10 / 22
10 相談相手に推薦されても無理だとしか思えない人。
しおりを挟む
それ以外はまた静かに夜を過ごした。
最近は本当にバタ足してうめき声を漏らすこともない。
平凡もミラクルも、本当の現実に埋もれて、隠れてしまった、だから見つからない。
「里穂、今週はずっと夜ご飯食べる予定?」
「はい。お手数かけます。」
よく考えたらお小遣いが浮いてる。
「何かデザート買って来ようか?」
「そうね、里穂が食べたい時はお願い。和風のものがいいなあ。」
「分かった、明日買ってくる。お団子がいいの?」
「そうね、ケーキよりはお団子やお饅頭がいいなあ。」
「じゃあ、楽しみにしてて、お父さんは遅いよね。」
「いらないと思うわよ。」
忘れずに買って来よう・・・と思ってて、プリンの事を思い出した。
「あ・・・プリンが入ってたんだ。」
「急に食べたくなったの?」
「ううん、会社でもらったのを持って帰ってきただけ。」
お母さんと半分づつ食べた。
なんてことないコンビニのプリンだけど、生井君が買って来てくれたんだし、美味しくいただいた。
初めてそんな気の遣われ方をした。
具合が悪いって思ってただろうけど。
悪かったなってちょっとだけ思った。
でもあの資料集めからは特に部長から雑用をお願いされた感じはなかった。
次の日、丁度休憩室で一緒のタイミングになったのでプリンのお礼を言った。
「生井君、昨日はありがとう。プリンは家でお母さんと分けて食べました。」
「うん。別に。」
話しはいつもこんな感じだ。
そんな人なのかもしれない、と少しだけ思いたかった。
「じゃあね。」
そう言って休憩室から出て席に戻った。
二瓶さんから誘われることもなく、お母さんの料理を食べる馴染んだ日常。
馴染んだ日常なんて言ってても、実家から通えて、黙ってても無料に近いご飯が出てきて、仲良く家族で食べれて、それはすごく喜ぶべき事なんだと思う。
一郎君はすぐに1人暮らしを始めたから、先に大人になった。
実家でダラダラしてると本当に慣れた繭の中にいて、守られてるのかもしれない。
一人暮らしかあ。
お父さんは実家で、お母さんもそうだったらしい。
そうなるとお父さんは一人暮らしのあれこれを経験せずに結婚してお母さんにやってもらってる。お父さんが一番楽そうで幸せなんじゃない?
小さい時の写真を見る限りお父さんに抱かれてることも多い。
二人で散歩に出かけた想い出もたくさんある。
きっとその間はお母さんがゆっくりする時間だったんだろう。
一人っ子で大人しい私はそんなにうるさくしたつもりはない。
お父さんと出かけても、ジュースを飲みながら本を読んでもらえたら満足してた。
お母さんといたとしても大人しくビデオを見たり、本を見たり、一郎君と一緒にいる時も大人しく面倒を見てもらってた。
人形よりぬいぐるみを抱えてぎゅっとして大人しい、そんなタイプの子供だったと思う。
それでもお母さんはいろんな仕事があったんだろう。
子ども育てるって大変だし、今だって家の中にいるだけなのに仕事はたくさんあるから。
大人ってもっと自由だと思ってた。
宿題がなくて、お金があって、自由に時間が使えて、どこにでも行けて。
そんな大人にもなれるのに、一人ではさっぱりと満喫することもなく、家の中にいるだけだった。
もっと一人で出かけてもいいのかもしれない。
買い物でも、ちょっとした遠出観光でも、旅行でも。
とりあえず一人でどこかに行ってみる?
