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1 春の闖入者
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「近藤さん、おはようございます。」
廊下をパタパタと音を立てて近づいてくる女、新人の冠も取れて数カ月後。
相変わらずとても大人に見えない、大学生、ひょっとしたら補導されるくらいの子供っぽさ。
「おはよう、玉井。・・・・髪の毛に歯磨き粉ついてないか?」
つい気がついてしまい視線が行ってしまった。
そして指摘せずにはいられない自分。
俺の視線を追い、左頬のそばで揃えられた髪を目の前に持って来て匂いを嗅いで爪で落とそうとする玉井。
あれぇ~なんて小さく声を出しているがこのやり取りも決して初めてではない。
女子として、もっと『恥ずかしい。』とか思えないのか?
だからこっちも遠慮もなく指摘できるってものだ。
「何でつくんだろう?」
俺だって聞きたい、何度指摘すればその疑問に真面目に取り組んでくれるんだ。
ちゃんと鏡を見てるのか?
アドバイスしてあげる気力ももはやない。
横をパタパタと小走りについてくるのに気がついて少しスピードを落とす。
めんどくさい奴め。
廊下の奥が自分の仕事部屋、第二研究室だった。
毎日毎日、白衣を着て実験のくり返し。
合併をくり返し一体元はどこの会社なのか、それでも中堅製薬会社の子会社の一つで主に美容部門の商品を開発研究している。
研究職のサラリーマン生活も長く、毎日が平凡に過ぎていく。
スーツより白衣が馴染んでるし、もともと出勤の服にもそううるさくない。
さすがに大人らしい格好をと言われてるくらいだ。
同じエレベーターに乗り込むサラリーマンもどこか顔なじみになった面々。
使用するエレベーターが階数ごとに分かれてることもあり、通勤する電車がほぼ同じ時間だとたいていそうなる。
時々営業や他課に付き合い取引先や美容系のクリニックに行くこともある。
ロッカーの中には2着のスーツとシャツが数枚、ネクタイ数本と革靴が入ってる。
出勤がスーツじゃないだけでも気分は楽だ。
ちゃんと洗濯したきれいなものを着れる。
データ解析やシステム課だとジーンズで出勤、長髪というのもありだが、そこまではいききれない。
結局玉井と一緒に廊下を歩いて、大きな独り言を聞き流し、会話とは言えない相槌をうち、一緒に研究室に入り別れる。
それぞれの席へ。
「おはようございます。」
玉井が大きく挨拶するので他のメンバーの返事に一緒に挨拶をし席に着く。
メールを立ち上げるとウンザリするようなメールが入ってる。
さすがに社外のメールはほぼない。システムでブロックされるから。
社内の連絡だけでも夕方から朝にかけてどうしてこんなにたまるんだ?
いらないものを削除しつつ必要な情報を取る。
特に急ぎの用件はないようだ。
視線をあげると9時になるところだった。
チャイムが鳴るとミーティングが始まる、というか自分が始める立場だ。
社内共通の連絡事項から研究室内の進行中の実験の進捗まで。
特別な予定がある時は自分の予定を伝えて、いない時間を預ける。
あとは他のメンバーからの報告など。
さほど時間がかかるものではない。
少ない人数でも共通認識は大切だ。
お互い助け合い、仲良く会話もし、我ながらうまくまとめてると自負している。
今日も特に大きな変化はない。
締めの挨拶をしようとしたときに大きなくしゃみが響いて、その後にカップの倒れる音と何かがこぼれる音。
そんなにタイミングが悪くとぼけたことをする奴は一人しかいないはずだ。
初めてでもないだろうにアワアワと物を動かす音がする。
ため息をついて『以上』と言葉にした。
聞いてないだろうくしゃみの主、玉井は机の掃除をしている。
まったく進歩のない奴なのだ。
この4月。
新人が3人も配属されると聞いてメンバーの誰もが今か今かと新人を待っていた。
去年配属された新人は部屋の温度を3度くらい上げてくれるくらいのかわいい子だった。
性格も問題なく、細かい気配りもあり『当たり!』の新人だった。
そして一年経たずに寿退社。
まさか・・・・、仕事は続けてもいいだろうと思ったが相手が転勤するタイミングと言われては何も言えない。
他の研究室の男たちも加えて皆で落胆を分け合った。
