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16 知ってることはやっぱり少なくて

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おせちをタッパーに入れてもらって、帰りに神社で初詣を済ませてから部屋に戻った。

「疲れた?大丈夫?」

「うん。ちょっと疲れた。今日はよく眠れそう、眠い。」

「ご飯は?」

「うん、明日食べたい。本当に眠い。なんだかお酒がまだ残ってるみたい。シャワー浴びてくる。」

「うん。」


タッパーを冷蔵庫にしまい。お茶を飲む。
眠くない。昼寝したし。
でもアオは疲れたんだろう。

1人でぼんやりしてると兄に言われたことが勝手に思い返される。
何で先の事を考える?考えたいけど、まだまだじゃない。

そんな事考えてから付き合うの?
付き合ってるうちにそう思うんじゃないの?

いくら同僚でも知ってるのは少しだけ。実家も知らなかったくらいなのに。
だから優しいってことしか知らないから。
だから・・・いいの。
別に今一緒にいたいんだから、それだけでいいの。
シャワーの音はしなくてドライヤーの音がする。

「ごめんちょっと寝る。」

アオが顔も見せずにそう言って寝室に入って行った。
そんなに疲れた?お酒も飲み過ぎよね。

1人で準備してお風呂に入る。
急がなくていいならゆっくり湯船に入って温まる。

『そこまで愛してみろ、愛されてみろ。』
兄はそう言いたいらしい。
本当にそんな相手に出会ったんだろうか?
何がそう思わせるんだろうか?
あんなに自信持って言えるなんて。
本当はうらやましい。
独身主義を変えるくらいの出会い。
初めてそんな風に思える相手に出会ったのよね?

別れても数週間もするとすっかり立ち直れるし、すぐ次の恋をしようと思う。
そんな相手じゃないんだろうなあ。

あ~気分が悪い。モヤモヤする。
すっかり暖まりお風呂から出る。
ドライヤーをかけて、まったく眠くないけどアオの横に滑り込んだ。

寝てるんだろうか?

いつもと違う場所に寝てる。
奥で壁を向いて寝てるアオ。
こっちを向いてるのは背中で。

その背中に寄り添うようにして目を閉じた。

少しは疲れてたみたいで、眠くないと思ってもすぐに眠れたらしい。
そしてよく眠れた。
でもまだ朝六時。休みの日にこんな時間に起きるなんて。
でも誰の気配もなく、アオはいなかった。

また一人で起きたの?

ベッドから降りてリビングに行く。
やっぱり壁にもたれている影があった。
どんな顔をしてるんだろう?

「アオ、どうしたの?」

ゆっくりこっちを見る。
思った以上に無表情で。
少し近寄ってよく見ると顔を背けられた。

「どうしたの?」

「昨日寝てたと思うんだ。でも途中うっすら意識があって。家族で話してる声が聞こえた。

「リカ、俺のことどう思ってる?」

「アオ・・・。」

兄と言い合ってた時のこと?聞かれてた?

「何で、好きよ。だって言ったじゃない。すごく嫌われてるって思ってて悲しかったし、そうじゃないと分かってうれしかったし。それにあの日からすごく毎日楽しい。大好きなの。どうしてそんなこと聞くの?」

「僕がいない所でも、結婚も全然考えてないって、強く否定してたよね。今好きなだけだって、そういうことだよね。」

確かにそう言った。

「それじゃあアオは嫌なの?今すごく好き。この先は分からない。誰だって分からない。結婚したって別れる人がいるのに、付き合って一カ月なのに、今決める必要ないのに。なんでそういうの?今すぐ結婚したいかと言われたら、まだわからないから。」

「俺はリカがいいって言えるのに。ずっと前からも、今も、これからも。」

そんな・・・・・。

「自信がない、好かれる自信も、好きでいる自信も。」

「ふ~ん、好きでいる自信がないというのはショック。」

「だって・・・・知らないことがあり過ぎる。今だって会社で思ってたイメージと違うことがあるから、私が勝手に思ってるアオがいるかもしれない。たくさんのそんな違ってることが重なったら正直どう思うか分からない。それってそんなに変?私が悪いの?」

答えてくれない。

しばらく待っても動かないままのアオ。

1人でベッドに戻った。

やっぱりお兄ちゃんのせいよ。せっかくうまくいってたのに。
何でこんなことになったのよ。
馬鹿、可愛い妹の為なんて、絶対違う。逆効果よ。

自分が奥になって背中を向けて寝た。


また一人になるの?

・・・・やっぱりそばにいて欲しかっただけなの?


