29 / 33
パーティーへ⑤
しおりを挟む
「何で貴女がここにいるの!」
オリヴィア様の金切声に近い叫びは、私の耳と心に嫌に響いた。普段の鈴を転がしたような彼女の声は、今や割れそうな程耳に痛く、聞いていて苦しいものになっている。
「いなくなるって仰ったでしょ!」
オリヴィア様は私を恨みの篭った鋭い瞳で見つめる。そこにキースさんは映っていないのか、彼女はまるで私一人しかいないかのように話を続けた。
「こんなパーティーにまで出てきて、何様のつもり!?セレンもセレンよ、こんな……!おかげで私は」
「俺を無視するな、ハリンス家の……令嬢殿」
キースさんは彼女の名前が出てこなかったのだろう、一瞬考えたのが分かった。それに腹を立てたオリヴィア様は、そこで初めてキースさんを睨みつけた。そしてその顔が驚愕の表情に変わったと思うと、再び憎しみの篭った表情になった。
「貴方は……キース!私はオリヴィアよ、忘れたの?縁談の時も思ったけれど、やっぱり貴方はろくでなしだわ!私の名前を覚えていないなんて失礼ね!貴方なんて願い下げよ!」
「こちらこそですよ、オリヴィア様」
まるで煽るような口調でキースさんが言う。さらに腹を立てたオリヴィア様は一人でに頭を抱え始めた。
「お父様は何を考えていらっしゃるの?私はセレンが好きなのに、こんな男に嫁がせようとして……そうよ、貴方達が結婚すれば良いじゃない!」
オリヴィア様はぶつぶつと独り言を呟いた後、急に閃いたかのように、ぱっと顔を上げて私達に詰め寄った。キースさんが警戒して、私を背中に隠したまま後ろに下がる。
「こんなところで二人でいるなんて、おかしいじゃない!知り合いみたいだし、丁度いいわよ!それに身分だってそう変わらないでしょう?没落貴族と成り上がりの平民、お似合いだわ!」
「お前の父上は家の為に、お前を俺に嫁がせようとしたんだ。分かるだろ?……親子そろって権力主義の似たもの同士なんだからな」
「お父様はおかしいのよ!私にセレンは諦めなさいって。私が一番セレンに相応しいのに!この女さえいなければ……」
「話にならない」
「何ですって!?」
二人の言い合いには口を挟む隙もなく、私は急に部外者になったかのように立ちすくんだ。そもそも、二人は知り合いだったのか。三人とも互いに関わりがあるという奇妙な偶然に驚きを隠せない。
二人の会話から推測すると、オリヴィア様のお父様がキースさんと娘の結婚を望んでいたが、二人とも互いを拒絶する結果に終わってしまった。オリヴィア様はまだセレンを諦めていないし、もしかしたら自分に望まない縁談が来たことで余計に躍起になってしまったのかもしれない。
「安心しろ、お前と結婚することはない」
「身分が低いくせに、偉そうにするのは辞めて!お金はまだしも地位はこちらの方が上よ」
「それなのにまだ力を求めてるんだな、だから俺のところにしつこく縁談を寄越すんだろ」
「私の意思じゃないわ!」
二人の会話は縁談が来ていたとは想像もつかないほど刺々しく、殺伐としている。キースさんは嫌そうな顔をして、どこか会話を諦めたように見えた。
「そもそも貴女が悪いのよ、前にも言ったじゃない。セレンと貴女は釣り合わない、セレンの幸せを願うなら――」
「……どういうこと、オリヴィア」
突然聞こえてきた想い人の声に、はっとした様子で振り向いた彼女の顔から、怒りが引いていき、焦りの滲む歪んだ表情になる。
「セレン」
オリヴィア様の声が小さく揺れた。彼女は後ろから近づいてきたセレンの姿に気づかなかった。私達二人への怒りに支配されていたせいだ。
私もセレンの姿が見えたことで、ようやく石のように固まっていた身体が動いた。オリヴィア様の怒りに圧倒され彼女から目を逸らせずにいたのだ。
「アルトに近づくなと再三言ったのに……」
暗闇に浮かぶセレンの表情は曇っていて、その藍色の瞳は、星の見えない夜空のように暗く冷たい。その冷たい闇を内包した瞳はぞっとする程美しいが、同時にとても恐ろしく思った。
オリヴィア様の金切声に近い叫びは、私の耳と心に嫌に響いた。普段の鈴を転がしたような彼女の声は、今や割れそうな程耳に痛く、聞いていて苦しいものになっている。
「いなくなるって仰ったでしょ!」
オリヴィア様は私を恨みの篭った鋭い瞳で見つめる。そこにキースさんは映っていないのか、彼女はまるで私一人しかいないかのように話を続けた。
「こんなパーティーにまで出てきて、何様のつもり!?セレンもセレンよ、こんな……!おかげで私は」
