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4 あっさりと終わったバイトのご褒美に。

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最近は春から始めた習い事が定着するのか子供の送り迎えが増えてくる。
年長さんから小学生低学年が多い。
兄弟がいない事、祖父母などの身内の手がない事、お母さんも仕事を始めて時間が間に合わない事、いろんなことが重なるから。
時間が許す限り引き受けている。小さい子は特に忘れ物がないか確認して送り届ける。
暗い道を一緒に歩くことも多い。事故に気を付け、何か悩んでることなどないか適当に会話をしながら様子を探ったりもする。
子供の世界はそれはそれで複雑だ。自分の子供の頃なんて考えもつかない便利な世の中になっても、どこか不自由になってる部分があるのは否定できない。

今のところひどいいじめなどで悩んでる子はいない。せいぜい友達との小さな喧嘩くらいだ。
習い事が終わり自分を見つけて駆け寄ってくる姿を見てると本当にかわいらしく思えてしまう。
今日子さん勉さんの一人娘のさやかちゃんにしても本当に懐いてくれている。
時々二人には言えない我儘ぶりをぶつけてくることもある。
お店をやるとお休みが月曜日だけということになる。それなりに寂しいのだろう。
普通のサラリーマン家庭の子は土日でどこかに出かけることも多いだろう。
時々空いてるとさきには一緒に遊びに連れて行くこともある。
お父さんと間違えられることも多く、さやかちゃんが面白がって子供のふりをするのもかわいい。
いつまで一緒に出掛けてくれるだろう?なんてすっかり父親の気持ちにすらなるんだから。
いつもいろいろな仕事を紹介してくれているお礼だからと、今日子さんにはさやかちゃんにかかったお金だけ請求する。

何故か噂のバイトの女の子とはすれ違ってばかりでなかなか会えてなかった。
偶然にカエルのかこちゃんに引き合わされるなんて思いもしなかった。
自分が一目で気に入った(・・・んだと思う)公園のベンチの女の子。
それが噂の真奈さんだったなんて。

でも一度面識を持つとそれなりに会えるようになるのが不思議だ。

朝一番に今日子さんから連絡があって「捨て猫の里親探しをお願い。」と頼まれた。
朝はパンの製造と品出しと常連がお店に顔を出すから少し時間をずらして行くつもりで。
朝ごはんを久しぶりにカフェで食べればいい。

家を出る前にちょっと自分の格好を確かめた。
大丈夫。頓着しない自分だけどそれなりにこざっぱりした服装を確認して。
仕事の七つ道具が入ったバッグを背負い、顔に出てしまう期待と喜びを隠して森のキノコさんに駆け付けた。

お店にお客は誰もいなくて真奈さんがお店番をしていた。
顔を見合うと覚えてくれてたらしく挨拶してくれる。
そして名前も覚えててくれた。

メロンパンとコーヒーを食べて今日子さんの手が空くのを待つ。
誰もお客がこなくて手持無沙汰らしい。
さっそく捨て猫の話をした。
真奈さんも会ったらしくかわいいと連発しながら伝えてくる。
その顔が、笑顔が可愛いんですが。

今日子さんについて二階へ上がり、いろんな角度から写真を撮る。
本当にかわいい。
怯えるでもなく寄ってくるあたりかわいがられた親が生んだ子猫なんだろう。
他にも兄弟がいたかもしれない。無事に里猫に出されたんだとしたらうれしいけど。
またカフェに戻り写真を真奈さんに見せる。
小動物の力たるや、かわいい笑顔を寄せてカメラを見入って話しかけてくる真奈さん。
自分との距離が結構近い。しかもメールでデータを転送してあげる約束までできた。
明かに今日子さんに乗せられた感もあるが。

とりあえずメールに写真を添付して拡散してもらう。この時点で見つかればチラシを作成したり張り出したりせずに済むのでバイト代も実費はかかってないことになる。

『子猫の里親募集中! かわいい子猫の家族になってもらえる人知りませんか?人馴れしたかわいい男の子です。生後3か月くらい。写真を見て興味を持った方はご連絡ください。今日もいい天気です。子猫にも皆さんにもいい出会いがありますように。」

一斉送信。

直樹みたいな子供にもこんな内容のメールだけどしょうがない。
一斉送信だから、直樹たち少年探偵団も慣れてるだろう。
あとは部屋のパソコンでチラシを作成する。
迷子のぺット探しのひな型を使えばすぐできる。
しばらくすると数件の返信がもらえた。
なんてラッキーな子猫。
子供が3人。親の承諾待ち。たしかに真奈さんの言う様に一人暮らしより家族がいたほうが安心だ。他にペットを飼っていたら相性もあるだろう。
あの人馴れした感じからすると心配ないかもしれない。

