紹介し忘れましたが、これが兄です。

羽月☆

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1実は想像もしなかった偶然でした。

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最近まれにみるくらい良く晴れた日。
洗濯日和、ぐうたらお休み日和、私にはとっても大切な休みなのに。
何故ここにいるんだろう? 
暗めの建物の中。
目の前には電車があった。車体だ。本当に目の前に。
そして車輪と同じ高さから車体を見上げてる私。

ここはちょっと都心から外れるけど、ここにいる人たちにとっては聖地の一つといっていいのではないだろうか。
鉄道博物館。周りには本当に心の底から鉄道を愛する人が集っている。

その目的は同志を見つけるため。
そして今回は特別に異性の同志を見つけるため。
なんだかいつも以上に?鼻息荒く語りだしてる鉄男君がいて、なんだかそれに聞き入る女の子達。
そんなラッキーな鉄男君鉄子さんは一部分で。
もちろん鉄男君同士、鉄子さん同士で固まってる集団もあり。
悲しいかな主催者の望み通りとはいかないのが男と女。
趣味が同じでもそんなことになるのである。
とはいえ、さらにその端っこで私は目立たないようにいるだけ。
だって私は自分が便利に使えればどんなエンジンで走ろうが、どんな音がしようが構わない。
なにより早く目的地に着くなら。
もし子豚が飛んでくれるのならその後ろにひかれた車でいいくらい。
まったく鉄子のテの字もない私。
それがばれると相手に悪いから積極的に動こうなんて思ってもなくて、むしろその他大勢の中に埋もれたい。
ぼんやりそんなこと考えてたら一人になっていた。

しょうがない付き合いで無理やり参加した私。
誘った美幸はそこそこ立派な鉄子なのだ。
比較症例がいないためにどの程度なのかは相対評価が出来ない。

一応美幸を探す。
見つけた! 一人の鉄男君と話しをしている。しかも楽しそうに。
ここに入ったらあっという間に私を一人にして楽しんでるみたい。
まあ、それが本来の参加者のあるべき姿だし。

美幸の父親が本当の鉄道会社勤務の鉄男君だったせいで、小さい頃からその教育を受けた美幸がすっかり鉄子になってしまったのは不思議でもない。
それに鉄道ファンも昔より随分増え、認知度も上がり、市民権を得て、おしゃれ感も出てきたらしい。
しかも、いろんなジャンルの鉄さんがいるらしい。

おしゃれな鉄道の旅もできる今の時代、可愛いカメラで電車の写真を撮るの人の姿も珍しくない。
このイベントのニュースにどうしても参加したかったらしい。
同じ趣味の彼のほうがいいと思ったらしく半ば無理やり誘われて、こんないい天気なのにここにいる私。
しょうがないので一人でぶらぶらと歩く。
説明書きを読む気もなくただ古い車両を見たりしてるだけ。
昔のニュースで見るような汽車みたいな車体。
でも結構好きかも。レトロ感があっていい。
でも写真を撮るほどではない。さっきから一度も携帯を出してない。
首からカメラをかけてる人がほとんどの中、実にシンプルな部外者。
主催者からの説明によると途中ゲームもあるらしい。
「マニアックな問題を用意してますので楽しんでください。」と言っていた。
問題を理解することもできなそう。
つまんない。さすがにつまんない。
思わす下を向いてため息をつく。

「あの、一緒に回ってもらえませんか?」

横から声をかけられた。
うっかりぼんやりのうつむき加減でまったく気がつかなかった。
男の人が立っていた。普通の人、カメラはない、リュックもない。
むしろバッグもない。

「あ・・・はい。」

「あの、間違ってたらすみません。でも鉄子さんじゃないですよね?」

ちょっと近寄り小声で聴かれた。

ばれた?

あっ。と開いた口が答えです。

「すみません。実は友達に付き合ってと頼まれて。本当に全然知識がないんです。」

私も小声で答えた。

「僕もです、実は。だから安心してください。披露できる知識もトリビアもないので普通の話で大丈夫です。」

良かった・・・・・。

「一緒に来た友達は?」

「あそこにいます。」

さっきから盛り上がったまま二人で楽しそうに同じところで話している美幸。

「ああ、なんだか楽しそうですね。」

「僕の連れはあっちです。」

男の人の指をたどっていくと・・・ただのオフ会的な同志の会みたいな感じ。
かなり盛り上がってはいるけど。

「完全に目的から外れたみたいです。期待と気合はあったんですが。」

「でも楽しそうですね。」

「でも加わりたくないでしょう?」

「うっ・・・・加われないと思います。異次元の話になっていそうです。」

「そうなんですよね。好きなものを披露したいという気持ちは分かるんですが止まらないんです。一日一つのトピックで時間は30分までと決めて話を聞いてあげてます。」

「それでも聞いてあげてるんですね。優しいですね。」

つい褒めたら照れたような顔をされた。ぐっと可愛い顔になる。

「アルバムを作ったというから電車の車体のアルバムかと思ってみたら、車内の換気口みたいな、とにかくサラリーマン生活で毎日電車に乗ったとしても一度も注目しないだろうパーツとかがずらっと並べられてて。本当にうんざりしました・・・・っなんて言ったら白い目で見られますよね。内緒です。」

