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9 予想以上に押された体が滑り出した日。
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自分の手に温かいものが触れた。
真奈さんが袖をつかんで引き止めたらしい。
少しふれ合った手にドキドキする。やはりこの辺りは小学生レベルか。
「あの、文房具屋さんに寄ってもいいですか?」
すこし恥ずかしそうにお店を指して言う。
そういえばイラストを描いたりするんだった。
「どうぞ。」
くっついて歩くのもどうかと思ったので本の棚の方へ行きふらふらとする。
このあと、良ければ部屋でもう少し一緒にいたいと正直に言おう。
この流れでタイミングを逃すつもりはない。
商店街の中にも噂が流れそうだ。
それに出来ればあの日デートしていた相手についても聞いてみたい・・・か?やっぱりやめよう。今日子さんから聞いたことを信じよう。
そして、ちらりと時計を見る。まだ時間はたっぷりとある。
気を利かしてるのか、直樹から連絡はない。
尊敬する小学生の直樹。本当に役に立つ男だ。
そんな直樹にさすがに報告することはできないが、胸を張れる展開にはしたい。
告白して、抱き寄せるくらいは。
真奈さんの気持ちも聞いたい、知りたい、自分たちの距離は今どのくらい近いのか。
一緒に少し町を離れたデートもしたい。
後ろから声をかけられるまで本棚の前で考えていた。
「佐野さん、何かプレゼントですか?」
その本棚が小学生向けの百科事典や教育書のコーナーだった。良かった、まだ無害なコーナーで。
「いえ、最近動物の事をもっと勉強した方がいいかなって思ったりして。あと宿題の手伝いもするから。夏休みなんて去年すごかったんです。小学生の課題と侮るなかれですよ。」
適当な言い訳はさほど変でもなかった。
「本当に仕事もいろいろですね。」
「そうですね。真奈さん、買い物は?」
「はい、終わりました。」
小さい袋を見せてくれる。
「じゃあ、行きますか?」
「はい。」
一緒に本屋を出てまた真奈さんの部屋への道のりを歩く。ゆっくり。
振り返ると真奈さんがいて視線が合う。
何でしょうという顔をするのが可愛い。自然と笑顔になり、にっこり笑う。
「荷物、持ちましょうか?気がつかなくてすみません。」
「いえ、大丈夫ですよ。かさばるけど重くはないですから。」
「でも、せっかくなんで。」
彼女から荷物を奪うように受け取る。
触れた手をそのままつなぎたいけどまだ出来ない。
つないだら振りほどかれるだろうか?
「佐野さん、次のお仕事の時間は大丈夫なんですか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
時計をもう一度確認する。携帯のアラームもかけている。
「どこか他に行きたいところありますか?」
「あ、いいえ。部屋に、良かったらまた私の部屋に来ませんか?」
真っ赤になって下を向いた真奈さん。
「はい、喜んでお邪魔します。」
そう言った後は無言で歩く。
部屋の中に入り、窓を閉める真奈さん。
「お邪魔します。」と言って続いた自分から荷物を受け取る。
薄いカーテン越しにも天気のいい青空が見える。
壁に向かいあの子猫の写真を見つめる。
「真奈さん、子猫元気だといいね。」
「はい、さ・・・あ、子猫も大きくなってるでしょうね。」
「そうだね。知ってる子供だったら写真を送ってもらうんだけど、僕は直接知らない子なんだ。」
「大丈夫です。すごく大切に育ててもらってますよ、きっと。」
「僕もそう思う。」
「どうぞ。」
緑茶を入れたカップを持ってテーブルに置く。壁にクッションがあり二つ並んだカップ。
この間と同じような位置に座る。
「稲葉さん、どうだった?」
「すごく変わった人ですね。そんなペットを飼っていてお仕事は何してるんでしょうか?自宅仕事でしょうか?」
