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33 有給休暇、行き先は。
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ロッカーから出した彼女の荷物は、とても一泊のものとは思えないほどで。
女性ならいろいろと荷物が多いんだろうが。
それでも取り上げてしまうと両手がふさがった。
ちょっと納得できないような気分だ。
手もつなげないじゃないか。
それでも車内に席を見つけ座ると荷物は頭上に。
手はフリー。
飲み物を買い落ち着く。もちろん空いた手はつないだ。
平日の夜となるとスーツ姿がちらほら。
席は半分以上は埋まってるくらい。
「琴、食事は断ったんだ、遅くなるからね。途中で食べよう。何食べたい?」
「何にしましょう?もうかなりお腹空いてます。」
「やっぱり仕事後じゃ遅くなるよな。本当は週末の方が楽しめるけどね。今度は週末にちゃんと予約しよう。」
「前もって余裕で決めてたら、もっとわくわくする時間が長くなってうれしいです。」
うれしいことをサラッというじゃないか。
手に力が入る。
途中うどんを食べて最寄り駅まで向かう。
すっかり暗くなっている。
駅まで迎えに来てくれるということでお願いしていた。
名前の入ったバンに乗り込み山道を行く。
本当に心もとない明かりの中、うねうねとした道をゆっくり上がる。
「すみません、遅くなってこんなに暗くなってしまって。」
「いえいえ、お気になさらずに。皆さん夕方到着の方が多いですし、平日は割と仕事後にご到着という方が多いんです。」
無事に旅館に着いてほっとした。
二人分の荷物を持ってもらって、飛び石の上を歩いて建物へ。
受け付けをしていると、後ろから出てきたオーナーに挨拶された
「お帰りなさいませ。このたびは南田様の紹介ということで。」
「はい、ゆっくりできるからと言って予約までしてくれました。急な予約で空いていてよかったです。」
「ちょうどいいお部屋が空いてました。ごゆっくりしていただけると嬉しいです。」
「はい、ありがとうございます。」
明日の説明を受け、荷物を持ったスタッフの後をついていく。
細い廊下をぼんやりとしたランプの中歩いていく。
何度か分岐して奥まで行く。
離れと言うだけあってそれぞれの部屋間もかなり距離がある。
カラカラというドアの音が心地よく響く。
かなり静かだ。
荷物を置かれてスタッフの人が去っていくと、二人きりという音が響くような静けさだった。
「静かですね。」
「そうだね。」
「凄いですね、素敵です。」
背中を押して部屋に入る。
カラカラとドアを閉める。
そこから二重の扉がある。
広い座敷がありその奥の丸窓から庭が見える。
開けてみると広い庭につながっていた。
もしかしてこの奥は違う部屋からの眺めにつながってるんだろうか?
静かで何も聞こえない。
そして横を向くと小さな四角が湯気を立ててお湯をため込んでいる。
部屋露天。
後ろを見ると彼女が嬉しそうにしている。
南田が気に入るくらいだから、雰囲気はいいんだろうとは思っていたが。
少し涼しい風が吹き、さやさやと葉擦れの音がする。
「琴、入る?」
露天を指さす。
「嫌です。」
真っ赤になって否定して部屋に戻る彼女。
「え~、いいじゃん。琴が露天風呂に入りたいって言ってたから。」
「私は・・・さっき教えてもらった大きいほうへ行きたいです。」
「え~、もったいない。じゃあ、あとでね。」
断られるかと思ったけど、肩に手を置いて囁くとうなずく彼女。
これは気持ちよさそうな夜になるぞ!
早速お風呂の準備をする。
大きな露天も空いてるんじゃないかと思ったが、本当に空いていた。
女性の方はどうだろう?
