上 下
14 / 590

第1章14話:アレックス

しおりを挟む

※ルチルはここで一度婚約しますが、のちに婚約は解消されます。



ミジェラ女王は口を開いた。

「こちらは私の息子……第一王子のアレックスだ」

女王と私は面識があったが、アレックスとは初対面であった。

私はアレックスに自己紹介をした。

「お初にお目にかかります、アレックス殿下。わたくしはルチル・ミアストーンと申しますわ」

「……ああ」

やたらと不満げにアレックスがあいづちを打つ。

女王は私に言った。

「ルチル……今日、お前を呼び出した理由についてだが、お前とアレックスの婚約が決定したからだ」

「……!」

やっぱりそうきたか。

最悪だ。

アレックスは、ゲームでもだいぶ評判の悪いキャラクターだ。

一言でいえばクズなのである。

そんな相手と婚約なんて遠慮したいところだった。

「既にお前の両親には話を通してある。そうだな、ラティーヌ?」

「仰るとおりです」

母上は肯定した。

この婚姻は拒否することはできない。

それにしても、いきなり婚約を通告してくるとは、さすが異世界の政略結婚だ。

本人の意思はまるで無視である。

(まあでも、ある程度は予想できていた、かな……)

私は思う。

ゲームでも、ルチルとアレックスは婚約関係にあった。

だからこれはある意味での予定調和だ。

一応、救いがあるのは、アレックスとはいずれ破局する運命にあるということだ。

それまで形だけでも婚約者をやっていればいいのだ。

「私とラティーヌは話がある。二人で親交を深めていなさい」

ミジェラ女王はそう述べて、母上とともに部屋を出て行った。





応接室に、私とアレックスが取り残される。

しばし沈黙があったが、やがてアレックスが言った。

「おい。お前、商会を経営してるんだとな?」

「はい。そうですわ」

「それ、やめろ」

「……え?」

「商会経営を辞めろ。お前の名声が高まれば、私が比較されて、見劣りすると思われるだろ。それで王子の名に傷がついたらどうするんだ」

なっ……

なにふざけたことを言ってるんだ、この王子は?

はぁ……。

やっぱりこいつ、ゴミだわ。

ゲームでも第一王子は自己中心的な性格であり、物言いも横暴、八つ当たりや責任逃れの多いダメ王子だった。

今の発言を聞くかぎり、ゲームのときと変わらないようだ。

よし。

絶対に言うことを聞いてやらないぞ。

「お断りしますわ」

「……何?」

「ですから、お断りしますと言ったのですわ。どうしてあなたの都合で、私が商会をたたまなければいけませんの」

私がそう告げると、アレックスは顔を怒りで真っ赤にした。

「お前は公爵令嬢だろ! だったら王族と結婚できることに感謝して、私のために生きるべきだ! 自分のをわきまえろ!」

「イヤですわ」

「口答えするのか! 公爵家の分際で!」

アレックス王子はつかみかからんばかりの剣幕だった。

まさか、私が言い返してくるとは思ってなかったのだろう。

腐っても第一王子。

周りからはヘコヘコされてきたはずだし。

「婚約者ですから、立場は対等。言いたいことは言わせていただきますわ」

「この……!!」

「とにかく婚約してしまったのですから、今後殿下におかれましては、わたくしの迷惑にならないようにお願いしますわね」

「ふん。お前の迷惑など知ったことか!」

それっきり私たちは会話を交わすことはなかった。

なんというか……

婚約者以前に、人としてこの王子と仲良くやっていける気がしないなぁ……。

(まあ、いずれ婚約破棄に持ち込もう。向こうから破棄させる形で)

私は内心で、そう心に決めるのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

処理中です...