「そうだね。自宅でできる仕事なんでちょいちょい気分転換に動物に話しかけてるって言ってたから。」
「あの、僕と稲葉さんの話、聞こえてなかったよね?」
「はい?えっと・・・。」
「気にしないで。」いい、聞かれない方が。
にっこりと安心の笑顔を見せてしまう、小さい器の自分が恥ずかしい。
小細工と言えるほどのものでもないが予防線をしっかり張ったのだ。
「そういえば真奈さんの部屋って、もっと女子っぽいものがあふれてるイメージだったけど。すごくシンプルに整理されてるよね。」
「引っ越ししてくるときにほとんど処分しました。ちょっといろいろ嫌になってしまったのもあって。」
「そう、僕の部屋はすごいよ、いろんな仕事道具が。こんなにきれいじゃないし。しばらく使ってない道具を探すのに埃まみれになるくらい。でも、良かったら今度来てもらえるかるな?僕の部屋にも。」
「・・・はい。」
2人でマグカップ持ちお茶を飲む。
隣でコトリとテーブルに置かれる音がした。
真奈さんを見て自分もカップを置く。
視線に気がついたのかこっちを見て、目が合う時間。
思い切って手を伸ばして抱きしめた。
「真奈さん、嫌だったら振りほどいて。」
簡単には振りほどけないくらい力を入れて抱きしめる。
お互いの鼓動がうるさく反響し合う。体に力が入って固まっているのがわかる。
「真奈さん、このまま抱きしめててもいいの?」
真奈さんの顔を胸に押し付けて頭の上から聞く。
ゆっくりと体の力が抜けてもたれてくるのが分かった。
「今日はいつもと違って、すごく・・・・。僕の気持ちに気がついてくれたのかなって?思ってたけど?」
特に反応はない。
「それは僕の思い上がった勘違いだったかな?」
目を閉じて真奈さんの体温や香りを感じながらしゃべる。
じんわりとした心地よさに幸せを感じて、まさかその後両手で胸を突かれて振りほどかれるなんて思ってもいなかった。
「そうやって私ばっかり考えさせて答えさせようとして、佐野さんはひどいです。今日子さんにはすぐに何でもメールしてるのに。すぐに会いに行くって言っても私には全然メールもしてくれない。皆に優しいのを知ってるって言った私にはちゃんと違いを見てとか、分からない、そんなの。いつもそんな事ばかり言って肝心な言葉は一つも言ってくれないから。今日子さんが無理やり頼まないと私と2人きりなることもないじゃないですか。さやかちゃんをなだめる様に私をなだめて。私は年下ですけど大人です。二人でいても子ども扱いばかり。この間だって泣き止んだ私に仕事は終わり、ここまでってさっさと立ち上がって帰って行って。私は一人残されて寂しくて寂しくて。それなのに何を分かれっていうんですか?知ってますよ、佐野さんが私にも優しいのは、だって本当にみんなに平等に優しいじゃないですか。」
途中から流れる涙に気がつかないのかそのまま頬を濡らしながら言う。
怒ってるんじゃなくて、ひどく傷ついてるような顔で言う。
でもその言葉の内容は決して自分にとって嫌な内容じゃなかった。
肝心の言葉、確かに言ってないかもしれない。まだ自信がなくて。
無言でいる自分に耐えられなくなったのか一度うつむいた顔をあげてきた。
反省してますという表情が張り付いてる。
その顔も今日はもう二度目だから。
にっこり笑って安心させる。大丈夫だからと。
「そうやって・・・・だから、普通は怒るところなんです。そうやって大人のふりして、甘やかすようにして、しょうがないなあって子ども扱いして。嫌なんです、もう。本当に自分だけ全然大人になれてないみたいで。」
そんなことはないのに。
