まさかの自分のツボがこれだったとは、三十路を過ぎて自覚する事もあるらしい。

羽月☆

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20 どこで間違ったのか、もはや分からない三十路過ぎ。

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「緋色、話があるって分かってるけど、悪い、もう限界だ、眠い。まともにアドバイスもしてやれない。明日でいいか?連れてきたんだから、ここで寝ていい。必要なものを今持ってくる。先にシャワーを浴びて寝るから、あとは自由に使ってもいい。必要なものを買いに行くなら鍵を持って行って、すぐ近くにコンビニはあるから。」

そう言ってさっさと立ち上がって二人分の着替えと、夏掛けとタオルなどを見せた。

「適当に使っていい、お水は冷蔵庫のを自由に。明日起きてから、それでいいか?」


小さく頷いたのを確認した。
自分の着替えを持って浴室に向かった。
さっさとシャワーを浴びた。

さっき見た携帯にはやっぱり何も連絡はないまま。
向井・・・・恨む。


お水を取りに戻ってもさっきの場所から動いてないような緋色。
まさか初めて男の家に泊まるってこともないよな。
さすがにな。


水を一本持って来た。

「コンビニまで一緒に行った方がいいか?」


そう言ったら顔が上がった。
何とも情けない顔だ。

一体どうしたんだ。
明日一日付き合う覚悟が必要なんだろうか?

「大丈夫です。本当に迷惑をかけてしまって。ちょっとだけ外に出てきます。」

「携帯を持っていけ。困ったり迷子になったら連絡するように。玄関を出て左に行って右を見たらすぐ分かるから。」


バッグを持って出て行った緋色。
鍵を持って行って、出た後にガチャリと音がした。
やはり戻ってくるらしい。

戻ってくるまで落ち着かない。
先に寝たいけど、それもどうだかと思う。


明日の天気を調べたりして、ああ、いい天気だなあなんて思って。
リビングに一人立ち、テレビを見てぼんやりしていたら帰ってきた。
問題なかったらしい。


コンビニの袋を下げてる。


「じゃあ、そこがシャワー、あとは大丈夫か?」

うなずいたのを見て寝室に引っ込んだ。

「ゆっくり寝ていいから。」


そう言って暗い寝室に入った。
本当に疲れた。

眠いのは眠い。

静かな部屋にもかすかにシャワーの音がする。
しばらくしたら出てきたのも分かった。

あとはもう聞き耳を立てるのをやめて目を閉じた。

思ったより早く眠れたらしい。
終電もあっただろう、別に泊めてやらなくても良かったのか・・・そんな事を思った気がした。
朝になっていなくなっててもしょうがないだろうとも思った気がする。



そして目が覚めた時、びっくりした。

隣にいた。

いや、ここはベッドだ、一人で寝たはずなのに。
しかもものすごくくっついてる、自分が緋色の腰に脚をのせてほぼ・・・・・・。

そこまで一瞬で気がついて体をはがした時に目が合った。

もちろん緋色だった。

焦ってベッドの端まで飛ぶようにズレた、思わず自分の姿を確認したがパジャマは着てるまま、緋色も見える限り貸したものを着たまま・・・。



「・・・・・なんでそこにいる?」

「・・・・。」


ソファが狭かったといいたいのか?


「・・・ちょっと待て。」


そう言ってベッドから抜け出して寝室からも逃走した。


リビングに行ってソファを見降ろす。
一晩くらいいいだろう。
自分も寝落ちするし、昼寝もできるくらいだ。

だいたいいつ入ってきたんだ、それになんであんなにくっついてた?
あれは明らかに俺からくっついたんだよな?寝ぼけてたか?

今まで意識なく足を乗り上げて彼女を起こしたことも・・・・無かった。
そこはちゃんと起きてから、誘って、目が覚めた彼女に乗り上げたことはある。

どうしたんだ、自分が信じられなくなった。



しかも何で大人しく足を乗せられてるんだ、寝相が悪いとかの問題じゃないだろう、明らかに・・・・違うだろう。

しかもちょっと自分は中途半端な状態だった。
今はすっかり落ち着いたが、さっきはちょっとやばかった。
気が付いただろうか?
腰のあたりに押し付けるくらいにくっついてた自分の変化に・・・・。


思わずソファに座り込んで頭を抱えた。


本当に何をしたいんだ。


もう話なんてどうでもいい。帰ってほしい。消えてほしい。
こっちが恥ずかしくて、向き合う気にもならない。


そんな事昨日の時点で言えばよかった。
なんでアホみたいに言われるままに連れてきたんだ。
それとも眠いと言った俺が悪いのか?


静かに足音が近寄ってきて、こっそり視線を動かすと足先が見えた。
当然緋色だった。


そう分かっても、顔をあげることもせず、微動だにせず。



「すみませんでした。帰ります。」

低く小さく言われたけど、はっきり聞こえた。

そして俯いた自分の狭い視界から足先が消えて。
遠くで着替えをしてる気配がして、そのまま玄関のドアが開いて閉まる音、足音がして、消えた。


望んでたように目の前から消えてくれたらしい。
望んだ通りで安堵はしたけど、結局・・・・話どころか、目も合わせてない、謝ってもいない。

謝る必要はあったか?