頭の中の風景は楽しそうなんだけど、自分の笑顔を当てはめることが出来なくて。
やっぱりちょっとだけ買い物と食事をするくらいのお出かけにしかならなかった。
そして気のせいじゃないよねって思うことが一つ。
あの勘違い貧血から、生井君が少しだけ気にしてくれてるのに気がついた。
相変わらず部長は『ツツイ』を呼ぶ。頼まれる仕事。
その動きを見られてる気がする。
それでもあれからも普通に元気だし、代わろうとかと言う声掛けもないし、ただちょっとだけ視線を感じてるくらい。
久しぶりの休憩でいつもの休憩室じゃなくて食堂に行ってみた。
ポツポツと距離を開けて人がいた。
なんてことない一人で携帯を見てるか、ぼんやりしてる人たち。
固まっている人も少ない。
その中に三木君がいた。
向こうも同じタイミングで気がついてくれて笑顔を向けてくれたので、近くに行ってみた。
「やっと一緒になったね。あれからこっちにしたの?」
「ううん、初めて。・・・・・なんだか一人でもいいかなあって思った。」
最後は周りを見て小さく声を出して言ってみた。
当然ちょっとだけ近寄った。
「でしょう?たまににぎやかな日があるけどこんなものだよ。」
「そうなんだね。」
「ねえ、あれから湯田君からも声がかからないんだ。男だけでは飲んでるんだけど。」
「そうなの?あの中のメンバー誰かと飲むことも無し?」
「湯田君と生井君だけ。岡村君もないなあ。結局もとの三人での野郎飲みです。おしゃれな料理じゃないパターン。」
「湯田君に誰か誘って欲しい子がいたら頼んだら?二瓶さんが声をかけてくれるかもしれないよ・・・・・・ってちょっと男子よりはむずかしいかなあ?」
あんまり期待を持たせても悪いか。紀伊さんだったら普通なのに、どうなってるかは知らない。何も始まらなかったのかな?
「別に僕たちも女子も慣れたメンバーの方がいいかなあって。生井君も今度は行くからって言ってたよ。」
そうなると多分三木君の正面は私になるのに・・・・いいの?
「ねえ、話は変るけど、三木君は一人で休みの日に遠出したり、旅行したりって出来るタイプ?」
「遠出ってどのくらい?都内なら普通だけど、それ以外だと滅多にないし、一人よりは誰かいた方がいいよね。」
「そうかあ、でも一人でも行ける人はいるよね。」
「タイプによるよね。あえて一人で行って地元の人と仲良くする人もいるし、本当に1人で気楽に行きたい人もいるだろうし。」
「どこかに行きたいの?」
「なんだかあまりにも代わり映えしない日々もつまんなく思えてきたの。実家だし、私がいないとお父さんとお母さんは二人で出かけるだろうし。」
「あんまり一人でいるイメージないけど。」
「・・・・そうだね。」
コーヒーを飲み切って休憩を終わりにする。
「ねえ、この間生井君が心配してたよ。元気ないって。ちらりと話に出ただけだけど、何かあったら相談に乗ってくれると思うよ。」
びっくり。やっぱり悩みがあると思ってる?
その悩みゆえの一人旅と思われたかも。
その言い方だと生井君が相談相手になる・・・・無理です。
「別に大丈夫。ちょっと今までとは違う楽しみ方を模索中なの。」
「そう。僕も相談に乗るし。」
「ありがとう。じゃあね。」
後に来たのに先に席を立った。
「もう終わり?」
「そうだね。一人だとあんまりゆっくりしずらいよね。」
そうは見えない三木君、でも納得してくれた顔をして、手を振ってくれた。
三木君はゆっくり休んでもいいらしい。
私はコーヒー一杯の時間しか休んでない。
同期の生井君があんまり休憩を必要としないタイプだから、そうなるとちょっとだけサボってるように見えるから。
もう、もっと休めばいいのに。
女子だったら誘ってお休みしたりもできるのに、これが三木君だったら仕事の相談風に誘ったりもできるのに・・・・ああ、無理無理無理。
そう思ってたのに、席に戻る途中の廊下で生井君に会った。
お財布を持ってるから、もしかして休憩?
私に気がついて『あっ』って顔をした。
「お疲れ様。社食に三木君がいたよ。」
そう教えた。
軽く頷かれてじっと見られたから、ごゆっくりと小さく言ってすれ違った。
やっぱり一緒なんて絶対無理。
でも休憩してるんだ。必要だったんだ。私が知らないだけだった?
