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二人の懐かしい関係
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朝になり、1階の広間に行くと既に大勢の人が集まって賑やかに朝食を食べていた。
「あ、桐生さん、栗田さん。おはようございます。良く眠れましたか?」
長島が手招きして声をかけてくれる。
「おはようございます。はい、お陰様でぐっすり」
結局ここはどなたの宿?なぜ皆さんいつもここに集まるの?と思いつつ、朱里と瑛は長島の正面に座り、食事しながら打ち合わせを進めた。
「では早速、招致する楽団を探してみますね。そのあと、コンサートの日程を決めたいと思います。ご希望はありますか?週末がいいですよね?」
「いえいえー、こちらはいつでも大丈夫です。平日でもみんな、学校や仕事も抜け出しますから」
「ほ、本当ですか?!」
さすが田舎…と朱里は感心する。
部屋に戻って荷造りをしたあと、招致する楽団に心当たりがないか、朱里は東条に電話で聞いてみることにした。
社用のスマートフォンを取り出し、登録していた東条の電話番号をタップした時、横から瑛が手を伸ばしてきた。
「俺が話すよ」
「え?あ、うん」
珍しいなと思いつつ、朱里は瑛の様子を見守る。
「はい、はい。ありがとうございます。早速こちらからもコンタクト取らせていただきます」
瑛は話しながら、朱里にメモを取る仕草をした。
朱里はメモ帳とボールペンを構える。
「東森芸術文化センター管弦楽団ですね。はい。常任指揮者が赤坂さん。電話番号が…かしこまりました」
朱里はサラサラと、瑛が口にした内容をメモした。
「東条さん、ありがとうございました。非常に助かりました。また改めてお礼に伺います。朝早くからお騒がせいたしました。はい、それでは失礼いたします」
通話を終えた瑛は、朱里に頷いてみせる。
「東条さんが紹介してくださった。そこの事務局長や常任指揮者とも昔からの知り合いらしい。きっと賛同して引き受けてくれると思うって。東条さんからも、連絡を入れてくれるそうだ」
「そうなのね!良かったー」
「とりあえず伊丹空港まで戻ろう。着いたらそこで楽団の事務局に電話してみる。もし良い返事をもらえたら、立ち寄って挨拶だけでもしていきたいな」
「はい!了解です」
朱里はテキパキと指示を出す瑛に、にっこりと微笑んだ。
*****
「それでは、皆さんお世話になりました」
朱里と瑛は揃って、見送ってくれる人達に頭を下げる。
「こちらこそー、コンサート楽しみにしてます!」
長島の運転するワゴン車に乗り込んだ朱里達を、皆は手を振って見送ってくれた。
少し走り出すと校舎が見えてきた。
長島がスピードを落とし、クラクションをプーッと鳴らす。
すると窓から生徒達が身を乗り出して、手を振ってくれた。
「瑛さーん!朱里さーん!またねー」
朱里達も窓から手を出して振り返す。
「ふふっ、みんな可愛い」
「ああ。ここの人達はみんな温かいな」
二人で顔を見合わせて笑う。
無事に小さな空港に着き、長島と握手しながらお礼を言って別れた。
「いい所だったねー」
「そうだな。次に来るのが楽しみだ」
「うん。良いコンサートにしようね」
「ああ」
飛行機の窓から町を見下ろし、行きとは違う気持ちを感じて朱里は微笑んだ。
*****
伊丹空港に着き、軽く昼食を取ってから、瑛は東条から紹介してもらった「東森芸術文化センター管弦楽団」に電話をかける。
午前中に東条が話をしてくれたらしく、ああ!聞いていますよと気さくに応じてもらえた。
「実は今、伊丹空港におりまして。もしご迷惑でなければ、これからご挨拶に伺ってもよろしいでしょうか?はい、ありがとうございます」
瑛は朱里に、人差し指と親指で丸を作ってみせる。
「それでは14時に伺います。よろしくお願いいたします」
通話を終えた瑛に、朱里が早速アクセスを検索した画像を見せる。
「んー、1時間あれば着きそうだな。のんびり行こう」
「うん。あ、手土産買わなきゃね!」
