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14 空っぽな気分を持て余すこの頃。
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満足そうに満腹だと言ったはずで・・・・。
人の分までお水を飲んだのに、本当に言葉通りたくさんお酒も飲んだらしい。
怪しい千鳥足の雀が一匹。
いつもより明らかにヨタヨタしてる。
「沙織ちゃん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ちょっとだけお腹が重くて。」
そう言ってお腹を叩く。
別にいい音はしなかった。
どこまでも色気がない奴め。
斜め前でふらふらとしていて、前を歩く二人も心配そうだった。
後ろからガシッと首元を掴んだ。
あくまでも襟首だ。
ジャケットとブラウスまで指をかけて親指では背中を押し支えてやった。
いくらか歩行の軌道はまっすぐになったと思う。
このまま歩くのもカッコ悪いが仕方ない。
すれ違う人々に迷惑はかけられない。
「一人で電車に乗れそう?」
「はい。大丈夫です。」
ゆらゆらと手を振ってこたえてる。
そうは言っても部下を心配する宇宙レベルに心の広い上司。
こっちを見たその視線に嫌な予感がした。
「お願いできる?」
無理!!! 言葉には出なくても顔でそう答えた。
「大丈夫です。こんなポイ捨ての情けのない人じゃあ意味ないです。」
本当に勝手にイメージをつけてくれる。
『こんな』といいながら手をこっちに振りかぶられた。
そこはゆらゆらよりしっかり主張していた。
方法と見た目はどうあれ支えてあげてる自分に対してそう言い放つとは。
『ナサケナイ』と反省するべきはお前だっ。
改札までとりあえず歩いて、また立ち止まった四人。
ぶれずに歩ける二人は別の改札へ行く、襟首部分でつながった二人が目の前の改札へ行く。
宗像さんに『お願い』と言うような眼をされた。
「少し酔いをさまして帰ります。」
襟首をつかんだ腕の時計を見て、そう答えた。
「ありがとう。安心して帰れる。良かったね沙織ちゃん。じゃあ、気を付けてね。江戸川君よろしく。」
「はい、二人とも気を付けて。」
そう言って別れた。
声もなく二人に手を振る千鳥足雀。
「一人でも大丈夫です。少し休んで帰ります。」
すぐそこのコーヒー屋を指さされた。
「いい、付き合う。ただし奢れ。」
そう言ったのにさっさと外の椅子に座った雀。
確かにお礼はおろか返事もなかったから。
結局買うのは自分で、そうなると払うのも自分で・・・・・。
目の前に熱いコーヒーを置いてやった。
「奢りだ。味わってくれ。」
「ご馳走になります。」
珍しくお礼が来た。
「なあ、前も聞いたが宗像さんの手伝いをしてた最近で辛かったことはないよな?」
「ないです。」
「最近元気なかっただろう。前より大人しいぞ。緋色の個性が死んでるじゃないか?」
すっかり呼び捨てにしてる自分。
「気のせいです。」
「そうならいいが。宗像さんもそうだが、あの部屋にいたんじゃ知り合いも増えないだろう。何かあったら誰かに相談できるといいな。」
「分ってます。」
「ああ・・・・別に無理に元気にしろとは言わないが。」
「分ってます。」
同じ返事は繰り返されたけど、やっぱり元気ないじゃないか。
憎まれ口のかけらも出てこないとは。
コーヒーを手にしてじっと見つめるその顔を上から見ていた。
時々コーヒーに口をつけて。
ぼんやりと自分の週末を考えた。また朝夕走りに行くだろう。
それだけかなあ。
酔いをさまして、にぎやかな飲み会からワンクッション置いて帰りたい人は多いらしい。
多くの人がコーヒーを買い、座って飲んで、でも長居するのは二人以上いる人で。
ポツポツと席も空いてきた。
「江戸川さん。」
自分も一人じゃなかったと、久しぶりのその声で我に返った。
「なんだ?」
「あの着物の人を、抱きたいって思ったりしました?色気を感じたりしました?ちょっとだけそんな先の事も想像しました?」
興味あるとは思えないくらい硬い表情だった。
仕事じゃなくて、違う方で何かあったのか?
