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時は夜遅く。窓の外からは月明かりが漏れ、部屋の中を白く照らしている。町の灯りもすっかりと消え、皆が眠りにつく頃、私はベッドの上で一人考え事をしていた。
今日はとても楽しかった。セレンと他愛ない会話をしながら町で買い物をして、笑いあった。沢山歩いて疲れて、帰りの馬車の中では二人で眠ってしまった。
ハプニングもあったけれど、総じて楽しい時間だった。髪飾りを買ってもらった後、なんだかんだで服も何着か選んでもらうことになった。勿論代金は彼持ちで、そんなに高価じゃないから大丈夫だとセレンは言うけれど、嬉しい半分、流石に申し訳ない気持ちになってしまった。
異性に贈り物をされたことが無かった私が、今日急に沢山プレゼントをされたものだから、戸惑うのも無理はない。昔の私はきっと与えられるがまま、なんとも思わなかっただろうに、人は変わるものだ。
柔らかなベッドの上で両足を絡ませながら物思いに耽る。今日買ってもらった髪飾りは、大事にテーブルの上に置いてある。それを手に取り、指でそっとその輪郭をなぞる様に撫でた。
闇の中でも光る金色の髪飾り。花の中心の藍色の宝石は、彼の瞳を彷彿させる。この髪飾りに目が釘付けになったのは、この宝石の藍色の引力のせいかもしれない。勿論デザインもとびきり好みだったけれど。
セレンの買い物にも付き合ったけれど、今日はほとんどが私のための買い物だった。最初から彼は、私に沢山贈り物をする為に私を誘ったのだろう。都合良く解釈しすぎだろうか?
デートみたい、というマリアの言葉や、やけに距離感の近いセレン。…セレンは私に触れたいと思っている?私のことが、
そこまで考えて勢いよく首を振った。たとえそうだったとして、それで?
いやまず、私の事が好きということ自体があり得ない…と思う。こちらに来てからずっと、父以外の異性との特別な関わり合いの無い私とは違って、彼は沢山の女性達と関わって来ただろう。
婚約者やその候補達、彼のことを好ましく思う令嬢達…そんな人達に囲まれながら、果たして十年前に短い間だけ仲良くしていた女の子のことをずっと想えるものなのか?
彼がもし私を好きなのだとしたら、幼い頃の思い出を美化しすぎているのだろう。あの時は本当に毎日幸せで楽しかった。けれど、その幸せな時間を提供できるのは決して私だけではない。幼い頃は私だけだったかもしれないけど、彼には今沢山の人が周りにいるのだから。
…たとえ私にはセレンだけだったとしても。
私にとってセレンは間違いなく初恋の人だった。きっとこれからも彼以上に好きになれる人なんて現れない。
でも、私はきっと彼の結婚を祝福できる。たとえ傷ついても、心から喜べる。それは私の中で、彼が最高の友達であると、だからそれ以上の関係になることなんて無いと決めつけてしまっているからかもしれない。
自己完結しすぎだろうか。でも…。
「眠れないわ…」
そうぼそりと呟いて小さくため息をつく。一度考え出すと止まらない思考はどうにも厄介だ。
外の空気でも吸いに行こうか、と立ち上がる。この屋敷には小さなテラスがあって、雨の降らない日はそこで過ごすことも可能だ。周辺には建物がそこかしこに並んでいる為、景色はあまり良くない。…が、外の空気を吸う分には申し分ないだろう。
そもそも彼はどうして婚約破棄になんてなったんだろう、そう疑問を抱きかかえたまま、私は部屋を後にした。
今日はとても楽しかった。セレンと他愛ない会話をしながら町で買い物をして、笑いあった。沢山歩いて疲れて、帰りの馬車の中では二人で眠ってしまった。
ハプニングもあったけれど、総じて楽しい時間だった。髪飾りを買ってもらった後、なんだかんだで服も何着か選んでもらうことになった。勿論代金は彼持ちで、そんなに高価じゃないから大丈夫だとセレンは言うけれど、嬉しい半分、流石に申し訳ない気持ちになってしまった。
異性に贈り物をされたことが無かった私が、今日急に沢山プレゼントをされたものだから、戸惑うのも無理はない。昔の私はきっと与えられるがまま、なんとも思わなかっただろうに、人は変わるものだ。
柔らかなベッドの上で両足を絡ませながら物思いに耽る。今日買ってもらった髪飾りは、大事にテーブルの上に置いてある。それを手に取り、指でそっとその輪郭をなぞる様に撫でた。
闇の中でも光る金色の髪飾り。花の中心の藍色の宝石は、彼の瞳を彷彿させる。この髪飾りに目が釘付けになったのは、この宝石の藍色の引力のせいかもしれない。勿論デザインもとびきり好みだったけれど。
セレンの買い物にも付き合ったけれど、今日はほとんどが私のための買い物だった。最初から彼は、私に沢山贈り物をする為に私を誘ったのだろう。都合良く解釈しすぎだろうか?
デートみたい、というマリアの言葉や、やけに距離感の近いセレン。…セレンは私に触れたいと思っている?私のことが、
そこまで考えて勢いよく首を振った。たとえそうだったとして、それで?
いやまず、私の事が好きということ自体があり得ない…と思う。こちらに来てからずっと、父以外の異性との特別な関わり合いの無い私とは違って、彼は沢山の女性達と関わって来ただろう。
婚約者やその候補達、彼のことを好ましく思う令嬢達…そんな人達に囲まれながら、果たして十年前に短い間だけ仲良くしていた女の子のことをずっと想えるものなのか?
彼がもし私を好きなのだとしたら、幼い頃の思い出を美化しすぎているのだろう。あの時は本当に毎日幸せで楽しかった。けれど、その幸せな時間を提供できるのは決して私だけではない。幼い頃は私だけだったかもしれないけど、彼には今沢山の人が周りにいるのだから。
…たとえ私にはセレンだけだったとしても。
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でも、私はきっと彼の結婚を祝福できる。たとえ傷ついても、心から喜べる。それは私の中で、彼が最高の友達であると、だからそれ以上の関係になることなんて無いと決めつけてしまっているからかもしれない。
自己完結しすぎだろうか。でも…。
「眠れないわ…」
そうぼそりと呟いて小さくため息をつく。一度考え出すと止まらない思考はどうにも厄介だ。
外の空気でも吸いに行こうか、と立ち上がる。この屋敷には小さなテラスがあって、雨の降らない日はそこで過ごすことも可能だ。周辺には建物がそこかしこに並んでいる為、景色はあまり良くない。…が、外の空気を吸う分には申し分ないだろう。
そもそも彼はどうして婚約破棄になんてなったんだろう、そう疑問を抱きかかえたまま、私は部屋を後にした。
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