紹介し忘れましたが、これが兄です。

羽月☆

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19 ハルヒが知りたいこと

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気が付いたこと。
自分の近くにいた人のこと。
特別かもと思ったこと。

そして奈央さんに伝えながらどんどん特別だと思えてくる。

仲のいいグループの中の一人で一番よくしゃべる相手だと言った。
今日ついつい心が落ち着かなくて時間を気にしてたらどうしたのって聞かれたこと。
奈央さんと兄の事をちょっと話をしてて。携帯の写真を見せた事も。
兄に似てるって言われて、その前に奈央さんの事を色っぽいって言ってましたが。
そう言うと、やっぱりどの写真か気になったらしく奈央さんにも見せた。

後で兄は怒られるだろう。いい気味だ。

それで一緒に携帯を見てたら奈央さんの寝顔が送られてきたりして。

「ええっ、その子にも見られたの?」

「はい、アホ兄のせいで。」

「イチ・・・・・約束させる、もう私の写真を送らないように。」

「普通の写真なら、どうぞ。」

「・・・・ハルヒちゃん、もう送らないように言うから!」

やっぱり怒られるだろう兄。

「なかなか友達だと・・・踏み出せなくて。ちょっとぎくしゃくしたら悲しいし。」

「そうだね。どうなんだろう?いつも隣に座るってかなり可能性がありそうだけど。」

「・・・・そう思いたいけど、誰にでも優しいし。」

「そんな人困るのよね。それでも特別って思えることある?」

「・・・・・あんまり・・・・・ないかも。」

「そうか。うまく行ってもらいたい。ハルヒちゃんにも幸せになってもらいたい。」

「奈央さんは幸せなんですね。」

「うん、おかげさまで。」

「ごちそうさまでした。元気になって良かったです。」

「私は春日兄妹にたっぷり癒されてます。」

そう言ってしばらくして奈央さんは帰っていった。

ラインのアイコンを見る。
笑顔の広瀬君。優しいのは皆に。誰の相談にも真剣だし。
奈央さんに聞かれたような特別感なんて感じたことない気がする。
もう少し何とか一緒の時間を増やしたいなあ。

あの部屋には皆で何度も行ってる。
彼女がいる気配なんて感じた事なかった。
そこはちょっと安心してたりする。

お風呂に入り歯磨きをして寝る支度。
明日は午後授業。ゆっくりできる。奈央さんも元気になって、もちろんアホ兄も。

すっごく幸せな、いい夢がみたい!

びっくり。携帯に広瀬君からメッセージが届いていた。

『明日授業何時から?』

『明日は午後2コマだよ。』

『じゃあ、お昼一緒に食べない?』

マジ、喜んで。でも普通に返事。何だろう、何だろう。
抑えきれない期待が心にモクモクと出てくる。

『了解です。どこに何時?』

大きな駅の改札口で待ち合わせをする。
大学とは離れてる駅。
モクモクと沸き起こる期待をなんとか抑えて平静なふりして。

でも幸せないい夢が見れそうで笑顔になる。



朝。

いい夢見れた?・・・・・覚えてない。
ただただ奈央さんにいろいろ話を聞いてもらってスッキリしてよく眠れた。

以上。


取りあえず一人暮らしのあれこれ。
掃除洗濯朝ごはん。

昨日アホ兄は随分ここにいたらしい。
その執着たるや、元気なかったから心配とは言ったけど本当に奈央さんにべったり惚れ込んでる。
待っている間落ち着かなくて掃除をしてたと言っていた。
窓のサンやレンジの中、冷蔵庫の中、ガスまわりをひたすら磨いていたらしい。
手だけ動かして耳は玄関へ向けていたのか。

取りあえずピカピカになった場所、いろんなたくさんの場所に愛を感じる。
偏愛。
もちろん奈央さんへの。

ピッコロとも遊んでくれたらしいけど、うれしかったかどうかは分からない。
ずっと不安と愚痴を聞かされたのでは?

「ピッコロ迷惑だった?」

顔をあげた。どうだろう?判断付かず。

とりあえず一通り眺めて満足して出かける支度をする。
どこにランチに行くんだろう。
携帯の充電を確認、OK。早いけど荷物を持って出かけることにした。
だって・・・・落ち着かないから。

近くでコーヒー飲みながら課題でもやろう。
そこはまじめな大学生。
ランチの後は学校に行くんだから。

来年はいよいよ就職。
奈央さんみたいに専門職じゃないから本当に苦労しそう。

広瀬君はどうなんだろう。ちょっとそんな話をしてみたいかも。
結構ドキドキしていて、また心にはモクモクと期待の思いがあって。

これで友達へのキューピットを頼まれたら、私は笑えるだろうか?
気前よく『任せて。』なんて言えるだろうか?
そんな気配を感じたことがあるか考える。
仲のいい子で広瀬君が話してるのを見たり、話題にしたのを聞いたり・・・・・。

やっぱりない。

じゃあ、自分の話ってした?