少しはあっただろう。
寝ぼけてたとはいえ、抱きつくように絡みついて。
びっくりして固まってたんだろうか?


そこは謝るべきだっただろう。


でももういないし、今更だ。


顔をあげた。視界の隅にたたまれた服が見えた。
ゆっくり立ち上がりそれを拾い、洗濯籠に入れた。

これで何もなかったことに出来るだろうか?

一息ついて洗面台に向かった。
やはり無理だった。そこにははっきりと痕跡があった。
昨日一人でコンビニに行って買って来ただろう物が。


手にしたら一層罪悪感が増してきた。

携帯を手にして謝罪は入れた。

「緋色、申し訳なかった、いろいろと。心から謝罪をしたい、本当に申し訳なかった、忘れてほしい。」


いろいろが何で、忘れてほしいのが何か、自分でもよく分かってない・・・考えたくない。

話は何だったんだろう?気になったが今さら聞くこともないだろう。
自分に話をする気もなくなっただろう。

最悪あの時点で目が覚めて良かったと思うしかない。そこは本当に。


携帯を手放した。
今さら向井に連絡する気も起きなくなっていた。




走りに行くこともせずに、暗い部屋でひたすらどんよりしていた三連休だった。
本当に上司の好意を無駄にしてしまった。
緋色が有意義な連休だったら良かったのにと、そう思った。



月曜日、三人が揃う部屋。
そこは変わりなくある。


緋色が一番、二番目に到着した自分。
普通に挨拶はした。それだけだったが、普通に、お互いに。

それでも静かに座っている緋色と、その空間にいることに耐えられずに部屋を出た自分。

さり気なくもなく宗像さんの気配を感じて部屋に戻った。


「宗像さん、お帰りなさい。」

「ただいま。お土産を出すね。」

「何ですか?」

嬉しそうに宗像さんを見てるだろう緋色。

開かれた箱からそれぞれお菓子をもらう。
二種類。

「楽しかったですか?ゆっくり出来ました?」

そう聞いたら笑われた。

「もう、全く同じことをさっき沙織ちゃんに聞かれたのに。」

「おかげさまで、久しぶりに旅行と帰省が出来て挨拶もしてきました。」


「良かったです。」

「そこまで同じ反応じゃなくていいよ。」

また同じことを言ったらしいけど、テンションが違っただろうから。


それから少しだけお土産話をしてもらったけど、反応がいまひとつの二人だったと思うのは自分だけだろうか?緋色は無理にテンションをあげてる気もするし、自分は緋色と反応がかぶらないように、邪魔しないようにしてるし。
ちょっとの違和感を感じたかもしれない。
それでも幸せボケと軽い疲労で少しも気が付かないでいてくれたら嬉しい。




その日は集中力も今一つだった。
急ぐ仕事がなかったのが幸いした。
こんな雰囲気はいっそ直接謝ったらスッキリしてなくなるんだろうか?

休憩室でぼんやり外を見ていた。


「久しぶりです、江戸川さん。」

副社長付きの秘書渡辺さんだった。

「ああ、本当に久しぶりです。お変わりないですか?」

「ないよ。そっちも上手くいってるみたいじゃない?」

「・・・そうならうれしいです。」

「うん、宗像さんにはやりやすいって言われたよ。」

「うれしいです。自分もそう思ってます。」

「でもまったく早めの研修が必要なかったと思わない?本当に自分の家族サービスのために来てくれた?」

「別にいいですよ、役に立ったのならそれでも。」

「そう?じゃあやっぱりそうだったのかも。」

それじゃあと言っていなくなった。
本当にあの一カ月早い研修はあまり役には立たなかった。
なんだったんだろう?そう思うくらいだ。


はぁ~、いつまでもサボるわけにはいかない。
帰るとするか。

そう思ってコーヒーを持って向きを変えた時にそこに緋色がいて、思わず悲鳴が出そうだった。



「緋色、この間は申し訳なかった。きちんと謝罪もせずに文字だけで済ませてしまって。」

「・・・・・いいえ、もう・・・・大丈夫です。こちらこそすみませんでした。」


少しは明るい表情で言われた。
もしかして、本当に気にしてない?
とりあえず話は別の誰かに出来たんだろうか?

あとは男の生理現象は気が付かなかったと思いたい。


「じゃあ、ごゆっくり。」

そう言ってすれ違った。


部屋に戻ると宗像さんがぼんやりしていた。

「コーヒー持ってきますか?」

「大丈夫。休みボケかな?なんだか調子が出ない。」

「実は自分もそうです。集中力がなかなかです。」

「三人揃って休みボケじゃない。」

緋色もそうらしい。

「宗像さんは新婚ボケじゃないですか?」

「今さらだよ。やっぱり疲れたかな?」

そう言って立ち上がり腕を伸ばして背伸びをした宗像さん。

「ちょっと休憩してくる。」

「はい、どうぞ。」

そう言って出て行った宗像さん。
緋色も戻ってこなくて、部屋が自分のため息で満たされていく。

二人揃って戻ってきたのはずいぶん経ってからだった。

宗像さんに続いて入ってきた俯いた緋色。
すぐに視線はそらした。

仕事をしよう。


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