苦手なものを克服する一番いい方法は?

羽月☆

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19 太郎、新しいお散歩コースの予感。

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今日もご機嫌に帰ってきたらしいお兄ちゃん。
好きな人がすぐ近くにいるんだし。
二人は無理でも何人かでランチもできる、休憩もできる、帰りを合わせて夕食も食べれる・・・・・社内恋愛。いいじゃん。

部屋のドアがノックされてお兄ちゃんだと分かる。

「椎名、今週末の予定は?」

「潤君と勉強をする予定だよ。太郎のお世話は大丈夫だよ。できるよ。」

「いや、今週は土曜日はやれるから。」

「分かった。じゃあ、日曜日わたしがやるよ。」

「ああ・・・・ありがとう。」

きっと土曜日外泊して日曜日の遅くに帰ってくるのだろう。
日曜日を私にお願いするから先に土曜日にしたんだろう。
普通に言えばいいのに。


『お兄ちゃんとの約束で日曜日は太郎の散歩係です。しかも病院にも連れて行く日なんです。英語教えてもらうのは土曜日でもいい?』

既に数学の話はなかったように伝えた。
いらぬ恥はかかなくていいかも。
英語に集中集中!!

『いいよ。土曜日にしよう。どこがいいかな?』

『うちに来ない?お兄ちゃんにも紹介する。あと両親もいるけど勉強を教えてもらってる潤君って紹介する。』

そう言ったらちょっと返事がゆっくりだった気がするけど。

『何か買って行った方がいい?』 

『いらないよ。駅まで迎えに行くから、一緒にデザート買おう。』

午後約束をして、勉強することにした。

お兄ちゃんに潤君のことは言わなかった。内緒。
皆でお昼を食べて、お母さんにだけは友だちと家で勉強すると伝えた。

気がついたら太郎とお兄ちゃんが散歩に行った。
今日は朝の散歩じゃなくて昼らしい。
きっと阿里さんとのデートは夕方からなんだろう。

駅まで潤君を迎えに行って、デザートにプリンを四人分買って一緒に戻ってきた。

お母さんは友達が男の子だと知っても驚かなかった。
この間の挨拶の声でバレてたらしい。

お父さんはいなかった。
リビングで教科書を広げて、参考書も広げて教わった。
本当に得意らしい。

「だって、洋楽が好きだし、映画も字幕で見るから。」

それが理由になるならもっと日本人は英語が喋れると思う。

「すごいね。」

ただ尊敬した。

落書きしてもいいかと聞かれたのでいいと答える。

文章にどんどん線と丸を書きこんで小さく切って行く。

「まとめてもわからなくなるから、小さくしてちょっとづつ進めばわかりやすいよ。」

前後がバラバラになるし、『that 』とかが入ってくると本当に苦手で。

「分かりやすくなった!」

「そうでしょう?」

「慣れるまでこれで行けばいいんじゃない?」

「結局単語は自分で覚えないといけないんだね。」

「そうだね。似た意味の単語と、反対の意味の単語と一緒に覚えると覚えやすいよ。」

「・・・それじゃあ結局覚えなきゃいけないものが増えるような気がする。」

「そうじゃないよ、とも言えないけど。でも一つだけポツンと覚えるよりは覚えやすいし、それが無理なら文章で覚えるといいよ。」

そう言って覚え方を教えてもらった。
それが楽なのかさっぱり分からないけど。
つい、視線がそう言ってたんだと思う。

「前に覚えた単語の復習にもなるし。」

そう言ってノートを見せてもらった。
白紙に自由にグループ分けした単語が浮かんでいた。

「どんどん足していくんだよ。違いも書き込んでいけば自分で使う時も最適な単語が選べるし。」

そんな場面があるのだろうか?
でも確かに楽しく覚えてるというのは伝わった。

「ねえ、ラブレター英語で書けるんじゃない?外人さんも好きになれるね。」

そう言ったらちょっと変な顔をされた。

だって、好きの単語のグループと嫌いの単語のグループがあったんだもん。
苦手と得意とかまで単語の仲間が増えていて大きなグループだった。
その単語の中でもちろん『love』『like』を見てたりした。

たっぷり二時間くらいかけておしゃべりもしながら勉強した。
この時点でもう頭がいっぱいいっぱい。
とても数学をなんて言い出そうとは思わなかった。
小賢しいような記号や数字を見たいとも思わない。
好きなんじゃないから、あえてって言うと数学の成績が普通よりいいくらいだよって、そんなレベル。

潤君も何も言いださなかった。

「もう、終わりにしよう。すごく勉強した気分。終わり終わり。」

お終いを宣言して、全てをまとめて片付けて、キッチンに行った。
冷蔵庫からプリンを持ってくる。

お母さんも誘った。

三人で仲良く食べて、紅茶もいれて。

「潤君、ありがとうね。これで椎名の英語の成績が上がたらご褒美をあげるから、一緒に美味しいご飯でも誘われて食べてあげてね。」

お母さんがそういう。
バレてるよね。そうだよね。
勉強するって言うのに朝からご機嫌だった私だし。
お兄ちゃんも明らかにご機嫌だったから、そうは目立ってなかったはずだけど。
外で太郎のただいまの声が聞こえた。

「あ、お兄ちゃんが帰って来た。待っててね。」

潤君を残して迎えに行く。
玄関で足を拭いてもらった太郎が嬉しそうに飛び込んできた。

「お帰り、太郎、お兄ちゃん・・・・・と・・・。」

お兄ちゃんの後ろに隠れてたけど、女の人がいた。


ご機嫌のはずだ。
デートは夕方からじゃなかったらしい。
太郎に紹介したかったらしい、そして連れてきたということはお母さんにも紹介する?