「そう?じゃあ、怒ろうか?とっても嬉しい愚痴でしたが真奈さんが怒れというなら僕も怒るポイントはあるよ。そうだね、初めて会った時一目ぼれしました。自分も舞い上がっていて、一緒にいた小学生にもすぐにバレたよ、パン屋の姉ちゃんが好きなんだろうって。今日子さんにも務さんにもバレてしまって。今日子さんが世話を焼くタイプであれこれと背中を押されて。それなのにまさか他の男の人とデートしてるなんて思いもしなかったなあ。その日会ったんだよね。例の小学生が次の日には相手の素性まで知らせてくれて、おかげですっかり説教です、小学生にですよ。今日も真奈さんが公園に来たことを知らせてくれたのもその子で、僕が行くより早く真奈さんがどこかに行こうとしたら引き止めるからって、頼もしいでしょう?僕もすっかりその子に甘えしまって。この間ここに来たのも頼まれなくても来るつもりだったし。今日子さんに部屋番号を教えてもらってラッキーって心で喝采だったよ。あの時もなだめてるふりしてひたすら頭と背中を撫でて。まさかさやかちゃんと同じ手触りの訳ないじゃない。我慢できなくてグッと体をくっつける様に抱き寄せてしまったし、髪の毛には何度もキスしたし。されてる本人が気がついてないだけで。ただ、あれ以上あのまま一緒にいたら自分が止められなくなりそうだったから・・・・そんな衝動を知られたくなくて、すぐ背中を向けてしまったのは反省したから。遠慮しなくてよかったの?そういうことだよね?」
話を聞きながらまたもたれるように倒れてきた頭。
あの日と同じように髪にキスをする。
なんども、耳に触れて頬を撫でる。
「じゃあ、ちゃんと肝心なことを言うのでこっちを向いて。」
顎をちょっと押し上げる様にして顔を見て髪を横に払う。
顔を近づけて視線を合わせたまま。
「好きだよ、初めて会った時から。もっと僕と一緒にいて欲しい。他の人には触らせたくない。僕だけに守らせて。」
言いながら唇を寄せてキスをする。頬に手を当てて何度も繰り返す。
「さやかちゃんとは違うって、ちゃんと感じて。」
片手は頭の後ろに滑らせて、ぐっと顔を近づけて深いキスに変える。
頬にあてていた手を肩から腰へと回す。自分に引き寄せながら彼女と重なるように後ろに倒れる。足を絡める様にして体を密着させる。時間がないのは分かっていても離したくなくて。
体を入れ替え上になり耳元へキスをする。
大好きだとくり返し、音を立ててキスをして軽く噛んだり唇で挟んで引っ張ったり。
その度に小さな喘ぎ声をあげて体を震わせる彼女。
「佐野さん・・・好きです。」
首から鎖骨へとキスを移動させていく。
お互いに絡め合った下半身。彼女のワンピースもはだけて膝上かなりの部分まで足があらわになる。キスを繰り返して時々強く吸いつく。手は胸に当てて優しくゆする。
「ん、はぁ、はぁ、ぁぁ。」
彼女の息遣いが荒くなるのを聞きながら自分の腰を強く彼女の腹部に押し付ける。
この間は何とか堪えたけど。ああ、時計が見たい、あとどのくらい時間があるのか。
でも、その時間すら惜しい、熱くなった体を離したくない。
2人の間の布が邪魔で彼女に触れられないもどかしさ。
今日欲しいと思ったらどうにもならなくて。
「まな、まな・・・・。」
呼び捨てで名前を呼びながらスカートの上から腰を合わせる。
彼女の足を自分の腰に乗せる。彼女が自分の固いものを感じて声をあげる。
そのままゆっくりと腰を押し上げて彼女の真ん中を刺激していく。
「まな、もっと声を出して、もっと。」
もっと腰を強く押し付け彼女の腰しがみつくようにして動く。
腰を振りながらも逃げる様に彼女が動くのを必死で抑える。
彼女の嬌声がもっともっとと自分に言ってるように感じてひたすら快感を感じながら動く。
彼女の手が自分の頭に置かれて力がこもる。
彼女が背中をそり返し大きく叫ぶ。
彼女の震えが自分にも伝わり大きな息を吐いてゆっくりと動きを落とす。
そのまま体を寄せ合い抱き合い、彼女の息が落ち着いてくるのを待つ。
縋りついてくる彼女を胸に抱いてたとえようもない心地よさと安堵感を感じる。
頭を撫でながら髪にキスをする。
「大好きだよ。」
彼女の手が背中に回りぎゅっと力がこもる。
