精一杯背伸びしたら視界に入りますか?

羽月☆

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40 揶揄われても怒れない事

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携帯を見ると無事に家に帰った連絡とお礼があった。
後で電話しよう。

高田からもラインが入っていた。

揶揄いの言葉がご丁寧に細切れにつぶやくように入っている。
時間はさっき。彼女と別れた後だった。
本当に勘のいい奴。


『クリスマスプレゼントを買った。イブイブに渡す予定。』

自分から教えてやる。

今ごろ彼女に報告してびっくりしてるかもしれない、と思ったら電話がかかってきた。
さすがに出ないと失礼だろう。
少し呼び出し音を聞きながら深呼吸して出た。

「はい。」

『おめでとう。ようやく認めたか?』

「何を?」

『彼女にちゃんと言ったんだろう?』

「お前がグイグイ背中を押してくれたおかげで彼女から言われた。」


真実は真実。結果としては大いに感謝もしてる。認めよう。

『マジっ。って驚くと思ったか?そうなるだろうとは思った。可愛そうにせっかくそばに追いやって、二人きりにしても全く進展がなさそうだし。鈍感にもほどがあるよな?』

「悪かったな。元はお前のせいでもあるし、お前のところの派遣の奴のせいでもある。」

『何でだよ。派遣の奴は早々に振られて報告に来たよ。彼女はやっぱりお前が好きなんだろうって。』

何?なんでそんな報告まで義務化してる?

『普通見てれば分かるし。二人ともバレてるのに、うっとうしいいから金曜日は放っといて二人にしてあげたんだよ。』

そこまで人の部下をコントロールするな。
しかも当人いれた全員を・・・・。

『でもちゃんと答えたんだろう?』

「ああ。」

『泊まったのか?』

「昨日家に帰って親に許可をもらって、又来た。さっきまで買い物してご飯食べてた。」

『両親に報告済み?さっそく?』

「仲がいいんだよ。全部話されてるみたいだ。今度会うことになった。週末に泊りに行きたいなら一度紹介しろと言われたらしい。お前彼女の家族に挨拶に行ったことあるか?」

『まあね。さすがに早すぎる気はするけど、いいんじゃない。お付き合いさせていただくことになりましたって報告で。』

それだけでいいのか。まあ、今はそれしか言えないだろうな。

『でもさりげなく聞かれるからすぐに反応できるようにしといたほうがいいよな。』

「何だ?」

『今後はどう考えてるかって、そこが聞きたいだろう?親としては。玉井ちゃんは若いけど大切な宝物のような娘だから。手を出して捨てる気はないだろうなという圧力はあるよ。』


そうだろうな、分かるが。

『覚悟のほどは?』

「分かってる。」

『あるの?』

何でお前に答えなきゃいけないと思いながらも、即答。

「勿論だ。」

電話の向こうが無言になる。

『やっと普通の心を取り戻せた?おめでとう。やるね、玉井ちゃん。しばらく亜子ちゃんには報告できないよ。』

するな。必要ないだろう。

『良かった。これで研究室の問題も解決だ。まったくよその研究室の室長とメンバーまで巻き込んで。手間のかかるやつだよ。』

「何のことだ?」

『だから相談されてたの。何とかしてくれって。そっちの奴らに。』

「何でだ?知らん。誰だ?」

そんな相談普通するか?俺を飛び越えて隣の研究室のこいつに。

『皆の総意だよ。玉井ちゃんがかわいそうだって。自分たちが言ってもどっちも動かないからって。俺とついでに谷垣も出動したんだよ。自分で会費まで払って。奢りでもいいくらいだよな?』

「谷垣をうちの三人としゃべらせるために連れて来てたって言ってたのは嘘か?」

『嘘じゃないよ。小さな戦力だよ。使命感があっただけだよ。谷垣も気がついてるんだから気になるでしょ。同期だし。』

「もしかしてわざとゲームで盛り上がって固まってたのか?」

『勿論。やり取りは画面上のメモ帳で。時々様子見に行って報告して戦略練って。ミッション完了した時点でなんとかなるとは思ってたけど。ほんと良かった。おめでとう、唐変木のボケで鈍感の近藤室長。』

さすがに何も言えない。
気がつかなかったのは彼女の気持ちだけじゃなくてメンバーの気持ちも。
大丈夫か、俺。自信がなくなってきた。

『月曜日に玉井ちゃんに会うの楽しみだなあ。面白そう。』

「お前、茜にいろいろ聞くなよ、あいつは何でも喋りそうだ。」

ふ~ん、茜・・・・ね。わざとらしくつぶやくように言う声が聞こえた。

うるさいっ、あいつに聞くのは止めてくれ。
・・・・本当に止めて欲しい。
高田には近づくなと念を押そう。
あとで電話した時に、忘れずに。

『何か心配なことでもあるの~?』

むっ。大ありだ。だが言うもんか。

『綺麗になっただろうなあ、誰かさんのおかげで。楽しみ。楽しみ。じゃあ、また今度ゆっくりと報告は聞くよ。』

「もうない!」

そんなことないでしょ、と笑いながらじゃあと言って電話を切られた。

時間は・・・まだ家族団らん中か?
お風呂にゆっくり入って酒でも飲もう。
冷蔵庫には簡単につまめるものとお酒と、昨日買ったものが入ってる。
肉じゃがを食べてすっかり忘れられていた物。