「椎名、お前、いたのか?」

「うん、友達と勉強してたんだよ。」

「ああ、妹の椎名、阿里さんだよ。一緒に散歩に付き合ってくれたんだ。」

太郎を付き合わせてデートに誘ったということでしょう?

「こんにちは。今日は一緒に散歩してもらいました。」

「ありがとうございます。太郎が喜んでたのはそういう訳だったんですね。兄1人より可愛い女の人と一緒の方が楽しいはずです。ちゃんとオスですから。」

「阿里ちゃん、入って。」

そう言って2人で洗面台で仲良く手を洗ってる。
潤君がいるからびっくりするかも。
お母さんもビックリするかも、聞いてたの?

潤君とお母さんのところに戻った。
太郎がすっかり潤君の横に座っているのを見てうれしくなった。
太郎もやっぱり潤君のことが好きだよね?

「お母さん、お兄ちゃんの予定、知ってたの?」

「知らないわよ。彼女が一緒なの?」

「うん、そう。びっくり。」

「何で兄妹で二週続けて太郎を連れ出すのよ。仲良しなんだか、なんだか。」

「潤君、お兄ちゃんと彼女を紹介するね。知ってたらプリンたくさん買って来たのにね。」

「まったくよね。それにお父さんは間に合うかしら。一人だけ仲間外れじゃない。」

「どこ行ったの?」

「買い物って言ってたけど。」

二人が入ってきた。
まず潤君が太郎と仲良くしてるのに驚いてた。

「わあ、・・・・。太郎、なんで・・・・。」

潤君に驚いてよ!!

嬉しそうに尻尾を振って頭を撫でられてる太郎。

「お兄ちゃん、阿里さん、友達の潤君です。一緒にお勉強して英語を教えてもらってたの。」

「初めまして、兄の文土です。こちらは同じ会社の阿里さんです。」

何で彼女と言わないんだろう。

「椎名、太郎も入れるおしゃれなカフェを見つけたんだよ。テラスはペットも入れるんだ。美味しかったし、今度二人で行ったらいいよ。」

「そうなの?お兄ちゃんにランチ代もらったら行く!ね、潤君。」

「う、うん。」

この間のところじゃないかとうっすら思ったりしたけど、黙っておいてやろう。
太郎もバラしてないよね。
先週もここでのんびりしましたよ、なんて言ってないよね。
太郎は何も言ってないみたい、私の視線にも平然としてた。
よし!

「母さん、明日の夜までご飯いらないから。」

ああ、馬鹿兄、何で今言うの?
そんなの出かける時でいいのに。浮かれ馬鹿。

「はいはい。」

きっとお母さんもそう思ってる。

「明日は私が太郎を散歩させて、病院にも連れて行ってくる。」

「ありがとう、椎名。」

「はいはい。お兄ちゃんがいない日は私が太郎の面倒を見ますから。」



「阿里さん、文土は会社ではどう?」

「私も友達も優しく教えてもらいましたし、信頼されてます。」

「でもお兄ちゃん、人気はないみたいだから、阿里さんがいなかったら寂しかったね。阿里さん、強面の兄ですがよろしくお願いします。太郎と私にはすごくので優しいので、阿里さんにはとろけるほど優しいでしょう?」

「え・・・・は、い。」

「へ~、そうなんだ~。」

「それは椎名とは違う。勿論、太郎とも違う。」

少しは照れて欲しいのに、つまらない。
何だか開き直ってる?

つき合い初めてたった一週間のくせに・・・・。

横を見ると、とうとう潤君の太ももに顎を乗せて寝ている太郎。

「なんでそんなに懐いてるんだろう?今日で二回目なのに、餌もあげてないのに。」

「可愛いね。」

「もしかして、太郎は可愛い男の子が好きなの?私やお兄ちゃんじゃダメだったの?」

「その辺は椎名と同じだろう。」

お兄ちゃんに、今、復讐されたんだろうか?
赤くなるもんか、照れるもんか・・・・。

「そうだよ。私もむさくるしいおじさんより可愛い男の子がいいもん。」

「じゃあ、太郎に取られないようにな。」

せっかくカフェのことを黙ってあげてるのに。

そう思ってお兄ちゃんを見ると普通に平和そうな顔だった。
復讐じゃなくて、親切なアドバイスだったの?

