打たれ強くて逞しい、こんな女に誰がしたっ!!

羽月☆

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7 勝手に予定されていた相談事の続き。

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自分の手持ちの仕事をしつつ、例の新しい打ち合わせ相手の相談も少しだけ富田林君として。
二人だとどうしても自分が頑張る。
それでいいんだろうか?


「富田林君、今回はメインでやってみる?」


そう聞いたら首を振られた。

「いいえ、呉さんメインでお願いします。勉強させていただきます。」

まるで丁稚修行のようですが。
独り立ちもぼちぼちと振り分けられてるし、いいのに。

そうは言っても途中から必要な課のメンバーも入る。
二人なのは最初だけだ。
途中引き継いでもいいとも思う。


そして打ち合わせの日。

指定された相手の本社は大きなビルの中に入ってる。
入り口で入館証をもらい待機。
迎えに来てくれたのは爽やかな男性とスタイルのいい女性だった。

おお・・・・・。
心の中で二人を称賛した。


さすがに有名ホテルの事業部の人らしくホスピタリティー抜群、笑顔と印象がいいし、通された部屋のテーブルからして四角い事務用テーブルじゃない。
さらに出てきた飲み物ごと素晴らしい。
よくある自販機じゃない、ティーセットごと出てくるなんて・・・・後片付けが面倒じゃない。


名刺交換を行い挨拶して、早速書類を広げる。

きっと現場研修もしてるんだろう。
本社だとは言っても接客のマナーにはうるさいんだろう。
本当に落ち着いたトーンで打ち合わせが進んだ。
ミラー反応で私までしとやかモードで仕事してる気がする。
隣で変に思ってなければいいけど。
いつものちょっとした冗談や各種ハラスメントなどまったく気配がない。

いいじゃない。


パンフレットを数冊預けて、商品のサンプルも差し出す。
先月に行われた業界の展示会で責任者同士がかなり話を進めたらしい。
社内でも指定業者の了解は取り付けているらしくて話は無理なく進む。
あとはもっと細かい話を詰めていく段階だった。

その日のうちに契約書の内容まで決めて、本当にスムーズに進んだと言えるだろう。


「じゃあ、改めて契約書を起こしてまた伺います。」

都合のいい日をすり合わせて、約束を取り付けて。


美味しい紅茶をいただき、少しだけホテル業界の現状を聞いたりし、打ち合わせは終わりになった。



ゲートで入館証を返却して出る。


「じゃあ、早速契約書を作って回しておくから、富田林君他の課への連絡をお願いしてもいい?」

「はい。」


全く大人しくついてきただけの今日。
こんなにスムーズに始まって終わるなら一人でも良かった気もする。


「紅茶美味しかったわね。」


「はい。」

おいっ、どうした?

始終静かに隣にいた。
存在消してなかった?


「なんだかあっさり終わりそうだよね。すぐに手は離れそう、二人チームはすぐ解散かもね。」

いくらかホッとして、笑顔でそう言ったのに。
首を倒された。
お願いだからそこは自信もってスムーズに終わらせよう。

『つつがなく無事に。』あの頃何度もそう思った。


会社に戻り上司に報告した。
その後契約書を作り、方々に回してもらった。


その横では電話片手に富田林君が必要部署に連絡を入れてくれてる。
そのリストはチラリと見たし、内容も聞いてる。
問題ない、よし! 


手元に書類が戻って来た時点で先方に確認の連絡をする。
他にも何か資料の不足がないか?気になる点はないか?
そう『つつがなく』は一人の時も思ってる。
今回は二人だけど、毎回そう思ってる。

綺麗なラリーで連絡が取れ、スムーズに仕事がはかどることに喜びを覚えて。
今週末の予定はまだ未定でも、まあ、のんびりと構えることにしていた。

紹介元の美羽に聞いたけど、やっぱり忙しいみたいだった。
週末もそれなりに仕事の連絡があったりする部署のようで。
そう言えば最初の時もちょうど忙しい波が引いたところで参加した飲み会だと言っていたのを思い出した。
そんな人らしい、じゃあ仕事も出来る人なんだろう。
そう見えるし、そう思える。


