グラティールの公爵令嬢―ゲーム異世界に転生した私は、ゲーム知識と前世知識を使って無双します!―

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)

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第3章170話:個室棟

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 四人の座ったカウンターは深刻な雰囲気に包まれていた。一方でテーブル席の整備班や運航部の隊員達は誠達の話題など聞いていないというように大声で談笑していた。

「なんか湿っぽくなっちゃったわね。これじゃあ酒がおいしくなくなるじゃないの。じゃあ、これまで来た5人のうちを出ていったなパイロットの話をしましょう!連中に比べて誠ちゃんがどれだけマシか……今日一日でよくわかったから」

 それまでの深刻な表情を満面の笑みで染めてアメリアはそう言って誠達を見渡した。

「えー、あの馬鹿どもの話か?それこそ酒がまずくなるぜ……同盟司法局の偉いさんがうちに力を持たせまいと送り込んだ一般人なんて……興味ねえや」

 アメリアの提案にかなめは嫌な顔をしながらラムの入ったグラスをすすっている。カウラはと言うと特に関心が無いというように静かに烏龍茶を啜っていた。

「その『法術師』の可能性が無いパイロットの中で、一番最初に来たのは……」

 烏龍茶のグラスを置いたカウラはそう言って首をひねった。

「オミズよ!オミズ!」

 嬉しそうにアメリアが叫んだ。その表情は喜色満面と言う言葉を絵にかいたようなそれだった。

「ああ、居たなそんな奴。印象薄くて顔も名前も憶えてねえけど……アイツが最初だったか……そうだ、アイツが最初だ。うんうん」

かなめは自分自身を納得させる為にそう言ってラム酒のグラスを傾けた。

「オミズ……女性だったんですか?元キャバ嬢とか。あの隊長の趣味ならあり得る話ですけど」

 取り残されていた誠はそう言って、なぜか嬉しそうな表情を浮かべているアメリアに尋ねた。

「違うわよ。男の子……400年に渡り提唱されつつこの20年くらいまで実現しなかった遼州同盟の締結を最初から提案していた遼州の月の『ハンミン国』は知ってるわよね?」

アメリアは社会知識ゼロの誠を試すかのようにそう言った。

「知ってますよ。毎晩空に浮かんでる月に人が住んでるって子供のころは驚いたもんです。確かあそこの公用語は韓国語でしたよね?」

 珍しく見つかった社会知識の引き出しを引っ張り出して誠はアメリアにそう言った。

「『ハンミン国』の第一公用語は確かに韓国語で合ってるわ。でも第二公用語は日本語。同盟会議の演説とかテレビで見ないの?各国の代表が日本語で演説してるじゃないの。まったく社会常識が無いのね、誠ちゃんは。まあ、あの国は資源に乏しいから主にナノマシン関係の技術と観光で食ってるのよ。『ハン流』の芸能人の歌とかドラマとか見たこと無い……わよね、誠ちゃんは。アニメ一筋だから」

 呆れたようにアメリアはそう言ってビールを一口飲んだ。

「知ってますよ!あの国のナノテクノロジーは東和と並んで地球を凌駕してますからね。まあ、たしかに『ハン流』のドラマとかは見たこと無いですけど……」

 誠は自分の偏った趣味を指摘されてうつむきがちにそう言った。

「あの国のお国柄なのか、その子も真面目そうな子でね……角刈りで目つきが鋭くて典型的な『軍人』って感じだったわよね。まあ、見た目に反してメンタルの方は弱かったみたいだけど」

 いぶかしげに尋ねる誠の言葉をアメリアはビールを飲みながら軽く否定した。

「オメエが初対面のアイツに水ぶっかけるからだろ?運航部の入り口で……ドアを開けたら上から仕掛けられていたバケツでドシャ―って」

 かなめは呆れたようにそうつぶやいた。

「水ですか!いきなり失礼じゃないですか!」

 かなめの言い出した言葉で誠は運航部の入り口で逢った『金ダライで歓迎事件』のことを思い出した。

 マイク片手にカラオケでロックを熱唱して馬鹿騒ぎしている運航部の女子隊員の様子を見ればそれくらいのことはやりかねないと誠にも察しがついた。誠は呆然としてアメリアの底知れない不気味な笑顔をのぞき見た。

「かなり怒っていたな……水くらい拭けばいいのに」

「そりゃあ初対面の人の頭に水をぶっかければ普通怒りますよ!」

 常識人に見えて完全に『特殊な部隊』に染まっているカウラの薄い反応に、誠は思わず強めに叫んでいた。

「つうわけで、水をぶっかけられて激怒したそいつはせっかくアタシ等がここでなだめる為の宴会を開いてやったというのに、そのまま次の日に叔父貴にタクシー券を渡されて豊川駅からさようならしたわけだ……この店でもずっと黙り込んだままで……ああ、詰まらねえ酒だったな、あの日の酒は」

 薄ら笑いを浮かべながらかなめそう言って笑った。

「僕は……残るつもりですから……」

「本当に?本当に?」

 冷やかしてくるアメリアを冷めた目で見つめながら誠は砂肝を平らげた。

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