色気とか何とかの事が。
びっくりする質問のはずなのに、そんな事を思って。
『別に。』と一言で答えるのが申し訳ないくらい。
「そんな事は最初からは思わないだろう。だいたい着物が異次元でそこまで現実的でもないし、週末に初めて会う前に既に・・・面倒になってたし。」
「なんでですか?それは遅刻以前にってことですか?」
「いや、さすがにそこはそれなりに誠意をもってたけど、時間を過ぎても来ない時点で、そう思ったってことだよ。それ以上何の想像もできない。だから具体的に言われたような事を思ったこともない、本当に。」
今の答えでよかったのだろうか?
正解が分からない。
珍しく真面目になられると非常に困る。
罵り合うくらいのペースがちょうどいいくらいかもしれない。
緋色もそんなやり取りで愚痴を吐き出してたりしてただろうか?
そんな関係もどちらかの元気がないと成り立たないらしい。
「人はそれぞれだよ。今の女性三人だってタイプは違うし、考え方も違うじゃないか。そんなものだから。男だってそれぞれ違うし、相手に期待することも、される内容も。何か気になるか?俺が答えられることは答えるが。」
「じゃあ・・・・。」
「なんだ?」
「分かりません。」
ガクッと来た。
せっかく琵琶湖くらいの広い心を見せてやろうと思ったのに。
「じゃあ、思い出した時に、思いついた時に、いつでも。特別に仕事外の時間でも許す。」
そう言って笑ってみた。
見上げた顔は今までの不機嫌な表情とは違う感じだったと思う。
「いい人です。」
ポツンとつぶやかれた言葉は今まで緋色からはまったく向けられたこともない形容詞で、うれしいよりも、やっぱり心配になった。
「宗像さんが大切にしたい仲間の一人なんだから。当たり前だろう。」
「そうですね、少ない仲間です。」
やっぱり友達が出来ればいいのに。
自分がせめて女性だったら、そうしたら一緒に飲むことを提案して仲間に紹介することもできるのに。自分ができるのは向井に紹介するくらいだ。
それじゃああんまり喜ばれないだろう。
少しのにぎやかしにはなるだろうか?
「なあ・・・・。」
「はい。」
「俺も同期がずいぶんいなくなって、昔の同僚と最近飲んでたんだ。結婚も決まってるし、そう言う相手じゃないけど、一緒に飲むか?」
そう誘われても何でだろうと思うだろう。
そんな顔を実際にしていた。
「宗像さんと緋色の話もしたんだよ、新しい同僚だって。それに辞めたとはいえ一応先輩だし、他にも何か参考になる意見を教えてくれるかもしれないぞ。必要ならだけど・・・。」
「よく分かりません。」
そうだよな。言ってみて自分でもおかしいと思った。
「私に友達を作ってくれたいんですね。確かに会社にはいませんが今までの友達はいますよ。」
「そうだよな・・・・。」
当たり前だ。
つい数か月前まで一緒につるんでた仲間がいるんだろうし。
きっと類友がいるんだろう。
「でも、意外でした。江戸川さんがあっさり女の人と連絡先を交換して会う約束をするなんて。」
話題が戻ったというか、自分の経験と比べてるのか、何か腑に落ちないことがあるらしい。
「そうかもしれないな。やっぱり異次元の雰囲気にやられたかな。」
冗談にした。
「その気になるとすぐに見つかるんでしょうね。」
そうなんだが見つかるだけじゃあな・・・偉そうには言えない。
冗談なら言えるが、どうだろう?
「そうだったら今彼女もいない寂しい日々ってこともないだろう。」
「緋色のいいお手本にはなれないな。」
ずいぶん会話もしっかりしてきたし、コーヒーをお互いが飲み切ったところで終わりにした。
「ちゃんと歩けそうか?一人で大丈夫か?」
「大丈夫です。」
足取りもいいし、もともと弱くもないから大丈夫だと判断した。
別々の路線だし送るのは自分だって面倒だ。
「ありがとうございました。」
「ああ、お疲れ、お休み。」
「お疲れさまでした。」
駅の改札の中で別れた。
結局緋色は許されるタイプということなんだろうか?