「お、そうだった」
二人は途中、デパートに立ち寄ってお菓子を購入してから、楽団の事務局を訪れた。
「いやー、存じておりましたよ、桐生ホールディングスさんの活動。先日の東条さんのコンサートも、ニュースで拝見しました。良い活動だなー、いつか我々も手伝えたらと思っていたのですが、こんなに早くお声をかけていただけるとは」
「え?それでは、引き受けていただけるでしょうか?」
「もちろんです」
「あの、ここからは遠い、田舎の市民会館での演奏なのですが…」
「構いませんよ。だって、過疎地域への演奏活動でしょう?最初からそのつもりです」
朱里は瑛と笑顔で顔を見合わせてから、頭を下げた。
「ありがとうございます!ご協力に心より感謝いたします」
詳しい話はまた改めて、と二人は事務局をあとにした。
*****
「いやー、良かったな!うまく進んで」
「ほんと!あの町の皆さんもいい人達ばかりだし、東条さんも良い楽団を紹介してくださったし」
うんうんと頷きつつ、瑛は腕時計に目を落とす。
「まだ3時か。朱里、ちょっとブラブラしてから帰らないか?飛行機、夜の便だしな」
「ほんと?!いいの?」
「ああ。お土産買いたいんだろう?」
「うん!」
まるで遠足のように、朱里はウキウキと行き先を考える。
瑛は黙ってついて行くことにした。
「やっほー!神戸に上陸!」
電車で40分程で神戸に到着した。
「海だー!あ、山もー!」
海と山が平行に続いていて、朱里は右と左をキョロキョロと見比べる。
「ねえ、山の上から海を見たら素敵じゃない?」
「そうだな。ロープウェイで上に上がるか」
「うん。やったー!」
子どものようにはしゃぐ朱里に、瑛は目を細める。
「そう言えばさ、小学校の遠足の時、朱里浮かれた挙句にお菓子地面にぶちまけただろ?」
「ぶっ!良く覚えてるねー、そんな昔のこと」
「だってお前、それまでウッキウキだったのに、お菓子落とした瞬間、この世の終わりみたいな顔して泣き始めてさ」
「そうだったねー。それでみんなから少しずつ分けてもらったんだっけ」
「そう。そしたらまたコロッとご機嫌になってさ」
「ふふ、だって、色んな種類のお菓子たくさんもらって、なにこれー?美味しそうーって」
「結局、自分の持って来たお菓子よりも豪華になってな」
「そうそう!結果オーライだね」
いつ以来だろう。
こんなふうに、二人で他愛もない昔の話で笑い合うのは。
朱里は綺麗な景色を眺めながら、嬉しさで胸がいっぱいになった。
*****
「朱里。少し早いけど夕食食べるか」
「うん、そうだね」
18時になり、海沿いのホテルのレストランに二人で入った。
窓際の席で、だんだん日が暮れていく海を眺めながら美味しい神戸牛を堪能する。
デザートのケーキが、フルーツソースで綺麗に飾られたプレートで運ばれてきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
スタッフの男性がにこやかに朱里の前にプレートを置く。
チョコレートで書かれた文字に、朱里は驚いて目を見開いた。
『Happy Birthday! AKARI』
「えっ!あのウエイターさん、どうして私の誕生日知ってるの?」
ぶっ!と瑛は吹き出す。
「お前なあ、なんでウエイターさんの仕業だと思うんだ?ドラマとかでも良くあるだろ?こういうサプライズ」
「あー!あの、ちょっとお手洗いに…とか言って席外して、ヒソヒソ仕込むやつ?」
「仕込むやつって…。うん、まあそうだ」
「じゃあ、瑛が仕込んだの?でも瑛、席外してないよね?」
「うん。さっきお前が、じーって神戸牛のメニュー見てる時に、ウエイターさんと話してたんだ。もうすぐ彼女の誕生日だから、デザートにケーキをお願いしますって。そしたら名前を聞いてくれた」
ほえー、と朱里は感心する。
「そんな目の前で?知らなかった」
「だってお前、神戸牛のメニュー、穴が空くほど見てたからな。ほら、いいから食べなよ」
「ありがとう!瑛も半分食べてね。それに瑛の誕生日ももうすぐだもんね。私も今度サプライズ考えておくね!」
「…朱里。宣言したらサプライズじゃない」