「呉さん。」


いきなり自分の現実に引き戻される。


「何?」


「明日の打ち合わせ、夕方ですよね。遅くなるでしょうか?」

終わり時間が気になるらしい。

「メールでも聞いてるけど、特に問題はなさそうだし、するするっと終わるんじゃないかと思ってるけど。終わり次第解散でいいから、何か用があるなら大丈夫じゃない?」


最悪手間取っても、移動を入れても一時間もかからないくらいでこの駅には戻ってこれるだろう。
他の駅なら知らないけど、そう遅れることはないんじゃないかと。


「呉さんは何か予定を入れてますか?」


そこを聞くの?
あいにくと女子会がなくて、白紙の状態だ。
多分特別な予定も入らないだろう。


「今のところは・・・何もないかな?」

きっとない、多分ない、そうそうないんだから。
でも見栄よ見栄、うまく張れたなら予定は未定と思ってほしい。
何かの予定が入る可能性があるように。

「サクサクと進めて楽しい週末に突入しようね。」

ご機嫌にそう言ってあげた。
そんなに心配することもないだろうって、そんな笑顔で。

「あ、今度は富田林君が仕切る?この間地蔵になってたでしょう?全く存在感がなかったじゃない。」

そう言ったらちょっとだけ口が開いた。

「どうする?」


「いえ、呉さん、お願いします。勉強させてください。」

丁稚のセリフを再び。

「一人でもできるのに、一人で行っても大丈夫なくらいなのに。」


少しは持ち上げてみた。


「まだまだです。」


一体誰を目標にしてるの?
もしかしてすごい上昇志向があるタイプとか?
そうは見えないけど・・・・。

「他に興味のある部署があったりする?」

「いえ、まだここでしっかり頑張りたいです。」

「そう。」

あの子に言った理由は本心だったみたいね。
そんな変な言い訳で断るような器用さもないか。
その辺も正直だろうけどね。


「大分慣れて来たでしょう?どう?」


「まだまだです。」


そう。
まだまだ上を目指すらしい。
それはそれは頑張ってください・・・・・。


「じゃあ、契約後、他部署とのやり取りも含めてメインを代わる?メインは富田林君で、私がサブ。どう?」


「一緒に・・・色々確認をさせていただきながら・・・でいいですか?」

「もちろん、そこはお互いにね。」


「分かりました。ご指導よろしくお願いします。」


「じゃあ、一応部長にも許可をもらっておくから。」

別にそんなのはどうでもいいだろう。
新商品のキャンペーンやコラボなんて企画じゃないから、そう後を引くこともないだろう。そう、さっさと手が離れる案件だとは思う。



ああ、それでもフォローであの紅茶を頂けるなら訪問するのも喜びだけど。
他じゃ出されないしっかりしたものだ。
ちょっとした手土産を持って行けば、いい具合にティータイムになるくらい。


なんで二人体制にしたの?一人でよかったのに。
またそう思った。



部長には許可をもらった。
メインを富田林君に、サブが私に。
最初からそうでも良かったくらい、明日もそうでもいいじゃない?


その次の日、金曜日。
楽しい予定があるらしい隣が明らかにソワソワとしていた。

『何なに?そこ相談にのるとこ?』なんて軽く聞いたら引きつりそうなくらいの緊張も隠せずにいる。

大丈夫?


「呉さん、呉さんの予定は何か変わりましたか?」

午後一で聞かれた。

何?
一緒に行くよ、現地集合にしたい?

「別に変わりはないけど、どうかした?」

「いえ、いよいよ今日だから・・・しっかり勉強させてもらいます。」

握りこぶしを作ってそう言う。
そんなに張りこんだら、終わった後の緩和はものすごいだろう。
そっちは緊張しないの?

