじゃろうか?」
「えっと、このくらいかな?」
適当に手で四角を作る。
「お店の外に置いて風で倒れないように重りをつけて自立させたいんですけど。」
説明すると良平さんにペンを取られて次のページにサラサラと足の部分を書かれた。
「これじゃとええのう、飛ばんようにここにレンガを置いたらええ。」
「分かりました。これでお願いします。」
「ほな、と。」
一緒に庭に降りてまとめた枝の束から数本引き抜き、他のところからもよさそうな木材を持ってきてくれた。ほとんど私は指示するだけで良平さんが切って打って整えて。
小一時間で出来上がったのは画にかいたような看板。
「かわいいです。イメージ通り。すごい、私何もしてないのに・・・。」
「ちゃんと立つじゃろ。」
「はい、大丈夫です。」
必要もなかった軍手を外しながら手を叩く。
「佐野さん、びっくりしますよ。楽しみ。」
しばらくすると上から声がした。午前中と同じように道具を交換して、落ちてくる木材を拾い集めて縛る。お終い。
佐野さんと手を洗い縁側に戻る。
着替えをして頭からボタボタとしずくを垂らしながら歩いてきた佐野さんに看板を指さして自慢する。
「佐野さん、見てください。これ作りました!」
「おお、可愛いね。廃材からのリメイクも手作りっぽい感じがいいね。」
「そうですよね、イメージぴったり。」
「お疲れさまでした、良平さん。」
「なになに。楽しかったのう、真奈さん。」
「はい。でも私も少しは手伝いましたよ。」
「うん、悲鳴が聞こえなかったから大体わかる。怪我もしてないしね。」
「なんだかひっかかるような言い方ですね、だって本当にあっという間に作ってもらえたんです。」
「だから器用だって言ったじゃない。」
「だって餌台作るのを頼まれたって言ってたから。」
「そうだよね、これが出来るならササっと作れるでしょう。」
「いやいや老体に鞭は、ほんのたまにだけじゃ。」
「都合のいい時だけ年寄りぶって。」
「でも良かったね。お店にも合うんじゃない?」
「はい、出していいって言われたら飾ります。」
「ここまで作ってダメっては言われないよ。」
「はい。」まあ、そうだろう。
お茶を飲んで佐野さんが明日の予定を決めてお暇することになった。
「じゃあ、また遊びに来ます。その時までに鳥を餌付けしておいてくださいね。」
「楽しみにしとるわい。佐野君もお疲れ。」
看板をかごに入れて自転車に乗る。佐野さんの後をついて漕いで行く。
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