本当にラッキーな子猫なのか、2人は家族の反対がありダメになった。
1人の男の子が母親と父親の了解を取り付けた。
一緒に行ければいいのだが時間が合わないために商店街の中のお店の場所を教える。
今日子さんにも連絡をしておいて対応をお願いした。
夕方に今日子さんから無事に里子縁組できたと連絡があった。
良かった。あとで行くと返信しておいた。
頼まれたスイミングの送り迎えを終えて今日の仕事はお終い。
そのまま商店街を目指す。

店の明かりを見て別な意味でほっとする。まだ終わってない。
ドアを開けると真奈さんがいて、カフェの席で泣きじゃくるさやかちゃんに視線を送る。
あああ・・・・・。
さやかちゃんに近づくと思いっきり腹にパンチをもらった。

うっ。

「ひどい、さやかが帰ってきたら猫ちゃんいなくなってた。佐野兄がどっかにあげたって。どうしてさやかを待っててくれなかったのよ~。大嫌い、もう大嫌い。ばか~。」

ざっくりとまとめるとそうなるんだろうな?
しょうがないので謝るひたすら謝る。
パンチは一発ですんだけど泣きながら罵倒してくる。
このまま大人になっても通用するような・・・未来の彼氏に同情してしまう。
今日子さんがとりなしてくれて何とか落ち着いてくれたようだが。
それでも顔をあげないさやかちゃんの頭を撫でてみる。
かわいい暖かい小さな頭。ああ、務さんがうらやましい。
今日子さんが改めてお礼を言い、なんと真奈さんを飲みに連れて行ってほしいとバイトの続きのような指令。バイト代だって実労ほぼ無し。いらないくらいなのにいつものようにポチ袋を渡されてしまう。真奈さんを見る、真奈さんが今日子さんを見る。
結局一緒に食事することにした。お土産のパンまで付いて。

自転車を押しながら駅向こうの店を目指す。
さすがにこっちだとガヤが入りそうだし噂が広がっていろいろと面倒そうだから。
イタリアンのお店で適当に取り分けながらお酒も飲む。
今日子さんに自分の年を聞いていたらしい、一体いくつに見えるんだろう?
話の取り掛かりとして少し自分の話をする。
今までやった仕事の話を面白く、楽しく。
あまり楽に遊んでいるように思われるのもなんとなく悔しくて、先日行った彼氏役の話も少しした。「スーツを着て有名なところで食事をし、お酒を飲みました。」と。ごまかしてはいない。ちょっと想像できないような顔をされる。きっと自分のスーツ姿が想像できないんだろう。初対面があれだったし。着ていた自分でも想像できないほどしっくりしない気分だし。仕事内容はあの彼女に言ったように誰にも内緒で。

少し真奈さん自身の話を探るようにして聞く。
ここで暮らていることは真奈さんの中でまだまだ納得できず、落とし込めない部分があるようだ。就活に失敗するということは確かに自己イメージの否定になるのかもしれない。それでもこの場所にゆかりのない者同士がこうして向き合っているのも何か意味があると思いたい。
言葉を並べ立てて励ます。
お酒を2杯つづと食事、バイト代では足りないくらいだったけど勿論構わない。
あえて今日子さんの意図に気がつかないようにして誘ったから。
最近昔の貯金を有効に動かしている。手堅い外貨や株をやり始めていた。
もともと何もしないよりはという程度のもので、大きく化けることもない代わりに大きな痛手もないだろう。それでもさほど生活の心配をせずに済むのはうれしい。自分の生活でお金がかかる要素も一つもないから。凝った収集癖、お金のかかる趣味、維持費のかかる所有物、こだわりのある身の回りの物、お金のかかる彼女、見栄を張りたい立場。よく考えると本当に何もない。
ある程度仕事に必要な道具はそろった。さほど追加する必要もなくなってきている。
真奈さんは自分の世界が商店街と図書館と自分の部屋で完結しているという。
そういえば自分だって同じようなものだ。ただ仕事内容によって町の中をあちこちと彷徨いフットワークの良さを見せているだけで、何のことはない確かにそうなのだ。
その外側の世界に飛び出したいというなら僕が喜んで一緒に行こうと思う。
そう伝えたつもりだけどあまり伝わらなかったようだ。
社交辞令だと思われたかもしれない。あるいは誰にでも言っていると。

食事はもちろんご馳走して真奈さんを部屋まで送る。
恐縮されて断られたけど出来たらもうしばらく一緒にいたい。
そうも言えずに暗いから、心配だから、今日子さんに頼まれたしと言い訳を並べて送る。
部屋の前で手を振り彼女が建物の中に入るまで見つめる。
別れ際にメールが欲しいとお願いした。それでも素直には言い出せずに猫の写真を送りたいという理由をつけた。
そのあとメールしづらい事になるとは思うと、そう踏み込んだ誘いもやはり言い出せない。


久しぶりに不器用な自分を見た。
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