上 下
18 / 54

18 本当に面倒だと思っていること

しおりを挟む
この部屋にまた人を入れた、同じ奴だが。
この間と同じようにくつろいでいるかと思えば、今日は置物のように固まっている。

居心地がいいとかなんとか言ってこの間は長居したのに。
シャワーを浴びてる間にビールを開ける。
だいたいみんな帰ったのに、俺はどうしてこいつの漫喫の部屋の心配までしたんだ。
明日は休みだし放っといても問題なかったはずなのに。
・・・・・その結果またここに連れてくることになってしまった。

ぼんやりとビールを飲む。一応ゆっくりと。
戻ってきた玉井とお疲れさまと言い合い飲み続ける。

記憶がなくなる前にやめようという提案に賛成だ。
切り出したその表情は申し訳なさそうに、でも絶対お願いしますと言う様にも見えた。

本当に変な酔い方をしたんだろうか?
あの日はとくに疲れていたかもしれない、脳が。
それでも記憶をなくすとは、学生の頃を含めてもかつてない事だった。



日曜日に坂井と買い物に行くのを楽しみにしているようで、ボーナスで買う親へのプレゼントを相談された。
はるか昔の新人の頃の事、まったく記憶がない。
本当に何かあげたか?
男なんてそんなものじゃないかとも思うが。

「そんなことないですよ。鬼頭君は旅行券をプレゼントしたって。温泉旅行ですって。高田さんはおしゃれなレストランでランチを一緒にしたっていうし。」

なんだ、俺に聞くより先に皆に聞いてるんだな。もちろん高田にまで。

本当にどれだけ接触してるんだ?

「高階と成井は?」

「2人には聞いてませんが高階さんも温泉だったようです。坂井さんが言ってました。」

「私は他の人より家賃もかかってないし食費もその他も。その分豪勢にしたいんですが。」

「なあ、もしかと思うが、うちにいくらかお金を入れてないのか?」

ん?という顔をしている。マジか。

「親元で暮らす奴はだいたい食費と言われて3万くらい徴収されるって聞くぞ。ないのか?もしかして携帯代とかも親がかりとは言わないよな?」

「えっと、分からないです。親の名前で契約してて・・・。」

「本当に豪勢にしろ。誰よりも豪勢にしろ!」

不満そうにこっちを見上げる玉井。

『自分は何をしたかも忘れてるのに偉そうに。』
その、つぶやきは大きく。

「聞こえてるぞ。」

「だって偉そうなんですもん。相談したのに考えてくれないし。」

「仲がいいのは分かってるから三人で旅行に行って豪華な食事をすればいいじゃないか。」

そう言ってみた。

「もっと具体的にお願いします。場所はどこがいいとか、どこのレストランはおすすめだとか。年上なりの経験から教えてください。」

「そいうことこそ高田に聞けばいいじゃないか。あいつはお前の為なら親切に考えてくれるぞ。」

「せっかくなので近藤さんも親切に考えてください!」

何かイライラすることでもあったのか?

「どうかしたのか?」

「別に。」

「顔が怖いぞ。」

「これが私の顔です。」

お手上げだ。勝手に不機嫌になってろ。付き合いきれん。
めんどくさいのは苦手だ。

「今すごく面倒だって顔しましたよね。」

鋭い。

「何で急に不機嫌になるんだよ。」

「記憶を無くすよりはいいじゃないですか。」

「しつこいぞ。無くしたくて無くしたわけじゃない。覚えてないだけだ。」

「一人だけ覚えてないなんて都合がいいです。」

何だ、何かあったのか?もしかと思うが・・・、いや無いぞ・・・無いぞ、あるわけないが。

「何かあったのか?もしかと思うが何かしたとか、傷つけるようなことを言ったとか?」

「何もされてません、言われてません。ご心配なく。」

じゃあ何だ?

二本目のビールを飲んでテーブルに置く。

「お開きにしよう。先に歯を磨くから。」

立ち上がって洗面台に向かう。ちらりと見た玉井の表情はぼんやりしていた。
面倒くさいことこの上なし。
歯磨きを終えて戻るとある程度片付けられていた。

「じゃあ、寝るから。ソファから落ちるなよ。おやすみ。」

「・・・おやすみなさい。」

寝室の扉を閉めて横になる。向こうでゆっくり動く音がする。
ベッドに横になり考える。

何か言ったのか?思い出した方がいいのだろうか?
今頃言われてもしょうがない。
あの後も普通だったから・・・・問題はなかったと思える。思おう。

それにしても高田の接近ぶりは何なんだ?
別に他の課の後輩を可愛がっても問題はないんだ。
いや、彼女がいるからただの話し相手だとは思うが。
だが、相手がある事で。簡単に割り切れないのが人の気持ちで・・・。
本当に出禁の意味がない。
合同研究が始まればそれすら無意味になるのに。


いい、知るか。もう、寝よう。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

冷たい外科医の心を溶かしたのは

みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。 《あらすじ》 都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。 アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。 ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。 元々ベリカに掲載していました。 昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

処理中です...