ゆっくりと体を伸ばす。
昨日の夜、彼女からのメールで心配事も霧散し、一安心した。
『鈴木さんにはきちんと好きな人がいることを伝えました。』と。
香さんがかなり危機感を感じて通訳してくれたのだろうか。
何はともあれうっとうしい悩みが一つ減ってよかった。
南田の手を借りるまでもなかった。
ニヤニヤしながら考えていたら随分汗が噴き出してきた。
そろそろ出よう。
浴衣を着て部屋に戻る。
まだ彼女は帰ってきてない。
そういえば冷蔵庫にプレゼントを預かってると言われたんだった。
開けてみるとリボンのかかったスパークリングワインが入っていた。
南田、気が利くじゃないか、やっぱりあいつはいい奴なんだ、最後には。
お詫びとして受け取るぞ。
さっきのうどん屋ではお酒も飲まずに出た。
グラスもフルートグラスが用意されていた。
日本間にどうかと思うが、籐椅子の方でガラステーブルにグラスを置いて彼女が帰ってくるのを待つ。
お湯にゆっくり入り適度な疲れがぶり返す。
危うく椅子に体を預け目を閉じそうになる。
・・・・遅い、遅くないか、起きてるか?寝てないか?
いや、迷ってないか?
最後の方、あり得るかもしれないと思い鍵だけ持って探しに行く。
途中倒れてることはなかった。
さて、女湯の入り口まで来たけど、この後はいかんとも。
まあ、あんまり人もいないだろうから呼んでみてもいいか?
暖簾に向かって名前を呼ぼうとしたとき下駄が見えた。
少し後ろに下がって待つと彼女だった。
「あれ?一緒になりましたか?」
嬉しそうに言う。
寝てもいなかったし、迷ってもいなかった。
「遅い!」
手を引いて早足で歩かせる。
「だって気持ちいいんですよ。誰もいなかったのでのんびりしちゃいました。すみません。お待たせしました。」
歩く速度を落とし肩を抱く。
「綺麗に洗った?」囁くように言う。
「・・・・・」
真っ赤になった彼女。
部屋について荷物を整理した彼女を籐椅子の方へ呼ぶ。
窓に向けて籐椅子を動かしくっつけておく。
「これが南田からプレゼント。」
ワインを指さす。
「え~、うれしいです。もう本当にいい人ですね、南田さん。」
「・・・まあな。」
彼女が喜んでそう言うと、こっちはちょっとイラっとする。
「このお宿も本当にいいです。最高です。お土産買って帰らないとですね。」
「・・・・ああ、まあな。」
「もう、何ですか?もっと感謝感謝。萩原さんの為を思って選んで用意してくれたんですよ。」
ついであげたワインをおいしいと言いながら飲む。
「南田さんはいつもこんなおしゃれなところに来てるんですかね?」
「きっと彼女とのデートもおしゃれなところに行ってそうですね。」
「気のきいたセリフをさらりと言ってるんでしょうね。」
湯上りのほんのりと上気した肌の色が色っぽい。
自宅のお風呂では味わえない色っぽい雰囲気だ。
でも、口にするのは・・・・。
「琴、二人きりでいるのに何であいつの話ばっかりするんだ?」
籐椅子で区切られた距離感すら我慢できずに、手を引いて自分の椅子の隙間に引き寄せた。
狭いだろうから膝にのせて後ろから抱えるように、お腹に手を回す。
「まだ南田の話をする?」
肩に顎をのせて聞く。
急に静かになった彼女。
部屋にはかすかに冷蔵室がうなる音がする。
「で、優しいいい人の鈴木君はなんだって?」
「残念です、諦めますって言ってました。」
「ふ~ん。」
安堵感を隠しながら、無関心そうな声を出す。
今更だろうが。
「萩原さん、実はすっごく気になりましたか?」
珍しく彼女が仕掛けてくる。
たまには乗ってあげようじゃないか。
「当たり前だろう、あんな時だったし。ヘラヘラと嬉しそうにしゃべてるのを見たら。」
