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マリアがお客様の相手をしている為、私達は二人この場に取り残されることになった。自然と二人の目は商品の並んだ棚に向く。互いに売り物の植物を眺めながら、ぽつりぽつりと話した。
「キースさん、前お姉様に贈られた布は気に入って頂けましたか?」
「ああ。……子も無事に生まれたよ」
「それはよかったです!おめでとうございます」
私がそう言って、手を合わせ喜ぶと、キースさんは少し固くなった表情を緩めた。
「前にキースさんが馬車に沢山の荷物を乗せていたのを見ましたが、あれは商売をしているから……」
「あれは趣味だ。がらくたを安い値で引き取って、珍しいものや希少価値の高いものが出てきたら売る。以外と物好きがいるもんで、そういうのを好んで買う奴もいるんだ」
「キースさんの商売とは、何なのですか?」
聞いてもいいのか少し迷いつつ、自身の中の好奇心に負けて問いかける。彼の表情に動きはない為、気分を害した訳ではなさそうだ。
「父は貿易商をしていて、飛び回ってる。俺はその手伝いをしてて、今は父も俺も時間が空いてるんだ。次の大きな取引までゆっくりしてるだけだ」
貿易商……そういえば、トルメキアという名は何処かで聞いた事がある。……そうだ。少し前、セレンの屋敷に来ていた使者が言っていた気がする。歴史は古くない家だが、莫大な金を持っていると。
「トルメキアと聞いてピンとこないのは珍しい……まあ、ただの町娘ならそうか」
「……聞いたことはあります。前に屋敷で……」
「貴族の家ででも働いてるのか?」
急にキースさんの顔がより険しくなった。緑の瞳の中に嫌悪感が透けて見える。声色の急な変化に驚き、私は狼狽えた。
「はい……珍しくはないでしょう?」
「まあな。可哀想な奴らだ……貴族なんて碌でもない」
吐き捨てるように言う彼に、私は腹が立った。
「私の主人は立派な方です!」
キースさんは鼻で笑うと、挑発的な表情を浮かべた。
「権力に溺れ、貴族以外を見下してるんだよ。お前にも心当たりはないのか?」
「私の仕えている方には……」
セレンが特殊なだけかもしれない。権力に固執する者は大勢見てきた。平民を見下す者だって。私の両親も、平民を見下すことは無かったけれど、「貴族」という立場にこだわっていたことは分かっている。
「俺の家には莫大な財産がある。だが、所詮平民出身で地位はない。……力はあってもだ」
苦虫を噛み潰したような表情をした彼が次々に言葉を吐き出す。
「だから金の無い貴族達が蝿のように寄ってきて、娘を寄越すと煩いんだよ。良家の血が入れば、金も名誉も、血筋も手に入る。金はあっても歴史は無い、所詮成金だ……協力してやると」
「それは、利用では……?」
「そうだ。皆、所詮成金だと俺らを見下している。でも金は欲しいから、パイプを作りたくてしょうがないんだろう」
彼は一番下の棚に入っていた種の袋を手に取ると、吟味するようにじっとそれを見つめた。
「例外がいないとは言わないが、大抵がそんなもんだ。そいつがマトモでも、周りは違うかもしれない。それなら駄目だ。……あいつらは家で動くからな」
キースさんは手に持っていたそれを棚に戻すと、店の外に向けて歩き出した。
「お前も、程々に信じておく程度にしておけ。……後で痛い目を見るかもしれんぞ」
「キースさん、前お姉様に贈られた布は気に入って頂けましたか?」
「ああ。……子も無事に生まれたよ」
「それはよかったです!おめでとうございます」
私がそう言って、手を合わせ喜ぶと、キースさんは少し固くなった表情を緩めた。
「前にキースさんが馬車に沢山の荷物を乗せていたのを見ましたが、あれは商売をしているから……」
「あれは趣味だ。がらくたを安い値で引き取って、珍しいものや希少価値の高いものが出てきたら売る。以外と物好きがいるもんで、そういうのを好んで買う奴もいるんだ」
「キースさんの商売とは、何なのですか?」
聞いてもいいのか少し迷いつつ、自身の中の好奇心に負けて問いかける。彼の表情に動きはない為、気分を害した訳ではなさそうだ。
「父は貿易商をしていて、飛び回ってる。俺はその手伝いをしてて、今は父も俺も時間が空いてるんだ。次の大きな取引までゆっくりしてるだけだ」
貿易商……そういえば、トルメキアという名は何処かで聞いた事がある。……そうだ。少し前、セレンの屋敷に来ていた使者が言っていた気がする。歴史は古くない家だが、莫大な金を持っていると。
「トルメキアと聞いてピンとこないのは珍しい……まあ、ただの町娘ならそうか」
「……聞いたことはあります。前に屋敷で……」
「貴族の家ででも働いてるのか?」
急にキースさんの顔がより険しくなった。緑の瞳の中に嫌悪感が透けて見える。声色の急な変化に驚き、私は狼狽えた。
「はい……珍しくはないでしょう?」
「まあな。可哀想な奴らだ……貴族なんて碌でもない」
吐き捨てるように言う彼に、私は腹が立った。
「私の主人は立派な方です!」
キースさんは鼻で笑うと、挑発的な表情を浮かべた。
「権力に溺れ、貴族以外を見下してるんだよ。お前にも心当たりはないのか?」
「私の仕えている方には……」
セレンが特殊なだけかもしれない。権力に固執する者は大勢見てきた。平民を見下す者だって。私の両親も、平民を見下すことは無かったけれど、「貴族」という立場にこだわっていたことは分かっている。
「俺の家には莫大な財産がある。だが、所詮平民出身で地位はない。……力はあってもだ」
苦虫を噛み潰したような表情をした彼が次々に言葉を吐き出す。
「だから金の無い貴族達が蝿のように寄ってきて、娘を寄越すと煩いんだよ。良家の血が入れば、金も名誉も、血筋も手に入る。金はあっても歴史は無い、所詮成金だ……協力してやると」
「それは、利用では……?」
「そうだ。皆、所詮成金だと俺らを見下している。でも金は欲しいから、パイプを作りたくてしょうがないんだろう」
彼は一番下の棚に入っていた種の袋を手に取ると、吟味するようにじっとそれを見つめた。
「例外がいないとは言わないが、大抵がそんなもんだ。そいつがマトモでも、周りは違うかもしれない。それなら駄目だ。……あいつらは家で動くからな」
キースさんは手に持っていたそれを棚に戻すと、店の外に向けて歩き出した。
「お前も、程々に信じておく程度にしておけ。……後で痛い目を見るかもしれんぞ」
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