夢にまで見たい二次元恋愛、現実にはあり?なし?

羽月☆

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12 なかなかピントの合わない会話に疲れた夜。

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まだまだ人が多い。
楽しそうに金曜日の夜を過ごした人、やっと仕事が終わって自分の巣に急ぐ人。

そんな人に混じる前に、すっと横の通りに入り込んだ生井君。

駅は、もう目の前ですが・・・・・、私はあそこの改札でいいのに・・・・。

何も言わないから、立ち止まって見た。

起きてる?

私がついて来ないのには気がついたみたいで、振り向かれた。


「帰らないの?」

改札の方を指さす。

「ちょっと話があるんだけど。」

そう言われてゆっくり歩きだしたのは私。
立ち止まった生井君の場所まで来て聞く。

「何?」どうしたの?


ちょっと近かったかもしれない。
勢い近寄り過ぎたのかもしれない。

目ははっきりと開いていたのは分かった。
少し後ろに下がられて、また歩き出された。

しょうがない、ため息を殺してついて行った。
少し歩いたら車止めがあって、そこに座ってくれたから良かった。
座るほど落ち着くつもりはないから、荷物を乗せるように、横に立った。
距離は普通に空いてる。


「ずっと思ってたんだけど。」

「うん。」

とりあえず返事はする。
思っていることを聞こうと。
それがまさかのクレームなんて、そんな事はないだろう。

何かの相談だとしたら思いつくのは紀伊さんのことくらい。
もしかしていつものメンバーの誰か・・・ってこともある?????
急に気がついた。そっち???


「好きなんだけど。」

細切れだからよくわからない。

「うん。」

返事はさっきと同じ。
頭の中で仲良しの四人の顔がシャッフルされる。
夢ちゃんと花ちゃんはダメだよ。
そこに行ったら私も即答するしかないよ。

だれ?

「聞いてる?」

「もちろんです。」

当たり前ですと真剣な顔をした。

「返事は・・・・ないの?」

「・・・・え?終わり?」

誰? その肝心な部分、言った? 聞いてたよね、私が聞き逃した?


