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54 いつかのその時を楽しみに。
しおりを挟むお父さんが起きた時、いったい何時だと思っただろう、いつの何時?みたいな。
しかもお母さんまで一緒に和室で寝てるなんて。
お母さんは久しぶりにゆっくり起きたと言って起きてきた。
珍しく私と近藤さんが先でコーヒーを飲んでいた。
「お母さん、お父さんはさっき起きてお風呂に入ってる。やっぱり記憶はないみたい。」
「あら、良かったわね、近藤さん。でもどこがないか確かめないとね。」
「ぶふぉっ。」近藤さんがコーヒーを吹きだす。
「お母さん、近藤さんをからかわないで。」
「あらら、茜のセリフとは思えない。」
確かに私も昨日言いました、同じようことを。
「あ~、よく眠れた。たまには和室もいいわね。」
伸びをして気持ちよさそうなお母さん。
「近藤さんごめんなさいね、茜のベッドじゃよっぽどくっつかないと狭かったでしょう?」
「お母さん。」
「はいはい。」
「なんだかお母さんの性格が変わってる。あんなこと言わなかったのに。」
「もう、どうでもいい気がしてきた。」
「近藤さん、どこまでどうでもいいんですか?バレてたら恥ずかしいです。」
途中小声になる。
「ごめん、茜。」
内緒話の様に言い合う。
隠して、とぼけて、やり過ごす。
2人とも狭くてもよく眠れましたと。
おせちの残りを食べてぼんやりする4人。
近藤さんの服をもらいアイロンをかけて渡す。パンツはプレゼントと言われた。
当たり前じゃん、お父さんにお古を着せるのはちょっと・・・・。
「バーゲン行きたいなあ。」
テレビを見ながらつぶやく。
なんだかずっと家にいる感覚。
ウズウズしてきた。
外に出て手をつないでデートしたい。
「近藤さん、買うものないですか?」
「そうだなあ、ちょっとだけ服を見たいかも。」
「行きます?バーゲン。混んでるとは思いますが。」
「茜がすごく行きたそうだけど。付き合うよ。」
「やったー。冬のお出かけ服を買いたいです。」
「いいわねえ、茜はデートの服を買いに行くのね。お父さん一緒に散歩でもしますか?」
「うん。」
お父さんは素直にうなずく。
「近藤さん、先に準備するから。」化粧化粧、ちゃんと着替えてと。
「あの、本当に余分に一日お世話になってしまいました。ごちそうさまでした。楽しくて賑やかな年末年始で新鮮でした。」
「こちらこそ。楽しくてしょうがなったのは茜もお父さんも私も一緒です。こちらこそ新鮮でした。揶揄ってごめんなさいね。ちょっとした焼きもちです。若いっていいわねえ。茜が大切にしてもらってるのは見ればわかります。去年なんてぐうたらしてたのに。デートをしながらデートの服を買いに行きたいなんてわかり易い子で。今夜は茜をよろしくお願いします。」
「へ?どちらかへお出かけですか?」
「いえ、別に。でも泊まりたいでしょうから、もしあの子がその気ならどうぞと。」
「・・・はい、聞いてみます。」
「大丈夫です、きっと言い出しますから。」
そんな会話がされていたとは知らず。
近藤さんが着替えてる間、私はお母さんにお願いした。
「ねえ、お母さん、お父さん。今日は近藤さんのところに泊っていい?」
ふたりが顔を見合わせて笑う。
その意味はそういうことだったらしい。
「もちろんどうぞ。近藤さんにも言ってあるから。」
「何を?」
「茜が泊まりたいだろうから、今夜はよろしくお願いしますって。」
「・・・・・何でわかった?」
「それが母親です。丸わかりです。」
「恐れ入ります。」
お昼ご飯は外で食べようと4人で出かけた。
珍しい外食。
結局お母さんもバーゲンに行くと言い出したから、散歩のつもりが電車に乗って買い物になった。
ご飯を食べたあと別れて、考えていたより早く買い物を済ませると近藤さんの部屋へ。
「お疲れさまでした、近藤さん。やっぱり疲れたました?」
「まあちょっと。お酒飲んでていい気分で、ほとんど記憶とともに緊張も飛んでた。」
「で、俺は何をしたんだ?教えてくれ、ちゃんと。」
「は~い。」
ハンガーに服をかけて、ここいいですか?と聞いて勝手にクローゼットにしまう。
そんなに買ってない。だって早く帰って来たかったから、2人とも。
