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3 親睦会第二弾、常識の多数決に安心した夜。
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そんな四月からの生活にも落ちこぼれの雀の対応にも、なんとか慣れるもので。
「カンパ~イ。」
三人でグラスを合わせる。
給料日後の親睦会第二弾。
「仕事の話はなしにしよう、楽しもう、食べよう!飲もう!」
「は~い。」
元気に返事があった。
お酒は一切飲めなくても盛り上がれる一名だ。
この間は気が付かなかったがノンアルコールカクテルを飲んでたらしい。
見た目じゃわからなかった。
仕事以外の話だと言うことは愚痴も反省会もないらしい。
じゃあ何を・・・って。
「それでアズルさん、約束の情報公開お願いします。」
そう言いだして宗像さんを見る雀。
上司と言うより女子友だ。
「何?」
「もう、忘れたんですか?お酒が入ったら話すって言ったじゃないですか。楽しみにしてたんですから。大人彼氏の話です。」
「最初の話題が私の事なの?」
「はい、偉い人から順番です。どうぞ!」
そんなルールを勝手に作って決めたらしい。
上司の彼氏の事を聞かされるらしい。
まあ興味はある。
能力採用されただけはあるのだ。
指摘されるポイントで随分会社の穴が埋まった感じだし、ずるずるっとしてた悪しき慣習もなくなりつつある。
第三者の意見でビシビシと言ってもらった方がいい場合もある。
もしかしたら少しだけ煙たがられてるかもしれないけど、上層部には納得の結果だと思う。
仕事をする上で尊敬出来て、そして不出来な落ちこぼれ雀に対しては心が広く、変な上司風も吹かせずに偉そうでもない、いい人だと思う。そして誰もが認めるくらいには美人でもある。
そんな人が選んだのは・・・・。
「友達に誘われた飲み会で知り合った人、ちょっと年下で、ちょっと太ってて、ちょっと禿げそう。」
「全然分からないです。まず年下は具体的には?」
容赦ない取り調べが始まった。
そんな細かさを是非仕事で・・・・・。
「5歳年下。」
頭の中で計算する。自分より年下らしい、それは意外だ。
さっき大人彼氏と言った緋色が驚いてる。
なるほど・・・・そうつぶやいてる、発表した上司の顔が赤い気もする。
「同じような仕事をしてる人ですか?」
聞いてみた。
「まったく違う。ひたすら自宅の仕事部屋にこもって真面目に仕事してる。」
「だからもっと具体的にお願いします。」
まさかのダメだし。
いつも許されてる部下が偉そうに言う現象が目の前でおきてる。
「シルバー彫金の仕事をしてるの。ネットで売ったり、いろんなところでブースを出して売ったり、アクセサリーの土台を依頼されたり、デザイン丸ごとを依頼されて作ったり。」
「もしかしていつもつけてるアクセサリーもそうなんですか?」
そう言いながら耳と手を見てる彼女の横で同じように視線を動かした。
確かにシルバーだ。
繊細なデザインが確かに手作り感満載だし、デザインも確かに凝ってるかもしれない。
型抜きの大量生産品じゃないとわかる。
「そう。自分でデザインのイラストを見せたり、気に入ったデザインがあったら相談したり。ちゃんとお金は払ってるのよ。」
「それは贅沢です、フルオーダーの一点ものですね、それに素敵です。いつもそう思ってました。重ねてつけてる時もありますよね。」
「まあね。」
その辺は何の感想も言えない男の自分。
緋色、そんなところには気が付く繊細さがあるなら是非仕事でも・・・。
「自宅にいるんだったら、もしかして食事の担当は彼氏ですか?」
「そうそう。そこは助かってるの。気分転換にって苦じゃないみたい。後は食洗器にお願いして、時々買い忘れを買って帰るだけでいいの。」
そんな便利な男が世の中にいるなんて。
自分は無理だ、気分転換は外でしたい。
「それでちょっとおデブとちょっと禿げは?」
「そこは自宅制作仕事の難しい所だから、動かない時間も長くて太ったらしいの。今ダイエット中。まあ禿げはまだまだ大丈夫、お父さんを見て本人が気にしてるだけ。」
「それは良かったです。結婚するんですか?」
「籍は入れようって話はしてるんだけど、あとは面倒で。まあ、気が向いたら書類を書こうかなってくらい。」
「ええっ~、何でそこがそんな抜けた気分なんですか?もっと記念日作りましょうよ。交際記念日とか誕生日とかでもいいし。」
「別にいいじゃない。」
「よくないです。もしかして式もどうでもいいって言うんですか?」
「言う言う、私の方がそんな気分だから無理強いはされなそう。」
「そんなぁ・・・・・。」
価値観の差、その一言だ。
やはり夢見がちな若い緋色には理解不能らしい。
