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精霊の声
しおりを挟むしかし直後、アレックスは顔をしかめる。
「だが、貴様は悪女だ!」
アレックスは吐き捨てるように言った。
「確かに貴様は強いのだろう、目を見張るべき研鑽を積んできたのだろう……だが狡猾で、卑劣で、陰湿だ! その強さは、他人をあざ笑い、傷つけることしかできない強さだ!」
責める言葉を吐きながら、アレックスが斬りかかってくる。
私の剣と、アレックスのブレードが衝突。
つばぜりあいの状態になる。
「ゆえに私が、絶対的な正義を以って、貴様を滅ぼさなければならない!! それは私にしか出来ないのだ!!」
アレックスが、つばぜりあいを解き、まるで信念を叩きつけるかのように剣を振るってくる。
「戯言もはなはだしいですわね」
と私は、アレックスの剣に合わせながら、一笑に付す。
「あなたの思い込みの激しさ、妄想癖には、うんざりですわ。わたくしも、あなたのような悪徳王子を滅ぼすことに、ためらいはありません」
しかし。
私は、自分のほうが分が悪いことに気づいていた。
ジルディアスソードの特殊効果【魔力ドレイン】によって、私の魔力が剣に吸われているからだ。
このままでは遠くないうちに私の魔力が枯渇するだろう。
長く戦うことはできない。
しかしアレックスとの戦いは、決して短時間で終わらせられるものではない。
(これはまずいかもしれない……)
バフポーション。
ジルディアスソードのバフ。
ゾーンのような集中状態。
……これだけの条件が揃っていても、今のアレックスを相手には、せいぜい互角に戦うことが限界だ。
あと一歩、押しきるための馬力が足りない。
「どうした? 顔が曇っているぞ!」
と見透かしたようにアレックスが言ってきた。
「敗北を予感したか? 当然だ。貴様のような屑に、勝利の女神は微笑むまい! 貴様の敗北は、最初から天の配剤として決まっていたものだ。巨悪は滅ぶべき定めであると受け入れるがいい!」
もう勝ったかのような言い草だが、現実的に、このままでは私の敗北は濃厚だ。
打開策を必死で思案しはじめた――――そのとき。
『クランネル王都で戦う者たちよ』
突然、響き渡る声がした。
『私は精霊シエラ。王都の混乱を治めるべく、戦士たちに加護を授けにきた』
まるで天啓のごとく、恩寵のごとく、降り注ぐ声。
浸透声などとは比べ物にならないほど美しく、神々しい。
『受け取りなさい。これが精霊の加護よ』
次の瞬間。
私の身体に異変が起こる。
まるで内なる力を覚醒させられたかのような……
身体の底から、膨大なエネルギーが溢れてくるような感覚。
(すごい……)
全てのステータスが劇的に向上したのを感じる。
「なんだ、今の声は? わずらわしい!」
とアレックスが不愉快そうな顔をしていた。
私は静かに告げる。
「精霊が、邪悪に打ち勝つ力を、授けてくれたのですわ」
「ふン! ならば私に力を授けるべきだろうに! 精霊は貴様らの味方をしたというのか」
「当然ですわ」
シエラ様は私の味方だ。
アレックスに与することはない。
「これで、あなたを倒せます」
アレックスを倒すために、あと一歩足りなかった力が、手に入った。
私は剣を構える。
そして地を蹴った。
「―――――――!?」
私のステータスが向上したことに気づいたのだろう、アレックスが目を見開く。
慌てて、私の斬撃をガードした。
しかし。
「ふっ!!」
私は素早く、くるりと回転してアレックスの側面に回りこむと、彼の脇腹を切り裂いた。
「が、あっ!!?」
アレックスが痛みに悲鳴を上げる。
しかしすぐさま持ち直して、私に斬撃を放ってきた。
私はそれをかいくぐりつつ、今度はアレックスの背中に斬撃を浴びせる。
「うぐぅっ!!?」
苦悶の声を漏らすアレックス。
いったん私は距離を取る。
(身体が軽い……)
私は、自分の動きに感動する。
ここまでキレのある動きや斬撃を繰り出せたことは、かつて一度もない。
シエラ様の加護が、どれだけ素晴らしいものであるかがわかった。
それに。
「回復ができない!?」
アレックスが負傷を癒そうとしていたが、失敗する。
ジルディアスソードの特殊効果により、回復が妨害されているのだ。
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