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27 お互い褒め合い・・・褒め合い・・・変な二人 ~ 落ちこぼれの雀 緋色③ ~
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キッチンで片づけをして、寝室から自分の着替えをとる。
狭いベッドがあるだけ。
小さく明かりをつけておいた。
急いでそこから出て、テレビをつけた。
自分の部屋なのに落ち着かない。
携帯を手にしたら向井さんから連絡が入ってた。
『昨日一緒に飲んだんだ。良かったね。珍しく酔って嬉しそうに若い彼女の魅力を語ってたよ。最近惚気すぎだと言われてた分一時間くらい聞いてやったからね。じゃあね、楽しい週末を。』
何で今頃なんだろう。
昨日のうちに教えてくれても良かったのに。
そうしたら昔の同期含めた何人かで飲んでたのかなって思っていれたのに。
何てタイミングなの。
『会社では相変わらずクールに仕事してます。一切愛想がないです。だから嬉しそうにって言われても・・・・信じられません。』
『そうなんだ。無理してるよ、きっと。『可愛い』を連発してたよ、可愛がられて安心、良かった良かった。』
ええ~、だって普通でもそんなこと言わないのに。
揶揄う時か、まあ、ベッドの中で素直になった時くらいなのに。
「緋色、出たけど。」
いきなり近くで声がしてびっくりして携帯を落としそうだった。
つい携帯を隠した。
「何で隠す?」
「別に。」
ギロッと見られた。
「向井さんから、昨日一緒に飲んでたよって報告が来ました。彼女の事は書いてなかったけど、そうだったんだって思ってただけです。もちろん私が確かめた訳じゃないです。」
「そうか。とりあえずお風呂、さっさと入って、もたもたしてると開けるぞ。」
「ゆっくり入りたい方です。」
「そんなのは一人の夜と明日の昼でいいだろう。」
そう言ってニヤリと笑い、今度は私が押しやられて、ご丁寧に扉まで閉められた。
早くシャワーを浴びて楽な恰好になりたいのは私もそうだ。
大体さっきどんな格好だった?
Tシャツにトランクスだったじゃない。
コンビニで買った緊急セット。
たたまれたタオルを横目にさっさとシャワーを浴びた。
浴室に二枚のバスタオルを広げておく。
扉を開けたらそこにいた。
あれ?Tシャツ着てなかった?
手を引かれて寝室に連れていかれた。
さすがに広い部屋じゃないからすぐわかる。
さっき小さい明かりをつけたままだった。
「別にパジャマを余分に着なくてもいいのに。すぐ脱がしてほしいだろう?」
そう言ってベッドに座ってキスをされた。
昨日はモヤモヤして苦しくて悲しかったのに、今はすごく嬉しい。
向井さんの連絡で一気に気持ちが上昇してる。
もしかしてそんなタイミングを狙ってた?
多分笑顔になったと思ったのに、顔を離されて見つめられた気配で目を開けた。
何?
