紹介し忘れましたが、これが兄です。

羽月☆

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24 ギイチ、ゆっくり発車します

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「なんだかまたコレクション増えた?」

ギイチの自慢のコレクション。
しばらく来てなかったから、間違い探しをするように前回から増えたものを探す。

「これ、バスのだよね。乗り物つながり?」

昔のバスの車体にあっただろう行先の看板。
錆だらけのボロボロ。
バスもギイチの範疇らしい。知らなかった。


「ああ、これ知ってる。テレビでもやってた。」

いち、に、さん、し・・・。8枚。末広がりの枚数。

「これ8枚も買ったんだ。すごいね。並んで手に入れたの?」

「もちろん。並んで何とかその日にゲットできたラッキー組。それでも8枚なんてまだ少ないほうだよ。」

同じ物8枚も、使わない?転売する目的でもなく?
後ろに並んでた人が買えなくてかなり大変だったってテレビでやってたのに。
責任あるよね・・・・8枚・・・・。


ぐるりと部屋を見渡す。意外に几帳面で見事というくらい大切そうに整然と並べられている。
そして今テレビでは明らかに素人のカメラワークの映像。
揺れる画面、雑音、うるさい。


ギイチ、これは何が楽しいの?

音と画。せっかくの大型テレビで揺れる映像を見せられると余計にグルグルと酔いそうになる。
頭痛がしそうだし、吐きそうだ。

視線だけでも外す。

「一鉄、何か報告したいの?」

「え、何だろう?」

「珍しいじゃん、ラブラブな奈央さんとのデートは?」

「今日奈央は仕事なんだよ。つまんなくてさ、ギイチならいるかなって思って。」

「ありがとう、そんな時にだけ当てにしてくれて。」


何かわからない作業中のギイチ。
適当に部屋を見ながら話をする。

「ごめんね。でも、すねないでよ。」

「でさ新しい報告と言えばさ、ハルヒに彼氏が出来てさ。」

ちょっと眉間にしわが寄ってしまう話題だけど。

「これがまた本当にうれしそうな顔をしているんだ。人の事をさんざん色ボケなんて揶揄ってたくせにやたら幸せそうで。でも本当に笑顔が一層可愛くなったと思う。兄が言うのもなんだけど。」

「ハルヒちゃん可愛いからね!そろそろ妹離れしなよ。」

「なんだよ、してるよ。最初の日からお泊りに反対することもないし、一言も意見したことはないよ。でもね、奈央は知ってたんだよ。ハルヒは兄より先に奈央に教えてたんだよ。ひどいよね。内緒で奈央に紹介しようとするしさ。」

「大学生?」

「そうだよ。春から同じグループ友達になったらしい。でさ、ハルヒを泣かしなたら承知しないって兄として言ったらさ、すぐに奈央もそんなことになったら報復するからねって笑顔で言って。僕でもびっくりしたのに彼氏はニコニコして大丈夫ですって言うし。なんかさぁ、ハルヒも大きくなったなぁって思って。」

「寂しいんだ?」

「まあ、ちょっとはね。」

そこにいた変なマスコットをグリグリしながら答える。


「ねぇ、ギイチは?なんかいいことあった?」

・・・・・・沈黙。


「なんかあったの?」

マジ?


「一鉄さあ、今ついでみたいに聞いたでしょう?僕は変わらないって確かめたくて聞いたでしょう?」


「うん?そう、かな。」

多分そうかも。ハルヒも大人になったから、でもギイチは・・・。
グリグリされた後、手足を引っ張られ続けるマスコット。

そうしながらも無言のギイチの方を向いた。

「どうかした?」

心配したけど、どうも顔が赤い。

マジ?照れてる?初めて見た。
ちょっと・・・太ってるけど結構もち肌で可愛いかもしれないギイチ。
誰か気がついてくれる子いた?