「俺を無視するな、ハリンス家の……令嬢殿」
キースさんは彼女の名前が出てこなかったのだろう、一瞬考えたのが分かった。それに腹を立てたオリヴィア様は、そこで初めてキースさんを睨みつけた。そしてその顔が驚愕の表情に変わったと思うと、再び憎しみの篭った表情になった。
「貴方は……キース!私はオリヴィアよ、忘れたの?縁談の時も思ったけれど、やっぱり貴方はろくでなしだわ!私の名前を覚えていないなんて失礼ね!貴方なんて願い下げよ!」
「こちらこそですよ、オリヴィア様」
まるで煽るような口調でキースさんが言う。さらに腹を立てたオリヴィア様は一人でに頭を抱え始めた。
「お父様は何を考えていらっしゃるの?私はセレンが好きなのに、こんな男に嫁がせようとして……そうよ、貴方達が結婚すれば良いじゃない!」
オリヴィア様はぶつぶつと独り言を呟いた後、急に閃いたかのように、ぱっと顔を上げて私達に詰め寄った。キースさんが警戒して、私を背中に隠したまま後ろに下がる。
「こんなところで二人でいるなんて、おかしいじゃない!知り合いみたいだし、丁度いいわよ!それに身分だってそう変わらないでしょう?没落貴族と成り上がりの平民、お似合いだわ!」
「お前の父上は家の為に、お前を俺に嫁がせようとしたんだ。分かるだろ?……親子そろって権力主義の似たもの同士なんだからな」
「お父様はおかしいのよ!私にセレンは諦めなさいって。私が一番セレンに相応しいのに!この女さえいなければ……」
「話にならない」
「何ですって!?」
二人の言い合いには口を挟む隙もなく、私は急に部外者になったかのように立ちすくんだ。そもそも、二人は知り合いだったのか。三人とも互いに関わりがあるという奇妙な偶然に驚きを隠せない。
二人の会話から推測すると、オリヴィア様のお父様がキースさんと娘の結婚を望んでいたが、二人とも互いを拒絶する結果に終わってしまった。オリヴィア様はまだセレンを諦めていないし、もしかしたら自分に望まない縁談が来たことで余計に躍起になってしまったのかもしれない。
「安心しろ、お前と結婚することはない」
「身分が低いくせに、偉そうにするのは辞めて!お金はまだしも地位はこちらの方が上よ」
「それなのにまだ力を求めてるんだな、だから俺のところにしつこく縁談を寄越すんだろ」
「私の意思じゃないわ!」
二人の会話は縁談が来ていたとは想像もつかないほど刺々しく、殺伐としている。キースさんは嫌そうな顔をして、どこか会話を諦めたように見えた。
「そもそも貴女が悪いのよ、前にも言ったじゃない。セレンと貴女は釣り合わない、セレンの幸せを願うなら――」
「……どういうこと、オリヴィア」
突然聞こえてきた想い人の声に、はっとした様子で振り向いた彼女の顔から、怒りが引いていき、焦りの滲む歪んだ表情になる。
「セレン」
オリヴィア様の声が小さく揺れた。彼女は後ろから近づいてきたセレンの姿に気づかなかった。私達二人への怒りに支配されていたせいだ。
私もセレンの姿が見えたことで、ようやく石のように固まっていた身体が動いた。オリヴィア様の怒りに圧倒され彼女から目を逸らせずにいたのだ。
「アルトに近づくなと再三言ったのに……」
暗闇に浮かぶセレンの表情は曇っていて、その藍色の瞳は、星の見えない夜空のように暗く冷たい。その冷たい闇を内包した瞳はぞっとする程美しいが、同時にとても恐ろしく思った。
10
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
【R18】国王陛下に婚活を命じられたら、宰相閣下の様子がおかしくなった
ほづみ
恋愛
国王から「平和になったので婚活しておいで」と言われた月の女神シアに仕える女神官ロイシュネリア。彼女の持つ未来を視る力は、処女喪失とともに失われる。先視の力をほかの人間に利用されることを恐れた国王からの命令だった。好きな人がいるけどその人には好かれていないし、命令だからしかたがないね、と婚活を始めるロイシュネリアと、彼女のことをひそかに想っていた宰相リフェウスとのあれこれ。両片思いがこじらせています。
あいかわらずゆるふわです。雰囲気重視。
細かいことは気にしないでください!
他サイトにも掲載しています。
注意 ヒロインが腕を切る描写が出てきます。苦手な方はご自衛をお願いします。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる