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5 つかの間の静かな日々に
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今週から一週間、研修で新人がいない。
初日以外は挨拶して社内研修に行く。
ほとんど会わなかったし、研究室にいることも少なかった。
それでも三人の不在に部屋の静寂が際立つほどだった。
「なんだか寂しいですね。三人ってやっぱりにぎやかですよね。」
「雑音が減ってるからな。」
そう思いながらも本当に物足りなく感じる部屋。
あくまでも部屋だ。
動く人間が半分になるとそういうものだろう。
やっぱりあれが若さという華やかさなのか。
意外に女性2人に馴染んでる鬼頭も面白い。
仲がいいというのはいいことだ。
久しぶりに同期の高田に誘われて飲み会に参加した。
「どうだ?いい新人とったな?」
「は?あ~、まあね。手慣れてるから楽。でもさほど変わらないと思うよ。」
「そうか?」
「ああ。そっちは?」
当然聞かれる。
「三人いて何とか助け合ってる、ひとりアホがいる。」
「もしかしてこけしちゃん?」
「何だ、あいつはそんな呼ばれ方してるのか?」
「うん、面白いよね。言動すべて。」
言動・・・・、そんなに有名なのか?
コントロール不能なことに言い訳できるか?
「射程距離外から言うな。跳弾に怯える毎日だ。」
「どんな感じ?」
「アホ。以上。今のところそれ以外ない。」
「天然?」
「アホ。」
「そんな態度じゃかわいそうだよ。」
「今後の頑張りに期待できるならしたい。他の2人がいい奴だから助かってる。」
「いいじゃん。賑やかになって。」
「まあな。」
ふ~ん。
さして興味もなさそうに言う。
トレードなどと贅沢は言わないから、熨斗付きで進呈したい。
見返りは求めないから。
「で、その後、柳井さんとは?」
「普通。」
「ねえ、彼女との会話もそんな感じじゃないよね。ちゃんと文章でしゃべってる?」
「あっ?」視線を上げる。
「だって俺はいいけど、女性にそんな喋り方じゃ会話にならないじゃん。」
なってる気がするが、しないのか?
「ねえ、最近二人で行ったところでおすすめある?」
「う~ん、お前に聞いたレストラン行ってるくらい。後は向こうが行きたいお店に付き合ってる。」
「お店とかじゃなくて、もっと違うところだよ。」
「いつも同じところ使ってるから。」
まあ、慣れたところがいいかなと。
「もしかしてちゃんとデートしてない?一緒に動物園とは言わないけどどこかに行ったり見たり歩いたり発見したり。」
聞きたいことは分かった、先に言ってくれ。
とんでもない恥ずかしい告白をしてしまったじゃないか。
「部屋には呼んだ?」
「いや、無い。」
「どうして?柳井さんの部屋は?」
「送ったことはある。」
何だか気の毒になった、とつぶやかれた。
「もしかして会おうって言うのは彼女からだけとか?」
「まあ、そうなる。」
「彼女の事好きなの?」
変なことを聞く。
でもすぐに答えられない自分。
顔も赤くならない。
「もう、頼むよ。彼女に捨てられるよ。ちゃんと彼女の良さを見てよね。」
何も言えない。あ~、すべてがめんどくさい。
女も面倒だと思うが、こいつも面倒なことを言うのか?
まだ柳井の方が楽だぞ。
だいたい仕事以外に今は力を入れたいものがない。
正直に言ってそんなところだ。
「そっちは?」
「勿論順調。この間猫カフェに行ってみた。もう可愛くて。楽しいよ、絶対テンション上がるから行ってみれば?」
自分が猫カフェにいる風景を思い浮かべる。テンション上がるのか?