「実はさぁ、仲良くしてくれる女の子ができた。」

仲良くって、どんなレベルの密度?まさかのすっかりハルヒ超え?
貴重な話は落ち着いて聞こう。

「どんな感じ、教えて。」

「この間の鉄コンで知り合った仲間と飲んでたんだけと、隣のテーブルで女子会やってて。僕たち声が大きくなって嫌な顔されたりすることあるしさ。気をつけてたけどやっぱり嫌がられてるのは感じててさ。トイレに行った時にちょうど中の1人と一緒になって、うるさくして申し訳ないって謝ったんだ。そうしたらその子が実は鉄子ですって。楽しそうなので聞いてましたって。すごくない?」

まぁ。ギイチにしてはすごい。・・・で、続き続き。


「・・・でいろいろ話をしてたんだけ。どうやら音鉄らしくてね。あ、音鉄っていうのはね・・・。」


知ってるけど嬉しそうに話し続けるのを黙って聞いた。
最近聞かせてばかりだった惚気の代わりに。


簡単にまとめると、そんなこんなの話で盛り上がったらしく、ライン交換をして。
そうしたら携帯につけていた貴重なストラップに反応して、今度あげる約束をしたと。

しばらく待っても話が続かない。


以上?終わり?で?

それでもニコニコ顔は崩れたままのトロリ顔。まだ赤いし。

それは友達、鉄友?


仲良くしてるって、やっぱりハルヒ以下、大学生以下、今やっと小学生レベル。
期待して驚いてしまったけど、まだまだ先は長そう。



「可愛いの?写真はないの?」

「ないよ。でも毎日話をしてる。」

きっと文字でね。

それでも嬉しそうなギイチの未来に期待してしまう。


「うまく行くといいな!」

「友達だよぉ。」

一応先走らないように抑えてるらしいが。
照れる大人、ちょっと・・・そのトロリ顔、可愛くないから。


「終わったよ。ご飯に行ける。」

「うん、ちなみに何してたの?」

「え・・・えっとその彼女が欲しいっていった沿線の音で・・・・ちょっと珍しいのがあるんだ。ちょっと聞く?」


ノーサンキュー!!二人で聞いて。
そう言って背中を押したい気持ちもある。


「ううん、ご飯食べたい。お腹空いた。」

ギイチの支度を促す、と言ってもそのまま財布と携帯を持って出かけるくらい。

こう見えてなかなか稼ぎのいいギイチ。
大きな出版社の旅行雑誌チームで仕事をしている。
趣味と実益が叶えられてるのだ。うらやましい。
当然出張もあり、このマンションも都内の大きな駅に近い場所でご飯を食べるのにも便利だ。
駅の方へ行かなくてもたくさんあるくらい。


それでもギイチのおすすめは普通の小さな定食屋。
カラカラと音がする引き戸を開けて暗めの店内に足を踏み入れる。
自分ではなかなか選ばないお店だ。
お店の人は笑顔で迎えてくれて顔馴染みなのはよくわかった。
お母さんが僕にも挨拶してくれる。
いい感じの温かい落ち着く雰囲気で。
ギイチらしいといえる。


「ギイチ、デートの予定とかは?」少し声を低めて聞く。

ブフォッ。
吹き出された・・・・汚いぞ。

「そそそそそそそそんな・・・・た、ただ頼まれていたものを渡して・・・・。」

まさかそんなに分かりやすくどもるとは。

「ランチでも、とか言わないの?」

「ええええええ・・・・え、え、え、えっと言うべき?」

「どうだろう?一度くらいは。」

「だって・・・断られたら悲しいよ。」

「じゃあ、コーヒー奢ったりとか。」

「・・・うん・・・・。」


仲良くしてると言っても本当にリアルに弱い。
頑張れギイチ。


「いい子だといいなぁ。」

「うん、いい子だよ。」

「いくつ?仕事は?」

「24歳。仕事は普通の会社員かな?よく聞いてない。でも週末が休みだって言ってた。」

「じゃあ、誘えばいいじゃん。何かイベントないのか?」

「小さいのならある。・・・どうしたらいいのか分からない。」


いろいろと特殊過ぎて俺もアドバイスしにくい。
どんな子だろう。

「やっぱりとにかく文字ツールでもいいから、たくさん情報やり取りして仲良くなって。コーヒーかランチを目指して。ついでにイベントに誘う約束をする。それしかないんじゃない?」

「うん。」

「すごく、ギイチはいい奴だからさ。ちょっと趣味愛が特殊だけど、それを分かってくれる人がいたら問題ないじゃん。この間の鉄コンでは誰とも喋らなかったの?」

「うん、なかなか喋りかけられなくて。」

「まあな、俺も別の意味で誰にも喋りかけられなかったよ。」

「そんなこと言ってちゃんと結果出したくせに。」

「むしろ片思いの奈央がいてくれて、お互い非鉄だと思ったからだよ。まあ、奈央が鉄子だったらある程度は話も合わせるけど。でもさあ、やっぱりディープな話はできないし、ごろごろとコレクションがあったらその内付き合いきれないなあってなるかも。だからその子も普通の人よりギイチみたいな鉄男の方が付き合いやすいとは思うよ。楽だし、分かってくれそうだし。」