「だってその日だけは主役ですよ、お姫様気分ですよ。ドレスだって可能なら10種類くらい着たいのに。」
そんな主役がいるとは思えない。
進行は実にシステマティックに進むものだし、その度に席を離れてたらもはやショーであって、ひな壇に座ることもないだろう。いっそ両脇から袖を引っ張ってもらったらドレスが脱げると言う早着替えの技を持ち込むしかない。最後は水着レベルになるだろう。
「江戸川さんもそう思いますよね。大好きでかわいい彼女のドレス姿を横で見たいですよね。」
まさかだ、想像するだけでいろいろ煩わしい。
「可能な限りゴメンこうむりたい。今は写真だけで済ます二人もいるらしいし。」
「何のためにダイエットするんですか?エステに行くんですか?結婚するんですか?」
どれもファッションショーのためじゃないが。
「じゃあ、沙織ちゃんは可愛くお願いすればいいから。あれこれ悩んで現実的にはやっぱり二種類くらいだと思うけど、写真は別撮りでもっと違うのを着て。横でかっこよくて思いやりのある彼氏に褒めてもらえばいいから。」
「もちろんです。そこはお互いに褒めます。女性がお姫様なら男性は王子様です、そこも人生一度きりです。」
大丈夫だろうか?相手も同じレベルに王冠を乗せられたり、サーベルを差されたりしないよな。張り切ったスーツってくらいだよな。
「どんな相手なんだ?付き合ってくれそうな男なのか?」
「何がですか?」
「だから彼氏だよ。一緒に楽しんでくれるタイプなんだろう?」
そう言ったら思いっきり不機嫌な顔をされた、分かりやすいくらいに顔を背けられた。
見せられた後頭部が拒否と言ってる。
偉い順じゃなくてもそこはいいだろう。
散々上司には聞きまくって自分はそこ内緒とかあるか?
「将来の話です!」
やっとひねり出した一言。
隣のテーブルの人に伝えたかったのか、びっくりされてる。
「なるほど、王子様候補のいい相手が見つかるといいな。」
「なんだか無理じゃないかって思われてる気がします。」
「さあ、別にそんな男はまだまだいるだろう。経済的に無理じゃなければ付き合ってくるんじゃないか?」
「そう言うことじゃなくて・・・・。」
「じゃあ、江戸川君は?」
「無理です。」
さっきも言った。無駄なことはしない主義だ。
家を買う以外最大の散財だろう。
たった一日の事だと思うと家より無駄だ。
そこは宗像さんに似たタイプの方が助かる。
「彼女はそれでいい感じの人?」
「いません。だから自分も将来の話です。」
「ねえ、偉い順って言って二人とも内緒なの?私しか発表してないじゃない。」
「いたらします、出来たらします、がんがん自慢します、惚気ます。」
緋色が言う。確かにすぐに隠せなくてボロボロと言いそうだ。
基本情報は興味がない訳でもないが、あれこれと頻繁に聞かされたいかと言うとそれもゴメンこうむりたい。
「江戸川君は絶対内緒にしそうだよね。いきなり扶養家族増えましたパターンだよね。」
「そんな報告義務はないでしょう?女性と同じ心理とは思わないでください。」
「でもねえ、聞きたいよね。」
宗像さんが緋色にそう言って同意を求めたが、顔を見られて目が合っても『興味・関心』のかけらもない感じだった。
「気が向いたらします。それにしばらくは特にないと思います。」
「なんだかそれも分かる気がする。本当にエコに生きてる感じだよね。ちゃんと人生楽しんでね。」
楽しんでます!って言えたらいいけど、そんな強くは言えない。
「まあまあです。」
「子供のころからそんな感じ?おもちゃの前でジタバタしたりしないタイプでしょう?」
「そんな記憶はないです。確かに静かな子供だったかもしれないです。でも普通にスポーツは出来ましたし、友達もいましたけど。」
「そこは疑ってない。器用そうでもあるし。執着する感じがないからコレクターからは一番遠いタイプじゃない?」
「確かに物は増やさない方です。ストックもしない生き方なので災害の時に真っ先に困るタイプです。」
「沙織ちゃんはストックも執着もたくさんあるでしょう?」
「もちろんです。私は楽に生き延びれるタイプです。食材も一通りありますし。一度手にしたものは捨てられないタイプです。」
わかるわかるとうなずく宗像さん。
性別以上に結局タイプが全く違うということだ。
「沙織ちゃん、どんな子供だった?ちゃんと宿題とかやってたの?」
「もちろんです。もう休みの最終日にすごい集中力を発揮しました。だからきちんと終わってましたよ。」
自慢そうに言ってるのは何故なのか。
そんな帳尻合わせで就活も決めたのかもしれない。
帳尻合わせの結果が自分の下と言うのもなんとなく腑に落ちないが。
黙って聞いてたらこっちを見られた。
「もちろんきちんとやってましたよね。」
「平常心を失うことはなかった。」
聞いてきた緋色が何故か呆れた顔をする。
それはなんだ?
「なんとなく対照的だもんね。両極端。」
「自分がそう極端だとは思ってないですよ。普通です。」
もう一方が異常に針が振れてるだけだ。
「まあ、そうとも言うかな。」
「宗像さんもこっちよりですよね。」
「もちろん。」
安心する。常識が三人の中でも多数決で分かる安心。
残り一人が非常識となる結果だ。
「でも宿題って役に立ちましたか?別に遊び惚けてたわけじゃないんだし、楽しく日々を過ごしてれば机に向かわなくても学習できることはあるのに。」
「休み明けのテストで問題なかったのならいいんじゃない?」
口が開いた緋色。問題なし・・・とはいかなかったらしい。
「有りか無しかで言うとやや有りでしたが。」
やっと反省したらしい。
今までそんな機会がなかったとしたら周りも同じような非常識メンバーだったのだろう。
「大丈夫、料理が得意だったら最高だって思ってくれる男の人は多いから。」
「だからそこは自慢できるんです。」
就活の前に気がつくべきだったんだろう。
もっと違う職種があったのでは、と言っても栄養学の知識があるわけでないし、専門職は無理か。
「あれ、でもアズルさんは全くダメなのに問題ないじゃないですか、言ってることが違います。」
「うちが特殊だから。ずっと家にいるし物作りが仕事だから、その延長で料理も出来るの。そんな人より普通に外に出かけて疲れて帰ってくるサラリーマンの方が圧倒的に多いから大丈夫。」
「恋愛も難しいです。こればかりは集中力でもどうにもなりません。」
「まだまだじゃない。出会ってないだけだから大丈夫。」
「そんなこと言って・・・・もし江戸川さんの年になっても同じこと言ってたらどうしましょう。」
・・・悪かったな・・・・・失礼なっ!