高校の部活の話と、住んでるところ、あと実家と兄含め家族の事。
普段出かけたスポットや観た映画や。
普通に話してる。聞き上手なんだもん。
するっと話に入ってきていつの間にか二人でずっと話してる気がする。


でも、じゃあ今度一緒にとか言われたことは一度もない。
軽く他の人からはあるけど、広瀬君からは全く。
だから今日のランチがよっぽど珍しい。
二人だけの連絡も初めてかも。
・・・まさか奈央さん目当て・・・・いやない。
兄の彼女でアホのようなラブの中。

考えても考えても自分に都合いい事にしか結論づけられず。
ただのランチかも、とか。それでもいい。
でも何で私?

『時々思い立つと個別に誘ってたんだ、誰にも聞いてなかった?』とか。
そんな悲しい事実だったら・・・・笑えない。


「ハルヒちゃん。」

ぼんやりしてたら声を掛けられた。
びっくりして背筋が伸びた。
開いたテキストは一文字も読んでないかも。

「なんだかすごい考え事してますって顔してたけど?」

「え、見てたの?恥ずかしいなあ。ちょっといろいろ考えてました。」

時計を見る。まだ早い。携帯を見る。着信無し。

「ちょっと早く着いたんだ。ちょうど見つけたから声を掛けようと思ったんだけど。まったく気が付かなかったね。」

「うん。まったくで、本当にごめんね。」

「別にいいよ。ちょっと見てるのも楽しめたから。」

やっぱりあのアホ兄と血がつながってるので、少しはそっち寄りなんです。

「ランチ行こう。」

「うん。」

コーヒーは半分くらい残っていた。捨ててごみを片付ける。

「あ、残ってたんだ。もう少しゆっくりすればよかったね。」

「いいよ。ぬるくなっちゃったし。」


「早く着いたの?」

「うん、昨日アホ兄が気を紛らわすために部屋中掃除してくれて。おかげで朝の時間が余ったから。」

「そう。」

おかしそうに笑う広瀬君。

「ランチ何食べる?」

「お店決めてるんだけど、いい?軽めのビストロフレンチ。」

「なんだか響きが高そう。」

「ああ、大丈夫。ランチセットだから。」

「行きたかったお店なの?」

「・・・うん、まあね。」


初めてのお店っぽい?
でも歩く足取りは迷いなく進む。
駅から離れた場所のビルの上。階段を上る。
お店の人に予約の名前を言って案内される。

昨日予約したの?返事したの遅かったよ。

ちょっとドキドキが聞こえそうなんですが。
もうモクモク状態を抑えられない・・・・・期待感に満たされる心。

「さすがに授業前だからお酒は無しで悲しいけど。」

「広瀬君も午後だけ?」

「うん、僕は4コマ目だけ。」

「・・・・そうなんだ。」

じゃあもっとゆっくりでもいいはずなのに。今日と言った理由が分からない。

「他のメンバーは今日は?」

「皆午前中だけだって。」

「そうなんだ。」


聞いたらしい。

誘ったの?誰かを?