よく分からない。


「富田林君の予定は変更なし?」

「ないです。よろしくお願いします。」


そう言われると本当にさっさと片を付けて帰りますよ、なんて言われてるように思えてきた。
少しはお茶飲み話はするよ、あんまりさっさと帰ることはしないよ。
美味しいお茶はちゃんと頂くよ。
まさか隣でチラチラと時計なんて見ないでしょうね。
そんな失礼なことしたら、終わった後に転がるほどどつくからね。

「一応一時間くらいの残業はあっても仕方ないと思ってね。出来るだけスムーズに行くようにはするから。」

「はい、もちろんです、大丈夫です。」

それならいいけど。


そもそも春の一日目のあの日、そんなソワソワ感あった?
挨拶も軽やかに笑顔も自然で、だから目立っていい印象で、これはっ!!って思ったのに。
あの笑顔にやられたのに・・・・いや・・・やられてはいないけど・・・・まさかその後に違う意味でがっかりめり込むくらいやられるとは思わなかったのに。


仕事を頑張りたい、それはあの子を断ると同時に違う子にもっと成長した自分で向き合いたいって、そんな事だったりして。そして今日の夜に飲むメンバーにその子がいたりして。
チラリとも聞かされない予定だけど勝手にそう想像したりした。

楽しみな予定があってよろしいですね。


やはり私の予定は埋まらず。
一人で直帰だろう。


週末もまだ未定、連絡待ち。
忙しい相手と食事をするということはそう言うことなのだ。


ああ、忘れてた、有休旅行。
いつ取る、いつ取れる?

来週早々でもいいかもしれない。
それを楽しみに週末をやり過ごしてやる!!
スケジュール画面を見てそんな先の楽しみを一人で噛み締めて。


隣の貧乏くじと距離を保てるようになって本当にマイペースに仕事が出来てる。
なんだか心に余裕がある日々。
いいの?
バタバタとしてたのは新人を獲得できる情報に喜び、配属の7月を待ったころまで。
欠員を順調な新人二人と問題ありの一人の新人で埋めてもらい、ようやく成長した隣の新人、そうなるとこうなるらしい。


いいじゃない、有休取れって私に言ってるんだよね?


書類を確かめて、メールをチェックして、さて。


「富田林君、そろそろどう?」

「はい、大丈夫です。」

そう言いながらバタバタと手を動かす。

「片づけをする時間くらいもらっていい?10分後くらいに出かけましょう。」


そう言って書類をバッグに入れる、大切な書類なだけに絶対隣には渡さない、そう学習はしてる。
そしてカップを手に、化粧ポーチも持って席を立った。

バタバタ動いてた手が止まりボンヤリと脱力してるけど大丈夫?
何だか変な空回り具合、今から本番なのに。


メインに据える判断は大丈夫だっただろうか?
もしかして早まったんだろうか?


ともあれ二人で連れ立ってこの間向かった本社へ。
やはり午後遅めのティータイムになった。

紅茶の香りが上品なカップから流れてくる。


 「これをご確認いただけますか?」

書類を確認してもらっている間、二人大人しく待つ。


「ありがとうございます。お預かりいたします。」


ホッと一息。
多分大丈夫だろう。

その後の進め方を含めて実際の担当同士を引き合わせる予定にして、販売ルートの説明をして、書類を渡す。

他の取引先と同じルートに乗せればいい。
ビッグネームだけどホスピタリティーあふれる担当者におもてなしの紅茶。
本当に心地いい相手だと思う。
こうありたいと思う。

隣もそう感じてくれてればいいのに、今日も地蔵化してる気がする。
大丈夫?やる気ある?

時計を見るそぶりの気配を感じないくらいに動かない。
ここ一番、持ち味の爽やかな笑顔を振りまくところよ!!


話も終わりの頃に隣を見ると・・・・・真面目な顔でした・・・・。


まあ、いいです。許します。




一仕事あっという間にケリがついて、二人で関わったのが何だったのか。
外に出て時計を見たら終業ちょっと過ぎ。
間に合うじゃない。



じゃあ、行ってらっしゃい、と地蔵を捨て置く気持ちで振り向いたら目が合った。
びっくりした顔をされて開いた口が言葉を忘れてしまう。


「どうかした?」

「いえ・・・・無事に終わって良かったです。ありがとうございました。」


そんなセリフは少しは汗をかくくらいの努力をした時に言うべきよね。


「美味しい紅茶をいただけただけでも訪問の甲斐があるしね、トントンと進んでうまくいって良かったわね。」



「呉さん、この後の予定は・・・大丈夫ですか?」


「何?」


「あの・・・この間の続きです。相談があって・・・・・。」



「用があるんじゃなかったの?」


「いえ・・・他にはないです。」


「そう。」


なんとなくしっくりこない感じ。
なんだった?いろいろと気を遣ってあげたし、考えたのに。
忘れてたとはいえ、この間の続きって・・・・残業みたいなものじゃない・・・・・。