上司にちらりと視線をよこされた。
ムッとした顔を見られたかもしれない。
「同期の子で仲のいい子は?」
「それがあんまり誘われなくて。」
無力。上司がそう感じたらしい。
「営業でお菓子をもらって来る位だったらその内誘われるんじゃないか?」
少し慰めに言ってみた。
さっきムッとしたセリフの事は忘れてやろう。
「そんな訳ないです、そんな簡単だったら悩まないですって。」
全否定。
酒でも飲むか。
メニュー表を開いて次を物色する。
自分の分を決めてから宗像さんに渡し、三人目にも渡り。
戻ってきたところで店員さんを呼んだ。
「宗像さん、転職って相当悩みましたか?」
「そうでもないかな。通いやすいの、前までが面倒なところだったから今はすごく楽になったし。通勤でのロスタイムって本当に無駄な時間じゃない?」
「そうですね。」
同棲を初めて面倒なルートになったんだろう。
仕事に対しては自信があるんだろう、その辺の心配はしなかったようだ。
「転職したいとか思った事あるの?」
「ないです。別に今のままでいいかなって思ってたんです。まさかの異動でびっくりはしましたけど。」
「助かってます。これからもまとまったチームワークでよろしくお願いします。」
自分以外のもう一人、落ちこぼれの雀にも視線は向いた。
三人で新しいグラスで乾杯をした。
まあ・・・・そうなるか。
「カンパ~イ。」
三人でグラスを合わせる。
給料日後の親睦会第二弾。
「仕事の話はなしにしよう、楽しもう、食べよう!飲もう!」
「は~い。」
元気に返事があった。
お酒は一切飲めなくても盛り上がれる一名だ。
この間は気が付かなかったがノンアルコールカクテルを飲んでたらしい。
見た目じゃわからなかった。
仕事以外の話だと言うことは愚痴も反省会もないらしい。
じゃあ何を・・・って。
「それでアズルさん、約束の情報公開お願いします。」
そう言いだして宗像さんを見る雀。
上司と言うより女子友だ。
「何?」
「もう、忘れたんですか?お酒が入ったら話すって言ったじゃないですか。楽しみにしてたんですから。大人彼氏の話です。」
「最初の話題が私の事なの?」
「はい、偉い人から順番です。どうぞ!」
そんなルールを勝手に作って決めたらしい。
上司の彼氏の事を聞かされるらしい。
まあ興味はある。
能力採用されただけはあるのだ。
指摘されるポイントで随分会社の穴が埋まった感じだし、ずるずるっとしてた悪しき慣習もなくなりつつある。
第三者の意見でビシビシと言ってもらった方がいい場合もある。
もしかしたら少しだけ煙たがられてるかもしれないけど、上層部には納得の結果だと思う。
仕事をする上で尊敬出来て、そして不出来な落ちこぼれ雀に対しては心が広く、変な上司風も吹かせずに偉そうでもない、いい人だと思う。そして誰もが認めるくらいには美人でもある。
そんな人が選んだのは・・・・。
「友達に誘われた飲み会で知り合った人、ちょっと年下で、ちょっと太ってて、ちょっと禿げそう。」
「全然分からないです。まず年下は具体的には?」
容赦ない取り調べが始まった。
そんな細かさを是非仕事で・・・・・。
「5歳年下。」
頭の中で計算する。自分より年下らしい、それは意外だ。
さっき大人彼氏と言った緋色が驚いてる。
なるほど・・・・そうつぶやいてる、発表した上司の顔が赤い気もする。
「同じような仕事をしてる人ですか?」
聞いてみた。
「まったく違う。ひたすら自宅の仕事部屋にこもって真面目に仕事してる。」
「だからもっと具体的にお願いします。」
まさかのダメだし。
いつも許されてる部下が偉そうに言う現象が目の前でおきてる。
「シルバー彫金の仕事をしてるの。ネットで売ったり、いろんなところでブースを出して売ったり、アクセサリーの土台を依頼されたり、デザイン丸ごとを依頼されて作ったり。」
「もしかしていつもつけてるアクセサリーもそうなんですか?」
そう言いながら耳と手を見てる彼女の横で同じように視線を動かした。
確かにシルバーだ。
繊細なデザインが確かに手作り感満載だし、デザインも確かに凝ってるかもしれない。
型抜きの大量生産品じゃないとわかる。
「そう。自分でデザインのイラストを見せたり、気に入ったデザインがあったら相談したり。ちゃんとお金は払ってるのよ。」
「それは贅沢です、フルオーダーの一点ものですね、それに素敵です。いつもそう思ってました。重ねてつけてる時もありますよね。」
「まあね。」
その辺は何の感想も言えない男の自分。
緋色、そんなところには気が付く繊細さがあるなら是非仕事でも・・・。
「自宅にいるんだったら、もしかして食事の担当は彼氏ですか?」
「そうそう。そこは助かってるの。気分転換にって苦じゃないみたい。後は食洗器にお願いして、時々買い忘れを買って帰るだけでいいの。」
そんな便利な男が世の中にいるなんて。
自分は無理だ、気分転換は外でしたい。
「それでちょっとおデブとちょっと禿げは?」
「そこは自宅制作仕事の難しい所だから、動かない時間も長くて太ったらしいの。今ダイエット中。まあ禿げはまだまだ大丈夫、お父さんを見て本人が気にしてるだけ。」
「それは良かったです。結婚するんですか?」
「籍は入れようって話はしてるんだけど、あとは面倒で。まあ、気が向いたら書類を書こうかなってくらい。」