そして支社に行くこともせず一度退職となった。
あと、中途転職が一人いたので欠員二名の状態だった。
やっと、新人とはいえ新たな三人増員をもぎ取った形であった。
しかも女性二人と聞いてにわかに期待が高まる。
そうそう、最近のリケジョブームを信じて男性陣の期待が高まっていたのだ。
去年の『当たり』に続け・・・・。単調な毎日に女性の存在は大きい。
話し声に女性の声が混じるだけでも柔らかかくなり、ささくれた神経が休まり、うんざりした思いを軽く持ち上げる効果がある。
今いる一人も少しは温度をあげているがちょっと別の意味かもしれない。
温度以外はさほど期待できない。
そうなのだ。
去年が『当たり』過ぎたのだ。
リケジョも幅広いし。
冷静に今思えば、タイプによるのだと過剰な期待をしてはいけなかったのに・・・・。
研究室は小さいユニットになっている。
その日々は小さなことの積み重ねである。
諦めない根性、和を尊ぶ社会性、仕事に取り組むに必要な真面目さを持つのを最低条件にしたい。
あとは秀でたひらめき力があればラッキー。とりあえずはそれを。
ソワソワしながら上司が連れてくる新人を今か今かと待つ。
今研究室は自分を入れて二人の男性と一人の女性が社員として在籍していて、派遣で実験要員が適宜ヘルプに入る。
待望の三人、大切に育てたい。
ノックの後待っていた上司が新人を連れてやってきた。
男性一人と女性二人が続く。
迎えた三人で、おそらく一人に目を止めただろう。
ん?
男性は普通、女性一人も普通、やや大人しめの感じ、もう一人・・・・。
異分子感満載。
むしろ間違ってるのでは?社会科見学に来た高校生でも紛れ込んだのか?
でもスーツにビジネスバッグ、あとはボコボコと荷物が入って重そうなトートバッグがあった。
大人?新人?三人目?
男性二人の煩悩が数個落ちた音がした。
そのすさまじい破壊力は個性というにはとびぬけ過ぎていた。
黒のストレートの髪をパッツンとまっすぐに切りそろえて日本人形のようだ。
黒くてまっすぐ。きれいなのだか・・・・、大きくはないが丸い顔に大きな黒縁眼鏡、四角いスーツに・・・・白いハイソックス????
これで性格と能力が普通と期待してもいいだろうか?
1人ずつ挨拶が始まり名前とやる気を見せるコメントが続く。
さすがに三人ともこれは無事に終わった。
上司が出て行くと三人がポツンと残された。
とりあえずロッカーへ案内してもらう。
奥の方へ消えた三人を見送り男二人視線を合わせた。
ワクワクとした心が今は凪の状態だ。
いや、もう一人の女子はいいのだ、別に。ただ・・・・。
「とりあえず、三人を平等に・・・・大切に育てよう。」
朝言った言葉を心の中で繰り返した。
白衣に着替えた三人が戻ってきた。
テーブルで書類を読んでもらいながら待っててもらう。
気がついたら三人仲良く話をしているようだった。
「お昼は社食があるけど、どうする?持ってきた人いる?」
誰もいなかった。
「じゃあ、皆で食べるか?」
特に急ぎの実験がない日でもあり、外に出ても問題なさそうだった。
少し時間をずらして和食の座敷に予約を入れてもらう。
今までは三人だった。五人が三人になったままだったんだ。
それが一気に人数が倍に増えてうれしくなる。
おごりだというと約一名が飛び上がって喜んだ。
例のパッツン娘だ。
なんとも緊張感のかけらもない奴だ。大丈夫だろうか?
一旦みんながテーブルに集まりコーヒー休憩をしながら自己紹介をする。
鬼頭 創 細めの理系の男子。印象は薄いが真面目そうだ。
「『キトウ ハジメ』と読みます。研究が第一希望だったのでうれしいです。」
坂井 若菜 大人しそうなどこにでもいるような普通の女子だ。
今はその姿に安心感すら覚える。
隣の奴と気が合うかは疑問だが、どこにでもつつがなく馴染みそうな雰囲気はある。
「私も第一希望でした。よろしくお願いします。」
玉井 茜 見た目は飛びぬけて普通の域を超えている、新人類・・・。
さっきの一人荷物が多い様子を見るに一番の要注意人物になりそうだ。
「理科が大好きで白衣で仕事をするのが夢でした。慣れるまでご迷惑をかけると思いますがよろしくお願いします。」
地味に映る坂井と個性が際立って見える玉井。
どっちか1人だったら印象はもっと普通に寄ったのだろうか?
比較対象がいるからそう思うのか?