「あ、そうか!あはは」
楽しそうに笑いながらケーキを頬張る朱里を、瑛は穏やかな気持ちで見つめていた。
「あ、桐生さん、栗田さん。おはようございます。良く眠れましたか?」
長島が手招きして声をかけてくれる。
「おはようございます。はい、お陰様でぐっすり」
結局ここはどなたの宿?なぜ皆さんいつもここに集まるの?と思いつつ、朱里と瑛は長島の正面に座り、食事しながら打ち合わせを進めた。
「では早速、招致する楽団を探してみますね。そのあと、コンサートの日程を決めたいと思います。ご希望はありますか?週末がいいですよね?」
「いえいえー、こちらはいつでも大丈夫です。平日でもみんな、学校や仕事も抜け出しますから」
「ほ、本当ですか?!」
さすが田舎…と朱里は感心する。
部屋に戻って荷造りをしたあと、招致する楽団に心当たりがないか、朱里は東条に電話で聞いてみることにした。
社用のスマートフォンを取り出し、登録していた東条の電話番号をタップした時、横から瑛が手を伸ばしてきた。
「俺が話すよ」
「え?あ、うん」
珍しいなと思いつつ、朱里は瑛の様子を見守る。
「はい、はい。ありがとうございます。早速こちらからもコンタクト取らせていただきます」
瑛は話しながら、朱里にメモを取る仕草をした。
朱里はメモ帳とボールペンを構える。
「東森芸術文化センター管弦楽団ですね。はい。常任指揮者が赤坂さん。電話番号が…かしこまりました」
朱里はサラサラと、瑛が口にした内容をメモした。
「東条さん、ありがとうございました。非常に助かりました。また改めてお礼に伺います。朝早くからお騒がせいたしました。はい、それでは失礼いたします」
通話を終えた瑛は、朱里に頷いてみせる。
「東条さんが紹介してくださった。そこの事務局長や常任指揮者とも昔からの知り合いらしい。きっと賛同して引き受けてくれると思うって。東条さんからも、連絡を入れてくれるそうだ」
「そうなのね!良かったー」
「とりあえず伊丹空港まで戻ろう。着いたらそこで楽団の事務局に電話してみる。もし良い返事をもらえたら、立ち寄って挨拶だけでもしていきたいな」
「はい!了解です」
朱里はテキパキと指示を出す瑛に、にっこりと微笑んだ。
*****
「それでは、皆さんお世話になりました」
朱里と瑛は揃って、見送ってくれる人達に頭を下げる。
「こちらこそー、コンサート楽しみにしてます!」
長島の運転するワゴン車に乗り込んだ朱里達を、皆は手を振って見送ってくれた。
少し走り出すと校舎が見えてきた。
長島がスピードを落とし、クラクションをプーッと鳴らす。
すると窓から生徒達が身を乗り出して、手を振ってくれた。
「瑛さーん!朱里さーん!またねー」
朱里達も窓から手を出して振り返す。
「ふふっ、みんな可愛い」
「ああ。ここの人達はみんな温かいな」
二人で顔を見合わせて笑う。
無事に小さな空港に着き、長島と握手しながらお礼を言って別れた。
「いい所だったねー」
「そうだな。次に来るのが楽しみだ」
「うん。良いコンサートにしようね」
「ああ」
飛行機の窓から町を見下ろし、行きとは違う気持ちを感じて朱里は微笑んだ。
*****
伊丹空港に着き、軽く昼食を取ってから、瑛は東条から紹介してもらった「東森芸術文化センター管弦楽団」に電話をかける。
午前中に東条が話をしてくれたらしく、ああ!聞いていますよと気さくに応じてもらえた。
「実は今、伊丹空港におりまして。もしご迷惑でなければ、これからご挨拶に伺ってもよろしいでしょうか?はい、ありがとうございます」
瑛は朱里に、人差し指と親指で丸を作ってみせる。
「それでは14時に伺います。よろしくお願いいたします」
通話を終えた瑛に、朱里が早速アクセスを検索した画像を見せる。
「んー、1時間あれば着きそうだな。のんびり行こう」
「うん。あ、手土産買わなきゃね!」
「お、そうだった」
二人は途中、デパートに立ち寄ってお菓子を購入してから、楽団の事務局を訪れた。
「いやー、存じておりましたよ、桐生ホールディングスさんの活動。先日の東条さんのコンサートも、ニュースで拝見しました。良い活動だなー、いつか我々も手伝えたらと思っていたのですが、こんなに早くお声をかけていただけるとは」
