夢にまで見たい二次元恋愛、現実にはあり?なし?

羽月☆

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15 妄想が現実になると刺激的すぎて。

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それからも変わりなく見えてるだろう二人組。
職場では部長の采配下で時々一緒に手伝いをするくらいで、それだって密室に二人でもドキドキなことも起こらず。
それ以外は全く触れあう気配も微笑み合う雰囲気もなし。
話すらしてない。
週末ランチ以外は夜に文字で、時々電話で話をするのは続いてる。


そして三木君には報告がいったんだろう、あの日の数日後に笑顔を見せられた。
ついでに湯田君も同じ反応をしてきた。
二瓶さんは特に変わりはない。

休憩室に三木君が来ることもなく、私が社食で休憩することもなく。
よって本当に前と変わらない。


そして夏休みも週末と同じように会った、食事をしてふらふらしたり、水族館に出かけたりした。
水族館はドキドキのデート気分だったはずなのに、記憶に残ったのはペンギンの水槽でペンギン博士を自称するような男の子が近寄ってきて、いろいろと説明されたこと。
あとは子供の笑い声。

手をつなぐことはあったのに、ものすごい特別感は出てなかったんだろうか?
だから変な男の子まで混ざってきて三人一組みたいになって30分くらいペンギンの水槽の前で過ごした。立て続けに喋られて、止める隙もなくずっと講釈を聞いていた。


なんだったんだろう?
水族館の人じゃない、普通の偏った愛を持った男の人だと思う。
もしかしたら年上かもしれない。

他に聴衆がいたかは知らない。


どんなに『鈍感君』登場の話を探して読み込んでも実際の参考にはならなかった。
もしかしてそんな話にも描かれない『草食系男子』以前の『断食系男子』なんじゃないだろうか?
まったくその辺の色気的なものは感じず。

人が多い所で迷子にならないために繋がれる手、それだけじゃないかと思えてくる。


ちょっとだけ昔のように見上げて目をキラキラさせたこともある。
ちょっと人が途切れた場所で、薄暗くなったら、別れ際などなど。

でも、これ以上ないくらい無反応。

私もブランクがあって上手くできてなかっただろうか?
さすがにそれ以上強引さを押し出せず。
やっぱりあの頃とは違う。
そこまで押せない弱虫になったらしい・・・もしくは、常識的な大人になったらしい。

それ以前に漏れだす色気の気配もない自分だとか・・・・。

だから手をつないだことのある同僚・・・・・。
他にはいないから唯一なんだけど、そんな二人だった。




一人で資料室にいた。

お昼まであと少し、のんびり集めて部長に渡したらお昼。
でも急ぐ意味も見いだせず。


音楽をかけて、静かに考えた。

この部屋は誰も来ない。
私は思いっきり独り言を言い、愚痴を言い、何でもありだった。

だから、今度一緒に来ることがあったら・・・・・などと次回こそはと妄想を浮かべ。

でも半分諦めてる。
常識的に会社内だし・・・・。
でもそんな雰囲気がするだけでもドキドキなんだから。


『やっぱりここは誰も来ないよね。』

『だから手伝う意味があるんだよ。』

『何?』

『邪魔が入らない。』

『・・・・・・どうしたの。』

なんて言いながら迫ってくる顔に、喜んで目を閉じて待ったりして・・・・・。
軽く触れて、続きは夜に・・・・なんて言われる金曜日を想像したり。



ああ・・・・今日は水曜日です。
だから次回は金曜日に頼まれたい・・・・なんて、無駄なリクエストを部長にしたりして・・・・。


・・・そんな妄想は飽きずにしてるのに、全くだった。



のろのろとしてるとさっさと手伝い、終わったと告げて来るんだから。
さっさと音楽を絞り、ドアの方に行くんだから。


「現実ってなんでこんなに色気ないんだろう。」



とうとう壁際にもたれたまま座り込んで、先に進まない妄想がまた振出しに戻るのを許していた。


「なんでだろう?だって向こうから言って来たんじゃない。友達の助けまで借りてこうなったんだよ。それなのに続きが始まらないって、なんで?」



「だいたい友達の誰も気がついてない、相手の事はもちろん私にも何も変化はないらしい、隠せない幸せオーラは出てないらしい。だから手つなぎ同僚ってだけじゃあ出ないんだってばっ。」


「何度か偶然のふりで一緒に帰ったことはある。駅までだけど一緒に改札もくぐったことはあるのに。三木君の時はすぐに友達が反応したのに、本命は全く噂にも上らないなんて。」


「友達どころか先輩にも何も言われてないし。」


『絶食系男子の付き合い方』検索してみた。

親切な世の中で、情報は私を助けてくれるはず・・・・あ・・・・・。
でもちょっと遅かったかも。
あんまりあからさまはダメみたい。
それにやっぱり友達レベルで満足するしかないみたい。

別に私が特別にガツガツしてるわけじゃない。
あくまでもドキドキしたいだけで、あのバイブルにあふれるドキドキを私もリアルに感じてみたいと、そう思って。そのついでにシチュエーションがちょっと突飛でミラクルで、ちょっと男前な強引さもあって、かつ、とろけそうに甘くて・・・・。


でも無理みたいだ。

今全く相手の顔が浮かばなかったし・・・・。


「だいたい食が細い時点で、その方面もサラダ好みかダイエット中なんだろう。あの三人組では飲みに行ってるのに、聞かれないの?聞かれても『ない。』って照れもせずに否定してるの?」


「そんな恋愛私は楽しくない。少しもドキドキしないなんて、そんなの恋愛って言える?ついでに私も全然色気が増してないんだから。」


膝を抱えて座りこんでぶつぶつとつぶやいていた。
誰も来ないここは私にとって一人きりになれる場所になった。
ドキドキが発生しないここは、ただただ静かに音楽が流れる貸し切りの部屋だ。
社内に個室を持てる贅沢な気分を味わう?