「ごめん、ちょっとわからなくて。・・・・・えっと・・・・誰の事?」


そう言ったらすごく・・・・・きつい目をされた。
はい、反省、再び。




「ごめん。ちゃんと聞いてたけど・・・・誰って、言った?」


「ずっと、二人でいたのに?今、誰がいる?」


それは・・・紀伊さんと・・・誰?
ハッキリ言ってよ・・・・もしくはも言う一回教えて。


言うつもりはないと唇は閉じられたまま。


「・・・・・・紀伊さん?」

二択で最近の接点の濃い方を選んでみた。

口が動いた、開いた。音はしない。声にもならないらしい。
じゃあ間違ったらしい。


「ごめん、違った?・・・・もう一度教えてください。」

別に私に言う必要があるのかと途中思った。
私に頼むのは諦めて直当たりにしてもらえば、この時間は終わるのに。


ため息が聞こえた。
どう思ったんだろう。


「筒井さんが好きなんだけど。」

音が聞こえた。声だった。文章だった。意味があるはず、何か意味があるはず。
でも理解はできない。

顔をあげたら思った以上に顔色が悪い無表情を見た。


思わず指をさしてしまった。

『生井くんが・・・私を・・・・?・・・・』
その指の動きで伝わったらしい。相手を指して自分を指す。
変なジェスチャー、でも伝わったからいい。


「そうだよ。」


そして肯定された。

今度は私の口が開いた。

いつ誰がどうしてなぜどのように。
分かるわけない、まったくわからない。

うそ~。



「なんでそんな反応なの?」

さすがに怒りが含まれた声。


「だ、だって、全然話もしてないし・・・・、彼女もいたじゃない、私のことなんてどちらかというと嫌いって感じだった。」


「一緒に仕事をしながら話はしてるよね、彼女のこととその後のことは少しも思い当たらない。」

はっきり断言された。
あれで話をしてるって言う?
だってどう考えても三木君以下だってば。


「彼女って話はどこから?」




「前に偶然見た。すごい笑顔で美人の女の人と買い物してた。仲良さそうにインテリアショップにいた。もう絶対じゃない。」

誰だってそう思う。

「多分姉、ロングヘアの二個年上の美人。姉となら一緒に買い物に行って荷物持ちしたことがある、春の模様替えの頃。」


確かに春。お姉さん?そんないきなり登場?
年上と言えばそんな感じ・・・だった。
もう記憶が薄れて、印象しか残ってない。
『美人と笑い合ってた生井君。』


本当に美人だった。

「・・・・・お姉さん、凄い美人だった。」

「お礼を言うところだけど、別に今はどうでもいいよね。」

・・・・はい。


自分の手がバッグを力いっぱい握りしめる。
今現在の優先順位、何故か早く帰りたいが一番。
とりあえず・・・・帰りたい。
一度落ち着こう、お互いに。

そう思って顔を上げた。


「返事は・・・・いつ貰える?今?」

首を振る。
そんな予定は立ててない。

明らかに肩を落とされてため息をつかれた。


「じゃあ、今度、声をかけて欲しい。是非、考えて欲しい。真面目に、考えて欲しい。」

何度もそう言いながら念を押された感じで、でも途中視線を外した。
いつもの半眼じゃなくて、本当に真剣な顔だったらしい。むしろ怖いくらいに無表情だったけど、緊張してるの?

バッグを引き寄せたら立ち上がられた。

ゆっくり歩きだされて、帰ろうと言われた。
もちろん賛成です。
帰ろう帰ろう。長い一日がやっと終わりそう。

今日は朝から大変だった。
部長の頼まれごとで一日入力作業で、肩も凝る、目も疲れる、頭も痛む。
四千円じゃ足りなかった飲み会。
今一つ盛り上がりに欠けて、気を遣って疲れて。
最後に理解不能な事態に陥って、もう、休みたい。


改札で普通に挨拶をして別れた。


あっさりと言い過ぎただろうかと、また気を遣ってしまった。
もう終わったことはいい。
本当にいい。




疲れた疲れたと電車の中でも繰り返し思ってたのに、家に帰りお風呂に入ったらリビングに落ち着いてしまった。

お母さんもテレビを見てる。
お父さんは半分うたた寝状態で、手には本が握られている。

ため息をついて考えて、眉間のしわが緩まない。
落ち着いた途端に疲れよりも、どうしたらいいのかと悩みが増えた気分。

大きな音でテレビを見ててもお父さんが反応する様子もなく。
完全に寝てるみたい。


「お母さん、今日部長のお手伝いで四千円のお小遣いをもらったの。」

「部長さんのお礼?いいじゃない。」

「生井君も一緒にやって少し残業になったから、一緒にご飯でも食べればいいって言われたの。」

「だから遅くなったのね。美味しいご飯が食べられた?」



「お酒も飲んだんでしょう?」



「うん。まあまあ。」


「どうしたの?」


もう一度お父さんを見た。寝てる。


「急に告白された。」

それでも小さい声になった。

聞こえたらしくて、お母さんの目が大きく開いてうれしそうな顔になった。
でもすぐに首をかしげるようにした。


「嫌われてるって言ってなかった?仲がいいって話は聞いてないけど。内緒にしてたの?」

首を振る。

「本当に嫌われてると思ってた。彼女もいると思ってたら、お姉さんだった。すごく美人のお姉さんだって。普通に言われた。本当だと思う。」


「まあ、良かったじゃない。それで、何て返事をしたの?」

お母さんがまたうれしそうな顔をする。

首を振った。

「してない。考えてって言われた。」


「顔が赤いよ。どう思ってるの?いろいろ勝手に思い込んでたことも違うって分かって、良かったね。」


「どうしたらいいのか分からない。だって本当に盛り上がりのない気を遣う食事の時間だった。本当言うと早く帰りたかった。」


「あらら・・・・・・・。」


「誰かに聞いてみたら?今まで思い込みで見てたけど、意外に周りの人には違う風に見えてるかもしれないわよね。」


そう言われても三木君しか聞く相手はいなさそう。
だって他の人と一緒にいるのも見たことないくらい、喋ったこともないんじゃない?
誰が詳しいって、三木君か湯田君でしょう?それ以外いないと思う。

『いつでも相談に乗るよ。』って三木君、もしかして予想してた?
知ってた?湯田君も・・・・・・、じゃあ、二瓶さんも????


