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第1章2話:準備

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実家と大学の、中ほどの位置にある【藤木町(ふじきちょう)】。

その町の東に【藤木山(ふじきさん)】という山があるのだが、ここに初心者向けのダンジョンがあるそうだ。

ルミは、そのダンジョンを攻略するために、電車で町までやってきた。

服装は、ブラウスにスカート、その上から羽織る蒼いロングコート。

持ち物はアイテムバッグのみ。

このアイテムバッグは、魔法袋であり、異空間にアイテムを収納しておける。

結構容量があるので、

回復薬、

水、

食料、

武器、

配信器材、

……などなど、さまざまな道具を持ってきてある。

そのアイテムバッグをポーチのごとく巻きつけ、さっそく山に入る。

三時間ほど、山を探索する。

天気は晴れ。

季節は春であり、陽気な太陽が辺りを照らしている。

かなり山の奥までやってきた。

草と土と森ばかりが視界を埋め尽くしている。

そのとき、切り立った小さな崖の根元に、横穴を発見した。

横穴の奥には厳粛そうな石の扉が存在している。

……間違いない。

ダンジョンの入り口だ。

「ここが藤木ダンジョンですか……」

こんな山奥にあるとはね……。

周囲には誰もいない。

初心者向けと聞いたけど、結構、初心者泣かせな場所にあるなぁ……と思いつつ、ルミは配信の準備をする。

携帯で、配信サイトの【グランチューブ】にアクセス。

配信用の【飛行カメラ】を起動して、宙に浮かせる。

そしてグランチューブと飛行カメラを無線で接続させた。

この無線は、ダンジョン内部でも通信ができるようにする特殊な無線である。

……よし。

あとは携帯から配信開始のボタンを押せばいいだけだ。

おっと、その前に。

装備を身につけておかないとね。

まず、アイテムバッグから剣を取り出す。

アイテムバッグからアイテムや武器を取り出すときは、アイテムの名前を頭の中で唱えるだけでいい。

もし名前を忘れてしまったときは【アイテムオープン】と唱え、アイテムウインドウを開けば確認できる。

今回は、ルミの愛剣の名である【リーンソード】と脳内で唱える。

それだけで、彼女の手には鞘におさまった剣が現れた。

とりあえず、その剣を左腰に提げる。

さて、次だ。

「顔出しは、やめておきましょうか」

そうぽつりとつぶやく。

顔出しは、なんというか、恥ずかしい。

というわけで、あらかじめ用意していた仮面をアイテムバッグから取り出した。

顔面に装着。

さらに、セミロングの髪をくくり、ポニーテールに変えた。

剣を扱うときは、このように髪を結い上げるのが彼女の流儀だ。

……よし、準備完了だ。

あとは、配信をスタートすればいいだけ。

チャンネル名は【ルミちゃんねる】。

チャンネル登録数はもちろんゼロ。

「配信、開始……!」

これから、登録者が増えていくといいな。

そう思いながら、配信の開始ボタンを押した。




だがルミは知らなかった。

初心者向けとされる【藤木ダンジョン】は、もっと手前の位置にあり……

彼女が発見した山奥のダンジョンは、誰も攻略したことがない超難関ダンジョンだったことを。


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