「忘れてた、お前謝ってないだろう。」
うっ・・・携帯の事かも、返事の事かも、誤解の事だろう。
「な、何をですか?」
ニヤリと笑われた。
「心当たりが多すぎて絞り切れないんだろう。そんな態度だったよな。分かりやすいのに隠そうとするときは目がお泳ぎまくって、すいすいメダカになるもんな。」
正面に顔を持ってきてそう言われた。
「一人で勝手に誤解してすみませんでした。」
とりあえず謝った。
「他には?」
「昨日は返事したくなかったです、読んでない振りしました。」
「今日もわざと電源オフにしてたよな。」
「それは・・・・・忘れてたんです。」
「泳いでるって、メダカの目になってるって。」
「だって・・・・・来るかどうかも分からないじゃないですか?昨日だって別に週末のことも言われなかったし、今日だってさっさと帰れみたいに終わりにされたし。」
「お前、それだって駅前で待ってるって伝言残すくらいしてもいいだろう。早めに終わるようなら連絡をしてほしいって入れてくれれば美味しい酒をおごってやったのに。」
「ほら、反省は?」
「分かりました。今度からそうします。」
「他には?」
他に???別に何もない。
「何もないと思います。」
「そうかもな。俺も知らない。」
何なのよ。
顔が正面から消えたから上目遣いで睨んだ。
「本当にもっと恋愛中らしく乙女モードに変換できないのか。やることが反抗的すぎるよな。せめて気になって探りを入れる視線をよこすとか、泣きながら聞くとか。」
そんな面倒な女なんて、絶対嫌な癖に。
「そんな事を毎回毎回されて、毎回毎回付き合ってくれますか?絶対うんざりしますよね。」
「ああ・・・そうか、そうだな。」
そう言いながら想像したらしい。
「そうだな。じゃあ、諦めた。今度から勝手に膨れたら問い詰めることにする。絶対謝らせてやるから。それが嫌ならさっさと白黒つけてスッキリしろ。」
「誤解を招くような行動は慎んでください。」
「悪いな、モテる男で、クールで仕事が出来そうだって評判らしいからな。隠れファンがいるなら気をつけないとな。」
ううう・・・しょうがない、春のランチの探りの事をバラしたのは私だし、多分いるし。
だいたい3人から告白されて、今でもファンが二人以上いるんだから。
「なんで断ったんですか?」
「また聞くのか?」
「着物の人じゃないです。前に言ってた社内の告白してきた三人です。」
「何度か会ってもそんなに惹かれなかったから、まあ正直にそう言ったんだよ。ダラダラ付き合ってもしょうがないだろう。」
「じゃあ、一度はOKしたってことですか?それなのに振ったんですか?」
「別にOKも何もないよ。食事をしてほしいとか、付き合ってほしいって言われたから自己紹介を兼ねて会っただけだし。だいたい飲み会でちょっと一緒になっただけとか、全く知らない女性だったりとか、そんな相手なんだから。」
「何と言ってOKして約束したんですか?」
「だからよく知らないから返事のしようがないって、食事にでも一度行ってみて話をするのは構わないって言うだろう?」
偉そう・・すごく偉そう。
そんな人がいいの?
「もっと優しく言ってましたか?」
「まあな。」
「それで数回会ってどう言うんですか?」
しつこく聞いたらため息をつかれた。
「やっぱりお互いに違和感がないだろうかって、別なヤツの方がいいと思うって言うよ。」
酷いかも。精一杯おしゃれしてドキドキワクワクして、それで数回会ってるのに魅力を感じてもらえなかったなんて・・・・。
「何でお前ががっかりするんだよ。ちゃんと謝るし、そこは悪かったと思って上手く分かってもらえるように伝えるし。」
もしそんな評判があるなら隠れファンはいないから。
ダメになった人もあんまり悪い印象は持たなかったのかもしれない・・・・って思ってあげていい。
「私は、先週から会ってます。私は違和感はないんですか?」
「そこは最初が期待値が底辺すれすれだっただけに、喜べばいい、低レベルなことでも褒めてやれる。よかったな、自慢でいることが増えたな。いつでも何でも褒めてやるぞ。本当に迷子にならずにお遣いが出来て、コピー機と意志疎通できるようになって、最近はミスも少なくなって、仕事じゃあ褒める事ばかりだし。酒癖が悪いのにいざとなると可愛いモードにもなれるし、そこも褒めてやる。TPOが分かって、俺の期待に応えてくれるんだったらいい。」
なんだと・・・やっぱり偉そうだ。仕事はいいとして、それ以外の方。