席に戻り仕事をして今日も無事に一日が終わった。
でも三木君と話も出来たし、良かった。
相談にのってくれるなんて、やっぱりいい人だ。
時々休憩に社食にも行こうと思ったくらい。
やっぱりまったく外食の予定がない。
お金を使うこともない。なんならコーヒー休憩は外に出て買って来ていいくらい。
食費も浮いて、出かけないとおしゃれもあまり必要なくて、昔よりずっと豊富な研究の書にもお金がかからず。
週末はのんびりと二次元に遊びに行こう。
すっかり怠けていたドキドキに浸ろう。
ほとんど空白の週末に私もお母さんも何も思わないくらいに馴染んでしまってる。
そんな金曜日、特別な用事がなくても明日は休みって思うだけでうれしい。
部長に呼ばれても、足取りも軽く。
ただ手に渡された書類を見て一気に気分は暗くなった。
明らかに処理能力を超える細かい数字が並んでる。
間違えないようにって思うと時間がかかる。
「生井、一緒に頼まれてくれ。」
一人では無理です!という思いが通じたらしい。
さっきから手元に視線を落として少しも動かない私だったから。
生井君が隣に来て、書類を見せる。
「分かりました。手分けします。」
いつもの資料集めじゃなかったから、あの部屋に行くこともなく。
その場から一歩引いて、分厚い資料を分け合った。
「じゃあ、このくらいお願いします。」
ページの半分を分け合った。
ああ・・・・今日は肩が凝りそうだ。
ひたすらこの書類と格闘することが決定。
席に戻って自分の分を仕上げた状態にして、とりかかった。
なんで最初から生井君を呼ばなかったんだろう。
最初から二人にって、そう言ってくれてもいいのに。
私が大人しく引き受けたら、一人にやらせるつもりだったんだろうか?
見ればわかるボリュームなのに・・・・。
心の中の愚痴がブチブチと止まらない。
それでも指を動かさないと楽しい週末が来ないんだから。
時々肩を回し、目を閉じて上を見て目を休めて、頑張ったんだから。
それでも間に合わずにちょっとだけ残業になった。
自分の分を仕上げて、生井君のところに行った。
「生井君、私の分は終わったけど、どう?」
「ああ、あとこれだけ。大丈夫。」
まあまあ半分の量だったんだろう。
お互い終わって良かった。
もう帰りたい。
書類を保存して達成感を感じながらも疲労感も感じて、椅子の上で伸びをしたりして、生井君が終わるのを待った。
一緒に書類を重ねて返して、出来上がった書類を保存して言われたフォルダに入れてお終いになった。
「ありがとう、助かった。いつも世話になってるな。これで食事でもすればいい。」
部長がここに来て『お礼』の仕方を考えてくれたらしい。
金曜日の夜に渡された現金。
「いつものお礼だから。」
そう言われた私の方に差し出されて、つい受け取った。
「ありがとうございます。」
残業代としてありがたくいただきます。
もちろんこれも半分づつしますよ。
くるりとその場から離れた。
さすがに部長の前で半分づつに分けるのも悪いから。
小さい声で「じゃあ、外で。」そう言った。
パソコンを閉じてバッグを持って廊下に出た。
同じようにバッグを持ってゆっくりついて来てくれた。
「珍しいよね。現金のお礼だって。」
終わった後の解放感で笑顔にもなる。
お礼はそのまま私の手にあった。
半分に割れる四枚のお札。
生井君にも半分だと分かるように二枚をとって渡そうとしたら。
「どこに食べに行く?」
そう聞かれた。
まさかこの後部長の言うように誘うつもり?