時間はまだ大丈夫だろう。もうしばらくこうしていよう。
髪にキスをして目を閉じる。
「ねえ、真奈さん、今夜仕事終わってから、着替え持ってここに来ていい?」
彼女がふと腕の力を緩めたが、もう一度ぎゅっと力を込めてうなずく。
「ありがとう。夜ごはん買ってくるから。8時くらいかな。明日まで一緒にいたい。」
小さくうなずくのが分かった。
「ねえ、真奈さん。顔をあげてくれないの?声も聞きたいのに。」
少しおでこを胸から離す。作った隙間から視線が上がる。
「ねえ、それじゃあ恨みがましい目になってるから。」
グッと自分の体を下げて彼女の顔の正面で視線を合わせる。
思いっきり視線を外されて下を向かれる。
「ねえ、真奈さんが言ったんだよ。子ども扱いするなって。もしかして怒ってる?」
首を振る彼女。
「ごめんね、時間があんまりないから。夜はもっとちゃんとするから。」
ゴンと胸に頭突きが来た。痛い。
「ねえ、何とか言ってよ。わかんないよ。」
「・・・・もう、恥ずかしいからやめてください。」
「まだまだだよ、服着たままだったし。」
ゴンゴン。だから痛いって。
おでこを押さえる彼女。
「続きは今夜、ね。」
背中をポンポンと叩く。
しばらくそうしてると携帯がアラームを知らせる。
「ああ、仕事に行かなくちゃ。真奈さんは少しのんびりしてて。じゃあ後でね。出来るだけ早く帰ってくるから。」
ちょっとだけ強引に顔をあげさせて視線を合わせキスをする。
にっこり笑ってもう一度。
「じゃあ、行ってくるから。」
「行ってらっしゃい。気を付けて。」小さくつぶやく。
「うん、ありがとう。鍵かけてね。」
真奈さんが袖をつかんで引き止めたらしい。
少しふれ合った手にドキドキする。やはりこの辺りは小学生レベルか。
「あの、文房具屋さんに寄ってもいいですか?」
すこし恥ずかしそうにお店を指して言う。
そういえばイラストを描いたりするんだった。
「どうぞ。」
くっついて歩くのもどうかと思ったので本の棚の方へ行きふらふらとする。
このあと、良ければ部屋でもう少し一緒にいたいと正直に言おう。
この流れでタイミングを逃すつもりはない。
商店街の中にも噂が流れそうだ。
それに出来ればあの日デートしていた相手についても聞いてみたい・・・か?やっぱりやめよう。今日子さんから聞いたことを信じよう。
そして、ちらりと時計を見る。まだ時間はたっぷりとある。
気を利かしてるのか、直樹から連絡はない。
尊敬する小学生の直樹。本当に役に立つ男だ。
そんな直樹にさすがに報告することはできないが、胸を張れる展開にはしたい。
告白して、抱き寄せるくらいは。
真奈さんの気持ちも聞いたい、知りたい、自分たちの距離は今どのくらい近いのか。
一緒に少し町を離れたデートもしたい。
後ろから声をかけられるまで本棚の前で考えていた。
「佐野さん、何かプレゼントですか?」
その本棚が小学生向けの百科事典や教育書のコーナーだった。良かった、まだ無害なコーナーで。
「いえ、最近動物の事をもっと勉強した方がいいかなって思ったりして。あと宿題の手伝いもするから。夏休みなんて去年すごかったんです。小学生の課題と侮るなかれですよ。」
適当な言い訳はさほど変でもなかった。
「本当に仕事もいろいろですね。」
「そうですね。真奈さん、買い物は?」
「はい、終わりました。」
小さい袋を見せてくれる。
「じゃあ、行きますか?」
「はい。」
一緒に本屋を出てまた真奈さんの部屋への道のりを歩く。ゆっくり。
振り返ると真奈さんがいて視線が合う。
何でしょうという顔をするのが可愛い。自然と笑顔になり、にっこり笑う。
「荷物、持ちましょうか?気がつかなくてすみません。」
「いえ、大丈夫ですよ。かさばるけど重くはないですから。」
「でも、せっかくなんで。」
彼女から荷物を奪うように受け取る。
触れた手をそのままつなぎたいけどまだ出来ない。
つないだら振りほどかれるだろうか?