「ヘラヘラなんてしてません。あの時も元気そうになったねって言われただけです。」
「そう?でもきっとこんなことしたかったんじゃないのかなあ?」
彼女の胸元に手をゆっくり入れる。
浴衣は実に色っぽい・・・夜服だと思う。
乱れやすいし煽情的にも振舞える。女性が男性を誘うのにはぴったりだ。
サワサワと柔らかいふくらみをもてあそびながら考える。
「ねえ、琴。琴は大人しそうに見えるんだからさあ。男としてはどんな感じになるんだろうかとそそるというか、想像を掻き立てられるわけ。ギャップがあればあるほど興奮するしさあ。最近色っぽくなったって言われてるらしいから気を付けないとね。」
ゆっくり体に火をつける。
今夜はゆっくりと味わいたい。
彼女の体が反応し始めるのを待つ。程なく息が荒くなる。
「どうする?ベッドに行きたいなら行く?」
寝室は簾の向こうにある。今は見えないように全部下ろしている。
「はぁ、・・・ベッドに・・・・。」
がっちりと巻き付いた自分の腕の中で身じろぎする彼女。
「どうしようかなぁ、もう少し庭を眺めたいんだけどなぁ。」
浴衣を半分下ろす。胸が両方出るかどうかのところでとめる。
「琴、誰にも渡さないよ。」
首にきつく自分の印をつける。
「はぁ、は、ぁぁ、どこにもいかない・・・・。」
「じゃあ、ベッドに行こうか。」
お姫様抱っこして簾の向こうに行く。首に縋りつく彼女の息が落ち着いてくる。
広いベッドが一つ。
ぼんやりと優しい明かりが足下を照らす。
思ったより暗いくらいだ。
ベッドに下ろし上から覆いかぶさる。
「琴、今日はゆっくりしたい。ゆっくり味わいたい。」
「萩原さんの好きなようにしてください。」
「かわいいね、琴。さっきので懲りたの?」
首からゆっくりと顎へ、耳元へキスをしていく。
耳元にキスしながら甘く噛み、好きだと囁く。
意地悪無しの優しい愛撫を続ける。
気がついているのか浴衣が上半身はだけてとても色っぽい。
しかも既に体は感じやすくなっていて腰を揺らして下半身もめくれている。
「琴、浴衣がいい感じになってるけど、もう脱いじゃわない?」
軽く背中を起こすと自分で腕を抜く彼女。
紐をほどくき自分の足で邪魔な布をよける。
代わりに彼女の手が自分の腰の紐をほどいていく。
「ねえ、琴。きっと彼は琴がこんなになるなんて思ってないんだよ。大人しく従順な彼女候補と思ってるだろうね。」
「もう、・・・いい・・・。」
「この間はあんなこと言うし、琴にいつもやられっぱなしだよ。一度も征服した気になれないんだよ。いつも敗北感。知ってた?琴。」
「はぁぁ、ぁぁあぁ、し、しらない・・・んん、あぁ。」
「琴、大好きだよ。」
「だいすき・・・わたしも・・・・。」
「誰も代わりはいないからね。」
「う、ん。・・・」
お互いが体を寄せ合い暖め合い少しづつ溶けあう。
相性ってあると思う。
自分がこんなに執着するなんて思わなかったし。
南田に群がるケバイ蝶じゃなく、大人しくてかわいらしい彼女がいいと思ったのに。
実際の彼女は本当に素直に求めてくる。
その実あの蝶たちと変わらないどころか、もっと欲望に忠実だったりするのではないかとすら思える。
何度抱いても本当に持っていかれる。
隅々まで知り尽くしてると思っても、思わぬ反撃にあう。
息を乱し、体を絡ませてくる彼女に吸い寄せられていく。
自分が彼女の周りを飛び回っていて引き寄せられてしまったのかもしれない。
くり返し何度も何度もいかせても、半分気を失ってるような状態でも、最後の最後でとらわれてしまうのは自分のほうだ。
あと一つの楽しみは毎度おなじみの独り言だ。
何で声に出てるのに気がつかないんだろう?
