上 下
5 / 175

第1章5話:チョコレート魔法

しおりを挟む
数年の歳月が流れる。

私は4歳となった。

春。

昼。

晴れ。

山小屋から30秒ほどいったところにある、森の一角。

円状に切り取られた、半径15メートルぐらいの森の広場。

中央奥に切り株がある。

そこで私は、進化した【チョコレート魔法】の実践テストをしていた。

手のひらにチョコレートの刀を生成した。

柄を右手に握る。

さらに切り株のうえに、30センチほどのサイズの石を置いた。

私は、チョコで出来た刀――――【チョコレート・ブレイド】を上段に構える。

「……」

集中する。

草木の匂いがする。

春のお日様の匂いがする。

優しい土の香りがする。

木から、はらりと一枚の葉が離れた。

「ふっ!!」

チョコレート・ブレイドを振り下ろした。

スパッ、と。

切り株に置かれた石が、真っ二つに両断される。

勢いあまって、切り株までうっかり傷つけてしまったが……

石を切り裂くことには成功した。

ふう……と、ひとつ深呼吸をする。

「良い切れ味ですね、私のチョコレート」

チョコレートを刀の形を変化させたうえで、斬性《ざんせい》を持たせ、切れ味を強化した剣――――

チョコレート・ブレイド。

攻撃手段の一つとしてストックしておこう。





次――――

私は、自分の背中に意識を集中させた。

肩甲骨あたりの、服の上から、にょきっ、とチョコレートを生やす。

ぐんぐんチョコレートが伸びていく。

やがてチョコレートの先端が、手の形状へと変化した。

さながら【チョコレート・ハンド】というべき、チョコの手である。

そのチョコの手が、ぐっと拳を握り締める。

次の瞬間。

近くにあった岩石に、殴りかかった。

「チョコレート・パンチ!!」

ズガァンッ!!

と、チョコレートのパンチが岩に炸裂し……

岩石は瓦礫《がれき》のごとく粉砕した。

「良い威力ですね、私のチョコレート」

と、感想を述べる。

攻撃手段の一つとしてストックしておこう。





さて、最後に。

私が会得した最終奥義を確認する。

目を閉じる。

カッと見開いた。

「チョコ化!」

次の瞬間。

私の身体が、チョコレート色に変色しはじめる。

しかも、どろりとした液体状へと身体が溶けていく。

そう。

【チョコ化】とは、私自身をチョコレートにへんげさせてしまう、究極の奥義なのだ。

ちなみにこのとき、私に付随する服や装備品ごとチョコ化することができるので、うっかり所持品を置き去りにしてしまうことはない。

完全にチョコレートと化してしまった私は、地面のうえに溶けて広がる。

さながら形の崩れたスライムのようである。

(ぬん!)

と、身体に力を入れる。

すると、私は地面のうえを這うように走り始めた。

この状態でも動くことができるのだ。

とりあえず近くにあった木に近づき、へばりつき、よじのぼって、枝のうえを這う。

そこで【チョコ化】を解くことにした。

少しずつ、人型へと戻っていく。

ほんの数秒で、元の私へとへんげした。

枝のうえに座った状態である。

「ふう……」

チョコレート魔法の実践テストはこれにて終了だ。

最後に。

ひと仕事終えた自分へのご褒美として、ひとくちサイズのチョコレートを生成する。

口の中に放り込む。

もぐもぐ。

「ん~っ、美味しい!」

甘くて、苦い。

自分好みの安定したチョコレートである。

満足した私は、枝を飛び降りて着地し、山小屋へと帰ることにした。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺若葉
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...