「じゃあ、食事しながらでも、お酒飲みながらでも。どっちがいい?」



「席だけ予約してるんです。少し移動してもいいですか?」

そんな手配も済んでるらしい。
記念日のデートなら褒めてあげたいところだけどね。




「いいわよ、どこでも。」

ため息を飲み込んで返事にかえた。


二人で電車に乗り、会社を越え、気を遣ってくれたのか自分の駅に少しは近くなった。

「こんな場所でよく飲むの?」

「はい、まあまあ近い所なので、時々来てます。」

自分の住んでるところに近寄っただけらしい。
そりゃそうか、住んでるところは教えてない。
でも電車はまあまあ乗り換えが便利で帰れるから許す。


連れていかれたのはこの間と同じようなバーみたいな場所。
この間よりもにぎやかだ。

名前を言って案内される。

贅沢な席の配置で隣との距離のあるテーブルもあって、そこに案内された。


壁に向かってスツールが二脚。
おしゃれだけど足が疲れるじゃない。


手荷物をかごに入れて、早速座りメニュー表を捲る。

今日もおすすめのカクテルを頼んで、食事も選ぶ。


別に普通の食事のお店でもいいのに、どうしてもお酒を飲みたいらしい。
好きだから、強いから、それとも勢いがないと言い出せないくらい大きな事?


軽く乾杯して口をつける。


「美味しい。」思わず笑顔も出る。


「今度から飲みたい時は富田林君にお店を相談したらいいのかもね。お酒の美味しい所をたくさん知ってるの?」


「調べたり、聞いたりです。ここは知り合いに教えてもらったところです。」


「いいじゃない。デートにも使えるんじゃない?」


「そう・・・ですか・・・?」

「そうよ、これという子がいたら連れてきたらいいわよ。この間のお店も良かったけどね。」


料理が来る前に飲みやすいグラスは軽くなった。


「ねえ、あの会社とか、相手の二人が苦手とかあった?この間も今日も全く大人しくしてたじゃない。いい人たちでやりやすいと思うけど。」


「はい、そう思います。」

じゃあ、何で地蔵化してたのよって話なんだけど。



「あ、食事が来た。」


今日のお昼に何を食べたか話をしたり、苦手な食事の思い出の話をしたり。

相談の事はちょっと脇に置いて。
それでもお酒は三杯目になり。


そろそろ相談にのらないとこの間みたいに相談相手適性失格の烙印を押されてしまう。



「で、相談って何?すごく言い出しにくい事?」


そう言ったらすごく困った顔をされて。
こっちだって困るんです。
はっきりしないといろいろと考えたり、心配したり、想像が飛躍したり。
せめてプライベートか仕事か、きっと仕事よね、じゃあ先のある話か、それともないと思ってる話か。


そんな誘導にも少しも乗って来てくれなくて。


分からない。
グイってクラスを空けた。

小腹は満たされて、ただ飲んでいた。


すかさずメニュー表が開かれて四杯目に突入。
そんなにアルコールが濃い訳ではないらしく、まだまだ余裕だと思う。


「他の誰かにしてみたの?その相談事。」



「いえ・・・・。」



早く言いやがれ・・・なんてお酒が美味しくなかったら言いたいけど、美味しいお酒を堪能してるから許す。
でも時間は過ぎて、酔いは回るよ。


「は~、なんだか疲れたね。一週間なんて週末までは長いのに、なんで週末は短いんだろう?本当に起きて顔を洗ってテレビを見てたら夕方になって、あっという間。富田林君、月曜日が憂鬱だなあって思ったりしない?」