「え?それでは、引き受けていただけるでしょうか?」
「もちろんです」
「あの、ここからは遠い、田舎の市民会館での演奏なのですが…」
「構いませんよ。だって、過疎地域への演奏活動でしょう?最初からそのつもりです」
朱里は瑛と笑顔で顔を見合わせてから、頭を下げた。
「ありがとうございます!ご協力に心より感謝いたします」
詳しい話はまた改めて、と二人は事務局をあとにした。
*****
「いやー、良かったな!うまく進んで」
「ほんと!あの町の皆さんもいい人達ばかりだし、東条さんも良い楽団を紹介してくださったし」
うんうんと頷きつつ、瑛は腕時計に目を落とす。
「まだ3時か。朱里、ちょっとブラブラしてから帰らないか?飛行機、夜の便だしな」
「ほんと?!いいの?」
「ああ。お土産買いたいんだろう?」
「うん!」
まるで遠足のように、朱里はウキウキと行き先を考える。
瑛は黙ってついて行くことにした。
「やっほー!神戸に上陸!」
電車で40分程で神戸に到着した。
「海だー!あ、山もー!」
海と山が平行に続いていて、朱里は右と左をキョロキョロと見比べる。
「ねえ、山の上から海を見たら素敵じゃない?」
「そうだな。ロープウェイで上に上がるか」
「うん。やったー!」
子どものようにはしゃぐ朱里に、瑛は目を細める。
「そう言えばさ、小学校の遠足の時、朱里浮かれた挙句にお菓子地面にぶちまけただろ?」
「ぶっ!良く覚えてるねー、そんな昔のこと」
「だってお前、それまでウッキウキだったのに、お菓子落とした瞬間、この世の終わりみたいな顔して泣き始めてさ」
「そうだったねー。それでみんなから少しずつ分けてもらったんだっけ」
「そう。そしたらまたコロッとご機嫌になってさ」
「ふふ、だって、色んな種類のお菓子たくさんもらって、なにこれー?美味しそうーって」
「結局、自分の持って来たお菓子よりも豪華になってな」
「そうそう!結果オーライだね」
いつ以来だろう。
こんなふうに、二人で他愛もない昔の話で笑い合うのは。
朱里は綺麗な景色を眺めながら、嬉しさで胸がいっぱいになった。
*****
「朱里。少し早いけど夕食食べるか」
「うん、そうだね」
18時になり、海沿いのホテルのレストランに二人で入った。
窓際の席で、だんだん日が暮れていく海を眺めながら美味しい神戸牛を堪能する。
デザートのケーキが、フルーツソースで綺麗に飾られたプレートで運ばれてきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
スタッフの男性がにこやかに朱里の前にプレートを置く。
チョコレートで書かれた文字に、朱里は驚いて目を見開いた。
『Happy Birthday! AKARI』
「えっ!あのウエイターさん、どうして私の誕生日知ってるの?」
ぶっ!と瑛は吹き出す。
「お前なあ、なんでウエイターさんの仕業だと思うんだ?ドラマとかでも良くあるだろ?こういうサプライズ」
「あー!あの、ちょっとお手洗いに…とか言って席外して、ヒソヒソ仕込むやつ?」
「仕込むやつって…。うん、まあそうだ」
「じゃあ、瑛が仕込んだの?でも瑛、席外してないよね?」
「うん。さっきお前が、じーって神戸牛のメニュー見てる時に、ウエイターさんと話してたんだ。もうすぐ彼女の誕生日だから、デザートにケーキをお願いしますって。そしたら名前を聞いてくれた」
ほえー、と朱里は感心する。
「そんな目の前で?知らなかった」
「だってお前、神戸牛のメニュー、穴が空くほど見てたからな。ほら、いいから食べなよ」
「ありがとう!瑛も半分食べてね。それに瑛の誕生日ももうすぐだもんね。私も今度サプライズ考えておくね!」
「…朱里。宣言したらサプライズじゃない」
「あ、そうか!あはは」
楽しそうに笑いながらケーキを頬張る朱里を、瑛は穏やかな気持ちで見つめていた。
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