あんなに愚痴をためたつもりなのに、今は元気になればいいと本当に心を広く出来てるんだから。
週末は雨だった。
朝ちょっと寝坊をした土曜日、起きだした時にはすっかり昼近くて、走るよりも食事をして洗濯をした。
天気予報では夜から雨マークだったのに、裏切る速さで雨雲が進んできた。
夕方も走れず、次の日も一日雨だった。
うんざりしながら外を見て、部屋の中で腹筋などをして地味に運動をした。
いっそジムに通った方がいいんだろうか?
駅まで行けばあるけど、どうにも曜日や時間に縛られそうでやめていた。
気が向いたときに気分のままに走る方が自分には心地いい。
数字で感じる達成感と景色を見ながらの爽快感、後者を選びたい。
本格的にお腹が出るようになってきたら考えよう。
月曜日、いつものように出勤したのに、野本さんを待つことなく一日が始まった。
久しぶりにずっと同じ部屋にいることになる。
チラリと見ると少しは元気になってるだろうか?
朝、宗像さんにはねぎらわれた。
同じように元気がないと思ってたらしい。
原因は分からなかったと伝えたら、がっかりしたような顔をされた。
そんなにうまく聞き出せる技術はない、そこは女性同士の方がいいのでは?
そう思って任せた。
「緋色さん、これお願いできる?急がないから。」
「はい。」
上司にもらった仕事を分け合うのも同じ。
いくらか進歩したのかもしれない。
いまのところ問題ない。
午後の休憩を皆でとった。
彼氏を連れて実家に帰りたいという宗像さん。
しばらく連休の並びもよくなくて、有休をとろうと思ってると言われた。
どうせなので一斉に皆とって休みにしてもいいのでは?と。
確かに。
そう言うことで二週間後の週末に一日有休をくっつけて三連休になった。
「実家は遠いんですか?」
「そうでもないけど、せっかくだから旅行をしてもいいかなあって。」
本当に新幹線の中でも近い駅だ。
ただ街中から乗り換えて奥に行くらしい。
「初めて会うんじゃないですよね?」
「もちろん。もう何度も会ってる。一応けじめの報告。」
同棲したからって必ず結婚するというわけでもないだろうが、そこはそのつもりで挨拶もしてたんだろう。
今自分の部屋にそんな存在が足されることを考えても少しもピンとこない。
そんな自分が可哀想にもなってきた。
「羨ましいです。すごくいい人でした。」
ここにきて大絶賛の緋色。
この間相手をしてもらったのがよっぽどありがたかったのだろうか?
「ありがとう。沙織ちゃんもその内ね。」
「そんなのはずっとずっと先のその内です。宗像さんの扶養家族増えました報告が先でいいです。」
ずっとずっと先といいながら早ければ一年くらい先でもありうる事、その頃緋色は25歳くらいだろう。
そのずっと先を生きてる自分は・・・。
若いっていいなあとも思わず、若くていいなあとも思わなかったからか、いきなり気分が老け込む。
向井がうれしい報告をしてきた昨日。
彼女の家にも挨拶に行き、双方の両親にも喜んでもらえたらしい。
住む場所や相手の仕事の事やなにやらと先の事を話合ってるらしい。
そんな報告の連絡がきた。
羨ましいって思うじゃないか。
「江戸川君、どうかした?」
そう聞かれて我に返る。
「いいえ、あやかりたいって思っただけです。」
「いつでも、全力でどうぞ。」
一日もたたずに元の三人メンバーの雰囲気に慣れた。
そんな自分はやっぱり情が薄いんだろうか?
情が薄いと書いて『ハクジョウ』と読む。
そう言うとすごく酷い奴みたいだけど。
結局当たり障りなくできるってことが自慢ではなく、上辺だけをとりつくろえるってことなんだろうか?