上目遣いで睨んだ顔をくいっと顎ごと持ちあげられた。
「だいたいじっくり時間をかけて見てたじゃないか。先週って本当にその相性だけの事か?だったら違和感なく満足だ、どうだ、緋色も満足してるだろう?」
偉そうに言うけど、内容は・・・許す。
顎を持たれて見つめ合う。
不機嫌な顔はなくなったと思う。
ゆっくり近寄ってきた顔。
でも・・・。
そっと離れた。
「向井さんが昨日は創さんが惚気たって。本当ですか?」
聞いた私が照れてどうする。
しかも全く照れる感じのない創さん。
「他に言えないから、最近のお返しとばかりに自慢しといたんだよ。あいつの彼女より若いからな。そこはうんと褒めて、今までの生意気な態度を改めさせたって、素直な反応が可愛かったって自慢したからな。」
今一つニュアンスが違う気がする。
もっと酔っぱらって可愛いを連発してた風に言われたのに。
「なあ、さっきから体が冷えそうなんだけど、さっさと体温上げないと風邪ひくだろうが。」
そう言って抱きつかれた。
背中に手を回したら本当に冷たかった。
ペタペタと触りながら熱を分けた。
ずいぶん話こんだけど、そもそもは『謝れ』って偉そうに言うからじゃない。
ちょっと言いたかったけど、私も服を脱がされてるから風邪をひくようなことは避けることにした。
「なあ、相性、いいと思わないか?」
「はぁ・・・ん?」
「そうやって応えるってことは、いいんだよな。気持ちいいいよな、お互い。」
胸の辺りでもぞもぞとしながらもしゃべる。
息がかかり、歯も当たり、何だか分からないのに。
胸を揺らしてた手がゆっくりと下がって行った。
最初っから太ももの間に膝をつかれていて、きっちりとは閉じられないから。
「ほら、絶対いいよな。お前の感度がいいだけじゃないだろう?」
顔は真横に来た。うっすら目を開けてみたら、目が合って。
指がゆっくり前後に動かされてまた目を閉じた、顎も上がるし声も出る。
「いいよな?」
「うう・・・・んぁ。」
返事をしたんだかなんだか。
自分でも分からないけど満足したらしくてそれ以上は聞かれなかった。
そしてやっぱり可愛いは何度も言われた。
ちょっとだけ甘い声をだして縋りついて、耳元で囁いて伝えれば、褒められる。
待望の乙女モードへのシフトチェンジだと思ってもらえるらしい。
それでも意地悪の様にじらされて、怒るように唸ってみせても褒められる。
なんなんだろう?変な人なんだろう。
コンビニで買ってきた箱はさっさとあけられて枕元にあった。
私がシャワーを浴びてる間にちゃんと用意したらしい。
それを破って着けてる間も待てなくて、起き上がって抱きついた。
二人の体の間で創さんが器用につけてるのを待つ。
「はやく・・・。」
「遅くないだろう、どんだけせっかちなんだよ。」
「我慢できない。」
「しなくていいって言ったじゃないか。全然してないし。」
「できない。」
「分かったから。」
抱き寄せられてそのまま足を持たれてつながった。
そのまま横になりながら上に乗り、見下ろした。
ずんと深くまでつながった。
「創さん、もっと愛してるって顔をして。」
見降ろしてそうお願いした。
仕事中のクールな顔はまったくそんな隙がない。
「してるよ。ちゃんと言葉にもしてるだろう。」
「会社でも・・・・もっと笑顔でもいいじゃないですか。挨拶の時しか目が合わないし、本当に無駄話もしないし。アズルさんにもバレてるんだから、ちょっとだけでいいから・・・・本当に今までと全く変わらないのが寂しい。」
「変わりそうなのを我慢してるんだよ。気を抜くと手を出しそうだから。さすがに仕事中だから。」
「じゃあ、週に一回くらい一緒にお昼ご飯は?」
「いつでも。」
「いいんですか?」
「別にいい。ただ、態度はそこまでは変わらない。仲のいい同僚、先輩後輩のままにするから。」
「はい。ありがとうございます。お願いします。」
上に乗ったまま体を下ろしてぺたりとくっついた。
「あんなにせかした割に休憩が長い。何なんだよ。」
「大好き。」
「ああ。」
ゆっくり下から動き出す創さんにつられて、自分も体を起こした。
創さんの片手が胸に伸びる。
突き出すように胸を出して自分もゆっくり揺れる。
「可愛いな、緋色。」
何度も褒めてくれる。
全力で褒めてくれる。
まさか先輩にこんなに褒められるなんて。
仕事だけの関係だったらそんな事はなかったよね。
もしかして酒癖が悪くなかったら、こうはならなかった?