多分途中までは心の中でつぶやいてるのだろう。
ところが興奮するとついつい、いつの間にか声を出すようだ。
まどろんでいると又聞こえてくる。
いつものようにぼんやりと聞きながら目が覚める。
女性ならいろいろと荷物が多いんだろうが。
それでも取り上げてしまうと両手がふさがった。
ちょっと納得できないような気分だ。
手もつなげないじゃないか。
それでも車内に席を見つけ座ると荷物は頭上に。
手はフリー。
飲み物を買い落ち着く。もちろん空いた手はつないだ。
平日の夜となるとスーツ姿がちらほら。
席は半分以上は埋まってるくらい。
「琴、食事は断ったんだ、遅くなるからね。途中で食べよう。何食べたい?」
「何にしましょう?もうかなりお腹空いてます。」
「やっぱり仕事後じゃ遅くなるよな。本当は週末の方が楽しめるけどね。今度は週末にちゃんと予約しよう。」
「前もって余裕で決めてたら、もっとわくわくする時間が長くなってうれしいです。」
うれしいことをサラッというじゃないか。
手に力が入る。
途中うどんを食べて最寄り駅まで向かう。
すっかり暗くなっている。
駅まで迎えに来てくれるということでお願いしていた。
名前の入ったバンに乗り込み山道を行く。
本当に心もとない明かりの中、うねうねとした道をゆっくり上がる。
「すみません、遅くなってこんなに暗くなってしまって。」
「いえいえ、お気になさらずに。皆さん夕方到着の方が多いですし、平日は割と仕事後にご到着という方が多いんです。」
無事に旅館に着いてほっとした。
二人分の荷物を持ってもらって、飛び石の上を歩いて建物へ。
受け付けをしていると、後ろから出てきたオーナーに挨拶された
「お帰りなさいませ。このたびは南田様の紹介ということで。」
「はい、ゆっくりできるからと言って予約までしてくれました。急な予約で空いていてよかったです。」
「ちょうどいいお部屋が空いてました。ごゆっくりしていただけると嬉しいです。」
「はい、ありがとうございます。」
明日の説明を受け、荷物を持ったスタッフの後をついていく。
細い廊下をぼんやりとしたランプの中歩いていく。
何度か分岐して奥まで行く。
離れと言うだけあってそれぞれの部屋間もかなり距離がある。
カラカラというドアの音が心地よく響く。
かなり静かだ。
荷物を置かれてスタッフの人が去っていくと、二人きりという音が響くような静けさだった。
「静かですね。」
「そうだね。」
「凄いですね、素敵です。」
背中を押して部屋に入る。
カラカラとドアを閉める。
そこから二重の扉がある。
広い座敷がありその奥の丸窓から庭が見える。
開けてみると広い庭につながっていた。
もしかしてこの奥は違う部屋からの眺めにつながってるんだろうか?
静かで何も聞こえない。
そして横を向くと小さな四角が湯気を立ててお湯をため込んでいる。
部屋露天。
後ろを見ると彼女が嬉しそうにしている。
南田が気に入るくらいだから、雰囲気はいいんだろうとは思っていたが。
少し涼しい風が吹き、さやさやと葉擦れの音がする。
「琴、入る?」
露天を指さす。
「嫌です。」
真っ赤になって否定して部屋に戻る彼女。
「え~、いいじゃん。琴が露天風呂に入りたいって言ってたから。」
「私は・・・さっき教えてもらった大きいほうへ行きたいです。」
「え~、もったいない。じゃあ、あとでね。」
断られるかと思ったけど、肩に手を置いて囁くとうなずく彼女。
これは気持ちよさそうな夜になるぞ!
早速お風呂の準備をする。
大きな露天も空いてるんじゃないかと思ったが、本当に空いていた。
女性の方はどうだろう?