『慣れるまで迷惑をかける。』というのも挨拶の定番だと思ってた。
よくある挨拶の言葉だ。
とりあえず三人を一同で歓迎した春の始まりの日。
廊下をパタパタと音を立てて近づいてくる女、新人の冠も取れて数カ月後。
相変わらずとても大人に見えない、大学生、ひょっとしたら補導されるくらいの子供っぽさ。
「おはよう、玉井。・・・・髪の毛に歯磨き粉ついてないか?」
つい気がついてしまい視線が行ってしまった。
そして指摘せずにはいられない自分。
俺の視線を追い、左頬のそばで揃えられた髪を目の前に持って来て匂いを嗅いで爪で落とそうとする玉井。
あれぇ~なんて小さく声を出しているがこのやり取りも決して初めてではない。
女子として、もっと『恥ずかしい。』とか思えないのか?
だからこっちも遠慮もなく指摘できるってものだ。
「何でつくんだろう?」
俺だって聞きたい、何度指摘すればその疑問に真面目に取り組んでくれるんだ。
ちゃんと鏡を見てるのか?
アドバイスしてあげる気力ももはやない。
横をパタパタと小走りについてくるのに気がついて少しスピードを落とす。
めんどくさい奴め。
廊下の奥が自分の仕事部屋、第二研究室だった。
毎日毎日、白衣を着て実験のくり返し。
合併をくり返し一体元はどこの会社なのか、それでも中堅製薬会社の子会社の一つで主に美容部門の商品を開発研究している。
研究職のサラリーマン生活も長く、毎日が平凡に過ぎていく。
スーツより白衣が馴染んでるし、もともと出勤の服にもそううるさくない。
さすがに大人らしい格好をと言われてるくらいだ。
同じエレベーターに乗り込むサラリーマンもどこか顔なじみになった面々。
使用するエレベーターが階数ごとに分かれてることもあり、通勤する電車がほぼ同じ時間だとたいていそうなる。
時々営業や他課に付き合い取引先や美容系のクリニックに行くこともある。
ロッカーの中には2着のスーツとシャツが数枚、ネクタイ数本と革靴が入ってる。
出勤がスーツじゃないだけでも気分は楽だ。
ちゃんと洗濯したきれいなものを着れる。
データ解析やシステム課だとジーンズで出勤、長髪というのもありだが、そこまではいききれない。
結局玉井と一緒に廊下を歩いて、大きな独り言を聞き流し、会話とは言えない相槌をうち、一緒に研究室に入り別れる。
それぞれの席へ。
「おはようございます。」
玉井が大きく挨拶するので他のメンバーの返事に一緒に挨拶をし席に着く。
メールを立ち上げるとウンザリするようなメールが入ってる。
さすがに社外のメールはほぼない。システムでブロックされるから。
社内の連絡だけでも夕方から朝にかけてどうしてこんなにたまるんだ?
いらないものを削除しつつ必要な情報を取る。
特に急ぎの用件はないようだ。
視線をあげると9時になるところだった。
チャイムが鳴るとミーティングが始まる、というか自分が始める立場だ。
社内共通の連絡事項から研究室内の進行中の実験の進捗まで。
特別な予定がある時は自分の予定を伝えて、いない時間を預ける。
あとは他のメンバーからの報告など。
さほど時間がかかるものではない。
少ない人数でも共通認識は大切だ。
お互い助け合い、仲良く会話もし、我ながらうまくまとめてると自負している。
今日も特に大きな変化はない。
締めの挨拶をしようとしたときに大きなくしゃみが響いて、その後にカップの倒れる音と何かがこぼれる音。
そんなにタイミングが悪くとぼけたことをする奴は一人しかいないはずだ。
初めてでもないだろうにアワアワと物を動かす音がする。
ため息をついて『以上』と言葉にした。
聞いてないだろうくしゃみの主、玉井は机の掃除をしている。
まったく進歩のない奴なのだ。
この4月。
新人が3人も配属されると聞いてメンバーの誰もが今か今かと新人を待っていた。
去年配属された新人は部屋の温度を3度くらい上げてくれるくらいのかわいい子だった。
性格も問題なく、細かい気配りもあり『当たり!』の新人だった。
そして一年経たずに寿退社。
まさか・・・・、仕事は続けてもいいだろうと思ったが相手が転勤するタイミングと言われては何も言えない。
他の研究室の男たちも加えて皆で落胆を分け合った。
そして支社に行くこともせず一度退職となった。
あと、中途転職が一人いたので欠員二名の状態だった。