二人でお酒を飲んでもあんまり変な酔い方はしないかもしれない。
まったくクレームのつけようがないです。
もうずっと褒めるくらいじゃない?
「お前はそれを褒めてるつもりだと言ってるのか?」
「言ってます。褒めてますよ。」
今日も褒めたたえたのに。
『クールなふりしてるけど面倒なくらいしつこくて、全然見かけとは違うタイプらしいし。』
『うっかりつぶやいたことも全部記憶して後でやり返されるから、言葉には注意しないと根に持つくらい記憶力がいい。』
『なんだかんだ偉そうに言うけど結局言うことを聞いてくれる、優しい以上に本当は甘い。』
『自分が我慢できないからって私にも我慢するなってうるさい、結局自分が出来ないことは人にはさせない主義みたいじゃない。』
『寝ぼけてる時は脳より体が先に起きるみたいで、そこは素直な体みたい。』
前に教わったみたいに最後に褒めるような言葉をつけてる。
印象操作でしょう?
ちゃんとやれてるはず。
それでもなんだか不服みたいな顔をしてる。
「なあ、お前は暗闇の事しか褒めてはくれないのか?それ以外だって相当気遣いの出来る男だって気がついてないのか?」
だから褒めたって言うのに。
別に暗闇限定じゃない、そう思うのは自覚があるからでしょう?
「創さんだって、私の事を褒めるのはたいてい・・・同じゃないですか。それ以外で可愛いなんて言ってくれてましたか?」
「言ってるだろう、言ってなくても思ってるよ。いつも思ってるし。」
そう言ってる今も暗闇だ。
「ん?不満そうだな。ちなみにいつ言ってほしいんだ?参考までに聞いておいてやる。」
「別にソファでくっついてる時とか、ご飯を食べてる時とか、服を選んでる時とか・・・・いろいろあるじゃないですか。何気ない時でも褒めてほしいものです。」
「そんなに言われてたらその内挨拶だって思うようになるだろう。これっていう反応をしたときに使ってやるんだから。『いつもに増して可愛い』って感じた時に使ってるって思え。」
顔をあげてそう言った創さんの顔を見た。
「何だ?」
「そんな恥かしい事をどんな顔で言ったのかって、照れるじゃないですか。」
「お前が言わせたんだろう。」
そう言って肩を押された。
真上から見られる。
「褒めろ、お前ももっと俺を褒めてみろ。素直に褒めることは出来ないのか?クール以外の言葉を知らないんじゃないか?」
「知ってます。それにクールって言うのは仕事の時だけじゃないですか。すぐ怒るし、呆れるし、エロさも隠さないし、キスしろとか甘い声で命令してくるし、結構言葉を欲しがるじゃないですか。」
「後半はクレームか?」
「いいえ、ただ事実を確認してもらっただけです。」
「そうか、クレームじゃないなら嫌がってはいないんだな。良かった。無理強いはしてないつもりだしな。」
相変わらず上から見下ろしながらそう言う顔がニヤリと笑う。