「佐野さん、次のお仕事の時間は大丈夫なんですか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
時計をもう一度確認する。携帯のアラームもかけている。
「どこか他に行きたいところありますか?」
「あ、いいえ。部屋に、良かったらまた私の部屋に来ませんか?」
真っ赤になって下を向いた真奈さん。
「はい、喜んでお邪魔します。」
そう言った後は無言で歩く。
部屋の中に入り、窓を閉める真奈さん。
「お邪魔します。」と言って続いた自分から荷物を受け取る。
薄いカーテン越しにも天気のいい青空が見える。
壁に向かいあの子猫の写真を見つめる。
「真奈さん、子猫元気だといいね。」
「はい、さ・・・あ、子猫も大きくなってるでしょうね。」
「そうだね。知ってる子供だったら写真を送ってもらうんだけど、僕は直接知らない子なんだ。」
「大丈夫です。すごく大切に育ててもらってますよ、きっと。」
「僕もそう思う。」
「どうぞ。」
緑茶を入れたカップを持ってテーブルに置く。壁にクッションがあり二つ並んだカップ。
この間と同じような位置に座る。
「稲葉さん、どうだった?」
「すごく変わった人ですね。そんなペットを飼っていてお仕事は何してるんでしょうか?自宅仕事でしょうか?」
「そうだね。自宅でできる仕事なんでちょいちょい気分転換に動物に話しかけてるって言ってたから。」
「あの、僕と稲葉さんの話、聞こえてなかったよね?」
「はい?えっと・・・。」
「気にしないで。」いい、聞かれない方が。
にっこりと安心の笑顔を見せてしまう、小さい器の自分が恥ずかしい。
小細工と言えるほどのものでもないが予防線をしっかり張ったのだ。
「そういえば真奈さんの部屋って、もっと女子っぽいものがあふれてるイメージだったけど。すごくシンプルに整理されてるよね。」
「引っ越ししてくるときにほとんど処分しました。ちょっといろいろ嫌になってしまったのもあって。」
「そう、僕の部屋はすごいよ、いろんな仕事道具が。こんなにきれいじゃないし。しばらく使ってない道具を探すのに埃まみれになるくらい。でも、良かったら今度来てもらえるかるな?僕の部屋にも。」
「・・・はい。」
2人でマグカップ持ちお茶を飲む。
隣でコトリとテーブルに置かれる音がした。
真奈さんを見て自分もカップを置く。
視線に気がついたのかこっちを見て、目が合う時間。
思い切って手を伸ばして抱きしめた。
「真奈さん、嫌だったら振りほどいて。」
簡単には振りほどけないくらい力を入れて抱きしめる。
お互いの鼓動がうるさく反響し合う。体に力が入って固まっているのがわかる。
「真奈さん、このまま抱きしめててもいいの?」
真奈さんの顔を胸に押し付けて頭の上から聞く。
ゆっくりと体の力が抜けてもたれてくるのが分かった。
「今日はいつもと違って、すごく・・・・。僕の気持ちに気がついてくれたのかなって?思ってたけど?」
特に反応はない。
「それは僕の思い上がった勘違いだったかな?」
目を閉じて真奈さんの体温や香りを感じながらしゃべる。
じんわりとした心地よさに幸せを感じて、まさかその後両手で胸を突かれて振りほどかれるなんて思ってもいなかった。