「美幸も時刻表を枕元において、車内で録音したガタンゴトンの音を聴きながら寝るらしいです。」

思わず笑顔になる。

「でもこの会は本当に好きなものが同じ同志が集まれるし出会えるし、そこでカップルになると最強ですよね。」

「でも部屋には行きたくないです。すごい部屋になってそうですよね。」

たしかに、美幸の部屋にはところどころ隠せない鉄愛があるのだ。

「あの車両に乗ってみませんか?」

誘われるまま、一緒に行き、階段を登って乗り込んだ。
茶色の可愛い車両。床が木製で車内もほとんど木製。おもちゃみたい。
それに天井も低いし、椅子も小さい気がする。男の人は少し背中を丸めてる。

「すごく可愛いですね。」ちょっと狭そうだけど。

手で椅子を指されてその椅子に座ってみる。前後も狭いし、ちょっと低い。
隣にするっと座られた。
近いんですが。ほとんど太ももがくっつくくらい。
名前も知らない、出会いの場で声をかけてくれた人と、いきなりの接近。
嫌なタイプではないけど・・・・。ちょっと・・・・どうよ・・・・。

近くでカンカンカンと踏み切りの音がする。
動画でも流されてるのだろうか?

つられて自分の心臓の鼓動が早くなるような音。
踏み切りの音ってよく聞くと不快な音。危険を知らせる音だし。

「ツルクさんと読むんですか?」

受付でもらってつけていたシールの名前を指された。

「あ、ツルギです。」

「なんだか印象的な名前ですね。」

音が綺麗ですといわれた。音は気に入ってる。

「ありがとうございます。」

『鶴来』と書いて『ツルギ』と読むのだ。
大体きちんと読まれたことがない。やはり『ツルク』と読まれることが多い。
変わりに相手の名前を見る。

「カスガ イッテツさん?」

「そうです。名前だけは鉄入りなんです。」

「すごく強そうな男らしい名前ですね。」

「もっと今風が良かったです。ちなみにじいちゃんの名前が鉄男なんです。世代としてはよくある名前ですよね。」

「そうですね。でも春日さんも苗字はとても響きがいいですよね。下の名前を優しくつつむような感じで。」

「・・・そんなことを言われたのは初めてです。」

「あ、そのそんな感じの雰囲気ということです。印象を言われたので印象をお返ししました。」

「ありがとうございます。」

なんだかさっきから動くたびに膝がぶつかったりしてるんですが。

「鶴来さん、ここでもし誰かに声かけられてたらどうしたんですか?」

「困ります。あの・・・興味ないのがばれたら、きっとがっかりされるし。きっと同じ好みの人を探しに来たんでしょうから。」

「じゃあ彼とか・・・。」

春日さんを見るとその視線が外を向いた。

「え? どの人ですか?」

誰の事か分からない、誰?。行きかう人しか見えない。

「いえ、あの、いいんです。」

さっきから薄暗い車内に二人。
何で誰も乗ってこないんだろう?可愛いのに。絶対女子は好きなのに。
それとも鉄男君鉄子さんにとってはあんまり興味がない車両なのかな?

「ナオさんでいいんですか?」

又名前シールを見られた。

「はい。『ツルギ ナオ』です。」読み方を聞かれたのよね?

前の座席に手をおいておでこを乗せた春日さん。
少し顔が近くて。
視線を合わせるのは無理で、少しずらしたら綺麗な目を縁取るような長いまつげ。
思わず目を閉じても素敵かもと思ったりして。
狭い座席の間に閉じ込められてるような私。
なかなか立ち上がるそぶりもなく。
狭いから春日さんの片足は明らかに外に出てる。
何か話さなきゃ。

「こういう車両は可愛いですよね。」

「はい、レトロな車両は私でも可愛いと思ってしまいます。女子は好きだと思うんですが、何で誰も来ないんでしょうね?」

ちょっと感想の方向を間違ったかしら?二人きりなのを意識してしまい、いっそう二人だけという感じが強くなった気がした。

「そうですね。昔の人は小さかったんでしょうね。天井も低いです。」

「春日さん、身長は?」

「普通です。180cmない位です。それでも結構屈みますね。」

「確かに天井低いですね。」

そんな話をしてたら誰かが乗ってきた。
男女カップル二組。
春日さんはやっぱり立ち上がることもせずに私は閉じ込められたまま。
横を通る人の邪魔にならないように膝をこっちに向けて斜めに座りなおす春日さん。
太ももの辺りの緊張が解けたけど、今度は膝が両方突き刺さるように当たってます、というか乗ってます。
人が通り過ぎたあとも戻してくれなくて。
春日さんを見るとにっこり笑われた。
かぁっと顔が赤くなったかも。もしかして揶揄われてる?
奥まで行って一組が帰り、しばらくしてもう一組が出て行って。
それでも体勢はそのままで。
私はさっきから外を向いたまま、動けないからせめてもの抵抗をしている。

「すみません、調子に乗りました。」

小さく声がして重たさと暖かさが消えた。
立ち上がって手を出された。

「コーヒー飲みに行きませんか?」

差し出された手は大きくて。
何で、一人でも立ち上がれるのに・・・・それなのに素直に自分の手を乗せていた。
少し頭を低くした春日さん。

「僕もこの車両が大好きになりました。」

笑顔で言われた。
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