あと少しのところまで落ちてきて、息がかかるくらい近くになってるのに。
ギリギリ目を閉じるかどうかのところで止まった。
お互いに光る眼で見つめ合い、我慢し合い。
手を伸ばして首にかけて引き寄せた。
私が負けたことにしてもいい。
すぐに目を閉じたから、最終的には創さんが近寄ってきたはず。
狭いベッドがあるだけ。
小さく明かりをつけておいた。
急いでそこから出て、テレビをつけた。
自分の部屋なのに落ち着かない。
携帯を手にしたら向井さんから連絡が入ってた。
『昨日一緒に飲んだんだ。良かったね。珍しく酔って嬉しそうに若い彼女の魅力を語ってたよ。最近惚気すぎだと言われてた分一時間くらい聞いてやったからね。じゃあね、楽しい週末を。』
何で今頃なんだろう。
昨日のうちに教えてくれても良かったのに。
そうしたら昔の同期含めた何人かで飲んでたのかなって思っていれたのに。
何てタイミングなの。
『会社では相変わらずクールに仕事してます。一切愛想がないです。だから嬉しそうにって言われても・・・・信じられません。』
『そうなんだ。無理してるよ、きっと。『可愛い』を連発してたよ、可愛がられて安心、良かった良かった。』
ええ~、だって普通でもそんなこと言わないのに。
揶揄う時か、まあ、ベッドの中で素直になった時くらいなのに。
「緋色、出たけど。」
いきなり近くで声がしてびっくりして携帯を落としそうだった。
つい携帯を隠した。
「何で隠す?」
「別に。」
ギロッと見られた。
「向井さんから、昨日一緒に飲んでたよって報告が来ました。彼女の事は書いてなかったけど、そうだったんだって思ってただけです。もちろん私が確かめた訳じゃないです。」
「そうか。とりあえずお風呂、さっさと入って、もたもたしてると開けるぞ。」
「ゆっくり入りたい方です。」
「そんなのは一人の夜と明日の昼でいいだろう。」
そう言ってニヤリと笑い、今度は私が押しやられて、ご丁寧に扉まで閉められた。
早くシャワーを浴びて楽な恰好になりたいのは私もそうだ。
大体さっきどんな格好だった?
Tシャツにトランクスだったじゃない。
コンビニで買った緊急セット。
たたまれたタオルを横目にさっさとシャワーを浴びた。
浴室に二枚のバスタオルを広げておく。
扉を開けたらそこにいた。
あれ?Tシャツ着てなかった?
手を引かれて寝室に連れていかれた。
さすがに広い部屋じゃないからすぐわかる。
さっき小さい明かりをつけたままだった。
「別にパジャマを余分に着なくてもいいのに。すぐ脱がしてほしいだろう?」
そう言ってベッドに座ってキスをされた。
昨日はモヤモヤして苦しくて悲しかったのに、今はすごく嬉しい。
向井さんの連絡で一気に気持ちが上昇してる。
もしかしてそんなタイミングを狙ってた?
多分笑顔になったと思ったのに、顔を離されて見つめられた気配で目を開けた。
何?