ゆっくりと体を伸ばす。
昨日の夜、彼女からのメールで心配事も霧散し、一安心した。
『鈴木さんにはきちんと好きな人がいることを伝えました。』と。
香さんがかなり危機感を感じて通訳してくれたのだろうか。
何はともあれうっとうしい悩みが一つ減ってよかった。
南田の手を借りるまでもなかった。
ニヤニヤしながら考えていたら随分汗が噴き出してきた。
そろそろ出よう。
浴衣を着て部屋に戻る。
まだ彼女は帰ってきてない。
そういえば冷蔵庫にプレゼントを預かってると言われたんだった。
開けてみるとリボンのかかったスパークリングワインが入っていた。
南田、気が利くじゃないか、やっぱりあいつはいい奴なんだ、最後には。
お詫びとして受け取るぞ。
さっきのうどん屋ではお酒も飲まずに出た。
グラスもフルートグラスが用意されていた。
日本間にどうかと思うが、籐椅子の方でガラステーブルにグラスを置いて彼女が帰ってくるのを待つ。
お湯にゆっくり入り適度な疲れがぶり返す。
危うく椅子に体を預け目を閉じそうになる。
・・・・遅い、遅くないか、起きてるか?寝てないか?
いや、迷ってないか?
最後の方、あり得るかもしれないと思い鍵だけ持って探しに行く。
途中倒れてることはなかった。
さて、女湯の入り口まで来たけど、この後はいかんとも。
まあ、あんまり人もいないだろうから呼んでみてもいいか?
暖簾に向かって名前を呼ぼうとしたとき下駄が見えた。
少し後ろに下がって待つと彼女だった。
「あれ?一緒になりましたか?」
嬉しそうに言う。
寝てもいなかったし、迷ってもいなかった。
「遅い!」
手を引いて早足で歩かせる。
「だって気持ちいいんですよ。誰もいなかったのでのんびりしちゃいました。すみません。お待たせしました。」
歩く速度を落とし肩を抱く。
「綺麗に洗った?」囁くように言う。
「・・・・・」
真っ赤になった彼女。
部屋について荷物を整理した彼女を籐椅子の方へ呼ぶ。
窓に向けて籐椅子を動かしくっつけておく。
「これが南田からプレゼント。」
ワインを指さす。
「え~、うれしいです。もう本当にいい人ですね、南田さん。」
「・・・まあな。」
彼女が喜んでそう言うと、こっちはちょっとイラっとする。
「このお宿も本当にいいです。最高です。お土産買って帰らないとですね。」
「・・・・ああ、まあな。」
「もう、何ですか?もっと感謝感謝。萩原さんの為を思って選んで用意してくれたんですよ。」
ついであげたワインをおいしいと言いながら飲む。
「南田さんはいつもこんなおしゃれなところに来てるんですかね?」
「きっと彼女とのデートもおしゃれなところに行ってそうですね。」
「気のきいたセリフをさらりと言ってるんでしょうね。」
湯上りのほんのりと上気した肌の色が色っぽい。
自宅のお風呂では味わえない色っぽい雰囲気だ。
でも、口にするのは・・・・。
「琴、二人きりでいるのに何であいつの話ばっかりするんだ?」
籐椅子で区切られた距離感すら我慢できずに、手を引いて自分の椅子の隙間に引き寄せた。
狭いだろうから膝にのせて後ろから抱えるように、お腹に手を回す。
「まだ南田の話をする?」
肩に顎をのせて聞く。
急に静かになった彼女。
部屋にはかすかに冷蔵室がうなる音がする。
「で、優しいいい人の鈴木君はなんだって?」
「残念です、諦めますって言ってました。」
「ふ~ん。」
安堵感を隠しながら、無関心そうな声を出す。
今更だろうが。
「萩原さん、実はすっごく気になりましたか?」
珍しく彼女が仕掛けてくる。
たまには乗ってあげようじゃないか。
「当たり前だろう、あんな時だったし。ヘラヘラと嬉しそうにしゃべてるのを見たら。」
「ヘラヘラなんてしてません。あの時も元気そうになったねって言われただけです。」