だから誰とも深くはいかないとか・・・・。
何だか負の感情のスパイラルから抜け出せない。
上を向いてため息をついた。
結局また同じ日々が繰り返された。
時々落ちこぼれ雀に声をかけて確認しながら導き、あとは小さいミスも優しく指摘する。
それでも毎回って訳じゃない。
やっぱり少しは進歩したらしい。
喜ばしいじゃないか。
今週の週末二日を思う。
ついでに来週有休をくっつけた週末三日を思う。
何もないんだが。
同じように空っぽな顔をした緋色に気が付く。
向かい合わせに座ったら同じ顔をしてるかもしれない。
そう思ったがそれはそれでお互いに失礼かと思った。
人の分までお水を飲んだのに、本当に言葉通りたくさんお酒も飲んだらしい。
怪しい千鳥足の雀が一匹。
いつもより明らかにヨタヨタしてる。
「沙織ちゃん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ちょっとだけお腹が重くて。」
そう言ってお腹を叩く。
別にいい音はしなかった。
どこまでも色気がない奴め。
斜め前でふらふらとしていて、前を歩く二人も心配そうだった。
後ろからガシッと首元を掴んだ。
あくまでも襟首だ。
ジャケットとブラウスまで指をかけて親指では背中を押し支えてやった。
いくらか歩行の軌道はまっすぐになったと思う。
このまま歩くのもカッコ悪いが仕方ない。
すれ違う人々に迷惑はかけられない。
「一人で電車に乗れそう?」
「はい。大丈夫です。」
ゆらゆらと手を振ってこたえてる。
そうは言っても部下を心配する宇宙レベルに心の広い上司。
こっちを見たその視線に嫌な予感がした。
「お願いできる?」
無理!!! 言葉には出なくても顔でそう答えた。
「大丈夫です。こんなポイ捨ての情けのない人じゃあ意味ないです。」
本当に勝手にイメージをつけてくれる。
『こんな』といいながら手をこっちに振りかぶられた。
そこはゆらゆらよりしっかり主張していた。
方法と見た目はどうあれ支えてあげてる自分に対してそう言い放つとは。
『ナサケナイ』と反省するべきはお前だっ。
改札までとりあえず歩いて、また立ち止まった四人。
ぶれずに歩ける二人は別の改札へ行く、襟首部分でつながった二人が目の前の改札へ行く。
宗像さんに『お願い』と言うような眼をされた。
「少し酔いをさまして帰ります。」
襟首をつかんだ腕の時計を見て、そう答えた。
「ありがとう。安心して帰れる。良かったね沙織ちゃん。じゃあ、気を付けてね。江戸川君よろしく。」
「はい、二人とも気を付けて。」
そう言って別れた。
声もなく二人に手を振る千鳥足雀。
「一人でも大丈夫です。少し休んで帰ります。」
すぐそこのコーヒー屋を指さされた。
「いい、付き合う。ただし奢れ。」
そう言ったのにさっさと外の椅子に座った雀。
確かにお礼はおろか返事もなかったから。
結局買うのは自分で、そうなると払うのも自分で・・・・・。
目の前に熱いコーヒーを置いてやった。
「奢りだ。味わってくれ。」
「ご馳走になります。」
珍しくお礼が来た。
「なあ、前も聞いたが宗像さんの手伝いをしてた最近で辛かったことはないよな?」
「ないです。」
「最近元気なかっただろう。前より大人しいぞ。緋色の個性が死んでるじゃないか?」
すっかり呼び捨てにしてる自分。
「気のせいです。」
「そうならいいが。宗像さんもそうだが、あの部屋にいたんじゃ知り合いも増えないだろう。何かあったら誰かに相談できるといいな。」
「分ってます。」
「ああ・・・・別に無理に元気にしろとは言わないが。」
「分ってます。」
同じ返事は繰り返されたけど、やっぱり元気ないじゃないか。
憎まれ口のかけらも出てこないとは。
コーヒーを手にしてじっと見つめるその顔を上から見ていた。
時々コーヒーに口をつけて。
ぼんやりと自分の週末を考えた。また朝夕走りに行くだろう。
それだけかなあ。
酔いをさまして、にぎやかな飲み会からワンクッション置いて帰りたい人は多いらしい。
多くの人がコーヒーを買い、座って飲んで、でも長居するのは二人以上いる人で。
ポツポツと席も空いてきた。
「江戸川さん。」
自分も一人じゃなかったと、久しぶりのその声で我に返った。
「なんだ?」
「あの着物の人を、抱きたいって思ったりしました?色気を感じたりしました?ちょっとだけそんな先の事も想像しました?」
興味あるとは思えないくらい硬い表情だった。
仕事じゃなくて、違う方で何かあったのか?