「忘れてた、お前謝ってないだろう。」
うっ・・・携帯の事かも、返事の事かも、誤解の事だろう。
「な、何をですか?」
ニヤリと笑われた。
「心当たりが多すぎて絞り切れないんだろう。そんな態度だったよな。分かりやすいのに隠そうとするときは目がお泳ぎまくって、すいすいメダカになるもんな。」
正面に顔を持ってきてそう言われた。
「一人で勝手に誤解してすみませんでした。」
とりあえず謝った。
「他には?」
「昨日は返事したくなかったです、読んでない振りしました。」
「今日もわざと電源オフにしてたよな。」
「それは・・・・・忘れてたんです。」
「泳いでるって、メダカの目になってるって。」
「だって・・・・・来るかどうかも分からないじゃないですか?昨日だって別に週末のことも言われなかったし、今日だってさっさと帰れみたいに終わりにされたし。」
「お前、それだって駅前で待ってるって伝言残すくらいしてもいいだろう。早めに終わるようなら連絡をしてほしいって入れてくれれば美味しい酒をおごってやったのに。」
「ほら、反省は?」
「分かりました。今度からそうします。」
「他には?」
他に???別に何もない。
「何もないと思います。」
「そうかもな。俺も知らない。」
何なのよ。
顔が正面から消えたから上目遣いで睨んだ。
「本当にもっと恋愛中らしく乙女モードに変換できないのか。やることが反抗的すぎるよな。せめて気になって探りを入れる視線をよこすとか、泣きながら聞くとか。」
そんな面倒な女なんて、絶対嫌な癖に。
「そんな事を毎回毎回されて、毎回毎回付き合ってくれますか?絶対うんざりしますよね。」
「ああ・・・そうか、そうだな。」
そう言いながら想像したらしい。
「そうだな。じゃあ、諦めた。今度から勝手に膨れたら問い詰めることにする。絶対謝らせてやるから。それが嫌ならさっさと白黒つけてスッキリしろ。」
「誤解を招くような行動は慎んでください。」
「悪いな、モテる男で、クールで仕事が出来そうだって評判らしいからな。隠れファンがいるなら気をつけないとな。」
ううう・・・しょうがない、春のランチの探りの事をバラしたのは私だし、多分いるし。
だいたい3人から告白されて、今でもファンが二人以上いるんだから。
「なんで断ったんですか?」
「また聞くのか?」
「着物の人じゃないです。前に言ってた社内の告白してきた三人です。」
「何度か会ってもそんなに惹かれなかったから、まあ正直にそう言ったんだよ。ダラダラ付き合ってもしょうがないだろう。」
「じゃあ、一度はOKしたってことですか?それなのに振ったんですか?」
「別にOKも何もないよ。食事をしてほしいとか、付き合ってほしいって言われたから自己紹介を兼ねて会っただけだし。だいたい飲み会でちょっと一緒になっただけとか、全く知らない女性だったりとか、そんな相手なんだから。」
「何と言ってOKして約束したんですか?」
「だからよく知らないから返事のしようがないって、食事にでも一度行ってみて話をするのは構わないって言うだろう?」
偉そう・・すごく偉そう。
そんな人がいいの?
「もっと優しく言ってましたか?」
「まあな。」
「それで数回会ってどう言うんですか?」
しつこく聞いたらため息をつかれた。
「やっぱりお互いに違和感がないだろうかって、別なヤツの方がいいと思うって言うよ。」
酷いかも。精一杯おしゃれしてドキドキワクワクして、それで数回会ってるのに魅力を感じてもらえなかったなんて・・・・。
「何でお前ががっかりするんだよ。ちゃんと謝るし、そこは悪かったと思って上手く分かってもらえるように伝えるし。」
もしそんな評判があるなら隠れファンはいないから。
ダメになった人もあんまり悪い印象は持たなかったのかもしれない・・・・って思ってあげていい。
「私は、先週から会ってます。私は違和感はないんですか?」
「そこは最初が期待値が底辺すれすれだっただけに、喜べばいい、低レベルなことでも褒めてやれる。よかったな、自慢でいることが増えたな。いつでも何でも褒めてやるぞ。本当に迷子にならずにお遣いが出来て、コピー機と意志疎通できるようになって、最近はミスも少なくなって、仕事じゃあ褒める事ばかりだし。酒癖が悪いのにいざとなると可愛いモードにもなれるし、そこも褒めてやる。TPOが分かって、俺の期待に応えてくれるんだったらいい。」
なんだと・・・やっぱり偉そうだ。仕事はいいとして、それ以外の方。