「ええっ~、何でそこがそんな抜けた気分なんですか?もっと記念日作りましょうよ。交際記念日とか誕生日とかでもいいし。」
「別にいいじゃない。」
「よくないです。もしかして式もどうでもいいって言うんですか?」
「言う言う、私の方がそんな気分だから無理強いはされなそう。」
「そんなぁ・・・・・。」
価値観の差、その一言だ。
やはり夢見がちな若い緋色には理解不能らしい。
「だってその日だけは主役ですよ、お姫様気分ですよ。ドレスだって可能なら10種類くらい着たいのに。」
そんな主役がいるとは思えない。
進行は実にシステマティックに進むものだし、その度に席を離れてたらもはやショーであって、ひな壇に座ることもないだろう。いっそ両脇から袖を引っ張ってもらったらドレスが脱げると言う早着替えの技を持ち込むしかない。最後は水着レベルになるだろう。
「江戸川さんもそう思いますよね。大好きでかわいい彼女のドレス姿を横で見たいですよね。」
まさかだ、想像するだけでいろいろ煩わしい。
「可能な限りゴメンこうむりたい。今は写真だけで済ます二人もいるらしいし。」
「何のためにダイエットするんですか?エステに行くんですか?結婚するんですか?」
どれもファッションショーのためじゃないが。
「じゃあ、沙織ちゃんは可愛くお願いすればいいから。あれこれ悩んで現実的にはやっぱり二種類くらいだと思うけど、写真は別撮りでもっと違うのを着て。横でかっこよくて思いやりのある彼氏に褒めてもらえばいいから。」
「もちろんです。そこはお互いに褒めます。女性がお姫様なら男性は王子様です、そこも人生一度きりです。」
大丈夫だろうか?相手も同じレベルに王冠を乗せられたり、サーベルを差されたりしないよな。張り切ったスーツってくらいだよな。
「どんな相手なんだ?付き合ってくれそうな男なのか?」
「何がですか?」
「だから彼氏だよ。一緒に楽しんでくれるタイプなんだろう?」
そう言ったら思いっきり不機嫌な顔をされた、分かりやすいくらいに顔を背けられた。
見せられた後頭部が拒否と言ってる。
偉い順じゃなくてもそこはいいだろう。
散々上司には聞きまくって自分はそこ内緒とかあるか?
「将来の話です!」
やっとひねり出した一言。
隣のテーブルの人に伝えたかったのか、びっくりされてる。
「なるほど、王子様候補のいい相手が見つかるといいな。」
「なんだか無理じゃないかって思われてる気がします。」
「さあ、別にそんな男はまだまだいるだろう。経済的に無理じゃなければ付き合ってくるんじゃないか?」
「そう言うことじゃなくて・・・・。」
「じゃあ、江戸川君は?」
「無理です。」
さっきも言った。無駄なことはしない主義だ。
家を買う以外最大の散財だろう。
たった一日の事だと思うと家より無駄だ。
そこは宗像さんに似たタイプの方が助かる。
「彼女はそれでいい感じの人?」
「いません。だから自分も将来の話です。」
「ねえ、偉い順って言って二人とも内緒なの?私しか発表してないじゃない。」
「いたらします、出来たらします、がんがん自慢します、惚気ます。」
緋色が言う。確かにすぐに隠せなくてボロボロと言いそうだ。
基本情報は興味がない訳でもないが、あれこれと頻繁に聞かされたいかと言うとそれもゴメンこうむりたい。
「江戸川君は絶対内緒にしそうだよね。いきなり扶養家族増えましたパターンだよね。」
「そんな報告義務はないでしょう?女性と同じ心理とは思わないでください。」
「でもねえ、聞きたいよね。」
宗像さんが緋色にそう言って同意を求めたが、顔を見られて目が合っても『興味・関心』のかけらもない感じだった。
「気が向いたらします。それにしばらくは特にないと思います。」
「なんだかそれも分かる気がする。本当にエコに生きてる感じだよね。ちゃんと人生楽しんでね。」
楽しんでます!って言えたらいいけど、そんな強くは言えない。
「まあまあです。」
「子供のころからそんな感じ?おもちゃの前でジタバタしたりしないタイプでしょう?」
「そんな記憶はないです。確かに静かな子供だったかもしれないです。でも普通にスポーツは出来ましたし、友達もいましたけど。」
「そこは疑ってない。器用そうでもあるし。執着する感じがないからコレクターからは一番遠いタイプじゃない?」
「確かに物は増やさない方です。ストックもしない生き方なので災害の時に真っ先に困るタイプです。」
「沙織ちゃんはストックも執着もたくさんあるでしょう?」
「もちろんです。私は楽に生き延びれるタイプです。食材も一通りありますし。一度手にしたものは捨てられないタイプです。」
わかるわかるとうなずく宗像さん。
性別以上に結局タイプが全く違うということだ。
「沙織ちゃん、どんな子供だった?ちゃんと宿題とかやってたの?」
「もちろんです。もう休みの最終日にすごい集中力を発揮しました。だからきちんと終わってましたよ。」
自慢そうに言ってるのは何故なのか。
そんな帳尻合わせで就活も決めたのかもしれない。
帳尻合わせの結果が自分の下と言うのもなんとなく腑に落ちないが。
黙って聞いてたらこっちを見られた。
「もちろんきちんとやってましたよね。」
「平常心を失うことはなかった。」
聞いてきた緋色が何故か呆れた顔をする。
それはなんだ?