野良猫見てもはしゃげない、声もかけない自分なのに。
「お前は野良猫見たら声をかけるタイプなのか?」
「勿論、逞しいからね。見習おうって思うよね。」
思わないし声もかけない、きっとテンションも上がらない。
「無理。」
「もう、どうにかしたい。せっかく素材はいいのに何でかなあ?」
ほっとけ。
静かな生活がいいのだ。誰かに振り回されて疲れるのはうんざりだ。
そう思ってる俺に呆れながら付き合うこいつ、高田文彬。
新人の頃は同じ研究室に配属された。
いろいろな失敗もあったが、助け合って何とかやり切ってきた。
ここ数年は別の研究室の室長になった。
周りの同期は大分いなくなった。
研究職はともかく他の課に配属された奴の転職率は高い。
同じように中途採用も多い業界だ。
そうか失敗あったか・・・・。
「なあ新人の頃の俺らどうだった?」
「イケてなかったよな。結構先輩に呆れられたよな。大体厳しかったじゃん、約一名。」
「そうか、イケてなかったか。」
「俺、本気で丑の刻参りしたいと思ってた。嫌な奴だったよなあ。完璧主義なだけに容赦なかった。お前がいてくれてなんとか踏みとどまれたよ。」
「丑の刻参りを?」
「は?違うよ、殴り合いだよ。」
「マジか?」
「ああ、お前怒られても結構クールに受けてたよな。俺は無理。怒り方ってもんがあるだろうとか思っちゃうタイプだから。」
「いや、・・・まあ、正しいかと思ってたから聞くしかないよなって、感じ。」
「そこは偉いなあ。」
「そこはって言うな。」
「いい思い出だよ。若かったからなあ。」
「ジジイかっ。」
「まあな。やっぱり新人の持つ若さは違うよな。」
となりでグラスを空ける高田。
丑の刻参りって何だよ。男がやるものなのか?
そんなにイライラしてたなんて知らなかった。
よく愚痴は聞いていた気がするが・・・・。
「じゃあ、我慢して育てるしかないのか?」
「こけしちゃん?」
「ああ。」
「珍しいね、一週間でクールぶってるお前にそんなに打撃を与えられるなんて。ある意味凄い破壊力?楽しみだなあ。」
「お前の下に行った時に思いしれ。」
「その頃には立派に育ててくれてるだろう?期待してるよ。」
「芽が出れば育てる。掘ってまでは探さない。」
ふっ。
今笑ったか、こいつ。人事だと思って。
初日以外は挨拶して社内研修に行く。
ほとんど会わなかったし、研究室にいることも少なかった。
それでも三人の不在に部屋の静寂が際立つほどだった。
「なんだか寂しいですね。三人ってやっぱりにぎやかですよね。」
「雑音が減ってるからな。」
そう思いながらも本当に物足りなく感じる部屋。
あくまでも部屋だ。
動く人間が半分になるとそういうものだろう。
やっぱりあれが若さという華やかさなのか。
意外に女性2人に馴染んでる鬼頭も面白い。
仲がいいというのはいいことだ。
久しぶりに同期の高田に誘われて飲み会に参加した。
「どうだ?いい新人とったな?」
「は?あ~、まあね。手慣れてるから楽。でもさほど変わらないと思うよ。」
「そうか?」
「ああ。そっちは?」
当然聞かれる。
「三人いて何とか助け合ってる、ひとりアホがいる。」
「もしかしてこけしちゃん?」
「何だ、あいつはそんな呼ばれ方してるのか?」
「うん、面白いよね。言動すべて。」
言動・・・・、そんなに有名なのか?
コントロール不能なことに言い訳できるか?
「射程距離外から言うな。跳弾に怯える毎日だ。」
「どんな感じ?」
「アホ。以上。今のところそれ以外ない。」
「天然?」
「アホ。」
「そんな態度じゃかわいそうだよ。」
「今後の頑張りに期待できるならしたい。他の2人がいい奴だから助かってる。」
「いいじゃん。賑やかになって。」
「まあな。」
ふ~ん。
さして興味もなさそうに言う。
トレードなどと贅沢は言わないから、熨斗付きで進呈したい。
見返りは求めないから。
「で、その後、柳井さんとは?」
「普通。」
「ねえ、彼女との会話もそんな感じじゃないよね。ちゃんと文章でしゃべってる?」
「あっ?」視線を上げる。
「だって俺はいいけど、女性にそんな喋り方じゃ会話にならないじゃん。」
なってる気がするが、しないのか?
