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パーティーへ⑤

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「何で貴女がここにいるの!」

 オリヴィア様の金切声に近い叫びは、私の耳と心に嫌に響いた。普段の鈴を転がしたような彼女の声は、今や割れそうな程耳に痛く、聞いていて苦しいものになっている。

「いなくなるって仰ったでしょ!」

 オリヴィア様は私を恨みの篭った鋭い瞳で見つめる。そこにキースさんは映っていないのか、彼女はまるで私一人しかいないかのように話を続けた。

「こんなパーティーにまで出てきて、何様のつもり!?セレンもセレンよ、こんな……!おかげで私は」

「俺を無視するな、ハリンス家の……令嬢殿」

 キースさんは彼女の名前が出てこなかったのだろう、一瞬考えたのが分かった。それに腹を立てたオリヴィア様は、そこで初めてキースさんを睨みつけた。そしてその顔が驚愕の表情に変わったと思うと、再び憎しみの篭った表情になった。

「貴方は……キース!私はオリヴィアよ、忘れたの?縁談の時も思ったけれど、やっぱり貴方はろくでなしだわ!私の名前を覚えていないなんて失礼ね!貴方なんて願い下げよ!」

「こちらこそですよ、オリヴィア様」

 まるで煽るような口調でキースさんが言う。さらに腹を立てたオリヴィア様は一人でに頭を抱え始めた。

「お父様は何を考えていらっしゃるの?私はセレンが好きなのに、こんな男に嫁がせようとして……そうよ、貴方達が結婚すれば良いじゃない!」

 オリヴィア様はぶつぶつと独り言を呟いた後、急に閃いたかのように、ぱっと顔を上げて私達に詰め寄った。キースさんが警戒して、私を背中に隠したまま後ろに下がる。

「こんなところで二人でいるなんて、おかしいじゃない!知り合いみたいだし、丁度いいわよ!それに身分だってそう変わらないでしょう?没落貴族と成り上がりの平民、お似合いだわ!」

「お前の父上は家の為に、お前を俺に嫁がせようとしたんだ。分かるだろ?……親子そろって権力主義の似たもの同士なんだからな」

「お父様はおかしいのよ!私にセレンは諦めなさいって。私が一番セレンに相応しいのに!この女さえいなければ……」

「話にならない」

「何ですって!?」

 二人の言い合いには口を挟む隙もなく、私は急に部外者になったかのように立ちすくんだ。そもそも、二人は知り合いだったのか。三人とも互いに関わりがあるという奇妙な偶然に驚きを隠せない。

 二人の会話から推測すると、オリヴィア様のお父様がキースさんと娘の結婚を望んでいたが、二人とも互いを拒絶する結果に終わってしまった。オリヴィア様はまだセレンを諦めていないし、もしかしたら自分に望まない縁談が来たことで余計に躍起になってしまったのかもしれない。

「安心しろ、お前と結婚することはない」

「身分が低いくせに、偉そうにするのは辞めて!お金はまだしも地位はこちらの方が上よ」

「それなのにまだ力を求めてるんだな、だから俺のところにしつこく縁談を寄越すんだろ」

「私の意思じゃないわ!」

 二人の会話は縁談が来ていたとは想像もつかないほど刺々しく、殺伐としている。キースさんは嫌そうな顔をして、どこか会話を諦めたように見えた。

「そもそも貴女が悪いのよ、前にも言ったじゃない。セレンと貴女は釣り合わない、セレンの幸せを願うなら――」

「……どういうこと、オリヴィア」

 突然聞こえてきた想い人の声に、はっとした様子で振り向いた彼女の顔から、怒りが引いていき、焦りの滲む歪んだ表情になる。

「セレン」

 オリヴィア様の声が小さく揺れた。彼女は後ろから近づいてきたセレンの姿に気づかなかった。私達二人への怒りに支配されていたせいだ。

 私もセレンの姿が見えたことで、ようやく石のように固まっていた身体が動いた。オリヴィア様の怒りに圧倒され彼女から目を逸らせずにいたのだ。

「アルトに近づくなと再三言ったのに……」

 暗闇に浮かぶセレンの表情は曇っていて、その藍色の瞳は、星の見えない夜空のように暗く冷たい。その冷たい闇を内包した瞳はぞっとする程美しいが、同時にとても恐ろしく思った。

  

 
 
 
 
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