本当は奈央が鉄子だったら自分も一鉄の名に恥じない鉄男になれる自信はある。
とことん付き合うと思う。でもそうは言わないでおいた。

「ありがとう。一鉄。彼女もそう思ってくれればうれしいんだけど。」

「いつ会うの?」

「まだ、だいたい来月の初めの週くらいって言ってる。」

「彼女はギイチのサイト知ってるの?」

「うん、教えた。実際に見たと言われた。」

「なんて?」

「いろいろ詳しいって、すごいって言ってくれた。」

褒められたらしい。嬉しそうだ。

「どんなタイプ?大人しそう?」

「うん、初めて声かけた時もすごくびっくりして真っ赤になってたし。」

「そうなんだ。でもさあ、隣のテーブルの中の子ってすぐわかったの?それとも可愛いなって思ってたの?だってギイチ、謝るって言ってもよく話しかけたよね。」充分驚きだ。

「・・・・・。」


なるほど。最初から気に入っていたとか、ひょっとしたら視線が合ってたとか?
いいじゃないか。楽しそうな予感。うまくいくといいなあ。
思わず笑顔になる。


「いいよなあ・・・・・一鉄は。すんなりいって・・・・。」

つぶやいた声が恨み言のようで。

「ギイチ、何度も泣き言に付き合ってくれただろう?今度だって何カ月もハルヒのせいで片思いしてたんだから。知ってるだろう、そんなにすんなりじゃないよ。」

「だって・・・・・。」

「この間も奈央は俺を突き放して一人でよく考えたいって・・・休みとって携帯をわざわざおいて旅行に行ったんだよ。俺がどんだけ不安だったか。もう帰ってくるのをひたすらハルヒの部屋で待って、強引に押しかけて全力で言葉を尽くして引き戻したんだから。苦労してるよ。ハルヒと彼氏の方がよっぽど能天気にラブラブ中だよ。」

その後にうれしくて抱き合って、疲れて寝入ってる彼女の写真を撮ったことは内緒。
さらにハルヒに送って幸せを知らしめた浮かれた行動も内緒。

・・・あれは奈央にも怒られた。

ただいま写真拡散禁止令が出ている。
撮ることは禁止されてないからいいけど。

「俺は先を見てるのに、奈央はなかなか怖がって見てくれないし。」

どうしてなんだろうと、あんなに毎回何度も確認してるのにと思う。

でも今はギイチの話で。

「ねえ、彼女に彼氏いないのは確認した?」

「・・・・してない。」

「本当にギイチはいい奴だから、幸せになってもらいたいよ。今までお世話になったし、応援できることがあったら何か言って。僕も奈央もハルヒも協力するし。」

「うん、ありがとう。別に・・・・誰にも言わないでほしいけど。」

「うん、わかった。言ってもいいうれしい段階になったら教えて。」

照れた顔だけどちょっと悲しそうな不安そうな。


奈央もよくそんな顔をする。
その根っこは分かってるのに。
ギイチには無理でも奈央にはその根っこにもたくさんたくさん言葉で栄養をあげてるつもりなのに。

結局、彼女の話を少しづつ聞いて別れた日。

奈央がいない夜。今日は主任当直らしい。忙しいらしい。
前は本当に悩んでた仕事だけど、少しづつまた頑張りだしてる。
本当に頑張り屋の奈央。
明日は帰ってきたら寝たいだろうし。
寂しい夜を過ごす。

ギイチの事を報告しながら相談したい。
どう手伝っていいか、陰ながらの応援しか思いつかない。

奈央からメッセージが来た。
珍しくゆっくりご飯を食べてるらしい。

『ゆっくり休めるといいね。・・・・・また会える日まで。その時を楽しみに待ってる。』

『うん、ちょっと休んだら行くかも??????』

『奈央、すっごくうれしいけど無理はしないで。平和な夜を祈ってる。じゃあね。』

『じゃあね。』


ギイチの事など頭から消し飛んでいた。
ごめんねギイチ、やっぱりハッピーです。

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