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第6章365話:他者視点2
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そのとき。
天幕に、一人の軍人が入場してきた。
ナナバールである。
「戻ったか、ナナバール。戦況はどうだ?」
とヒズナルは言った。
ナナバールは、怒りをあらわにしながら告げた。
「ああ、最悪だ! 戦争は膠着状態だ! 思ったよりクランネル軍が粘りやがる!」
「……魔法銃撃隊はどうなった?」
「わからん! 魔法銃撃隊を仕留めたという報告は、今のところはない。もしかすると、将軍どもは返り討ちにあったのかもしれない!」
ナナバールは歯ぎしりしながら叫んだ。
「全てルチルのせいだッ!!!」
空気がビリッと震えるような声であった。
ヒズナルは、ナナバールの癇癪に、怯えた表情を浮かべる。
努めて平静に、ヒズナルは告げた。
「……ま、まあ、しかし、吉報もあるぞ」
「ん? 吉報だと?」
「そいつだ」
とヒズナルはアレックスを示唆した。
「誰だこいつは?」
とナナバールは怪訝そうな顔を浮かべる。
「彼はアレックス。クランネル王国の第一王子だ」
「なんだと?」
「ガゼルが倒して捕獲してきた。捕虜として、使い道もあるだろう」
とヒズナルは微笑んだ。
ナナバールは肩をすくめる。
「第一王子か。まあ、王子ならば使い道はあるだろうが……俺は政治には興味がないな」
「そうなのか? だが政治だけでなく、戦況を変えうる駒となるかもしれんぞ」
「は? なぜだ?」
「まさか、知らないのか? アレックス王子は、ルチル・ミアストーンの急所となりうる男だ。なにしろ王子は、ルチルの婚約者なのだからな」
とヒズナルが告げた。
ナナバールは目を見開く。
そのときアレックスは、ここぞとばかりに口を開いた。
「そ、そうだ! 私は、クランネル軍の総大将・ルチルの婚約者だ! だから、もっと私を丁重に―――――」
そのときだった。
ナナバールが、アレックスに近づくなり、いきなり顔面を蹴り飛ばした。
「ぐぶっ!!?」
アレックスの口の中が切れて、血が飛ぶ。
ナナバールが怒りに顔を染めた。
「貴様がルチルの、婚約者だとォッ!!!?」
殺意と憎悪と敵意を濃縮した怒声。
ナナバールにとって、ルチルは、殺したいほど憎んでいる大敵である。
そしてそれゆえに、ルチルの婚約者であるアレックスもまた、ナナバールにとっては憎むべき悪だ。
婚約者であるという理由だけで憎まれるのは、アレックスにとって理不尽であったが……
ナナバールにとって、ルチルの身内や縁者は、全てにおいて敵なのであった。
天幕に、一人の軍人が入場してきた。
ナナバールである。
「戻ったか、ナナバール。戦況はどうだ?」
とヒズナルは言った。
ナナバールは、怒りをあらわにしながら告げた。
「ああ、最悪だ! 戦争は膠着状態だ! 思ったよりクランネル軍が粘りやがる!」
「……魔法銃撃隊はどうなった?」
「わからん! 魔法銃撃隊を仕留めたという報告は、今のところはない。もしかすると、将軍どもは返り討ちにあったのかもしれない!」
ナナバールは歯ぎしりしながら叫んだ。
「全てルチルのせいだッ!!!」
空気がビリッと震えるような声であった。
ヒズナルは、ナナバールの癇癪に、怯えた表情を浮かべる。
努めて平静に、ヒズナルは告げた。
「……ま、まあ、しかし、吉報もあるぞ」
「ん? 吉報だと?」
「そいつだ」
とヒズナルはアレックスを示唆した。
「誰だこいつは?」
とナナバールは怪訝そうな顔を浮かべる。
「彼はアレックス。クランネル王国の第一王子だ」
「なんだと?」
「ガゼルが倒して捕獲してきた。捕虜として、使い道もあるだろう」
とヒズナルは微笑んだ。
ナナバールは肩をすくめる。
「第一王子か。まあ、王子ならば使い道はあるだろうが……俺は政治には興味がないな」
「そうなのか? だが政治だけでなく、戦況を変えうる駒となるかもしれんぞ」
「は? なぜだ?」
「まさか、知らないのか? アレックス王子は、ルチル・ミアストーンの急所となりうる男だ。なにしろ王子は、ルチルの婚約者なのだからな」
とヒズナルが告げた。
ナナバールは目を見開く。
そのときアレックスは、ここぞとばかりに口を開いた。
「そ、そうだ! 私は、クランネル軍の総大将・ルチルの婚約者だ! だから、もっと私を丁重に―――――」
そのときだった。
ナナバールが、アレックスに近づくなり、いきなり顔面を蹴り飛ばした。
「ぐぶっ!!?」
アレックスの口の中が切れて、血が飛ぶ。
ナナバールが怒りに顔を染めた。
「貴様がルチルの、婚約者だとォッ!!!?」
殺意と憎悪と敵意を濃縮した怒声。
ナナバールにとって、ルチルは、殺したいほど憎んでいる大敵である。
そしてそれゆえに、ルチルの婚約者であるアレックスもまた、ナナバールにとっては憎むべき悪だ。
婚約者であるという理由だけで憎まれるのは、アレックスにとって理不尽であったが……
ナナバールにとって、ルチルの身内や縁者は、全てにおいて敵なのであった。
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