「あんまり急いでもしょうがないから、正直に伝えて、ちょっとづつ仲良くなれればいいわよ。」


「うん。」

でも、無理。恥ずかしいじゃない。
もっともっと気を遣いそう。
いっそ部長の手伝いは順番制にする?


今頭の中で似たような事例を探してる。
『同期』『ツンデレ』『思い込み』『いきなりの告白』
キーワードでもたくさんのストーリーが浮かぶのに、自分がその中には少しも入って行けない。
読んだ時は一緒にシンクロしてドキドキしたはずなのに。
今は全然。


やっぱり違うんじゃない?

無理なんじゃない?


「もう、もっと楽しそうな顔をして。そんな顔をされたら相手だってがっかりするわよ。すごく勇気をもって伝えてくれたんじゃないの?一生懸命伝えてたのに、里穂が全然気がつかなかったんじゃないの?」


なんとなくそんな雰囲気も最後には見せていた。
だから全然話が通じなくてちょっと怒ったみたいな声になったんだと思う。

「ほら、にっこりにっこり。せっかく好きになってくれたんだから、可愛い笑顔を見せて。」

誰に?

ごそごそと音がして大きく動いたお父さん。

ゆっくり起きだした。

本はソファに置かれたまま。眼鏡もズレてる。

話は聞いてないと思う。


「お帰り、里穂・・・・・元気ないな?どうした?疲れてるのか?」

やっぱり少しも浮かれるところが見当たらないらしい。

「うん、お酒も飲んだの。もう寝ようかな。」

「ああ、お父さんも寝よう。眠い。」

そう言ってふらりと立ち上がり寝室に行ったお父さん。

「お母さん、しばらくは内緒でお願い。」

「了解。」

そう言ったお母さんの顔を見た。
いつもそう言ってこっそりお父さんに報告してるのを知ってる。

「返事をするまでは内緒にしてあげる。」

「うん。もう寝る。」

「ねえ、ご馳走になったの?」

「うん、課長の四千円以上食べて飲んだから。」

「じゃあ、ちゃんとお礼をして、あと時間が欲しいことももう一度伝えたら?」

そう言われて、確かに前に連絡先を登録し合ったのを覚えてる。
使ったことのないアドレスがあると思う。
メールだけど、むしろそれでいいくらいの距離感かもしれない。

「分かった。お礼をする。お休みなさい。」

「お休み。いい夢を。」

見れるわけない。気分はうなされそうってくらいなのに。

隠しようのないため息をついて部屋に行った。


携帯を取り出すと着信があった。
びっくり、生井君からだった。

もう一度きちんと書かれていた。
その中に『一生懸命に話しかけたりしたし、そうしようと努力した。なかなかうまく伝わってないのが残念だったけど。』と書かれていた。

本当にまったく伝わってないと気がついて欲しい。

『返事を待ってる。』そう締めくくられていた。


急いで返事を書いた。
それでも何度も書き直し時間がかかり、すっかり疲れた。
なんとか今日中の時間には送れた。

もしかして待っていただろうか?

私だって全然気がついてなかったんだから、お互い様だよね。
きっとその点では不器用な組み合わせだったんだよね。
・・・・あれ、途中なんか相談風の話があったよね・・・・あれって???


ああ・・・思い出せない、適当に変な話だと聞き流してた。

とりあえず、寝よう。本当に仕事も疲れたんだから。

お休みなさい。

その時に生井君を思い浮かべてしまい、生井君に言った気になって、ビックリして顔が熱くなった。
もう、考えすぎだから。とりあえず寝るのっ。




やっぱりいい夢なんて見れなかった。

だってぐっすり寝たんだもん。
いろいろとあった昨日の疲れはいい夢なんて吹き飛ばしたみたい。
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