やっと、新人とはいえ新たな三人増員をもぎ取った形であった。
しかも女性二人と聞いてにわかに期待が高まる。
そうそう、最近のリケジョブームを信じて男性陣の期待が高まっていたのだ。
去年の『当たり』に続け・・・・。単調な毎日に女性の存在は大きい。
話し声に女性の声が混じるだけでも柔らかかくなり、ささくれた神経が休まり、うんざりした思いを軽く持ち上げる効果がある。
今いる一人も少しは温度をあげているがちょっと別の意味かもしれない。
温度以外はさほど期待できない。
そうなのだ。
去年が『当たり』過ぎたのだ。
リケジョも幅広いし。
冷静に今思えば、タイプによるのだと過剰な期待をしてはいけなかったのに・・・・。
研究室は小さいユニットになっている。
その日々は小さなことの積み重ねである。
諦めない根性、和を尊ぶ社会性、仕事に取り組むに必要な真面目さを持つのを最低条件にしたい。
あとは秀でたひらめき力があればラッキー。とりあえずはそれを。
ソワソワしながら上司が連れてくる新人を今か今かと待つ。
今研究室は自分を入れて二人の男性と一人の女性が社員として在籍していて、派遣で実験要員が適宜ヘルプに入る。
待望の三人、大切に育てたい。
ノックの後待っていた上司が新人を連れてやってきた。
男性一人と女性二人が続く。
迎えた三人で、おそらく一人に目を止めただろう。
ん?
男性は普通、女性一人も普通、やや大人しめの感じ、もう一人・・・・。
異分子感満載。
むしろ間違ってるのでは?社会科見学に来た高校生でも紛れ込んだのか?
でもスーツにビジネスバッグ、あとはボコボコと荷物が入って重そうなトートバッグがあった。
大人?新人?三人目?
男性二人の煩悩が数個落ちた音がした。
そのすさまじい破壊力は個性というにはとびぬけ過ぎていた。
黒のストレートの髪をパッツンとまっすぐに切りそろえて日本人形のようだ。
黒くてまっすぐ。きれいなのだか・・・・、大きくはないが丸い顔に大きな黒縁眼鏡、四角いスーツに・・・・白いハイソックス????
これで性格と能力が普通と期待してもいいだろうか?
1人ずつ挨拶が始まり名前とやる気を見せるコメントが続く。
さすがに三人ともこれは無事に終わった。
上司が出て行くと三人がポツンと残された。
とりあえずロッカーへ案内してもらう。
奥の方へ消えた三人を見送り男二人視線を合わせた。
ワクワクとした心が今は凪の状態だ。
いや、もう一人の女子はいいのだ、別に。ただ・・・・。
「とりあえず、三人を平等に・・・・大切に育てよう。」
朝言った言葉を心の中で繰り返した。
白衣に着替えた三人が戻ってきた。
テーブルで書類を読んでもらいながら待っててもらう。
気がついたら三人仲良く話をしているようだった。
「お昼は社食があるけど、どうする?持ってきた人いる?」
誰もいなかった。
「じゃあ、皆で食べるか?」
特に急ぎの実験がない日でもあり、外に出ても問題なさそうだった。
少し時間をずらして和食の座敷に予約を入れてもらう。
今までは三人だった。五人が三人になったままだったんだ。
それが一気に人数が倍に増えてうれしくなる。
おごりだというと約一名が飛び上がって喜んだ。
例のパッツン娘だ。
なんとも緊張感のかけらもない奴だ。大丈夫だろうか?
一旦みんながテーブルに集まりコーヒー休憩をしながら自己紹介をする。
鬼頭 創 細めの理系の男子。印象は薄いが真面目そうだ。
「『キトウ ハジメ』と読みます。研究が第一希望だったのでうれしいです。」
坂井 若菜 大人しそうなどこにでもいるような普通の女子だ。
今はその姿に安心感すら覚える。
隣の奴と気が合うかは疑問だが、どこにでもつつがなく馴染みそうな雰囲気はある。
「私も第一希望でした。よろしくお願いします。」
玉井 茜 見た目は飛びぬけて普通の域を超えている、新人類・・・。
さっきの一人荷物が多い様子を見るに一番の要注意人物になりそうだ。
「理科が大好きで白衣で仕事をするのが夢でした。慣れるまでご迷惑をかけると思いますがよろしくお願いします。」
地味に映る坂井と個性が際立って見える玉井。
どっちか1人だったら印象はもっと普通に寄ったのだろうか?
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