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22 許された今から引き寄せたい未来。

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どうなるのかは分からない。

一つだけ言えるのは、今はこのまま近くにいていいと許されたということ。

お兄さんは全部知っていたらしい。
それはそうだろう。
『会長が許すなら社長が反対するわけはないだろう。』
そう言われたらしい。
それにホテルに部屋を取ってることもバレてるらしい。
『兄』にはやはり敵わない、妹も弟も。


自分の身辺調査が入るなんて、そんな話が現実に自分に起こるなんて。
本当は怒りたい、考えるだけで不愉快で、あの時は恐怖でもあった。
それでもそんな世界もあるのかもしれないと思うしかない。

それに調査員の友達がわざわざ謝ってくれたという。
その人を信頼してる涼太。
優美さんや両親が嫌な気持ちになってないなら自分は我慢して、そして忘れる。

本当は小さなことなんだって思いたい。
今、こうやって一緒にいられるなら。

この間のホテル。優待券の意味も分かった。
今日はちゃんと広い部屋を取ってくれた。
贅沢とも思える広さだった。
お兄さんと話をしたあと、少しルームサービスで食事を取って。
それからずっと一緒にいる。
結局広い部屋のちょっとしか動いてないから。
もっと楽しんでもいいのに。



窓からはやっぱりあの日と同じような景色が見える。
眠るのがもったいないくらい。

すっかり疲れたらしい涼太は規則的に寝息を立てて寝ている。

兄と優美さんには家族の話をしたこと、とりあえず反対はされなかったことを教えた。きっと驚いて、喜んでくれてると思う。
優美さんにだけはやっぱり調査員だったと教えた。
返事で安心したと言ってくれた。
まさか優美さんも自分がその調査員に会って、しゃべってるなんて思ってないみたい。

昨日知ったことだから。
まだ、どこか非現実的。
だって出前をとって、小さなマンションの部屋のテーブルで子供を膝に乗せて喜んでた涼太。ラップを外して美味しそうに食べていた顔も思い出せる。

でもあの画面で見た写真はすごく広い部屋に、高そうな調度品に、綺麗にドレスアップしたような家族の写真だった。
もしかして丼の出前なんて初めてだったのかもしれない。
パーティーとかでおしゃれなケータリングは入ったりしたことはあったかも。

価値観が違いすぎるかも。
こんなホテルから出勤するなんて。
よく今まで私の部屋に来てくれてたなあって思う。
いったいどんな家に住んでるの?

大きくため息をついて外の景色を見続けた。

「舞、ねえ。」

真横で声がしてびっくりした。
いつの間にか起きたらしい。

「起こした?」

「ううん、目が覚めた。舞さあ、もし僕がトランペットじゃなくて、トロンボーンとか他の楽器だったとしたら、あんなに最初のとき話しなかったんじゃない?」

バスローブの紐を軽くしめて隣に座った涼太。
そんな前の話?
トランペットほど、そんなにソロとしての魅力は感じないかもしれない。
でも、どうだろう?

「分からないけど、音楽好きだって分かって、ライブに行ってるって聞けば同じように話をしたと思うよ。」

「舞の初めては、トランペットの彼氏だったんでしょう?」

何?

「そうだよね。だから好きだった?」

何で知ってるの?
そんなことまで、ほとんど子供じゃない、そんな昔の事まで調べられたの?
誰に聞いたらそんなこと教えてくれるの?

分からない、すごく仲のいい友達か、本人・・・・、まさか。

「ねえ、感謝すべきかな?でも、僕のほうが上手だよ、きっと。」


誰に聞いたのかは分からない。
嫌な気持ちしかしないけど、気が付いてない?
・・・でも、そのことはもう忘れるって決めたから。


「じゃあ、聴かせて、聴きたい。」

「家に来てくれたときに聴いて。ねえ、いつ来る?いつ来てくれる?」

そんなホイホイと、心の準備もなく行けるわけはない。

「そのうちに・・・・。」

「舞の両親に会うのが先でいいよ。」

それは無理。
書面上の私は合格しても、もしかして駄目って言われるかもしれない。
本当に許されたと思えるまで親には内緒にしたいし、自分もまだ安心できない。

兄と優美さんにもお願いした。両親には内緒でと。


「やっぱりうちが先でいい?母さんが楽しみにしてる。」

返事は出来ない。

「返事は?舞、逃がさないって言ったよ?駄目だからね。あんなに父親に啖呵切ったのに、今更振られましたなんて恥ずかしいから。」


「わかった。」

「じゃあ早速次の土日の都合聞いてみるね。」

来週?

「大きなイベントが終わったばかりで一番時間があるかもしれない。ね、いいよね。舞、楽しみにしててね、練習しとくからね。」

挨拶とトランペットを一緒にされた。

無事に涼太の演奏を楽しめると思ってるの?
わかんないから。

「大丈夫だから。絶対母親には気に入られるから。そうしたら父親は賛成だし。心配しないで。」

します。

逆はすごく楽なんだと思う。
だって兄にも優美さんにも繭にまで気に入られてる涼太、今更私の両親に会うにしても、緊張するのもちょっとだけでしょう。

ずるい。

でもその顔は本当にうれしそうで。
楽しみにしてる顔だった。

「涼太。ありがとう。」

「僕のほうこそ、ありがとう。」

やっぱり寝ちゃったらもったいない、そう思ったからもう少しくっついた。


ソファも広いから。
その後の窓の外の景色は目を閉じて見れなかったけど、ソファの広さは堪能できた。

あの最初の日、暗くて広い食堂で、自販機の明かりの中で初めて話をした。
きっと寂しかったんだと思う。

本当は寂しくて、仲良くなれる人がいない・・・どころか誰とも喋ってなくて。
買い出しに来た涼太を見つけて、話しかけた。
だから、余計にありがとうと言われたお礼の言葉がじんわりと心にしみこんで。

耳元でささやかれる声ともちがうのに、やっぱり涼太にありがとうと言われるすごく心に響く。もう何度も言われてるのに。
涼太が言う『ありがとう』の、その言葉が大好き。

大好きよりも、愛してるよりも・・・・・かな?



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