上目遣いで睨んだ顔をくいっと顎ごと持ちあげられた。
「だいたいじっくり時間をかけて見てたじゃないか。先週って本当にその相性だけの事か?だったら違和感なく満足だ、どうだ、緋色も満足してるだろう?」
偉そうに言うけど、内容は・・・許す。
顎を持たれて見つめ合う。
不機嫌な顔はなくなったと思う。
ゆっくり近寄ってきた顔。
でも・・・。
そっと離れた。
「向井さんが昨日は創さんが惚気たって。本当ですか?」
聞いた私が照れてどうする。
しかも全く照れる感じのない創さん。
「他に言えないから、最近のお返しとばかりに自慢しといたんだよ。あいつの彼女より若いからな。そこはうんと褒めて、今までの生意気な態度を改めさせたって、素直な反応が可愛かったって自慢したからな。」
今一つニュアンスが違う気がする。
もっと酔っぱらって可愛いを連発してた風に言われたのに。
「なあ、さっきから体が冷えそうなんだけど、さっさと体温上げないと風邪ひくだろうが。」
そう言って抱きつかれた。
背中に手を回したら本当に冷たかった。
ペタペタと触りながら熱を分けた。
ずいぶん話こんだけど、そもそもは『謝れ』って偉そうに言うからじゃない。
ちょっと言いたかったけど、私も服を脱がされてるから風邪をひくようなことは避けることにした。
「なあ、相性、いいと思わないか?」
「はぁ・・・ん?」
「そうやって応えるってことは、いいんだよな。気持ちいいいよな、お互い。」
胸の辺りでもぞもぞとしながらもしゃべる。
息がかかり、歯も当たり、何だか分からないのに。
胸を揺らしてた手がゆっくりと下がって行った。
最初っから太ももの間に膝をつかれていて、きっちりとは閉じられないから。
「ほら、絶対いいよな。お前の感度がいいだけじゃないだろう?」
顔は真横に来た。うっすら目を開けてみたら、目が合って。
指がゆっくり前後に動かされてまた目を閉じた、顎も上がるし声も出る。
「いいよな?」
「うう・・・・んぁ。」
返事をしたんだかなんだか。
自分でも分からないけど満足したらしくてそれ以上は聞かれなかった。
そしてやっぱり可愛いは何度も言われた。
ちょっとだけ甘い声をだして縋りついて、耳元で囁いて伝えれば、褒められる。
待望の乙女モードへのシフトチェンジだと思ってもらえるらしい。
それでも意地悪の様にじらされて、怒るように唸ってみせても褒められる。
なんなんだろう?変な人なんだろう。
コンビニで買ってきた箱はさっさとあけられて枕元にあった。
私がシャワーを浴びてる間にちゃんと用意したらしい。
それを破って着けてる間も待てなくて、起き上がって抱きついた。
二人の体の間で創さんが器用につけてるのを待つ。
「はやく・・・。」
「遅くないだろう、どんだけせっかちなんだよ。」
「我慢できない。」
「しなくていいって言ったじゃないか。全然してないし。」
「できない。」
「分かったから。」
抱き寄せられてそのまま足を持たれてつながった。
そのまま横になりながら上に乗り、見下ろした。
ずんと深くまでつながった。
「創さん、もっと愛してるって顔をして。」
見降ろしてそうお願いした。
仕事中のクールな顔はまったくそんな隙がない。
「してるよ。ちゃんと言葉にもしてるだろう。」
「会社でも・・・・もっと笑顔でもいいじゃないですか。挨拶の時しか目が合わないし、本当に無駄話もしないし。アズルさんにもバレてるんだから、ちょっとだけでいいから・・・・本当に今までと全く変わらないのが寂しい。」
「変わりそうなのを我慢してるんだよ。気を抜くと手を出しそうだから。さすがに仕事中だから。」
「じゃあ、週に一回くらい一緒にお昼ご飯は?」
「いつでも。」
「いいんですか?」
「別にいい。ただ、態度はそこまでは変わらない。仲のいい同僚、先輩後輩のままにするから。」
「はい。ありがとうございます。お願いします。」
上に乗ったまま体を下ろしてぺたりとくっついた。
「あんなにせかした割に休憩が長い。何なんだよ。」
「大好き。」
「ああ。」
ゆっくり下から動き出す創さんにつられて、自分も体を起こした。
創さんの片手が胸に伸びる。
突き出すように胸を出して自分もゆっくり揺れる。
「可愛いな、緋色。」
何度も褒めてくれる。
全力で褒めてくれる。
まさか先輩にこんなに褒められるなんて。
仕事だけの関係だったらそんな事はなかったよね。
もしかして酒癖が悪くなかったら、こうはならなかった?