「いえ、週末もぼんやりの時間が多くて。意外と長いです。」


「そんな人はレアよ。もったいない。もっと有意義に使いなさい・・・って私が言っても説得力ないけどね。」




「でもこの三ヶ月はあっという間でした。」



「いろいろあったね。」



そういろいろあった、かつてないくらい自分の身にいろいろあった、同期の二人は静かに過ごしてる中、私だけにいろいろあっておかしいくらいに思ってた。それは公私ともに。


「本当に独り立ちも無事にできて、安心してるから。」


「・・・・。」

上目遣いで見られた。
少し嬉しそうではある。

褒めたんだから、何か言ってよ。


「でもせっかくの武器の笑顔が、今日ちゃんとあの二人に見せれてた?」




「なんだか緊張してたみたいだったけど。」



「はい。」


何で?


「ねえ、少し前に同期の女の子に告白されたんじゃない?」


ちょっと言ってしまった。バラしてしまった。

そしてその反応から間違いないって思った。


「トイレでね、偶然聞いたの。可愛い感じの子だったけど残念がってた。仕事を頑張りたいって言って断った?」


うなずきはない。

あ、断ってない?


「人気があるって聞いたわよ。あ、大垣も人気があるんだよね、彼女がいるから出来る先輩ってくくりみたいだけどね。他にも色々いそうなのにね、よりによってだわよね。」


「呉さんも憧れてる先輩とか、いいなあって思ってる人とかいますか?」


「え・・・・・・。」いないか・・・・。


首を倒して考える振り。


「まあ、大垣には憧れないね。」


「仕事を頑張りたい、認めてもらいたい先輩がいるって言いました。」

え?言った?いつ? 
私にそんな人いた?


「ごめん、忘れてる。いつ言ったかな?」

そう言ったらガッカリした顔をされた。

そんな話した?記憶にないよ・・・・。



相談事は相当言い出しにくい事らしくて、雑談に紛れ込ませて聞いても、なかなか踏み込めないまま。
また一人グラスと真剣に見つめ合ってる富田林君。


ああ・・・四杯目が空になった。
ワインや日本酒とは違う・・・・・薄いんだよね・・・・あと少しいいかな?

メニュー表をこっそり手にして、注文をした。

最初に頼んだカクテルだ。
これが一番おいしい。
さすがにおススメするだけはある。


「週末は楽しい予定ですか?」


「う~ん、今のところ何もないかなあ。」


今日連絡が来るのか、明日連絡が来るのか。
私には分からない。


「ねえ、富田林君はどんなタイプ?恋愛の仕方としては、じっくり型?雰囲気おまかせ型?それとも・・・・。」

なにを聞きたいんだろう。
男としてどのくらいで深い仲になろうって思うのか、そんな事を正直に聞きそうになって慌てた。
セクハラと言われたらお終いだ。


「じっくり型です。」


そこは答えてくれた。
あっさり答えたから、セクハラ寄りとも思ってないんだろう。
そしてゆっくり長く待てるってタイプらしい。


「そうなんだ。」



「私は割と流されるかな。楽しかったらいいかなって・・・・。」


だからダメなのかな。
ここ二件がロクでもない結末だったのは、もっと見てから考えてから感じてからの方が良かったんだろうか?
でも付き合いはそれなりに長くて、それでも分からない事はある。
あいつだって新人がいい寄って来なかったら・・・・・でもよそ見はしたのかもしれない。
それは少しは自分のせいかもしれない。
一年って長い時間あったのにつなぎ留められなかったってことなんだから。


「じっくり型かあ。」


見習うべきなんだろうか?
でもそんなタイプの嵯峨野さんに不満を持ってる私じゃ無理だろうなあ。
不満・・・そう不満だろうなあ。



だって少しのスキンシップもない。
人が多い所で軽く手をつなぐくらい。
何でもないときにそんな接触はない。


「いろんなタイプの人がいるんだよね。」


それには答えてもらえず。ちらりと見たらじっと見下ろされていた。
なんだかお酒が効いてきてだらっとした気分になってきた。
テーブルに腕をついて顎を乗せそうなくらい。
友達相手だったらとっくにやってる。
富田林君だからまだ顎はついてない。
それでも背中が丸くなりそう。


