紹介し忘れましたが、これが兄です。

羽月☆

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13 夜行性の彼は?

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「イチ。朝ごはん。」

なんだか飼い犬の様に呼ぶ。

「うう・・・ん。疲れが取れない。」

私に言わないで。今日は休み。有休とったんだもん。

「まだ寝ていたいなあ。ねえ、今日もお家でデートしたいなあ。」

だってイチも有休とれたから。
一緒にデートしようと言って楽しみにしてるのに。
ベッドのところに言って見下ろす。
起きる気配はない。

「ねえ、キスして起こして、眠い。うんと凄いキス。びっくりして目が覚める奴。」

何だそれは?

「前にしたじゃん、勝手に奈央が寝そうなときに。あれあれ。」

起きてるじゃん、しっかり脳も起きてるじゃん。
キスをしながら鼻をつまんでやった。

さすがに目が覚めたらしい。息が出来ないから。

「酷い、白衣の天使の起こし方じゃないよね。本当に天国行くよ。」

「目が覚めたでしょう?」

「僕はあんなにベッドで天国気分にさせてあげてるのに。酷い。」

「お願いだからそんなことハルヒちゃんの前では言わないでね。」

「当たり前だよ。恥ずかしいなあ。」


お前だ!

疲れる。大人っぽいところはすっかり諦めた。意外に手がかかる。

「さて、デートデート。」

でも起きだしてからはニコニコしてる。
本当に面白くないと言った彼女たち、今なら退屈しないと思う。
私だって今までこんなに冗談交じりな朝は迎えなかった。
もっとしっとりしてたわよ。

目の前で美味しそうにシリアルを食べるイチを見て思う。
やっぱり呼び名替えようかな。
どうもペット感が出てしまう。

1人の時考えよう。

美幸には報告した。
面白い冗談のような出会いを。
1人だけ不倫の恋愛相談をした友達。
冷静に毎回別れろと怒られてばかりだったけど。
別れたと言った時は本当に偉いとほめてくれた。

ピシッ。

おでこで音がして痛みが走る。

「痛っ。」

顔をあげると怒ってイチがデコピンの指を見せる。

「今考えてたでしょう?」

「違う、友達に・・・・報告して応援されたことを思いだしてたの。」

半分は嘘ではない。後半のそこまでは回想出来てなかったけど、その後続きで回想する予定だったから、多分。
疑わしそうに見る。犬の嗅覚並みに鋭い。
事このことに関しては鼻が利く。

話を変えて今日の行動予定を決める。
笑顔になると疑いの顔も緩む。

ほっ。

久しぶりに一緒に外に出た気分。
あの鉄コンの日以来?
ちょっとだけおしゃれして女っぽい恰好をした。
なんだか痩せてきてる。
明らかにウエストがゆるい、何だか筋肉がついてきたような気さえする。
よく食べてるのに。

原因と結果が横並びにいて、まあ、それでも満足してしまってる自分を認める。

私の腰にはしっかりと手が添えられている。
うれしそうに前を向いてるイチ。
ちょっと普段は行かない東京中心エリアに向かう。
大きな美術館で工芸展を見る。

美術館自体が素敵なのだ。昔の建物にあったパーツをそのまま使ってると思う。
エレベーターの回数表示からして気に入ってる。
平日で空いていた。ゆっくりガラスケースの作品を見る。
昔の人の技術。昔と言っても江戸から明治の時代の物だった。
まだまだプラスティクもない、量産できる時代でもない。
この作品一点一点に文字通り心血を注いで。
すごいと素敵とかっこいいなんて言葉しか出てこないけど本当にすごい。
作る道具だってその筋の人が一点一点作り上げたものを大切に手入れして使い続けて。
そしてこんな作品が出来る。
やっぱりすごい。

見終わってまたゆっくりと動くエレベーターの回数表示を見ながらカフェへ。
いつもここに来たら食べる分厚いトーストに季節のフルーツとアイスがのったもの。
絶対全部は食べられないんだけど。それでも頼んでしまう。
今日はイチもいるから残さずに食べれるかもしれない。
外の席は広いリゾートソファになっていた。
1人だと普通のイスとテーブルだけど、今日はここ。
嬉しそうにする私についてくるイチ。
注文が出来て取りに行ってもらう。