「そう?でもきっとこんなことしたかったんじゃないのかなあ?」
彼女の胸元に手をゆっくり入れる。
浴衣は実に色っぽい・・・夜服だと思う。
乱れやすいし煽情的にも振舞える。女性が男性を誘うのにはぴったりだ。
サワサワと柔らかいふくらみをもてあそびながら考える。
「ねえ、琴。琴は大人しそうに見えるんだからさあ。男としてはどんな感じになるんだろうかとそそるというか、想像を掻き立てられるわけ。ギャップがあればあるほど興奮するしさあ。最近色っぽくなったって言われてるらしいから気を付けないとね。」
ゆっくり体に火をつける。
今夜はゆっくりと味わいたい。
彼女の体が反応し始めるのを待つ。程なく息が荒くなる。
「どうする?ベッドに行きたいなら行く?」
寝室は簾の向こうにある。今は見えないように全部下ろしている。
「はぁ、・・・ベッドに・・・・。」
がっちりと巻き付いた自分の腕の中で身じろぎする彼女。
「どうしようかなぁ、もう少し庭を眺めたいんだけどなぁ。」
浴衣を半分下ろす。胸が両方出るかどうかのところでとめる。
「琴、誰にも渡さないよ。」
首にきつく自分の印をつける。
「はぁ、は、ぁぁ、どこにもいかない・・・・。」
「じゃあ、ベッドに行こうか。」
お姫様抱っこして簾の向こうに行く。首に縋りつく彼女の息が落ち着いてくる。
広いベッドが一つ。
ぼんやりと優しい明かりが足下を照らす。
思ったより暗いくらいだ。
ベッドに下ろし上から覆いかぶさる。
「琴、今日はゆっくりしたい。ゆっくり味わいたい。」
「萩原さんの好きなようにしてください。」
「かわいいね、琴。さっきので懲りたの?」
首からゆっくりと顎へ、耳元へキスをしていく。
耳元にキスしながら甘く噛み、好きだと囁く。
意地悪無しの優しい愛撫を続ける。
気がついているのか浴衣が上半身はだけてとても色っぽい。
しかも既に体は感じやすくなっていて腰を揺らして下半身もめくれている。
「琴、浴衣がいい感じになってるけど、もう脱いじゃわない?」
軽く背中を起こすと自分で腕を抜く彼女。
紐をほどくき自分の足で邪魔な布をよける。
代わりに彼女の手が自分の腰の紐をほどいていく。
「ねえ、琴。きっと彼は琴がこんなになるなんて思ってないんだよ。大人しく従順な彼女候補と思ってるだろうね。」
「もう、・・・いい・・・。」
「この間はあんなこと言うし、琴にいつもやられっぱなしだよ。一度も征服した気になれないんだよ。いつも敗北感。知ってた?琴。」
「はぁぁ、ぁぁあぁ、し、しらない・・・んん、あぁ。」
「琴、大好きだよ。」
「だいすき・・・わたしも・・・・。」
「誰も代わりはいないからね。」
「う、ん。・・・」
お互いが体を寄せ合い暖め合い少しづつ溶けあう。
相性ってあると思う。
自分がこんなに執着するなんて思わなかったし。
南田に群がるケバイ蝶じゃなく、大人しくてかわいらしい彼女がいいと思ったのに。
実際の彼女は本当に素直に求めてくる。
その実あの蝶たちと変わらないどころか、もっと欲望に忠実だったりするのではないかとすら思える。
何度抱いても本当に持っていかれる。
隅々まで知り尽くしてると思っても、思わぬ反撃にあう。
息を乱し、体を絡ませてくる彼女に吸い寄せられていく。
自分が彼女の周りを飛び回っていて引き寄せられてしまったのかもしれない。
くり返し何度も何度もいかせても、半分気を失ってるような状態でも、最後の最後でとらわれてしまうのは自分のほうだ。
あと一つの楽しみは毎度おなじみの独り言だ。
何で声に出てるのに気がつかないんだろう?
多分途中までは心の中でつぶやいてるのだろう。
ところが興奮するとついつい、いつの間にか声を出すようだ。
まどろんでいると又聞こえてくる。
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