違うのに。
今はアオじゃなきゃ意味がないのに。
先は分からなくても、今はアオがいいのに。

そんなのが嫌だというなら仕方ない・・・・。


次に目が覚めた時にちょっと離れてアオが寝ていた。
パジャマのまま起きるなんてことあった?
いつもお互い何も着てなかった。

今年もよろしくって、たった一日だけだった。

そっとベッドを抜け出して帰り支度をして部屋を出た。


もう、過去最短記録。
一番密度は濃かったのに期間は最短だった。
でも平均すると同じ濃さになるかも。

電車も空いていて。冷めた部屋に一人帰った。
洗濯して掃除して。年賀状の返事を書いて。

携帯は見てない。

見ないで過ごそう。

アオはこの部屋は知らない。
携帯に出ない限り連絡はつかない。
それが本当はアオの望むことかもしれない。
でもまたすぐに会社で会うんだけどね。


本当に中途半端なふたり。


おせち食べてくれるかな。

せっかくお母さんが持たせてくれたのに。
それは食べて欲しい。捨てないで欲しい。

毎日部屋でテレビを見て過ごした。お風呂とベッドとトイレを行き来するだけ。


そして、とうとう冬休みも終わり。


ブラウスにアイロンをかけて明日からの準備をする。
そして毎年心配してたお正月太り。
今年は無縁でした。


こんなに食欲に直結するなんて。
周囲にはクリスマス前からの失恋を引きづって正月を過ごしたように見えるかも。

もうひと山ありましたよ。ただ短かっただけです。

いつもならバーゲンに出かけるはずなのに。
そんな気分でもない。
気力が衰えてます。


家電が鳴った。珍しい。
液晶には実家の電話番号があった。
珍しい。最近ほとんど携帯なのに。

深呼吸して笑顔を作って電話に出た。

「里佳、元気?」

「うん。元気だよ。すぐ帰ってごめんね。今度週末にでも帰るから。」

「保君と一緒に来るの?」

「ううん、一人だよ。」

「そう。」



「何してたの?あれから。」

「洗濯掃除年賀状。後はゆっくりしてたよ。」

「あら、バーゲンは?」

「うん、あんまり行く気がしなくて、行ってない。」

「本当に元気?」

「うん・・・・元気だよ。」

「おせち保君と一緒に食べた?」

「うん、ありがとう。美味しいって言ってたよ。」

「どうかしたの?お母さん。」


なんだかさっきから質問ばっかり。


「ちょっと代わるね。」

「もしもし、お父さん?」

「もしもし。」

・・・・・誰?

「リカ・・・・。」

「・・・・アオ?」

何でそこにいるの?私の実家よね。

何で?お母さんわざと聞いてきたの?
おせちの事も、二回くらい保君って言ったよね。

「そこで何してるの?」

「ごめん、携帯に出てくれないから。住所も知らないし。」

携帯だけで連絡するから。そうかもね。一度も来てないし。

「リカのこと、友達の連絡先も辿れないし、本当にここしか思いつかなかった。ごめん。本当に知らない事ばかりだね。」


だからって実家に行ったの?明日には会社で会えるのに。


「里佳、お兄ちゃんの言ったこと二人で気にしてたんでしょう?叱っておいたから。もういいじゃない。意地はらなくても。保君にはもう帰ってもらうわよ。ちゃんと仲直りしなさい。声でわかるわよ、全然元気じゃないじゃない。最寄り駅を教えたから。もう出て行ったわよ。迎えに行ってあげてね。改札で待ってるって言ったから。携帯を見てあげること。分かった?」


勝手にアオに約束をしたの?


「里佳・・・これでいいの?後悔しないの?・・・・・・返事は?」

「はい。」

「迎えに行くのね。」

「はい。」


「それでもだめだったら週末にでも帰って来なさい。じゃあね。仕事頑張ってね。」

「うん。ありがとう。ごめんなさい。」


「いいのよ。世話が焼ける子供たちだから。」

電話を切ってから携帯の電源を入れた。

着信がたくさんあった。

とりあえずアオのメッセージを開く。

謝ってくると思ったのに、違った。
どう思ってるかをずっと書いてたみたい。
沢山分断されて届いた。

その内間隔が空いて、謝る文になり。

出来ることをすると言って最後のメッセージになった。

取りあえず充電しよう。

既読にもならずに読んでくれてないのは分かってただろう。
無視されてると思っただろうか?
今やっと既読が付いただろう。

そう思ってたらすぐにメッセージが続いた。

『駅に行く。うちに来てくれる?明日の準備して来てくれないかな?』
『話がしたい。文字じゃなくて。』

『準備します。部屋で待っててもらっていいですか?ちゃんと行きますから。』

そう送ってさっき準備した荷物とスーツも持って部屋を出た。


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