精一杯背伸びしたら視界に入りますか?

羽月☆

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43 近づいてくる、楽しみな日

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若菜ちゃんとカフェにいる。
一応近藤さんのパソコンに付箋を残してきた。

クリスマスの外泊許可を伝えたくて。直接伝えたくて。

昨日あんなに泊まればいいのに・・・と言われたからよろこんでくれると思う。
携帯が光る。

「近藤さん?」

「うん、終わったから、来れるって。」

「茜ちゃん、嬉しそう。本当にすごく私もうれしい。近藤さん絶対いい人。お似合いだし。それなのに何で冷たいとか嫌いとか言ってたの?」

「それは・・・・ごめん。うまく言えない。」

「きっと近藤さんも直接の部下だし本気になったらやばいって思って、あえて突き放してたりしたんじゃないの?だからなかなか気がつかなかったのよ。もう、バレバレなのに。」

「そんなに?」
「うん。丸わかり。飲みの時とか休憩中とか二人で話をしてる時に、全然違うもん。目が違う。声も違う。」

思わず赤くなる。本当に違うとは思う。
私ももっと年上で上司で冷静で大人で・・・と思ってたけど。
ちょっとイメージとは違った。
でも仕事では普通通り。今日もほとんど話はしてない。
むしろ周りの視線が気になる分、私も話しかけなかった。

「今日はなんだか皆に見られてる気がしたんだけど。」

「まあそうでしょう。なかなか尻尾を出さないというか、みんな知ってるから二人で一言挨拶あってもいい位なのに。」

「何を言うの?」お礼?

「俺たち付き合うことになりましたが仕事中は今まで通りです、とか。」

「まさかそんなこと言わないでしょう。」

「まあね。でもさりげなく近藤さんが茜ちゃんを見てるのが面白かった。」

ふふっと笑いながら楽しそうな若菜ちゃん。
ここにも観察者がいた。

「二人ともお疲れ様。」

後ろから聞きなれた声がした。

近藤さん!

若菜ちゃんが挨拶しながらもあっさりと席を立ち、手を振っていなくなった。
近藤さんの手にコーヒーはない。


一緒に外に出て駅の反対側の大きな通りのイルミネーションを見ながら歩く。
もうすっかり暗くて青色の光の帯がきれい。
皆が上を見ながら写真を撮っている。

近藤さんから写真を撮ろうと言われた。
ちょっとびっくり。
あんまり好きそうじゃないのに、そういうの。
身長差があるのでなかなか撮りずらそう。
結局肩に顔を乗せて近藤さんが長い手を伸ばしてイルミネーションもほんの少し入って写った。
見せられた写真がうれしくてすぐに送ってもらった。
お母さんに見せよう。
少し後ろに下がり手をつないだままで上を見上げる。

「触れてると落ち着く。昨日の夜の寂しかったよ、部屋が広くて静かで。」

いまさらそんなことを言われても。
昨日の大人ぶった振りを外した本音を聞いた後では、うれしいはずがちょっと面白いような、恥ずかしいような。

あ、大切なことを言いたかったんだ。

クリスマスの夜一緒にいれることを告げた。
最初まったくぴんと来てなくて。
泊まっていいと言われたと言って、やっとよろこんでくれた。
でもすぐに早く言わなきゃって言われた。
お店を予約したいということらしい。
でも仕事後ならゆっくり部屋で二人でいてもいいのに。
それでも一応お店を探すって言うので任せることにした。


多分他のメンバーもイブは早く帰ってそれぞれの彼氏彼女と過ごすだろう。
もしこの間私が変なことになってなければ、皆がいそいそと帰っていった後で近藤さんを誘っただろうか?誘われただろうか?
予約も取れてないから適当なお店で、お酒を飲んで。
今みたいにきれいなイルミネーションの下だったら、もっとロマンティックに素直に可愛く告白できただろうか?お酒の力を借りてでも。


そしてやっぱり記憶がないと言った近藤さん。
さり気なく、でも念を込めて、飲み過ぎに気を付けるように言った。
あんな事他のところで言われたりしたら、もう絶交レベルだから。

お互いに記憶はなくさないようにしよう。


「いい季節だな。去年の今ごろの記憶は全くないが。今年は楽しめそうだ。」

そう言う近藤さん。

「近藤さん。」

名前を呼んだら笑顔のままこっちを見てくれた。

「何?」

相変わらず優しい声で。

「楽しい、思い出に残るクリスマスがいいです。」

「了解、努力する。」

「あ、そういう意味ではないです。一緒にいてくださいってことです・・・・・。」

恥ずかしくなった。
普通に・・・、一緒にいられればいいから。

電車はやはり途中から座れて月曜日から、週末が楽しみで。
お母さんに帰宅時間を連絡する。
いつもより少し遅くなった。
携帯を出してカレンダーに予定を書き込む。
つい先日アプリを落としたカレンダー。