「ねえ、最近二人で行ったところでおすすめある?」
「う~ん、お前に聞いたレストラン行ってるくらい。後は向こうが行きたいお店に付き合ってる。」
「お店とかじゃなくて、もっと違うところだよ。」
「いつも同じところ使ってるから。」
まあ、慣れたところがいいかなと。
「もしかしてちゃんとデートしてない?一緒に動物園とは言わないけどどこかに行ったり見たり歩いたり発見したり。」
聞きたいことは分かった、先に言ってくれ。
とんでもない恥ずかしい告白をしてしまったじゃないか。
「部屋には呼んだ?」
「いや、無い。」
「どうして?柳井さんの部屋は?」
「送ったことはある。」
何だか気の毒になった、とつぶやかれた。
「もしかして会おうって言うのは彼女からだけとか?」
「まあ、そうなる。」
「彼女の事好きなの?」
変なことを聞く。
でもすぐに答えられない自分。
顔も赤くならない。
「もう、頼むよ。彼女に捨てられるよ。ちゃんと彼女の良さを見てよね。」
何も言えない。あ~、すべてがめんどくさい。
女も面倒だと思うが、こいつも面倒なことを言うのか?
まだ柳井の方が楽だぞ。
だいたい仕事以外に今は力を入れたいものがない。
正直に言ってそんなところだ。
「そっちは?」
「勿論順調。この間猫カフェに行ってみた。もう可愛くて。楽しいよ、絶対テンション上がるから行ってみれば?」
自分が猫カフェにいる風景を思い浮かべる。テンション上がるのか?
野良猫見てもはしゃげない、声もかけない自分なのに。
「お前は野良猫見たら声をかけるタイプなのか?」
「勿論、逞しいからね。見習おうって思うよね。」
思わないし声もかけない、きっとテンションも上がらない。
「無理。」
「もう、どうにかしたい。せっかく素材はいいのに何でかなあ?」
ほっとけ。
静かな生活がいいのだ。誰かに振り回されて疲れるのはうんざりだ。
そう思ってる俺に呆れながら付き合うこいつ、高田文彬。
新人の頃は同じ研究室に配属された。
いろいろな失敗もあったが、助け合って何とかやり切ってきた。
ここ数年は別の研究室の室長になった。
周りの同期は大分いなくなった。
研究職はともかく他の課に配属された奴の転職率は高い。
同じように中途採用も多い業界だ。
そうか失敗あったか・・・・。
「なあ新人の頃の俺らどうだった?」
「イケてなかったよな。結構先輩に呆れられたよな。大体厳しかったじゃん、約一名。」
「そうか、イケてなかったか。」
「俺、本気で丑の刻参りしたいと思ってた。嫌な奴だったよなあ。完璧主義なだけに容赦なかった。お前がいてくれてなんとか踏みとどまれたよ。」
「丑の刻参りを?」
「は?違うよ、殴り合いだよ。」
「マジか?」
「ああ、お前怒られても結構クールに受けてたよな。俺は無理。怒り方ってもんがあるだろうとか思っちゃうタイプだから。」
「いや、・・・まあ、正しいかと思ってたから聞くしかないよなって、感じ。」
「そこは偉いなあ。」
「そこはって言うな。」
「いい思い出だよ。若かったからなあ。」
「ジジイかっ。」
「まあな。やっぱり新人の持つ若さは違うよな。」
となりでグラスを空ける高田。
丑の刻参りって何だよ。男がやるものなのか?
そんなにイライラしてたなんて知らなかった。
よく愚痴は聞いていた気がするが・・・・。
「じゃあ、我慢して育てるしかないのか?」
「こけしちゃん?」
「ああ。」
「珍しいね、一週間でクールぶってるお前にそんなに打撃を与えられるなんて。ある意味凄い破壊力?楽しみだなあ。」
「お前の下に行った時に思いしれ。」
「その頃には立派に育ててくれてるだろう?期待してるよ。」
「芽が出れば育てる。掘ってまでは探さない。」
ふっ。
今笑ったか、こいつ。人事だと思って。
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