お茶をいれてもらってソファに座る。
何だか実家より落ち着く気がする。広いソファは最高の座り心地。
隣の大きな抱き枕もあったかくて優しくて、酔っぱらうと面白い、とってもお気に入り。
「茜・・・・・。」
その酔っ払いの話。
「お母さんとお父さんを褒めたあと、私がいないと寂しいから実家に一緒に住みたいと。それまでも話ながら私の頭を撫でたり抱き寄せたりしてました。で、茜も寂しいだろうって、一緒に住まわせてもらえるように両親にお願いして欲しいって。掃除当番のことを言い出してお父さんが喜んで。そろそろ部屋で寝かせようとしたら茜も一緒に寝てっていうから、一緒に寝ますからって子供の様にあしらって二階に上げました。寝かせたら本当に体を抱えられたので眠るまで横にいて添い寝しました。下に降りたらお父さんも寝てました。お母さんはずっと意識クリアです。ちなみに私も。」
「・・・・分かった。お父さんの記憶がないことを信じたい。」
「そうですね、あれくらいなら、私も慣れました、お母さんも慣れました。」
「うん。本当にいい家族だな。」
ぎゅっと抱き寄せられて息が出来ない。
懐かしい部屋の匂いと一緒に近藤さんの匂いもする。
「昨日のもよかった。」しみじみ言われても。
「・・・・・知りません。」そう答えるしかない。
「でもやっぱりここがいい。」
「ここがいいです。」
「シャワーは?」
「行ってきます。」
一緒に立ち上がって私はバスルームへ。
近藤さんが暖房をつけて寝室を温めてくれる。
急いでシャワーを浴びてバスタオルを巻いて飛び出す。
すぐに下着姿の近藤さんが入り、やっぱりすぐに出てきた。
「寒い。シーツが冷たい。」
「そうだな。俺に乗って。」
上に乗っかり抱き合う。
「暖かいです。近藤さんは大丈夫ですか?」
「うん、すぐに熱くなるよ。」
バスタオルを取り合いその下は何もつけてなかった。
やっと触れた肌。数日ぶりなだけなのに。なんだか長かった気がする。
ずっと一緒にいたのに触れられなかったから。
まあ、昨日のはノーカウントで。
「近藤さん。気持ちいい。」
「そうだな、昨夜よりもっと気持ちいい。」
「もっと。」
抱き合いながら室内を暖める暖房より先に体が熱くなる。
冷たいシーツの部分が気持ちいいと言えるくらいに。
あっという間の冬休みだった。また日常が戻ってくる。
そうは言っても、いつも狭い部屋に一緒にいるんだから問題ない。
あと二日。
「なあ、茜、もしかと思うが俺の名前知ってるよな?」
「もちろんですよ。どうしたんですか?」
「近藤さんとしか呼ばれたことがないから、もしかして覚えてないとかって。」
「そんな訳ないです。覚えてます。」
「呼んではくれないんだな?」
「そこは、ちょっと抵抗があって。」
「何でだよ。」
「絶対うっかり呼んでしまいます。会社で。みんな一瞬にしてシーンってなりますよ。」
「そうだな。・・・・・でもたまにはいいのに。」
返事はできない。
一応公私の区別をしたい。
昨日若菜ちゃんから今年もよろしくとメッセージが入っていた。
近藤さんが私のベッドで昼寝をしていた時だった。
正直に書いたら面白がられた。内緒だとちゃんと言った。
酔ったら何を言い出すか分からないことは内緒。
でもお父さんと虫トークできるってことはポイント高かったと教えた。
『付き合いだして一か月で両親公認なんて、展開が早すぎてあっさり抜かされた気分。』
そう言われた。
ネックレスの事は教えたけどサプライズの指輪のプレゼントのことは内緒。
なんだかいろんなところに内緒が増えて訳わからなくなりそう。
でも楽しい冬休み。
忘れてたクリスマスプレゼント。
私から近藤さんへ。
ちゃんと買いに行こう、明日。
ずっと先かも、でもすぐかもしれない。
私が『そろそろいいな』って思うその時。一体いつで、何がきっかけになるか。
もしかしたら何でもない瞬間かもしれないし。
その時近藤さんは気が付くの?
それとも私が申告するの?
『近藤さん、そろそろいいなって思ってます。』って。
体を寄せ合ってそんな事を考えていた。
これから毎日、いつか来るだろうその瞬間を楽しみにしたい!
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