ちょっとだけモクモクの勢いが衰えた。
広瀬君の表情はいつもの優しいままで。

「ハルヒちゃんって・・・。」

何を話されるのか、顔をあげて聞く。
視線が合って逸らされた先、ちょうど店員さんが料理を運んでくるところだった。

「美味しそうだね。」

ワンプレートランチだけどとにかくいろんな種類がのっている。
冷たい物から暖かいものまで。美味しそう。

味の感想を言い合いながら食べ続け、さっきの話は途中で消えたまま。
全部食べると結構お腹いっぱいで。

「あ、昨日奈央さんに箱根土産もらったんだった。せっかく広瀬君に会えたんだからお裾分け持ってくれば良かったね。」

満足して笑いかけたら、ちょっと表情が止まった気がしたけど。

「気持ちだけ、ありがとう。」

やっぱりいつものように笑ってくれた。

「広瀬君って弟というよりお姉さんいそう。」

「そう?」

「うん、可愛がられてそうな感じ。弟は意外かも。」

「よく言われる。弟キャラだって。」

「そうだね。」

「ハルヒちゃんは妹キャラだよ。」

「そう?でも意外にしっかりしてるよ、あの変な兄貴だから。」

「普通いないよね、彼女の寝顔を家族に送るお兄さん。自慢かな?」

「何でも言い合うの。初めてお泊りしたときなんて・・・・・あ、あ。」


しまった。また女友達の様に話してしまう。・・・聞き上手め。
つい真っ赤になってしまった。


「ねえ、今のはお兄さんの話?」

「うん、そうだけど?」

何?もちろんアホ馬鹿兄の話です。


デザートも美味しくいただき、紅茶もなくなり。
時計を見た広瀬君。

「じゃあ、そろそろ行こうか?」

「うん。」

結局本当にランチしたかっただけ?総当たりの結果の一人が私だった?
お会計は半分ずつ。
階段を降りて駅に向かう。
美味しかったねなどと普通の話をしながら。


電車を降りて学校に向かう道。結構歩くんだ。
それでも二人で歩くといつもより近い気がする。

「ねえ、ハルヒちゃん。4コマ目終わったら用事ある?」

「別にないよ。」

「ちょっと一緒に帰っていいかな?」

「うん、もちろん。待ち合わせしよう。」


別れたところで待ち合わせをすることにした。
私は授業へ。広瀬君は自習室へ。

またモクモクと盛り上がる気持ちを感じる。
一日こんな気分で振り回されてる自分。
何だかそれも楽しいのかどうなのか。

兄の惚気話を聞きすぎて恋愛が簡単だと思い込んでた。
だって幸せマックスの兄だから。

でもよく考えれば奈央さんの辛い失恋の話も聞いたし。

やっぱり人の思いがうまくつながるのは難しいのかも。

授業も本当に上の空で。時々我に返りノートをとる。
これがあと一コマもある。さぼりたい。

さぼっても絶対に帰らないけど。
何とか頑張って半分くらいは集中していたかも。

何だがどっぷりと疲れた。


「ハルヒ、どうしたの?寝不足?」

「うん、ちょっと疲れてるみたい。」

「なんで?どうした?気分転換に遊びに行く?」

「ううん、ごめん、この後はダメなんだ。」

疲れたように体を起こす。

「そうなの?しょうがない、またね。」

「うん、またね。」


お腹いっぱいなのもよくなかったかな?
お酒飲みたい、ちょっと気持ちが重くて疲れた。
もっと楽しい予感だけ感じていたいのに。

こうなると広瀬君が恨めしい、さっさと用事を切り出してほしいのに。
気持ちを楽に開放したい。
でももし悲しい話や、ここにきてとるに足りない普通の与太話だったら。

携帯を開いて兄へメッセージを入れる。

『能天気な兄がうらやましい。悩み多い年頃の妹はモヤモヤしてます。今度ご飯奢って。就職の相談もあるし。』

とってつけたような最後の言葉。


早く待ち合わせ場所に行かなきゃと思うのに。
さっきは『早くさっさと!』と広瀬君の背中を押すようなことを思ったのに。
今は『ちょっと待て待て。』と思う気持ちでなかなか立ち上がれない。
せいのっと。掛け声をかけて立ち上がり歩き出す。

よく見まわしたら誰もいなかった。

さっき別れた場所へ行く。


広瀬君がいた。もう一人女の子も。
お辞儀をしてクルッと音がするような回れ右で駆け出していく女の子。
広瀬君が背中を見送りうつむく。

だってとってる授業違うのもあるし、私の知らない友達の女の子だってたくさんいるでしょうけど。
誰なんだろうと考えてしまう。
ある程度走った彼女は歩き出した。
ちょっとうつむき気味で。


その背中をしばらく見て立ち尽くしていた私。
その後広瀬君に目をやったらこっっちを見ていた。


何とも言えない表情の広瀬君。


私が予想するに、『見てたの?変なところ見られたな。へへ。』

今、広瀬君がいつもみたいに笑って手を振ってくれたら『遅くなってごめんね。』って走って行けたのに。



携帯が鳴る。
ありがたい、兄からだった。

『どうかした?今日は夜早めに帰るつもりだから電話しようか?ご飯は任せなさい。予定考えてて。』

まさか奈央さんも昨日の事は話してないと思う。
さすがに女子の恋バナ・・・の始まりの予感に過ぎないけど。
内緒にしてとお願いはしたし。

そして予感の大元はそこにいるのに近寄れずに。
携帯をポケットにしまいながらも動けず。

自分がこんなに意気地がないなんて。
もっとパッキリした性格だと思ってたのに。


自分の事なのに気づかないでいることは多いのかも。

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