二人でお酒を飲んでもあんまり変な酔い方はしないかもしれない。
まったくクレームのつけようがないです。
もうずっと褒めるくらいじゃない?
「お前はそれを褒めてるつもりだと言ってるのか?」
「言ってます。褒めてますよ。」
今日も褒めたたえたのに。
『クールなふりしてるけど面倒なくらいしつこくて、全然見かけとは違うタイプらしいし。』
『うっかりつぶやいたことも全部記憶して後でやり返されるから、言葉には注意しないと根に持つくらい記憶力がいい。』
『なんだかんだ偉そうに言うけど結局言うことを聞いてくれる、優しい以上に本当は甘い。』
『自分が我慢できないからって私にも我慢するなってうるさい、結局自分が出来ないことは人にはさせない主義みたいじゃない。』
『寝ぼけてる時は脳より体が先に起きるみたいで、そこは素直な体みたい。』
前に教わったみたいに最後に褒めるような言葉をつけてる。
印象操作でしょう?
ちゃんとやれてるはず。
それでもなんだか不服みたいな顔をしてる。
「なあ、お前は暗闇の事しか褒めてはくれないのか?それ以外だって相当気遣いの出来る男だって気がついてないのか?」
だから褒めたって言うのに。
別に暗闇限定じゃない、そう思うのは自覚があるからでしょう?
「創さんだって、私の事を褒めるのはたいてい・・・同じゃないですか。それ以外で可愛いなんて言ってくれてましたか?」
「言ってるだろう、言ってなくても思ってるよ。いつも思ってるし。」
そう言ってる今も暗闇だ。
「ん?不満そうだな。ちなみにいつ言ってほしいんだ?参考までに聞いておいてやる。」
「別にソファでくっついてる時とか、ご飯を食べてる時とか、服を選んでる時とか・・・・いろいろあるじゃないですか。何気ない時でも褒めてほしいものです。」
「そんなに言われてたらその内挨拶だって思うようになるだろう。これっていう反応をしたときに使ってやるんだから。『いつもに増して可愛い』って感じた時に使ってるって思え。」
顔をあげてそう言った創さんの顔を見た。
「何だ?」
「そんな恥かしい事をどんな顔で言ったのかって、照れるじゃないですか。」
「お前が言わせたんだろう。」
そう言って肩を押された。
真上から見られる。
「褒めろ、お前ももっと俺を褒めてみろ。素直に褒めることは出来ないのか?クール以外の言葉を知らないんじゃないか?」
「知ってます。それにクールって言うのは仕事の時だけじゃないですか。すぐ怒るし、呆れるし、エロさも隠さないし、キスしろとか甘い声で命令してくるし、結構言葉を欲しがるじゃないですか。」
「後半はクレームか?」
「いいえ、ただ事実を確認してもらっただけです。」
「そうか、クレームじゃないなら嫌がってはいないんだな。良かった。無理強いはしてないつもりだしな。」
相変わらず上から見下ろしながらそう言う顔がニヤリと笑う。
あと少しのところまで落ちてきて、息がかかるくらい近くになってるのに。
ギリギリ目を閉じるかどうかのところで止まった。
お互いに光る眼で見つめ合い、我慢し合い。
手を伸ばして首にかけて引き寄せた。
私が負けたことにしてもいい。
すぐに目を閉じたから、最終的には創さんが近寄ってきたはず。
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