色気とか何とかの事が。
びっくりする質問のはずなのに、そんな事を思って。
『別に。』と一言で答えるのが申し訳ないくらい。
「そんな事は最初からは思わないだろう。だいたい着物が異次元でそこまで現実的でもないし、週末に初めて会う前に既に・・・面倒になってたし。」
「なんでですか?それは遅刻以前にってことですか?」
「いや、さすがにそこはそれなりに誠意をもってたけど、時間を過ぎても来ない時点で、そう思ったってことだよ。それ以上何の想像もできない。だから具体的に言われたような事を思ったこともない、本当に。」
今の答えでよかったのだろうか?
正解が分からない。
珍しく真面目になられると非常に困る。
罵り合うくらいのペースがちょうどいいくらいかもしれない。
緋色もそんなやり取りで愚痴を吐き出してたりしてただろうか?
そんな関係もどちらかの元気がないと成り立たないらしい。
「人はそれぞれだよ。今の女性三人だってタイプは違うし、考え方も違うじゃないか。そんなものだから。男だってそれぞれ違うし、相手に期待することも、される内容も。何か気になるか?俺が答えられることは答えるが。」
「じゃあ・・・・。」
「なんだ?」
「分かりません。」
ガクッと来た。
せっかく琵琶湖くらいの広い心を見せてやろうと思ったのに。
「じゃあ、思い出した時に、思いついた時に、いつでも。特別に仕事外の時間でも許す。」
そう言って笑ってみた。
見上げた顔は今までの不機嫌な表情とは違う感じだったと思う。
「いい人です。」
ポツンとつぶやかれた言葉は今まで緋色からはまったく向けられたこともない形容詞で、うれしいよりも、やっぱり心配になった。
「宗像さんが大切にしたい仲間の一人なんだから。当たり前だろう。」
「そうですね、少ない仲間です。」
やっぱり友達が出来ればいいのに。
自分がせめて女性だったら、そうしたら一緒に飲むことを提案して仲間に紹介することもできるのに。自分ができるのは向井に紹介するくらいだ。
それじゃああんまり喜ばれないだろう。
少しのにぎやかしにはなるだろうか?
「なあ・・・・。」
「はい。」
「俺も同期がずいぶんいなくなって、昔の同僚と最近飲んでたんだ。結婚も決まってるし、そう言う相手じゃないけど、一緒に飲むか?」
そう誘われても何でだろうと思うだろう。
そんな顔を実際にしていた。
「宗像さんと緋色の話もしたんだよ、新しい同僚だって。それに辞めたとはいえ一応先輩だし、他にも何か参考になる意見を教えてくれるかもしれないぞ。必要ならだけど・・・。」
「よく分かりません。」
そうだよな。言ってみて自分でもおかしいと思った。
「私に友達を作ってくれたいんですね。確かに会社にはいませんが今までの友達はいますよ。」
「そうだよな・・・・。」
当たり前だ。
つい数か月前まで一緒につるんでた仲間がいるんだろうし。
きっと類友がいるんだろう。
「でも、意外でした。江戸川さんがあっさり女の人と連絡先を交換して会う約束をするなんて。」
話題が戻ったというか、自分の経験と比べてるのか、何か腑に落ちないことがあるらしい。
「そうかもしれないな。やっぱり異次元の雰囲気にやられたかな。」
冗談にした。
「その気になるとすぐに見つかるんでしょうね。」
そうなんだが見つかるだけじゃあな・・・偉そうには言えない。
冗談なら言えるが、どうだろう?
「そうだったら今彼女もいない寂しい日々ってこともないだろう。」
「緋色のいいお手本にはなれないな。」
ずいぶん会話もしっかりしてきたし、コーヒーをお互いが飲み切ったところで終わりにした。
「ちゃんと歩けそうか?一人で大丈夫か?」
「大丈夫です。」
足取りもいいし、もともと弱くもないから大丈夫だと判断した。
別々の路線だし送るのは自分だって面倒だ。
「ありがとうございました。」
「ああ、お疲れ、お休み。」
「お疲れさまでした。」
駅の改札の中で別れた。
結局緋色は許されるタイプということなんだろうか?