「なんとなく対照的だもんね。両極端。」
「自分がそう極端だとは思ってないですよ。普通です。」
もう一方が異常に針が振れてるだけだ。
「まあ、そうとも言うかな。」
「宗像さんもこっちよりですよね。」
「もちろん。」
安心する。常識が三人の中でも多数決で分かる安心。
残り一人が非常識となる結果だ。
「でも宿題って役に立ちましたか?別に遊び惚けてたわけじゃないんだし、楽しく日々を過ごしてれば机に向かわなくても学習できることはあるのに。」
「休み明けのテストで問題なかったのならいいんじゃない?」
口が開いた緋色。問題なし・・・とはいかなかったらしい。
「有りか無しかで言うとやや有りでしたが。」
やっと反省したらしい。
今までそんな機会がなかったとしたら周りも同じような非常識メンバーだったのだろう。
「大丈夫、料理が得意だったら最高だって思ってくれる男の人は多いから。」
「だからそこは自慢できるんです。」
就活の前に気がつくべきだったんだろう。
もっと違う職種があったのでは、と言っても栄養学の知識があるわけでないし、専門職は無理か。
「あれ、でもアズルさんは全くダメなのに問題ないじゃないですか、言ってることが違います。」
「うちが特殊だから。ずっと家にいるし物作りが仕事だから、その延長で料理も出来るの。そんな人より普通に外に出かけて疲れて帰ってくるサラリーマンの方が圧倒的に多いから大丈夫。」
「恋愛も難しいです。こればかりは集中力でもどうにもなりません。」
「まだまだじゃない。出会ってないだけだから大丈夫。」
「そんなこと言って・・・・もし江戸川さんの年になっても同じこと言ってたらどうしましょう。」
・・・悪かったな・・・・・失礼なっ!
上司にちらりと視線をよこされた。
ムッとした顔を見られたかもしれない。
「同期の子で仲のいい子は?」
「それがあんまり誘われなくて。」
無力。上司がそう感じたらしい。
「営業でお菓子をもらって来る位だったらその内誘われるんじゃないか?」
少し慰めに言ってみた。
さっきムッとしたセリフの事は忘れてやろう。
「そんな訳ないです、そんな簡単だったら悩まないですって。」
全否定。
酒でも飲むか。
メニュー表を開いて次を物色する。
自分の分を決めてから宗像さんに渡し、三人目にも渡り。
戻ってきたところで店員さんを呼んだ。
「宗像さん、転職って相当悩みましたか?」
「そうでもないかな。通いやすいの、前までが面倒なところだったから今はすごく楽になったし。通勤でのロスタイムって本当に無駄な時間じゃない?」
「そうですね。」
同棲を初めて面倒なルートになったんだろう。
仕事に対しては自信があるんだろう、その辺の心配はしなかったようだ。
「転職したいとか思った事あるの?」
「ないです。別に今のままでいいかなって思ってたんです。まさかの異動でびっくりはしましたけど。」
「助かってます。これからもまとまったチームワークでよろしくお願いします。」
自分以外のもう一人、落ちこぼれの雀にも視線は向いた。
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