携帯ケースに貼られたシールは水族館で買ったペンギンのシールだった。
イラスト化されたそのシールが可愛かったから手にとったら買ってくれた。
だからと言って生井君が自分の分も同じものを買ったかと言うと、そんな事はない。
あのあとだってすごくロマンティックにもいれる場所にいたのに。
雰囲気も良かったのに。
夕日が落ちるころまでのんびりしたのに。

手をつなぐがマックスだった。
それは今時幼稚園生レベルのものだよ。


ペンギンのシールを見つめた。

傷が付いたり、捲れたりしないようにしてるのに。
本当に水族館の思い出だけしかくっつかなかった。


こんな相談さすがに三木君にもできない、友達にもしにくい、お母さんにも。
でもまったく外泊もしない娘の恋愛を何と思ってる?
安心してる?
それともちょっとだけは部屋に行ってると思ってる?


残念でした、まったく足を踏み入れてもいません。
相手のテリトリーは不可侵のまま。

大切にしてたシールをコツコツと指でつつく。
ペンギンはひねくれもせずに笑ってるだけ。
いっそペリッとはがしたらスッキリするだろうか?


そんな事ちらりと思ってもはがすどころかしっかり角を撫でて貼り付けていた。

「もう、なんなのよ!」

自分にそう言ったのと、カチャッと音がしてドアがゆっくり開くのが同時だった。


そっとのぞき込んできたのは生井君だった。

前と同じように座りこんでる私を見て、一気にドアが開いて、閉じた。


「やっぱり具合悪くなった?遅いから来てみたんだけど。」

さっきの声は聞こえなかったらしい、良かった。


「ううん、お昼近くでお腹空いたなあって思っただけ。勝手に休憩してただけ。」


同じように座りこんで視線が同じくらいになる。

「良かった、とりあえず。」


「大丈夫だよ。」


ゆっくり立ち上がろうとしたら手を支えられて、座り込んでたらすっかり脱力してたみたいで、ふらりと体が揺れた。

支えてくれてた生井君ごと揺れた。

びっくりして声が出るところだったけど、
なんとか支え直してもらえて、お礼を言おうと思うのにすぐそこに顔があって。

思ったより赤くなってる生井君と、多分自分も。

体も近い、当然顔も。
身長が高くないとそうなる。
両腕を持たれてるから本当に・・・・・。

ゆっくり顔が近寄ってきた。
ゆっくりでもなんでも、出発点はすぐそこで、あっという間にゴールする距離で、目を閉じなきゃ、イメージは何度もしたのに、言葉がなくて出遅れた。
それでもくっつく寸前に間に合ったと思う。

目を閉じた後、音がした。少しだけ。暖かい息遣いも感じた。

すぐに離れたから目を開けてちょっと見つめあった後、お互いあからさまに視線をそらした。

相変わらず言葉はない。

でも手はそのままだった。


我に返ってゆっくり腕を離してくれた生井君。
それでもまた手をつながれて、そのまま奥まで連れていかれて、光が遮られるその場所で、もう一度ゆっくりキスをした。


「どうして初めてが会社なの?」

あんなにこの場でのシチュエーションを妄想してたわりに文句を言ってしまった。
だっていろんな場所でタイミングを計ったのに。
こっそりそれらしい雰囲気に持ち込もうとしてたのに。


「ごめん、なんとなく、我慢できなくて。」

体は近い、顔が少し離れた。

「落ち着かない、ここは、落ち着かない。」

自分の鼓動のせいじゃないと思う、もっと違う場所でもっとゆっくり味わいたい。
ちゃんと言葉にしてほしい、何かあるなら言葉にして伝えてほしい、別に普通の言葉でいいから・・・・・。


「じゃあ、今日・・・・仕事後に・・・ご飯を。」

普通の誘いなのに緊張が伝わってきた。

少し離れて、胸の部分が見えたら抱きついて腕に力を込めた。
頭の上に暖かい息がかかるのを感じた。
同じように背中に力強さを感じて、満足して力を抜いた。

「先に戻って。」

「分かった。」

顔は見れない、視線は感じたけど顔をあげないまま見送った。


ドアがまた閉まった、ガチャっとした音がした後脱力した。
部屋の奥の壁際だった。


そんなタイプだった?
妄想ほどの勢いも言葉もなかったけど・・・ちょっとしかなかったけど。
普通の社内恋愛としてもあまり味わえないドキドキ感。
心臓が感じたことないドキドキに疲れそう。
やっぱりリアルって・・・心臓に悪い。ひどく疲れるらしい。
平凡な自分には二次元でも十分刺激的でドキドキ出来るから。



我に返って時計を見た。
すっかりお昼は過ぎてる。
お願いした部長はさっさとお昼に行ったんだろう。

お遣いに出した私の事なんて全く気にしてないんだろう。

まあ、いい。
たった一人だけど気にかけてくれる人がいるんだから。


入り口に向かったあと数冊取り出して、残り仕事を終わらせた。

音楽を消して消灯し部屋を出た。



今度から入る時にはノックした方がいいみたい。
『ノックをして入室しましょう』入り口にそう掲げたいくらいだし。

今度一緒に頼まれたらきっとそれだけで顔が赤くなりそう。


・・・ちょっとドキドキ以上に困るじゃない。
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