あんなに愚痴をためたつもりなのに、今は元気になればいいと本当に心を広く出来てるんだから。
週末は雨だった。
朝ちょっと寝坊をした土曜日、起きだした時にはすっかり昼近くて、走るよりも食事をして洗濯をした。
天気予報では夜から雨マークだったのに、裏切る速さで雨雲が進んできた。
夕方も走れず、次の日も一日雨だった。
うんざりしながら外を見て、部屋の中で腹筋などをして地味に運動をした。
いっそジムに通った方がいいんだろうか?
駅まで行けばあるけど、どうにも曜日や時間に縛られそうでやめていた。
気が向いたときに気分のままに走る方が自分には心地いい。
数字で感じる達成感と景色を見ながらの爽快感、後者を選びたい。
本格的にお腹が出るようになってきたら考えよう。
月曜日、いつものように出勤したのに、野本さんを待つことなく一日が始まった。
久しぶりにずっと同じ部屋にいることになる。
チラリと見ると少しは元気になってるだろうか?
朝、宗像さんにはねぎらわれた。
同じように元気がないと思ってたらしい。
原因は分からなかったと伝えたら、がっかりしたような顔をされた。
そんなにうまく聞き出せる技術はない、そこは女性同士の方がいいのでは?
そう思って任せた。
「緋色さん、これお願いできる?急がないから。」
「はい。」
上司にもらった仕事を分け合うのも同じ。
いくらか進歩したのかもしれない。
いまのところ問題ない。
午後の休憩を皆でとった。
彼氏を連れて実家に帰りたいという宗像さん。
しばらく連休の並びもよくなくて、有休をとろうと思ってると言われた。
どうせなので一斉に皆とって休みにしてもいいのでは?と。
確かに。
そう言うことで二週間後の週末に一日有休をくっつけて三連休になった。
「実家は遠いんですか?」
「そうでもないけど、せっかくだから旅行をしてもいいかなあって。」
本当に新幹線の中でも近い駅だ。
ただ街中から乗り換えて奥に行くらしい。
「初めて会うんじゃないですよね?」
「もちろん。もう何度も会ってる。一応けじめの報告。」
同棲したからって必ず結婚するというわけでもないだろうが、そこはそのつもりで挨拶もしてたんだろう。
今自分の部屋にそんな存在が足されることを考えても少しもピンとこない。
そんな自分が可哀想にもなってきた。
「羨ましいです。すごくいい人でした。」
ここにきて大絶賛の緋色。
この間相手をしてもらったのがよっぽどありがたかったのだろうか?
「ありがとう。沙織ちゃんもその内ね。」
「そんなのはずっとずっと先のその内です。宗像さんの扶養家族増えました報告が先でいいです。」
ずっとずっと先といいながら早ければ一年くらい先でもありうる事、その頃緋色は25歳くらいだろう。
そのずっと先を生きてる自分は・・・。
若いっていいなあとも思わず、若くていいなあとも思わなかったからか、いきなり気分が老け込む。
向井がうれしい報告をしてきた昨日。
彼女の家にも挨拶に行き、双方の両親にも喜んでもらえたらしい。
住む場所や相手の仕事の事やなにやらと先の事を話合ってるらしい。
そんな報告の連絡がきた。
羨ましいって思うじゃないか。
「江戸川君、どうかした?」
そう聞かれて我に返る。
「いいえ、あやかりたいって思っただけです。」
「いつでも、全力でどうぞ。」
一日もたたずに元の三人メンバーの雰囲気に慣れた。
そんな自分はやっぱり情が薄いんだろうか?
情が薄いと書いて『ハクジョウ』と読む。
そう言うとすごく酷い奴みたいだけど。
結局当たり障りなくできるってことが自慢ではなく、上辺だけをとりつくろえるってことなんだろうか?
だから誰とも深くはいかないとか・・・・。
何だか負の感情のスパイラルから抜け出せない。
上を向いてため息をついた。
結局また同じ日々が繰り返された。
時々落ちこぼれ雀に声をかけて確認しながら導き、あとは小さいミスも優しく指摘する。
それでも毎回って訳じゃない。
やっぱり少しは進歩したらしい。
喜ばしいじゃないか。
今週の週末二日を思う。
ついでに来週有休をくっつけた週末三日を思う。
何もないんだが。
同じように空っぽな顔をした緋色に気が付く。
向かい合わせに座ったら同じ顔をしてるかもしれない。
そう思ったがそれはそれでお互いに失礼かと思った。
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