「美味しそう。」

「そうだね、奈央、いつもこれ1人で食べてたの?」

「うん。でも残してた。さすがに無理で。今日は一緒に食べてね。」

「さすがフルーツ専門店だね。豪快!」

「そうなの。だからついつい食べたくなるの。」

ふたりで半分にしたトーストを小さく切りながら食べる。
フルーツを乗せて。
アイスも溶けないうちにぺろりと。

イチがすっかり食べ終わって口を拭きながらまだ食べてる私の方を見る。

「何?足りなかった?」

「ううん。可愛いね。いつもより無邪気で。最初会った時とは全然違う。」

「そ、そりゃあ。だって来たかったの、美術館もここも。大好きな場所だし。」

「じゃあ、記念写真撮ってあげる。」

そう言って携帯を出して私の背後に回りいきなりパシャリ。

ちゃんと画面見てないでしょう?
顔入ったの?トースト持ってるし。

見せられた画面にはちょっとびっくりした顔の私。半分トーストです。
そしてうまい具合に後ろから顔を出してるイチ。
席に戻りながら携帯をいじってポケットにしまった。

何の記念写真?

「良かった。初デート記念だね。」

ああ、そういうこと。うれしそうに言われるとこっちもうれしくなる。
残りのトーストを食べてお皿が空になった。
満足。残すのはいつも申し訳なかったから。
中のカフェも混んでない。ゆっくりとソファの席で休む。
あとはちょろちょろと買い物をするということで。

携帯を取り出して笑うイチ。
画面をこっちに見せる。

『お兄ちゃん、奈央さん楽しそうだけど、やつれてない?ちゃんと寝かせてあげてね。自分の彼女の面倒ばかりじゃなくて、私の彼氏の餌やりも忘れずに。』

今、トーストを持ってたら間違いなく落としてた。
ティーカップなら砕けていただろう。

何?

ハルヒちゃんの声で読んでしまった・・・・でも・・・・。

問題のお兄ちゃんをにらむ。


「ハルヒちゃんに何言ったの?」

「へ?いろいろ。ある事ある事。無い事は言ってないよ。」

「その寝かせてあげてねって何?」

ちょっと小声で聞いた。

「ピッコロが夜行性だからうるさくないって聞かれて、夜は隣で寝かせてもらってるから大丈夫だよって答えて。なら良かった。ご飯は忘れないでねって。一度も忘れてないのに毎日毎日言ってくるんだよ。本当に彼氏みたいに。」

「・・・・・・・・。隠そうとか思わないの?」

まだまだ私は小声で。

「出来ると思う?多分二人とも無理。意外に鋭いんだよ。最初の時もすぐばれたからそれとなく情報をよこしてきてたんだと思う。それなのに紹介はしてくれないところが抜けてるんだけど。」

そんなことはどうでもいい。まあ、今となってはだけど。

全部バレてる・・・・どういう態度でいればいいの?
もしイチと別れたら・・・引越ししなきゃいけなくなるじゃない。
なんて余計なことまで考える。
隠すのも心苦しいけどもっとオブラートに包んでよ。

どうしよう、ひどく恥ずかしい。

「ねえ、もしハルヒがいたらさっきみたいな無邪気さはおさえて、もっと大人しくなる?」

「絶対大人しくなる。お姉さんっぽくなる。」

そういう風に大人のふりで振舞ってきたのに、台無しにしたな・・・・・。
じろりとにらむ。

「いいじゃん。褒められたよ。『やったね、兄ちゃん。』って。」

本当に・・・・・ハルヒちゃんいい子。

「ねえ、毎日泊ってるって思われてる?」

またまた小声。

「そりゃそうだろうね。ピッコロ夜行性かあ、そうだったかなあ?」

もっと真剣に考えて欲しい。
付き合い始め、毎日お泊り。・・・・じゃあって絶対そう思うでしょう?

「ハルヒちゃんいつ帰ってくるの?」

「週末くらいだよ。余裕あればお土産買ってくるかな?」

週末くらいって・・・はっきりしないの?
それは困る。はっきりして欲しい。
朝シャワーを浴びに帰ったらハルヒちゃんと出会うお兄さん。
明らかに愛し合った後のけだるい感じとか漂わせて・・・・なんて。
週末にはあり得る・・・・よね?期待じゃなくて、予想です、あくまでも。

「週末ってはっきりしないの金曜日の夜?土曜日の午後?日曜日の午後?」

「まだわからない。でも週末土曜日まで泊っていい?」

・・・・・。

でもって何?
どこから出てきた?

「ハルヒが帰ってきたらあの部屋じゃ寝れないし。金曜日の場合はその夜から荷物もってお邪魔します。まあ、今とあんまり変わらないけどね。」

お留守番が終わっても週末は一緒にということ・・・・。喜ばしい事なのに。

照れる。ハルヒちゃんお願いだから日曜日まで留守にしてほしい。


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