「そうやって私ばっかり考えさせて答えさせようとして、佐野さんはひどいです。今日子さんにはすぐに何でもメールしてるのに。すぐに会いに行くって言っても私には全然メールもしてくれない。皆に優しいのを知ってるって言った私にはちゃんと違いを見てとか、分からない、そんなの。いつもそんな事ばかり言って肝心な言葉は一つも言ってくれないから。今日子さんが無理やり頼まないと私と2人きりなることもないじゃないですか。さやかちゃんをなだめる様に私をなだめて。私は年下ですけど大人です。二人でいても子ども扱いばかり。この間だって泣き止んだ私に仕事は終わり、ここまでってさっさと立ち上がって帰って行って。私は一人残されて寂しくて寂しくて。それなのに何を分かれっていうんですか?知ってますよ、佐野さんが私にも優しいのは、だって本当にみんなに平等に優しいじゃないですか。」
途中から流れる涙に気がつかないのかそのまま頬を濡らしながら言う。
怒ってるんじゃなくて、ひどく傷ついてるような顔で言う。
でもその言葉の内容は決して自分にとって嫌な内容じゃなかった。
肝心の言葉、確かに言ってないかもしれない。まだ自信がなくて。
無言でいる自分に耐えられなくなったのか一度うつむいた顔をあげてきた。
反省してますという表情が張り付いてる。
その顔も今日はもう二度目だから。
にっこり笑って安心させる。大丈夫だからと。
「そうやって・・・・だから、普通は怒るところなんです。そうやって大人のふりして、甘やかすようにして、しょうがないなあって子ども扱いして。嫌なんです、もう。本当に自分だけ全然大人になれてないみたいで。」
そんなことはないのに。
「そう?じゃあ、怒ろうか?とっても嬉しい愚痴でしたが真奈さんが怒れというなら僕も怒るポイントはあるよ。そうだね、初めて会った時一目ぼれしました。自分も舞い上がっていて、一緒にいた小学生にもすぐにバレたよ、パン屋の姉ちゃんが好きなんだろうって。今日子さんにも務さんにもバレてしまって。今日子さんが世話を焼くタイプであれこれと背中を押されて。それなのにまさか他の男の人とデートしてるなんて思いもしなかったなあ。その日会ったんだよね。例の小学生が次の日には相手の素性まで知らせてくれて、おかげですっかり説教です、小学生にですよ。今日も真奈さんが公園に来たことを知らせてくれたのもその子で、僕が行くより早く真奈さんがどこかに行こうとしたら引き止めるからって、頼もしいでしょう?僕もすっかりその子に甘えしまって。この間ここに来たのも頼まれなくても来るつもりだったし。今日子さんに部屋番号を教えてもらってラッキーって心で喝采だったよ。あの時もなだめてるふりしてひたすら頭と背中を撫でて。まさかさやかちゃんと同じ手触りの訳ないじゃない。我慢できなくてグッと体をくっつける様に抱き寄せてしまったし、髪の毛には何度もキスしたし。されてる本人が気がついてないだけで。ただ、あれ以上あのまま一緒にいたら自分が止められなくなりそうだったから・・・・そんな衝動を知られたくなくて、すぐ背中を向けてしまったのは反省したから。遠慮しなくてよかったの?そういうことだよね?」
話を聞きながらまたもたれるように倒れてきた頭。
あの日と同じように髪にキスをする。
なんども、耳に触れて頬を撫でる。
「じゃあ、ちゃんと肝心なことを言うのでこっちを向いて。」
顎をちょっと押し上げる様にして顔を見て髪を横に払う。
顔を近づけて視線を合わせたまま。
「好きだよ、初めて会った時から。もっと僕と一緒にいて欲しい。他の人には触らせたくない。僕だけに守らせて。」
言いながら唇を寄せてキスをする。頬に手を当てて何度も繰り返す。
「さやかちゃんとは違うって、ちゃんと感じて。」
片手は頭の後ろに滑らせて、ぐっと顔を近づけて深いキスに変える。
頬にあてていた手を肩から腰へと回す。自分に引き寄せながら彼女と重なるように後ろに倒れる。足を絡める様にして体を密着させる。時間がないのは分かっていても離したくなくて。