打たれ強いはずなのに、そんな我慢が効かないなんて。


「実は寂しいのかな・・・・」。


つい声が出てしまった。


あぁ・・・油断した。

お酒は止めよう、グラスを遠ざけた。

氷がカタリと音を立てた。
美味しい美味しい飲み口の良いお酒。
甘くてフルーティで優しくて。
遠ざけたグラスを見ていた。
小さなテーブルの上で、グラスは自分寄りから富田林君寄りに移動した。

すかさず手が出て、そのグラスを傾けた富田林君。



ああ・・・・・。


「ちょっと・・・飲まないっては言ってないのに。」

苦情を言ってしまった。


「新しいのを頼みます。」


氷がのぞいたグラスは空っぽで。
同じものを頼んだ富田林君。

また一杯追加になった私の酒量。


「今日は飲んでないんじゃない?」

私よりは少ないくらいじゃない?


「相談があるんです。」


知ってるっってば・・・・だから、さっさと言い出したらいいじゃない。

到着した新しいお酒、笑顔で店員さんにお礼を言った。
さっきの富田林君へのクレームも聞こえてたのかもしれない。

笑顔で返された。

だって美味しいんです。



「これで最後。」

背中をしゃっきり伸ばして、後輩の相談を受ける先輩らしくする。

富田林君を見たらまたグラスと静かに見つめ合ってる。


もう、一体いつになったら言い出すのよ。




「トイレの話は僕の名前が出たんですか?」


えっと・・・・・ああ・・・あの話に戻る?

いいよいいよ、相談始まり?



「名前は出てない。営業は大変だしってそんなこと言ってたかな。まずは仕事をしっかりできるようになりたいって言われたって。その子も知らない子だったから新人だろうし、で営業の男の子でって言ったら二分の一じゃない。相手のタイプとなんとなくの想像で富田林君かなって推理したの?合ってたんでしょう?身に覚え有るんでしょう?」


ついどうだとばかりに得意になって聞いてしまった。


「他には?」


「え、他にも告白してきた子がいるの?ほんとに人気者?」


「違います。多分その子です、一人です。他には何か言ってませんでしたか?」


「どうだったかな?途中から聞いたし、私がいたのに気が付いたら話も終わりになったし。」



「それは・・・そうでしょう。」


「そうかな?私が営業って分かったかな?」


そう言ったらこっちを向いたから目が合った。
ずっとグラスに語り掛けてた視線が久しぶりにこっちに向いた。

ただ、しばしの沈黙。


間が空くと背中が丸くなる。
上半身は限りなくテーブルに近寄る。


「まあ、人気あるのは分かるかな。最初の笑顔から爽やかだったよ。本当に最初に配属のあいさつに来た時ね。初々しかったし、何だか頑張りますって感じだったし。」


思い出せる、最初の場面。
つい先ごろまで何度も、あの頃はああだったのに・・・・って思い出してたから。

それもこれも今では懐かしいくらい。


「うん、やっぱり成長したんだよ。笑顔は今でも印象がいいと思うけど、あの頃よりは落ち着いたのかな?ちょっとだけだけどね。」

ちなみに今日は全くでしたが。


「認めてもらいたい先輩がいるって言ったんです。」

ん?


「仕事を教えてもらって、いろいろ迷惑をかけたりもしたから、だから余計に仕事をしてる自分を見て安心してもらえるくらいに頑張りたいからって。」


「うんうん・・・・・ん?」

それは私に向けての頑張るアピール?

「そうか、でも安心してるよ。だから今度の相手も任せようって思ったし、部長もいいって言ったんだよ。大丈夫。まあ、いろいろあったけど、今は大丈夫。」



強く言ってあげた。
今日はちょっと変だったのは言えないけどね。
でもまあまあいいんじゃないって感じ。
一人なら喋るだろうし、あの二人になら笑顔も出るだろう。
トラブルが起こるようなポイントも少ないと思う。



「もう半年だもんね。長いようで短いような、でもやっぱりいろいろと懐かしいね。」

そう思えるくらいにはなった。
振り返っても懐かしさが出て来るくらいにはなったんだから。

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