まあいい。

私がいると阿里さんがしゃべらないだろう。

「潤君、じゃあ、一応数学の実力を披露します。一緒にお部屋に来て。秘密情報だから。」

そう誘った。

「お母さんは知ってるけどね。」

「お母さんはお母さん。阿里さんには恥ずかしくて披露できない情報です。」

そう言って英語の一式を持って、潤君は太郎の頭を撫でて、立ち上がった。

「太郎、あとで一緒に潤君を駅まで送ろうね。」

「ワン。」

やっぱり気に入られたらしい。
うれしいはずなのに、ちょっとだけ複雑な気もする。

「英語の成績が上がってご褒美出るなら頑張るね。」

階段もしゃべりながら上がる。

「潤君、楽しみにしてて。絶対美味しいご飯行こうね。」

「うん・・・・。」

そう言って部屋に入って、バッグを下ろしてもらってちょっとだけ抱きついた。

「ありがとう。すごく分かりやすかった。絶対英語頑張るね。」

「ノート、僕ので良かったらコピーする?」

「いいの?だって、大切に書き込んで作ったんでしょう?」

「別にいいよ。あれが覚えやすかったら使って。」

「もっと頑張れる。」

「うん。」

ぎゅっと力を込めた。

「太郎に気に入られたね。」

「そうかなあ?お帰りって言ったら隣に来てくれたんだよ。」

「気に入られたんだよ。やっぱり私の大好きな人だって太郎も思ってる。」

「そうだと嬉しい。」

頭の上で声がする。
ちょっとだけ上。

それが分かってるから、離れられないし、顔もあげられない。

数学なんてどうでも良かった。
こうしてちょっとだけ近くにいたかった。
そして、やっぱり顔をあげた。

ゆっくりキスをしてもらう。
甘いプリンの味がするかも。

何回か繰り返して、首に顔を埋める。

「潤君、きっとお母さんもお兄ちゃんも気に入ったよ。」

「そうだと嬉しい。太郎と同じくらい・・・・よりはうれしい。」

「そうだよね。」



「来週、また勉強する?」

「いいよ。」

「邪魔じゃない?」

「全然。だっていつもゲームして過ごしてた時間だから。勉強じゃなくても有意義なくらいだよ。僕も成績上がるかな?」

「そうなったらすごくうれしい。」

「じゃあ、また来週のことはその内に決めよう。」

「そうだね。」

「じゃあ、送って行く。太郎と一緒に駅まで送るよ。」

「うん、ありがとう。」

一緒に下まで行って、太郎に声をかける。
さっきと同じ場所でお座りして、話しに参加してるみたいだった。

「じゃあ、潤君を送ってくる。太郎、行く?」

「ワン。」

嬉しそうに立ち上がって、潤君の隣に来る。

「ごちそうさまでした。お邪魔しました。」

「また来てね。椎名にやる気を出させてくれてありがとう。」

お母さんにそう言われた。

「じゃあ、またね。椎名をよろしく。」

普通にお兄ちゃんが言う。普通に。

「はい。」

ちょっと照れてる潤君。
揶揄うつもりはないんだけど、多分。


太郎にリードをつけて一緒に駅に向かう二人と一匹。

「阿里さん、想像以上に可愛らしかった。そんなに年上とは思えないくらい。」

「そうだね。可愛らしい人だね。」

私が褒めるのと潤君が褒めるのは違う気がする。
潤君、お兄ちゃんのことを褒めてよ、男らしいとか、優しそうとか、頼りがいありそうとか・・・・・なんとか。
そう思って見た。

「何?」

「潤君は可愛い人が好きなの?」

「うん。椎名ちゃんとなんとなく似てたよ。お兄さんもそう思ってるかも。」


褒められたと喜ぶべき?
ちゃんと考えるまでもなく勝手に顔が嬉しそうな表情を作ってしまう。
・・・・褒められたと思ってあげる。

「やっぱり仲がいいんだね。もう、椎名ちゃんが可愛くて仕方ないって感じだった。彼女がいたから抑えてたけど、いなかったらもっといろいろ聞かれたり、頼まれたりしたかも。」

「そうかなあ?」

「うん。」

話しながら、時々太郎を見ながら。

さっきとは違う子供の二人を先導して歩きながら、時々にっこりと笑って振り向きながら歩く太郎。
あっという間に駅の前。

「じゃあ、また連絡するよ。」

「うん、私も。今日はありがとう。コピーも。」

さっきコンビニでノートをコピーさせてもらった。

「うん、ごちそうさま。」

「また来週お願いします。」

「そうだね、楽しみにしてる。じゃあ、太郎もまたね。」

頭を撫でて、手を振って駅に向かった潤君をしばらく見送った。

「さて、太郎、帰ろうか。」


「今日は疲れた?」

そんな様子も見せずにマイペースで歩く太郎。
家に帰りついて、しばらく阿里さんのいる三人に加わった。


「椎名ちゃん、写真よりずっと可愛い。」

いい人、阿里さん。

「ありがとうございます。話を聞いて想像してたより阿里さんも可愛いし、あんまり年上には見えないです。本当に、兄をよろしくお願いします。」

「はい。」

ちょっとだけ大人だと思った。
普通に答えてる。

良かったとも思った。
お兄ちゃんがすごく好きだって伝えてて、それを分かってくれてるんだろうと思った。

大人だなあ、やっぱり。

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