体を入れ替え上になり耳元へキスをする。
大好きだとくり返し、音を立ててキスをして軽く噛んだり唇で挟んで引っ張ったり。
その度に小さな喘ぎ声をあげて体を震わせる彼女。
「佐野さん・・・好きです。」
首から鎖骨へとキスを移動させていく。
お互いに絡め合った下半身。彼女のワンピースもはだけて膝上かなりの部分まで足があらわになる。キスを繰り返して時々強く吸いつく。手は胸に当てて優しくゆする。
「ん、はぁ、はぁ、ぁぁ。」
彼女の息遣いが荒くなるのを聞きながら自分の腰を強く彼女の腹部に押し付ける。
この間は何とか堪えたけど。ああ、時計が見たい、あとどのくらい時間があるのか。
でも、その時間すら惜しい、熱くなった体を離したくない。
2人の間の布が邪魔で彼女に触れられないもどかしさ。
今日欲しいと思ったらどうにもならなくて。
「まな、まな・・・・。」
呼び捨てで名前を呼びながらスカートの上から腰を合わせる。
彼女の足を自分の腰に乗せる。彼女が自分の固いものを感じて声をあげる。
そのままゆっくりと腰を押し上げて彼女の真ん中を刺激していく。
「まな、もっと声を出して、もっと。」
もっと腰を強く押し付け彼女の腰しがみつくようにして動く。
腰を振りながらも逃げる様に彼女が動くのを必死で抑える。
彼女の嬌声がもっともっとと自分に言ってるように感じてひたすら快感を感じながら動く。
彼女の手が自分の頭に置かれて力がこもる。
彼女が背中をそり返し大きく叫ぶ。
彼女の震えが自分にも伝わり大きな息を吐いてゆっくりと動きを落とす。
そのまま体を寄せ合い抱き合い、彼女の息が落ち着いてくるのを待つ。
縋りついてくる彼女を胸に抱いてたとえようもない心地よさと安堵感を感じる。
頭を撫でながら髪にキスをする。
「大好きだよ。」
彼女の手が背中に回りぎゅっと力がこもる。
時間はまだ大丈夫だろう。もうしばらくこうしていよう。
髪にキスをして目を閉じる。
「ねえ、真奈さん、今夜仕事終わってから、着替え持ってここに来ていい?」
彼女がふと腕の力を緩めたが、もう一度ぎゅっと力を込めてうなずく。
「ありがとう。夜ごはん買ってくるから。8時くらいかな。明日まで一緒にいたい。」
小さくうなずくのが分かった。
「ねえ、真奈さん。顔をあげてくれないの?声も聞きたいのに。」
少しおでこを胸から離す。作った隙間から視線が上がる。
「ねえ、それじゃあ恨みがましい目になってるから。」
グッと自分の体を下げて彼女の顔の正面で視線を合わせる。
思いっきり視線を外されて下を向かれる。
「ねえ、真奈さんが言ったんだよ。子ども扱いするなって。もしかして怒ってる?」
首を振る彼女。
「ごめんね、時間があんまりないから。夜はもっとちゃんとするから。」
ゴンと胸に頭突きが来た。痛い。
「ねえ、何とか言ってよ。わかんないよ。」
「・・・・もう、恥ずかしいからやめてください。」
「まだまだだよ、服着たままだったし。」
ゴンゴン。だから痛いって。
おでこを押さえる彼女。
「続きは今夜、ね。」
背中をポンポンと叩く。
しばらくそうしてると携帯がアラームを知らせる。
「ああ、仕事に行かなくちゃ。真奈さんは少しのんびりしてて。じゃあ後でね。出来るだけ早く帰ってくるから。」
ちょっとだけ強引に顔をあげさせて視線を合わせキスをする。
にっこり笑ってもう一度。
「じゃあ、行ってくるから。」
「行ってらっしゃい。気を付けて。」小さくつぶやく。
「うん、ありがとう。鍵かけてね。」
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