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デート②

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 私はセレンと手を繋ぎながら、マリアの店を出て再び町を歩き出した。あまりに自然に手を繋ぐものだから、私は混乱しながらもそれを受け入れてしまった。

 離すタイミングも分からす、何故繋いできたのかも分からず、私の頭の中は?マークまみれである。次から次へと飛び出すそれらは、私の脳の処理が追いついていないことの証明だ。

 混乱する私の隣で、セレンは何時もと変わらない様子だった。歩きながら周りの店を見渡している彼は、不意に私の方を見ると顔を近づけてきた。

 思わず身構えてしまう。一体何をこんなに緊張しているんだ、私。

「アルト、鼻が少し赤くなってる。痛くない?」

 セレンが心配そうに私の顔を覗き込んできた。彼の人差し指が私の鼻の先をそっと撫でる。

「やだ、そんなに赤い?痛くは無いのだけれど…」

 恥ずかしくてとっさに鼻を手で隠した。確かに勢いよくぶつかってしまったから、赤くなっていても仕方ないだろう。

「少しだけだよ。痛く無いのなら良かった」

 心配そうに眉を寄せていたセレンの表情がふっと緩んだ。…そして、とんでもない発言をした。

「さっき、抱きしめるチャンスだったのに、もったいないことしたな」

「な、何言っているの!」

 冗談にしてはたちが悪い。そもそもセレンは冗談や、からかいのつもりでそういうことを言うタイプではない…はずだ。

 私の口からは素っ頓狂な声が飛びたした。と、突然何を言い出すのかと思えば、そ、そんな…!

 私の知らない間にそんな高度な軽口をたたけるようになったとは。私の中のセレンのイメージ像がぐらぐらと揺れている。
 
「また私を躓かせる気なの…?」

「まさか、でも次そんな事があったらしっかり抱きとめてあげる」

 いつも通りの穏やかな笑みを浮かべながら彼は言った。私は口を魚のようにぱくぱくとさせながら、彼の発言の衝撃に震えていた。

 彼は一度私の手をかたく握り直すと、向こうにある店を指差した。

「驚かせてしまったお詫びに、何か贈り物をしようかな。あの店、お洒落な雰囲気だし一度見てみよう」

 彼に手を引かれるがまま店の前に連れていかれる。昔は基本的に私が手を引く側で、主導権を握る側でもあったのに、再会してからはまるで逆になってしまった。

 その店は髪飾りを中心に売っているようだった。貴族や富豪しか手に入れられないような、高価な品は無さそうだ。しかし、どの品もとても丁寧に作られている。埋め込まれている宝石類も、希少なものはないが、どれも透明度が高く、しっかりと磨かれていて美しく輝いている。

 宝石ではなく可愛らしいリボンがついているものや、薔薇の形を模した金属の飾りがついているものなど、種類は様々だ。私は目を輝かせた。

「綺麗…」

 可愛いものや綺麗なものは昔から大好きで、見ているだけで幸せになれる。こういった装飾品の類は、最近見ることさえご無沙汰だったので、より胸がときめいてしまう。

 その中でも一際輝やいて見えたのは、小さな花の形をした飾りが沢山あしらわれている髪飾りだった。花の一つ一つが小さいにも関わらず、精巧に作られていて、花びらの柔らかさがよく表現されている。そして花の中央には、とても小さな深い藍色の宝石が埋め込まれていた。

 食い入るように真剣にそれを見つめてしまう。一目惚れとはまさにこのことだ。 

「これが気にいった?」

 セレンが、私が熱心に見つめていたそれを手に取って、私の髪にかざした。

 自分が彼の目にどう映っているかは分からないが、彼の表情を見るに、似合っているのだろうか。

「似合うよ。…アルト、君の綺麗な髪に映えそうだ」

「ありがとう…」

 頬を染める私に、彼は柔らかな微笑みを返した。自然に褒めてくるところが本当にずるいと思う。

 セレンは店主の元ですぐにお会計を済ますと、それを私の髪に飾った。

 私の髪に、金色の小さな花達が散らばるように咲いた。太陽の光が反射して、藍色の宝石が小さいながらに眩い光を放つ。

「うん、やっぱり似合う」

「セレン、あ、ありがとう。こ、こんなに素敵なのもらっちゃって本当にいいの…?」

「いいよ、お詫びだし。いや、お詫びじゃなくたって、僕が贈りたいと思うんだから受け取って欲しい」

「で、でも…」

 まだ納得できずにしどろもどろになっている私に、彼は自分の手をすっと私に差し出した。

「じゃあ代わりに、手でも繋いでもらおうかな」

「そんな事でいいの?」

 彼は頷くと、再び私の手を取って歩き出した。私もそれに応えるように、彼の手を握り返した。

 さっきよりも少しだけ強く彼の手を握る。それは、「私もあなたと手を繋いでいたい」という意思表示だ。

 デートみたい、と言ったマリアの言葉が思い起こされる。私自身、昔とは違う距離感に戸惑いを隠せない。ただ今は、彼の隣という心地良い場所に身を委ねていようと思った。

 
 
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