私は驚きを隠せない顔だったと思う、生井君のその顔を見た。
最近は本当にバタ足してうめき声を漏らすこともない。
平凡もミラクルも、本当の現実に埋もれて、隠れてしまった、だから見つからない。
「里穂、今週はずっと夜ご飯食べる予定?」
「はい。お手数かけます。」
よく考えたらお小遣いが浮いてる。
「何かデザート買って来ようか?」
「そうね、里穂が食べたい時はお願い。和風のものがいいなあ。」
「分かった、明日買ってくる。お団子がいいの?」
「そうね、ケーキよりはお団子やお饅頭がいいなあ。」
「じゃあ、楽しみにしてて、お父さんは遅いよね。」
「いらないと思うわよ。」
忘れずに買って来よう・・・と思ってて、プリンの事を思い出した。
「あ・・・プリンが入ってたんだ。」
「急に食べたくなったの?」
「ううん、会社でもらったのを持って帰ってきただけ。」
お母さんと半分づつ食べた。
なんてことないコンビニのプリンだけど、生井君が買って来てくれたんだし、美味しくいただいた。
初めてそんな気の遣われ方をした。
具合が悪いって思ってただろうけど。
悪かったなってちょっとだけ思った。
でもあの資料集めからは特に部長から雑用をお願いされた感じはなかった。
次の日、丁度休憩室で一緒のタイミングになったのでプリンのお礼を言った。
「生井君、昨日はありがとう。プリンは家でお母さんと分けて食べました。」
「うん。別に。」
話しはいつもこんな感じだ。
そんな人なのかもしれない、と少しだけ思いたかった。
「じゃあね。」
そう言って休憩室から出て席に戻った。
二瓶さんから誘われることもなく、お母さんの料理を食べる馴染んだ日常。
馴染んだ日常なんて言ってても、実家から通えて、黙ってても無料に近いご飯が出てきて、仲良く家族で食べれて、それはすごく喜ぶべき事なんだと思う。
一郎君はすぐに1人暮らしを始めたから、先に大人になった。
実家でダラダラしてると本当に慣れた繭の中にいて、守られてるのかもしれない。
一人暮らしかあ。
お父さんは実家で、お母さんもそうだったらしい。
そうなるとお父さんは一人暮らしのあれこれを経験せずに結婚してお母さんにやってもらってる。お父さんが一番楽そうで幸せなんじゃない?
小さい時の写真を見る限りお父さんに抱かれてることも多い。
二人で散歩に出かけた想い出もたくさんある。
きっとその間はお母さんがゆっくりする時間だったんだろう。
一人っ子で大人しい私はそんなにうるさくしたつもりはない。
お父さんと出かけても、ジュースを飲みながら本を読んでもらえたら満足してた。
お母さんといたとしても大人しくビデオを見たり、本を見たり、一郎君と一緒にいる時も大人しく面倒を見てもらってた。
人形よりぬいぐるみを抱えてぎゅっとして大人しい、そんなタイプの子供だったと思う。
それでもお母さんはいろんな仕事があったんだろう。
子ども育てるって大変だし、今だって家の中にいるだけなのに仕事はたくさんあるから。
大人ってもっと自由だと思ってた。
宿題がなくて、お金があって、自由に時間が使えて、どこにでも行けて。
そんな大人にもなれるのに、一人ではさっぱりと満喫することもなく、家の中にいるだけだった。
もっと一人で出かけてもいいのかもしれない。
買い物でも、ちょっとした遠出観光でも、旅行でも。
とりあえず一人でどこかに行ってみる?
頭の中の風景は楽しそうなんだけど、自分の笑顔を当てはめることが出来なくて。
やっぱりちょっとだけ買い物と食事をするくらいのお出かけにしかならなかった。
そして気のせいじゃないよねって思うことが一つ。
あの勘違い貧血から、生井君が少しだけ気にしてくれてるのに気がついた。
相変わらず部長は『ツツイ』を呼ぶ。頼まれる仕事。
その動きを見られてる気がする。
それでもあれからも普通に元気だし、代わろうとかと言う声掛けもないし、ただちょっとだけ視線を感じてるくらい。
久しぶりの休憩でいつもの休憩室じゃなくて食堂に行ってみた。
ポツポツと距離を開けて人がいた。
なんてことない一人で携帯を見てるか、ぼんやりしてる人たち。
固まっている人も少ない。
その中に三木君がいた。
向こうも同じタイミングで気がついてくれて笑顔を向けてくれたので、近くに行ってみた。
「やっと一緒になったね。あれからこっちにしたの?」
「ううん、初めて。・・・・・なんだか一人でもいいかなあって思った。」
最後は周りを見て小さく声を出して言ってみた。
当然ちょっとだけ近寄った。
「でしょう?たまににぎやかな日があるけどこんなものだよ。」
「そうなんだね。」
「ねえ、あれから湯田君からも声がかからないんだ。男だけでは飲んでるんだけど。」
「そうなの?あの中のメンバー誰かと飲むことも無し?」
「湯田君と生井君だけ。岡村君もないなあ。結局もとの三人での野郎飲みです。おしゃれな料理じゃないパターン。」
「湯田君に誰か誘って欲しい子がいたら頼んだら?二瓶さんが声をかけてくれるかもしれないよ・・・・・・ってちょっと男子よりはむずかしいかなあ?」
あんまり期待を持たせても悪いか。紀伊さんだったら普通なのに、どうなってるかは知らない。何も始まらなかったのかな?