だって今まであんまり書き込むことがなかったけど、これから増えるかも。
金曜日と土曜日と日曜日。全部に共通マークがついている。
ちょっと説明はしたくないけど・・・・うれしい日。
金曜日には忘年会と書かれて暴走記念日と書かれていた。

日曜日はプレゼント選びと書いた。23日はランチデート。
24日はクリスマスデートと書きこむ。
24日も同じマーク・・・ハートマーク予定。
1人でドキドキして真っ赤になって急いで携帯を伏せた。
少し自分で自分を落ち着かせて、さっきもらった写真を見る。

凄くうれしい。
こういうの、本当にもし頼んだとしても、しぶしぶだと思ってた。
お願いしなくても撮ってくれたことがうれしい。
写真にして部屋に飾ろう。
さすがにあの部屋には飾ってくれないかな?
自分の部屋だけでいいか。

うちに帰り、一人でいたお母さんに写真を見せた。

「あら、いい写真じゃない。かっこいいわね、近藤さん。娘のラブラブ写真に照れちゃうわね。お父さんには刺激的過ぎるから駄目よ。」

「うん。」

お父さんは今テレビでサッカーを見ていて、こっちには気がついてない。

「ね、お母さん。お父さんとのクリスマスデート24日でいいの?」

「いいわよ。お母さんレストランの予約したから。お父さんの会社に迎えに行くの。すごく久しぶり。茜はどうする?一応聞いてあげる。」

「うん、近藤さんが泊めてくれるって。その・・・次の日はそのまま会社に行く。」

「そう、分かった。」

「23日のランチは予約したから予定通り出かけていい?」

「勿論よ。でも夕方は一緒にクリスマスよ。」

「はい。」

お風呂に入り着替えをして、ご飯を少しだけ食べた。
あんまり食欲がない。原因は分かってる。
だってハッピーパーソン仲間入りだから。
毎日がとても楽しくなった。
お母さんに報告するのも近藤さんの事ばかりになった。

そう思ってたのに、さっき教えられた事実は。

「何言ってるの、今までも結局最後には近藤さんが出てきてたわよ。」

お母さんがあきれる。

若菜ちゃんじゃなくて? 嘘・・・。

「何かというと最後は近藤さんがって。まるでそれまでの話を全部そこにつなげるように話してたから。だからとっくに気がついてたわよ。本当にうまくいって良かったと思ってる。なんだか私もずっと片思いしてた気分だったから。」

無意識って怖い。お母さんだから油断してたんだよなあ。
若菜ちゃんに聞いてみようかな?


寝る前に近藤さんに24日の予定で大丈夫なことと、23日の夕食はうちで食べることを伝えた。
あと写真の近藤さんをお母さんがかっこいいって褒めたことも、お父さんには刺激が強いから見せたらダメって言われたことまで。
包み隠さず。

近藤さんには正直に言うけど、その分お父さんに秘密が増えた気分。

問題の写真を眺めながら刺激が強いって何?って思うけど。
部屋に飾るのもやめるべき?机の引き出しとか?

でもおしゃれした写真も欲しいなあ。
仕事用の格好。アップでほとんど顔だから分からないけど。
仕事の時とは違う笑顔の近藤さん。
若菜ちゃんに見せてみようかな。内緒で。

しばらくしたら返事が来た。

『了解。楽しみだな。今お店探してるんだけど、もう少し起きてるか?』

『まだ寝ませんよ。』と返す。

今日も寂しいって思ってくれるかな?
あの日酔っぱらって聞いた本音がジワジワと私を幸せにしてくれる。
もっと言ってくれればいいのに・・・・・と思って、無理無理って思い直した。
あんなあからさまな感じはちょっと。
聞いてるこっちがどんな顔をしていいか分からない。
取り消し。無し。冗談です。

それでも思いだしてしまう。

昔のとぼけた私も、ちょっと大人っぽく女らしくなった私も、近藤さんとくっついている・・・・の時の私も好きだと言ってくれた。
誰も知らない私も特に愛しいなんて・・・、もう恥ずかしい。

携帯を抱きしめてつい足をバタバタしてしまう。

私は上司の近藤さんも、時々冗談交じりに本音をのぞかせる近藤さんも、とても甘く優しい近藤さんも大好き。

なんて目の前に写真を掲げながら考えてたら携帯が震えてビックリした。

『もしもし、茜、今一人?』

『はい。』

こうして家族と一緒の時間を邪魔しないように気を遣ってくれる大人な近藤さんも、もちろん大好き。
・・・ただ単に気まずいからかもしれないけど。

23日の予定はフレンチにしたので24日は食事も美味しい近所のバーにしたと。

『24日は部屋でゆっくり過ごしたい。』

『はい。』

もちろん賛成。

私もそう思ってました。
今は、言わないけど。

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