ゆっくりお風呂に入っていても思い出してしまう。

電気を消して入ろうかと一瞬思ったほどだ。
これがロスという感覚か?
たった二、三日の事なのに。
ゆっくりと入る気分じゃなくさっさと出て、『無』になりシャワーも浴びて出た。

冷蔵庫から良く冷えたビールを取り出して、つまみのナッツとチーズと野菜を適当に切り皿に盛り運ぶ。
テーブルに並べて一人寂しくぼんやりとしながら食べる。
音がないことが寂しく思えてどうでもいい番組をつける。
クイズ番組をやっていた。
適当に頭を使いながら参加する。
ソファに放り投げた携帯が点滅していたのに気が付く。

期待して開いたのに高田からのメッセージだった。

『坂井ちゃんがうれしい報告が来たと言ってるぞ。』

『明日は皆の視線があたたかいぞ。』

なんと、多分坂井が茜に聞いたんだろうが、何故高田にまで行くんだ?
この言いようでは全員に伝言されてるってことなのか?
明日が怖い。

ビールは早々に空き、追加を持ってくる。
時間がたつのを待つ。

そろそろ団らんは終わっただろうか?
そろそろ眠くなってきたし。
これを飲んだら電話してみるか。
それから一時間、テレビを見ながらお酒とつまみを食べ終えて明日の支度をした。
携帯の点滅に期待をして開く。
彼女からのメッセージだった。
ここ数日のお礼とともに、例の件での内容だった。

『もし大丈夫なら来週両親に会ってもらえませんか?二人が興味津々、会いたがってるんです。うるさいほどに。いかがでしょうか?』

興味津々とはどんなエピソードでそうなったんだ?

『大丈夫だ、どちらでも。茜が寝る前に少し電話で話したい。』そう送る。

後しばらくは団らんが続くだろう。
結局お酒を追加してテレビドラマを見る。
わかり易い刑事物は単発で見ても問題なく見れる。
最近刑事もキャラクターが強いなあ。
個性というには作り込みすぎだろう。集団行動に支障があると思うぞ。
設定に突っ込みをいれながらお酒が進む。
つい夢中になっていたらしい。
携帯にあった着信に気がつかなかった。
例の挨拶は週末、日曜日となった。

空き缶を片づけて歯を磨き寝室へ。
クローゼットの中を見てカジュアルなジャケットとシャツと・・・・ジャケットはいいか。コートを着て、パンツは・・・・。
いいんだ、カジュアルで。
いつもと同じ格好でいいだろうか?
いいだろう。スーツというのも少し。

もし土曜日の夜に一緒に過ごせるなら手土産の買い物をしての一緒に案内してもらう。
金曜日に泊まるなら・・・・グルグルと考えて、いったい何を考えるべきなのか忘れてしまった。
最後の甘いカクテルに悪酔いした気分だ。

手にした携帯をもう一度よく見たら今日は早めに寝るとメッセージは続いていた。
自分も布団に入りメッセージを送る。

『茜、部屋か?』

『はい、もうベッドの上でゴロゴロしてました。』

急いで電話をかける。

『はい、待ってました。寝ちゃいますよ。』

「悪い、ちょっと酒を飲みながら時間つぶしにテレビを見てたらうっかりしてた。」

『日曜日お昼ご飯を一緒にどうぞって事でした。お母さんが張り切りそうです。朝ごはん少しにして来てくださいね。』

土曜日の泊まりは無しかとがっかりした自分。

「分かった。肉じゃがのタッパー渡すのを忘れてた。その時に持っていくから。」

『はい。』

「なあ、坂井に話をしたのか?」

『・・・・心配のメールの返事をしました。』

「高田から揶揄いのメールが来たぞ。多分皆にばれてる。」

『・・・・・そうは思いました。若菜ちゃんが皆が喜ぶって言ってたので。』

「気にするな。」

今更らしいから。

腹ばいがきつくなる。眠い。でも確か言うことがあった・・・・・。
照明を落として寝る体勢になる。

「茜、この間も言ったが高田に乗せられるなよ。嬉々として近づいて話を聞きだそうとするが気を付けてくれ。こっちが揶揄われるから。それにあんまり手をつながれたり、肩を抱き寄せられたりするなよ。」

『しませんよ、そんな・・・。』

「気がついてないだけで結構されてるんだよ。さりげなくするのが上手いんだよ、あいつは。飲み会では茜も坂井も一緒に手をつないでトイレに行ったりもしてたぞ。酔ってて覚えてないだろうが。」

そんな・・・・と聞こえた。

「高田にも、他の男にも近寄るな。茜は俺の近くにいろ。」

『・・・近藤さんもしかして酔ってますか?』

「そうかも、眠い。・・・・・・部屋が広くて、静かで寂しいんだよ。茜がいないと。なあ、何で帰ったんだ?こっからならもっと寝坊できるのに。通勤も楽だぞ。一緒に出勤できるし帰れるし。毎日できるし、一緒にいられるのに。何で帰ったんだ。隣にいて欲しいのに。寂しいじゃないか。・・・・・」

ぶつぶつと目を閉じたまま繰り出す言葉は酔っていて、さっさと脳も寝てしまっていたために何を言ったのやら・・・・・。

不覚にもまた記憶が飛んでしまった。


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