「別に僕たちも女子も慣れたメンバーの方がいいかなあって。生井君も今度は行くからって言ってたよ。」
そうなると多分三木君の正面は私になるのに・・・・いいの?
「ねえ、話は変るけど、三木君は一人で休みの日に遠出したり、旅行したりって出来るタイプ?」
「遠出ってどのくらい?都内なら普通だけど、それ以外だと滅多にないし、一人よりは誰かいた方がいいよね。」
「そうかあ、でも一人でも行ける人はいるよね。」
「タイプによるよね。あえて一人で行って地元の人と仲良くする人もいるし、本当に1人で気楽に行きたい人もいるだろうし。」
「どこかに行きたいの?」
「なんだかあまりにも代わり映えしない日々もつまんなく思えてきたの。実家だし、私がいないとお父さんとお母さんは二人で出かけるだろうし。」
「あんまり一人でいるイメージないけど。」
「・・・・そうだね。」
コーヒーを飲み切って休憩を終わりにする。
「ねえ、この間生井君が心配してたよ。元気ないって。ちらりと話に出ただけだけど、何かあったら相談に乗ってくれると思うよ。」
びっくり。やっぱり悩みがあると思ってる?
その悩みゆえの一人旅と思われたかも。
その言い方だと生井君が相談相手になる・・・・無理です。
「別に大丈夫。ちょっと今までとは違う楽しみ方を模索中なの。」
「そう。僕も相談に乗るし。」
「ありがとう。じゃあね。」
後に来たのに先に席を立った。
「もう終わり?」
「そうだね。一人だとあんまりゆっくりしずらいよね。」
そうは見えない三木君、でも納得してくれた顔をして、手を振ってくれた。
三木君はゆっくり休んでもいいらしい。
私はコーヒー一杯の時間しか休んでない。
同期の生井君があんまり休憩を必要としないタイプだから、そうなるとちょっとだけサボってるように見えるから。
もう、もっと休めばいいのに。
女子だったら誘ってお休みしたりもできるのに、これが三木君だったら仕事の相談風に誘ったりもできるのに・・・・ああ、無理無理無理。
そう思ってたのに、席に戻る途中の廊下で生井君に会った。
お財布を持ってるから、もしかして休憩?
私に気がついて『あっ』って顔をした。
「お疲れ様。社食に三木君がいたよ。」
そう教えた。
軽く頷かれてじっと見られたから、ごゆっくりと小さく言ってすれ違った。
やっぱり一緒なんて絶対無理。
でも休憩してるんだ。必要だったんだ。私が知らないだけだった?
席に戻り仕事をして今日も無事に一日が終わった。
でも三木君と話も出来たし、良かった。
相談にのってくれるなんて、やっぱりいい人だ。
時々休憩に社食にも行こうと思ったくらい。
やっぱりまったく外食の予定がない。
お金を使うこともない。なんならコーヒー休憩は外に出て買って来ていいくらい。
食費も浮いて、出かけないとおしゃれもあまり必要なくて、昔よりずっと豊富な研究の書にもお金がかからず。
週末はのんびりと二次元に遊びに行こう。
すっかり怠けていたドキドキに浸ろう。
ほとんど空白の週末に私もお母さんも何も思わないくらいに馴染んでしまってる。
そんな金曜日、特別な用事がなくても明日は休みって思うだけでうれしい。
部長に呼ばれても、足取りも軽く。
ただ手に渡された書類を見て一気に気分は暗くなった。
明らかに処理能力を超える細かい数字が並んでる。
間違えないようにって思うと時間がかかる。
「生井、一緒に頼まれてくれ。」
一人では無理です!という思いが通じたらしい。
さっきから手元に視線を落として少しも動かない私だったから。
生井君が隣に来て、書類を見せる。
「分かりました。手分けします。」
いつもの資料集めじゃなかったから、あの部屋に行くこともなく。
その場から一歩引いて、分厚い資料を分け合った。
「じゃあ、このくらいお願いします。」
ページの半分を分け合った。
ああ・・・・今日は肩が凝りそうだ。
ひたすらこの書類と格闘することが決定。
席に戻って自分の分を仕上げた状態にして、とりかかった。
なんで最初から生井君を呼ばなかったんだろう。
最初から二人にって、そう言ってくれてもいいのに。
私が大人しく引き受けたら、一人にやらせるつもりだったんだろうか?
見ればわかるボリュームなのに・・・・。
心の中の愚痴がブチブチと止まらない。
それでも指を動かさないと楽しい週末が来ないんだから。
時々肩を回し、目を閉じて上を見て目を休めて、頑張ったんだから。
それでも間に合わずにちょっとだけ残業になった。
自分の分を仕上げて、生井君のところに行った。
「生井君、私の分は終わったけど、どう?」
「ああ、あとこれだけ。大丈夫。」
まあまあ半分の量だったんだろう。
お互い終わって良かった。
もう帰りたい。
書類を保存して達成感を感じながらも疲労感も感じて、椅子の上で伸びをしたりして、生井君が終わるのを待った。
一緒に書類を重ねて返して、出来上がった書類を保存して言われたフォルダに入れてお終いになった。
「ありがとう、助かった。いつも世話になってるな。これで食事でもすればいい。」
部長がここに来て『お礼』の仕方を考えてくれたらしい。
金曜日の夜に渡された現金。
「いつものお礼だから。」
そう言われた私の方に差し出されて、つい受け取った。
「ありがとうございます。」
残業代としてありがたくいただきます。
もちろんこれも半分づつしますよ。
くるりとその場から離れた。
さすがに部長の前で半分づつに分けるのも悪いから。
小さい声で「じゃあ、外で。」そう言った。
パソコンを閉じてバッグを持って廊下に出た。
同じようにバッグを持ってゆっくりついて来てくれた。
「珍しいよね。現金のお礼だって。」
終わった後の解放感で笑顔にもなる。
お礼はそのまま私の手にあった。
半分に割れる四枚のお札。
生井君にも半分だと分かるように二枚をとって渡そうとしたら。
「どこに食べに行く?」
そう聞かれた。
まさかこの後部長の言うように誘うつもり?
私は驚きを隠せない顔だったと思う、生井君のその顔を見た。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

内緒ですが、最初のきっかけは昔の彼の記憶でした。(仮)
羽月☆
恋愛
不器用な会社員のまま半年が過ぎて、いまだに友達もいない私、如月舞。
仕事は黙々と一人でこなしてる。
パソコンに向かっているのだから無駄な愛想も笑顔もいらない。
自分らしく仕事ができるのはその席にいる時だけ。
本当は友達も欲しいし、先輩達とも仲良くしたいし、もっともっと・・・正直に言えば彼氏だって欲しい。
大人って難しい。
なかなか友達が出来るきっかけをつかめず、一人で過ごす日々。
優しい人はいるもので、そんな私に話かけてくれて、同期の飲み会に誘ってくれた浅井さん。
すっごくうれしい気持ちが笑顔に出てたかもしれない。
金曜日、やっと同期の仲間デビュー。
なかなか一気に知り合いは増えないけど、それでも数少ない人と少しづつ打ち解けて。
そんな舞と大人友達の日常。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる